8.2 事故炉の廃炉推進対応の水化学

_前節までに述べた通り、福島第一原子力発電所事故(1F事故)以降、原子力に係わる全ての分野において、原子力安全の自主的な向上努力が必要とされ、水化学分野においても深層防護の観点を踏まえつつ、新しい視点で取り組む必要が生じるに到った。前節では、1F事故を契機に水化学分野で取り組む必要の生じてきた技術分野として、まず事故時対応の水化学を取り上げた。一方、本節では1F事故炉の廃炉推進に向けて取り組むべき水化学の課題について取り上げることとする。

(A) 現状分析
_まず、喫緊の課題としては汚染滞留水処理が挙げられる。これまで対処することのなかったFP核種を中心とした水処理施策の確立は新しい課題である。それに伴い、多量の二次廃棄物が発生しており、その処理・処分技術の開発に向けては長期的な取り組みが必要である。さらに、燃料デブリ取り出しの段階になると、燃料デブリ性状に基づいたFP挙動の把握、水処理が必要になると考えられる。
_これらの対応と並行して、高放射能濃度での汚染水、廃棄物中での水の放射線分解による水素発生は、今後のシステム検討の安全評価項目として重要であり、モデル化を含めて取り組むべき課題である。さらには、長期間にわたるシステム健全性の確保に向けた材料腐食対策も取り上げることとする。
_また、今後の燃料デブリ取り出しを初めとする廃炉作業の推進に当たっては、作業従事者の被ばく低減対策の確立が望まれる。そのためには主要線源となるFP/TRU核種の分布の把握が必要となる。

(1) 汚染水処理対策と二次廃棄物処理
_1F事故後の津波海水を主成分とするタービン建屋滞留水中には、原子炉建屋から高濃度のFP成分が流入し、放射性汚染水を形成した。その後、さらに継続的な地下水の流入があるため汚染水の量は増大を続け、放射能除去が緊急の課題となった。図8.2-1に福島第一原子力発電所の汚染水対策の概要を示す[8.2-1]
_また、汚染水の放射能除去に用いられたメディアには多種類の放射能成分が含まれており、現在、一次処理が終わった段階で一時保管されている。

(2) 燃料デブリ取り出し時水処理対策
_PCV内部調査を通して、PCV内での燃料デブリの堆積状況が徐々に明らかになりつつある。一例として、図8.2-2に福島第一原子力発電所2号機PCV内部調査結果を示した[8.2-2]
_燃料デブリ取り出しが現実的な実施段階に移行すると、システム全体としては何らかの水処理システムが必要になると考えられる。TMI-2の経験でも、クリーンナップ系の稼働がクリティカルとなった時期があり、切削や切断等の作業に伴う微粒子等の舞い上がり防止や、新たに溶出してくるイオン状成分の除去等、燃料デブリ性状を十分に把握した上で、浄化システムを構築しておく必要がある。

(3) 水素発生量評価
_一次廃棄物・二次廃棄物処理、燃料デブリ取り出し、燃料移送等、廃炉推進のための種々のフェーズにおいて、放射線分解による水素発生のリスクは常に存在する。また、放射線源も、運転中プラントのγ線支配と異なり、局所的にβ線、さらにはα線が寄与する放射線分解反応も存在する。そのため、様々な放射線源に基づく水の放射線分解による水素発生量の評価手法の確立は急務である。
_一例として、図8.2-3に、純水、海水を含む5種類の水溶液系での水素発生量の吸収線量依存性の実験結果を示す[8.2-3]。海水成分の存在により水素発生量が増大する傾向が示唆されている。このように、水の放射線分解による水素発生量は、放射線の種類や強度、含有される不純物の種類や濃度に大きく依存すると考えられる。

(4) 材料健全性評価
_1F事故においては、緊急的な措置として原子炉及び使用済燃料プール(SFP)の冷却のために海水注入が実施された。海水注入時の構造材料健全性確保の考え方、及びその効果の定量的な評価をまとめておくことは重要であると考えられる。
_また、原子炉格納容器の健全性評価は、廃炉作業を実施して行く上で安全上必須である。その要因として構造材料の腐食問題は最重要の課題の一つであり、事故後の水質環境に鑑みた長期にわたる腐食対策の検討が必要となる。
_燃料デブリ取り出し完了までの期間は、放射性物質の閉じ込め機能ならびに燃料デブリ冷却機能を維持する必要があり、燃料デブリ取り出し後にも閉じ込めについては一定の機能を確保する必要がある。両安全機能を担うコンポーネント(原子炉格納容器、負圧維持系、冷却系配管)の信頼性が経年劣化に伴って低下すれば、放射性物質の追加放出リスクは増大する。耐震性の低下も同様である。最大の経年劣化要因として腐食が考えられ、
①放射線を含む環境パラメータが複雑かつ充分に把握できない。
②環境条件が経時的あるいは廃炉工程の進捗に伴って大きく変化し得る。例えば、
_・PCV負圧管理による大気流入
_・デブリ取り出し過程で発生する微粒子混入
_・ホウ酸塩添加による水の電気伝導率上昇や炭素鋼不動態化促進
③点検・補修等のためのアクセスに大きな制約がある。
_なお、1F廃炉特有の困難さの下で、的確な予測に基づいた腐食に起因するリスクへの計画的対応が求められる。

(5) 被ばく低減対策
_今後の燃料デブリ取り出しを初めとする廃炉作業の推進に当たっては、作業従事者の被ばく低減対策を適切に講じることが要求される。被ばく線源としては、Csを中心とするγ線放出核種、Srを中心とするβ線放出核種、U、Pu、その他TRU核種等のα線放出核種があり、それらのPCV内や原子炉建屋内の存在形態、正確な放射能付着分布を把握することが必須である。

(B) 事故炉の廃炉推進対応の水化学の研究方針と課題
_事故炉の廃炉推進対応の水化学の研究方針としては、まず、諸課題を適切に抽出することが挙げられる。現状分析で述べたように、汚染水対策と二次廃棄物処理、燃料デブリ取り出し時水化学・水処理、水素発生量評価、材料健全性評価、被ばく低減対策の観点から、個々の事象の的確な把握及び相互の相関関係の明確化が必要である。これらの諸課題は、同時並行的、合理的、かつ、効果的に解決することが求められ、その結果として、統合的な廃炉推進対応水化学を構築していくことが望まれる。以下に、検討すべき諸課題につき述べる。

(1) 汚染水処理対策と二次廃棄物処理
_放射性汚染水は、これまでの運転中の炉水成分とは異なり、溶融炉心からの全てのFP成分を含むこと、海水成分を含むこと、地下水・コンクリート成分を含むこと、等の特徴を有する。従って、通常のイオン交換樹脂による放射能除去では海水成分によりすぐに破過してしまうため、特定の核種に対する選択性の高い放射能除去メディアを用いる必要がある。
_また、汚染水の放射能除去に用いられ、一次保管されている二次廃棄物は、長期間にわたる中間貯蔵または最終処分に向けて、減容、固化が必要と考えられており、その技術開発はこれからの課題である。このような廃棄物処理技術はバックエンド部会との境界領域だが、水化学側からのアプローチ、貢献については十分検討の余地があると考えられる。
_これより、以下の2点が研究課題として挙げられる。
_①汚染水からの放射能除去メディアの開発、モデル化
_②二次廃棄物処理における水化学からのアプローチ

(2) 燃料デブリ取り出し時水処理対策
_燃料デブリ取り出し時には水処理対策の構築が必要になると考えられ、その運用は、恒常的か一時的か、全体か局所か、必要性に応じて判断していくこととなる。水化学の取組みとしては、燃料デブリ取り出し時の水質環境を的確に予測し、必要な水質維持手段を検討しておくことが重要である。
_燃料デブリ取り出し時の一つの大きな特徴として、燃料デブリ中に存在すると考えられるFP核種及びα核種の存在が前提となるため、水処理方針の策定に当たってその配慮が必要となる。すなわち、FP核種及びα核種のインベントリ評価、冷却水中での移行(溶出、付着)挙動評価が必須と言える。
_また、燃料デブリ取り出し時には原子炉建屋をタービン建屋から隔離して、原子炉建屋単独での水処理システムを各号機ごとに構築していく必要があると考えられる。
_これより、以下の2点が研究課題として挙げられる。
_①燃料デブリ取り出し時の水質環境評価
_②燃料デブリ取り出し時の水処理システムの構築

(3) 水素発生量評価
_放射性廃棄物や燃料デブリ取り出しにあたって、接触する水の放射線分解によって発生する水素発生量の評価のためには、α及びβγラジオリシスの評価ツールの開発及び評価が喫緊の課題と言える。
_また、αラジオリシスの寄与を評価するに当たっては、線源の分布状態(一様か不均一か)により効果が異なるので、燃料デブリ性状や体系に応じた詳細な評価が必要である。
_さらに、海水の残留成分やコンクリート由来の不純物等も反応系にて考慮する必要があり、データベースの拡充が必要となる。
_これより、以下の2点が研究課題として挙げられる。
_①α及びβγラジオリシスによる水素発生挙動の評価
_②不純物存在下での水素発生挙動の評価

(4) 材料健全性評価
_1F事故の一つの特徴として、比較的に温度の高い状態で、高濃度の塩化物イオンを含む環境にさらされた点が挙げられるが、このような場合、炭素鋼、ステンレス鋼を初めとする構造材料の全面腐食、局部腐食の加速が生じる。また、SFPの燃料ラックにはアルミニウムを含む合金も使用されており、その耐食性評価も必要となる。これらの観点から、高濃度塩化物イオン環境下での構造材料耐食性評価を行い、かつ、その腐食抑制対策を立案、構築しておくことは、SA時の検討課題と考えられる。
_さらに、仮に塩分環境が緩和されたとしても、原子炉格納容器の構造材料を中心に、事故後の水質環境を考慮した長期にわたる全面腐食、局部腐食を評価する方法を立案し、適切に実施してくことが重要である。そのため、腐食評価手法の開発、長期にわたる構造材料の健全性評価が課題となる。
_これより、以下の2点が研究課題として挙げられる。
_①海水注入時の構造材料健全性評価
_②長期的な構造材料健全性評価
_もう一方の特徴は、放射線下での腐食を従来よりも広い条件範囲の下で評価する必要がある点である。これまでのラジオリシス研究は、運転中の軽水炉あるいは処分場を対象としたものが主体であったため、データの取得条件に偏りがある。データ領域を線量率と溶液の電気伝導率により表現したものが図8.2-4である[8.2-4]。1F廃炉においては、例えば、100~10、000Gy/hかつ1μS/cm~10mS/cmの広い組み合わせ領域において、さらに脱気~大気開放にわたる幅広い酸素分圧下での腐食現象の把握が必要となる。

(5) 被ばく低減対策
_被ばく線源としてのCsを中心とするγ線放出核種、Srを中心とするβ線放出核種、U、Pu、その他TRU核種等のα線放出核種のPCV内や原子炉建屋内の存在形態、正確な放射能付着分布を把握するため、まず、既存知見に基づく移行挙動の解析評価を行う。次に、これらFP/TRU核種は事故時の環境条件に依存して様々な放出、移行、付着、離脱挙動を示すため、実機での遠隔操作による線量測定、サンプリング分析による化学形態、放射能量の評価を実施し、実機データによるベンチマークを行う。その上で、作業分析に基づいた作業従事者被ばくの線量評価方法を確立することが必要となる。
_これより、以下の3点が研究課題として挙げられる。
_①既存知見に基づくFP/TRU核種の移行挙動の解析評価
_②1F実機での実測データの採取とそれに基づくベンチマーク評価
_③廃炉推進の各作業における作業従事者の被ばく線量評価

(C) 産官学の役割分担の考え方
①産業界の役割

    • 廃炉推進のための放射能処理システムの構築・運用(汚染水処理システム、二次廃棄物処理・処分システム)
    • デブリ取り出しシステムにおける水処理システムの構築・運用(α核種処理システム)
    • 水素除去システムの構築・運用(水素除去システム)
    • 被ばく低減対策の立案・評価

②国・官界の役割

    • 国プロによる要素技術開発の推進
    • 必要な基盤(知識・人材・施設・制度)の整備
    • 新規制基準整備

③学術界の役割

    • SA時FP挙動の解明
    • 放射能吸着メカニズムの解明
    • α核種挙動の解明
    • 放射線分解メカニズムの解明

上記達成のためのアプローチ

    • 基礎実験による評価
    • 照射場での放射線分解試験
    • 基盤研究に係わる人材育成

④学協会の役割

    • 規格基準化とその高度化に貢献(廃棄物処理・処分方法の標準化)
    • 他部会との協働を実現(バックエンド部会、核燃料部会、他)

⑤産官学の連携(産官学による協調・共同研究)

    • 廃炉廃棄物処理・処分研究の推進
    • 安全評価研究の推進
    • 照射試験設備の整備・利用

(D) 関連分野との連携

①燃料デブリ関連の検討、評価(核燃料部会)
・燃料デブリの基礎特性と事故時のふるまいに関する検討、評価について、連携を取る必要がある。
②プラント高経年化に伴う材料健全性評価(材料部会)
・原子炉格納容器構造材料の長期健全性評価について、連携を取る必要がある。
③廃棄物処理・処分関連の検討、評価(バックエンド部会)
・廃炉発生廃棄物の処理・処分方法の策定にあたり、連携を取る必要がある。
④燃料デブリ特性に基づく処分方法の検討、評価(再処理・リサイクル部会)
・燃料デブリの特性に基づく最終処分形態、処分方法の策定にあたり、連携を取る必要がある。

_図8.2-5に事故炉の廃炉推進対応の水化学に係わる導入シナリオ、表8.2-1に1F廃炉推進対応の水化学に係わる技術マップを示した。

参考文献

[8.2-1] 山下, 日本原子力学会2015年春の年会企画セッション「福島第一原子力発電所汚染滞留水処理の現状と今後の課題」(1)福島第一原子力発電所の汚染水対策の現状と今後 (2015).
[8.2-2] 福島第一原子力発電所2号機原子炉格納容器内部調査実施結果(速報), 国際廃炉研究開発機構/東京電力ホールディングス株式会社 (2018).
http://irid.or.jp/wp-content/uploads/2018/01/20180119.pdf
[8.2-3] 永石、日本原子力学会2017年秋の大会企画セッション「福島第一原子力発電所デブリ取り出しに係わる水化学管理」(4)デブリ性状把握と放射線分解挙動評価 (2017).
[8.2-4] 「特殊環境下の腐食現象の解明―中間報告―」, 廃炉基盤研究プラットフォーム第6回運営会議, 平成29年8月10日 (2017).
https://fukushima.jaea.go.jp/en/hairo/platform/pdf/platform0602.pdf

 

8.1 事故時に水化学が関与する事象とその対策

_大型の商用原子炉の過去の事故の教訓に則り、TMI-2、チェルノブイリ及び福島第一原子力発電所の事故の知見に基づき、事故時の化学挙動を整理して、対応を明確にする必要がある。表8.1-1に商用原子力発電所の事故における化学挙動を比較して示す。

_本節で言う事故時とは、起因事象の発生から事故が収束して安定冷却が達成されるまでの期間を指すものとする。

8.1.1 事故シナリオと核分裂生成物の挙動

_レベル4を想定した場合、その対応のためには全てが自動、遠隔操作だけでは対処できないことを想定しておくことが重要である。万一の事態に備えたアクシデントマネジメントでは、考え得るあらゆる事象に対しての対処法をマニュアルとして準備し、その際の適切な行動を日頃から訓練しておくことが要求される。これまでも、レベル4を想定したSA時のFP挙動については、SA解析コードを用いての評価がなされてきたが、1F事故では、これまでの知見では予測できなかった事象が顕在化した。また、1Fにおける原子炉、原子炉格納容器内でのFP挙動の一部しか把握出来ていない現状では、未解明な事象も多く残されている。こういった背景のもと、レベル4を想定した対応においては、特にFPがどう動くのか、その際の線量率はどう変化するのか、必要な対応のために何処までアクセスが可能か等、マニュアル作成のためのFP 挙動に係わる状況の適切な把握が要求される。

(1) DBA時の核分裂生成物の挙動
_通常運転時に発生する設計基準事故(DBA)においては燃料の溶融等による大規模な破損は想定されない。したがって、放出対象となり得る最大の放射性核種の量は、炉水中に含まれるトランプウラン等に起因するわずかのFPと、ピンホール燃料等の破損燃料が存在する場合には減圧に伴うヨウ素スパイクによる二次放出により決まる。この放射性核種の量は全量が環境に放出されたと仮定した被ばく評価をすることにより、事故シナリオに依存しない最も保守的な評価が可能であり、評価結果は一般の公衆被ばくに対する閾線量に対して十分低いものとなる。また、定検時の燃料交換時の燃料落下事故の場合には、いくらかの燃料棒の破損を考慮するが、破損燃料の数は限定的であり、放出されるFPも燃料プール水中に放出された後、希ガス等揮発性のFPがオペレーションフロアに放出され、これらのFPは非常用ガス処理設備のフィルタを介して排気筒から環境中に放出されることになる。この場合でも、想定される放出量による一般の公衆被ばくは、閾線量に対して十分低いと評価とされている。

(2) SA時の核分裂生成物の挙動
_SAでは大規模な燃料破損とジルコニウム・水蒸気反応に伴う多量の水素発生等を想定するため、格納容器内に多量のFPや水素が放出されることになる。図8.1-1にBWRを例にSA時のFP挙動と事故の進展挙動に大きな影響を与える因子を模式的に示す。燃料被覆管の酸化・破損挙動、溶融燃料の熱力学、下部ヘッドの破損挙動や溶融燃料落下・拡散挙動等は、FPの燃料中の物理化学状態と相まって燃料からのFP放出・移行挙動やFPの構造材への吸着・反応に大きな影響を与える。ベント用フィルタの性能はベントが実施される場合の環境に放出されるFPの量の低減に関係する。
_SA時のFP挙動もDBAと同様に事故の進展シナリオに依存することになるが、ここでは典型的な一例としてBWRにおける燃料デブリの格納容器内への落下を含み、格納容器ベントを考慮する場合のシナリオについて図8.1-2にFP放出までの流れとそれと関係する化学挙動について示す。事故時において燃料破損前の炉心内FPのインベントリは、それまでの運転履歴によって決まるが、燃料からのFP放出に関しては被覆管の破損が生じる時点での燃料の溶融の有無や被覆管外表面でのジルコニウム・水蒸気反応の発生の有無等により異なってくると考えられ、放出時のFPの化学形態に影響される。溶融燃料が原子炉圧力容器の下部ヘッドを貫通するまでは、放出されたFPは一次系内に放出され、その一部は一次系の配管や炉内構造物(セパレータやドライヤ等)の表面上に付着したり、再浮遊したりすると考えられる。主蒸気隔離弁が閉止された後は、主として安全弁からサプレッションプール(S/P)に蒸気とともに移行し、FPの多くはS/P内でのスクラビング効果により、プール水の中にトラップされる。これまでの安全研究の中でヨウ素はS/P水のpHによりS/Pから気相中に移行する量が化学形態の変化により大きく変わることが知られており、気相中のヨウ素濃度を低減する目的でアルカリ注入が検討・導入されている。一方で、ラジオリシス反応による硝酸の生成やケーブルの被覆材からの塩素の溶出による酸性化の因子も存在し、これらのバランスによりpHが変化し、ヨウ素等の化学的挙動に影響する。溶融燃料が下部ヘッドを貫通した後は、溶融燃料から直接FPが格納容器内に放出される経路も存在することになるとともに、溶融燃料コンクリート反応等もFPの挙動に影響すると考えられる。格納容器内のFPは格納容器内壁や構造物の表面上に付着したり、再浮遊したりすると考えられる。格納容器内のガス中のFPは格納容器の内圧の上昇に伴い、一部が格納容器から原子炉建屋内にリークし、原子炉建屋内の構造物と相互作用を行いながら、一部は環境中にリークしていくと考えられる。一方で、格納容器の内圧が上昇して健全性を脅かす段階では格納容器からのベントが実施され、ベントフィルタによってFPの多くが除去された後、環境中に放出されるルートも考えられる。このように燃料から放出されたFPは種々の構造材や冷却水と物理的・化学的反応を繰り返しながらその化学形態を変化させつつ、その一部は環境中に放出されることを想定する。
_上記のような想定シナリオの中で、環境中に放出されるFPの量に大きく影響する因子を特定し、放出を抑制することに寄与する対策が検討・導入されている。環境への放出量に大きく影響するのは、格納容器の健全性を維持すること(すなわち、水素爆発等により格納容器が破損しないこと)と放出されるFPの量を物理的・化学的方策により抑制することであり、次項以降に、それぞれの対策について記載する。

8.1.2 水素発生、漏洩と爆発防止対策

_BWRプラントにおいては、通常運転時にも水の放射線分解により水素と酸素が炉心部で生成される。この生成した水素と酸素の大部分は沸騰に伴い主蒸気とともにタービン系に移行し、オフガス系の再結合器において水に戻され系統内に水素と酸素が蓄積しない設計となっている (深層防護のレベル1相当)。再結合器の性能劣化等により再結合反応が不全となった場合には、排気筒から水素が流出するリスクが発生するが、再結合器出口側に設置されている水素濃度計により水素が検出されるとオフガス系が隔離され、復水器の真空度が低下して原子炉が自動的にスクラムして安全に停止する(深層防護のレベル2相当)。設計基準事故の1つである再循環系配管等の破断による冷却水の格納容器内への漏えい時には、冷却水に溶存している水素や酸素が格納容器内の気相に移行して蓄積する。あるいは安全弁が作動することによって原子炉圧力容器から蒸気がサプレッションプールに導かれる場合には、蒸気は凝縮するが水素や酸素の非凝縮性ガスは格納容器内に蓄積していく。このような事象に対しては、格納容器内を運転中に窒素雰囲気に置換しておくことにより水素の爆発が生じにくくするとともに、万一水素や酸素が蓄積していく場合には、可燃性ガス制御系(FCS)により水素と酸素を安全に再結合させるように設計されている(深層防護のレベル3相当)。可燃性ガス制御系としては、最近ではパッシブ式のPassive Autocatalytic Recombiner(PAR)が主流となってきている。SA時のジルコニウム・水蒸気反応が生じる場合には多量の水素が発生するが、これもPAR等により爆発に至らないように制御される。
_PWRにおいてもBWRと同様に格納容器内に水素が放出された場合の防止対策が必要であるが、PWRの格納容器はBWRと異なり容積が大きくサプレッションプールのような圧力抑制のためのプールを持たないドライ型となっており、格納容器内の雰囲気も大気のままとなっている。そのため、水素が発生した場合に爆燃限界に達する前に水素を燃やすためのイグナイターやPARの設置が検討・導入されている。
_水化学的には水素と酸素の発生そのものを抑制する手段が存在しないため、安全に再結合させることが化学的な対策となるが、既にPARを含めて既存の対応技術が存在していること、PARの導入においてはプラント固有の設置位置や数等の設計上の考慮は必要なものの、触媒の性能向上に関する新たな技術開発のニーズは現時点で存在しない。しかしながら、事故時の水素発生や蓄積の評価モデルに関しては、さらに高度化を図っていく必要があると考えられる。また、その結果が従来と大きく変わる場合には、既存の水素発生、漏洩と爆発防止対策の妥当性を再評価し、必要に応じて対策設備の見直し・高度化を図っていく必要がある。

8.1.3 核分裂生成物の放出抑制対策

(1) DBA時の放出抑制対策
_既に8.1.1(1)に記載したようにPCV内に放出された放射性物質はPCVが健全であることが前提となるのでPCVからの放出を考える必要がなく、事故収束後の復旧作業での作業従事者の被ばくへの影響が安全上の課題となる。原子炉建屋内にリークするケースでもリーク量は限定的であり、建屋の換気空調系での処理を含めて放射性物質の放出が公衆被ばく上問題となるレベルではない。したがって、DBAの範疇においては事故時の放出抑制として水化学の視点から特別な対策は不要と考えられる。

(2) SA時の放出抑制対策
_大規模な燃料破損が発生するSAでは希ガスや揮発性のヨウ素を含む多量のFPがPCV内に放出されるとともに、事故の進展シナリオによってはPCVの健全性を守るためにベントによりガスをPCVから放出すること(図8.1-2の例)や、PCVの健全性が損なわれてガスがリークすることも想定される。これらのシナリオにおいて公衆被ばくに与える寄与の大きい放射性核種はヨウ素やセシウムである。ヨウ素は種々の形態や化合物を形成するため、その挙動は複雑であるが、冷却水のpHにより気液分配が大きく変化することが知られており、アルカリ側に冷却水の水質を制御することによりヨウ素の多くを液相側に保持できる。すなわち、気相側に含まれるヨウ素のインベントリを減らすことになるため、PCVからのリークやベントガス中に含まれるヨウ素を減らすことができる。このため、放出抑制対策の1つとしてサプレッションプール水のpHを事故時にはアルカリ性に制御するシステムが検討・導入されている。また、PCVの健全性を維持し、制御できない放射性核種の放出を抑制するため、放射性核種を除去する機能を有するフィルターベントシステムも検討・導入されている。フィルターベントシステムでもスクラビング水のpHをアルカリに制御することでヨウ素の除去効率が向上するが、さらにスクラビングで除去しにくい有機ヨウ素等の除去効率を向上させるために銀ゼオライトのフィルタを設ける場合もある。
_前記のようにSA時の環境への放射性物質の放出を抑制するための深層防護のレベル4に相当する対策技術に関して基本的な方向性は示されているが、SA時の過酷な環境で確実にサプレッションプール水のpHを測定して制御するシステムを構築することは容易ではなく、複雑なPCV内の化学反応をできるだけ理解し、それを考慮して必要な時間の間はpHをアルカリに維持できる薬剤をサプレッションプールに注入することが現実的な対応策となる。
_SAシナリオの中で水化学的な視点からサプレッションプール水のpHに影響すると考えられる因子としては、ケーブルの被覆材中に含まれる塩素が熱や放射線による劣化で溶出することや、不活性化のために封入している窒素と水のラジオリシス反応で生成する酸素とが結合して生成する窒素酸化物が水に溶解することが考えられ、これらはプール水のpHを酸性側にシフトさせるため、これらの影響を定量的に評価する必要がある。さらに、下部ドライウェルに滞留する冷却水では燃料デブリやコンクリートからの溶出成分も考慮する必要がある可能性があり、現時点で十分な知見が得られているとは言い難く、今後とも評価結果に大きな影響を与える反応等を特定した上で、それらの挙動を明らかにして評価精度を向上させる必要があると考えられる。

 8.1.4 事故時の水化学的対策における今後の課題と対応

_8.1.2及び8.1.3に記載したように水化学が関与する事故時対策として導入されている既存の対策設備は、既に世界の他のプラント等で導入実績のあるもので、現在の事故シナリオとリスク評価の観点から直ちに新たな研究開発が必要となる事項はないと考えられる。しかしながら、SA時の事故シナリオや7.1.2節に記載されている共通基盤技術の進歩、具体的には事故時の水素発生やFP挙動に関する新たな知見の獲得等により現象の詳細な理解が進み、その結果に基づき解析モデルや解析コードが高度化されることにより、従来と異なる結果が将来得られるようになることが想定される。その場合には、既存の対策設備の妥当性を再評価し、必要に応じて対策設備の見直し・高度化を図っていく必要がある。水化学的な観点から、対策設備に関連する基盤技術に対する課題としては、FPを含む系でのラジオリシスによる水素発生や窒素化合物の生成挙動の評価技術の高度化や、事故時化学には溶融燃料コンクリート反応等のより広い化学反応が含まれ、これらのサプレッションプール水を含む格納容器内滞留水のpHへの影響も考慮していく必要が生じることも考えられる。これらの基盤技術に関する研究開発の課題やロードマップに関しては7.1.2節に記載されている内容に含まれているため、本節においては改めて導入シナリオや技術マップ、ロードマップを重複して記載することはしない。しかしながら、対策設備の妥当性の再評価と必要に応じた対策設備の見直し・高度化は、基盤技術の進歩が進む2025年付近より先の中長期的課題としての対応となると予想され、将来具体的な課題が見えた段階でロードマップの形に落とし込んでいく必要がある。
_本節の水化学が関与する事故時対策に係わる課題調査票を以下に記載する。

参考文献

[8.1-1] 日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究センターのホームページより引用 https://nsec.jaea.go.jp/decom/decom2.html (確認日:2019.4.2)

課題調査票

課題名 水化学が関与する事故時対策

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅰ. 事故発生リスク低減・更なる安全性向上の実施
⇒リスク情報に基づいた事故発生リスク低減策が効果的に実施される必要がある。短 IV.    信頼性向上へ向けたプラント技術・運用管理の高度化
⇒福島第一事故を踏まえ設置導入した SA 対策設備等の保全・運用管理が最適化される必要がある。中Ⅰ. 包括的リスク情報活用の向上
⇒原子力に係わるリスクを効果的・継続的に低減する必要がある。中Ⅲ. 事故発生リスクを飛躍的に低減する技術の整備
⇒原子力をベースロード電源として活用されるため、事故発生リスクを飛躍的に低減する技術開発及び設計技術への反映がなされる必要がある。

長Ⅰ. 放射能の環境放出や被曝リスク低減に係わる革新的技術開発の進展

長Ⅲ. 国際的な原子力安全の牽引
⇒深層防護概念を踏まえ、規制の枠を超えた自主的安全性向上が効果的・継続的に実施される必要がある。
⇒効果的・継続的なリスク低減活動・自主的安全性向上活動の推進にあたって、国際協力の枠組みの構築や規制の高度化が促される必要がある。

概要(内容)

(1) 水素蓄積防止技術の最適化・高度化
福島事故での水素爆発の教訓を踏まえて、アクティブ型の FCS からパッシブ型の FCS に変更していくことにより安全性の向上を図るとともに、水素発生、蓄積挙動モデルの高度化の結果を反映したシステムの最適化・高度化を図る。
(2) FP 挙動の解明と解析コードの高度化
国内外の最新知見を反映したアクシデントシナリオとヨウ素等のFP 挙動をモデル化し、安全解析コードの高度化を図るとともに、不確かさ情報の整理・拡充を継続的に実施する。またモデル高度化に資する試験についても国内外の研究機関と連携して継続的に実施する。
(3) pH 制御技術の開発・高度化
アクシデントシナリオと安全解析の結果に基づき、合理的で実効性のあるサプレッションプールを含む格納容器内滞留水の pH 制御システムの開発と高度化を図り、公衆被ばくのリスクを低減する。
(4) フィルターベントシステムの開発・高度化
アクシデントシナリオと安全解析の結果に基づき、合理的で実効性のあるベント時のフィルタシステムの開発と高度化を図り、公衆被ばくのリスクを低減する。
(5) SA 対策設備の保守・管理方法の確立
新たに導入される SA 対策設備の保守・管理方法を確立する必要がある。

導入シナリオとの関連

水化学に関連する SA 対策設備による公衆被ばくの軽減

課題とする根拠
(問題点の所在)

    • 現行の許認可用安全コードは、保守的な条件及び手法を原則としているが、最新手法の反映が不十分であり、物理現象に即した安全余裕の内訳に係わる説明性に改善の余地があり、国際的な水準から見ても最新化の必要がある。
    • 1F事故での事象解明のため、過酷事故解析コード、汎用熱流動解析コード等の種々コードが用いられてきた。過酷事故解析コード等の高度化は、主に海外での事故事象模擬試験等の知見をモデル化することで進められてきた。1Fでの事故事象を検証するため、モデルの高度化に資する試験を実施するとともに、今後、廃炉のプロセスで判明するデブリ状況を海外に情報発信し、海外と連携して過酷事故解析コードのモデルに反映する必要がある。
    • 安全解析対象の物理現象のモデル化を適切に行うとともに、試験データ等に基づき解析コードの妥当性検証等を実施可能な人材、規制を含めた設計、運用が可能な人材の育成が必要である。

現状分析

    • BWRでは、福島事故の教訓から水素爆発の抑制に有効と考えられるパッシブ型の酸素・水素再結合器(PAR)を安全性向上対策として既設炉に追設する SA 対策の強化が実施されつつある。また、放出抑制に有効と考えられるS/P のpH 制御システムやフィルターベントシステムを安全性向上対策として既設炉に追設する SA 対策の強化が実施されつつある。PWR においてもフィルターベントシステムの設置が検討されている。
    • 酸素・水素再結合用の PAR は欧州や国内でも一部のプラントには導入済みであり、製品として確立されているものである。
    • SA時の核分裂生成物挙動研究専門委員会準備会の成果として Phèbus プロジェクト関連論文の調査報告書が作成され、過去に実施された大規模な試験データの共有化の基盤が確立した。
    • 欧州、カナダでは SA 時のヨウ素その他 FP 化学に関する研究が精力的に進められており、OECD/NEA では上記 Phèbus FP の知見とそれらに関する各国の知見を有機的に結合すべく、各種研究プロジェクトが立ち上げられている(BIP、STEM、THAI 等)。
    • 欧州ではチェルノブイリ事故を契機としてフィルターベントシステムが設置されてきているが、福島事故の反映としてヨウ素の除去を考慮した次世代型フィルターベントシステムの設置が検討されている。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 安全解析における安全余裕の定量化、説明性向上
    • SA 時の水素発生、蓄積挙動の解析、評価技術の向上
    • SA 時のヨウ素化学等の FP 挙動研究者の解析、試験技術の向上
    • 国際連携による安全研究の促進

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 原子力安全との相関の明確化
    • 緊急性・重要性・経済性に対する適切な評価
    • 研究開発のための資金・人材の確保
    • 機構論に関する基礎知見の拡充

必要な人材基盤

(1)人材育成が求められる分野

    • 流体解析、燃焼・爆合反応、事故時の FP 化学、水化学、ラジオリシス解析技術、有機材料

(2)人材基盤に関する現状分析

    • 事業者においては、リスクバランスを考慮した適正な SA 対策の導入と維持管理を行える人材が必要である。
    • メーカでは事故時化学と安全解析、及び放出抑制対策技術の開発に係わる人材の育成を行っている。
    • 研究機関、大学等では、世界の最新知見に基づき、事故時の水素発生と蓄積挙動や FP 挙動メカニズムの解明を実施できる人材が必要である。
    • 事故時対策技術には、水素発生と蓄積挙動や、FP 化学に関する知識のみならず、アクシデントシナリオの中での公衆被ばく低減のリスクに与える影響を考慮する必要があり、リスクの概念をも理解できることが重要である。今後も人材基盤を維持していくためには、大学等の教育段階から優秀な人材を集め、かつ、人材を計画的に育成していくとともに、実際に安全評価の経験を積んでいくことが必要である。
    • 特に海外で実施される大規模な試験で得られるデータ等については、その迅速かつ円滑な導入を促す仕組みの充実(国際共同研究、国際会議、人的交流等の活性化等)も必要。

(3)課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 1Fの事故を契機に安全評価の重要性が再認識されているが、人材の育成は短期間で達成できるものではない。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、1Fの事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

ロードマップ対象項目の課題別区分の④事故発生時のサイト外の被害極小化方策のうち、発電所における事故対応能力の向上に該当する。具体的な項目は以下のとおり。

      •  S112M107_d08 安全解析手法の高度化
      •  S111M107L104_d10 耐久力・復元力を強化した世界標準の軽水炉設計の構築
      •  S111_d14 SA対策機器の運用管理の最適化・高度化
      •  S111_d13 リスク評価手法の改良と SA 対策への適用
      •  S111_d30 重大事故等対策機器の保全管理の確立

実施時期・期間

中長期(~2050 年)

実施機関
/資金担当
<考え方>

産業界・学術界・行政/産業界・行政
<考え方>

    • 産業界(事業者)は、事業主体として安全性の適正評価・向上に努める
    • 産業界(メーカ各社)は、自社のコードについて技術開発・妥当性検証を実施するとともに、放出抑制対策技術の開発・高度化 を行う
    • 学術界(研究機関や大学等を含む)は、評価手法の標準等の維持・改定を行う
    • 対策技術の開発・導入・高度化については、事業主体が資金担当となることが適当
    • 1Fの事故事象の大規模解明試験、海外と連携して実施する実規模試験については、行政(資源エネルギー庁) が負担することが適当

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 原子力規制委員会は、安全性を担保するために必要となる検証データを拡充させ、機構論的な技術検証を踏まえて規制基準に反映させる。
    • 原子力規制委員会が規制の観点から主体となる事項について資金担当となることが適切。
その他

8. 事故時対応の水化学

_本章の事故時対応の水化学では、従来の水化学とは異なり、事故時に発生する放射性核分裂生成物(FP)への対応が主となる。事故時対応の水化学の基礎基盤技術となるFPの挙動については7.1.2節に記載しているが、それ以外の第7章までは、放射性核種としては放射性腐食生成物が主であり、水の放射線分解における放射線源も燃料被覆管によって閉じ込められたFP、燃料体からの中性子とγ線が主であったが、事故時対応の水化学では、燃料体から放出されたFPを取扱い、その化学的挙動が重要となるため、本章では、事故時対応の水化学の主要課題の変遷と、水化学が関与する事故時の対策、及び事故炉の廃炉を推進する上で必要な水化学について議論する。

(1) 事故時対応の水化学主要課題の変遷
_過去 35 年余の原子力プラントの水化学制御及び水化学にかかわる燃料、構造材の主な改善の変遷とその成果を図8-1 に示す。
_水化学制御は、プラントの安全性、信頼性の確保、向上に密接にかかわるが、多くの場合、唯一の方策ではなく、プラントのシステム、構成材料、運転履歴に応じて、適切に選択され、採用されるべきものである。安全性、信頼性に、経済性の視点も加えた大きな視点での選択が重要であり、対象とする課題にのみ偏ることなく、プラント全体の視点での、水化学制御の功罪を十分に評価し、最適な制御法を選定することが重要である。このためには、水化学の技術者、研究者には、プラントシステム、ハードウエア、そしてプラントの運用に関する幅広い知識が必要とされる。
_一方で主要課題を見ると、我が国の商用原子炉で見られた燃料損傷の問題は、燃料の改良改善の成果が著しく、1980年代に入ると急速に収束し、燃料破損に伴うFPの環境への放出あるいは発電所内での処理の課題は、縮小した。一方、1979 年の スリーマイルアイランド原子力発電所2号機(TMI-2)の事故、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故により従来の仮想事故を想定した対応だけでは十分ではなく、深層防護レベル4に対応するシビアアクシデント(SA)への対応が要求されるようになり、欧州では仏国カダラッシュ研究所の Phébus FP プロジェクトで、実際の燃料を溶融させ、FP の放出移行挙動を把握する実験が行われ、事故時の主として水素の爆燃、爆轟の研究及び放射性ヨウ素の照射下での挙動研究が精力的に行われた。SAの対策としては、水素濃度が比較的希薄なうちに局所的に水素を燃焼させ、重大な水素燃焼を抑制するための点火器(イグナイター)の設置が行われた。また、欧州ではSAに備えた FP 除去のためのフィルタベントの設置が普及した。しかし、2000年に入るとSA対策としては、電源の確保が最重要であるとの認識が強くなり、SAに関する研究予算が削減され、Phébus FP プロジェクト研究も 2005年に終了し、現在に至っている。

_FP挙動に係わる研究は、燃料損傷とそれに伴う環境への放出に関連して、非常に活発に行われてきたが、燃料破損対策の確立とその有効性の確認、SA研究の収束の2段階で縮小された。このように重要なFP挙動に係わる水化学は、原子力学会に水化学関連の研究専門委員会が設立された1982年以降、残念ながら単調に減少を続けているのが実状である。
_「福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」での調査活動において、事故時のソースタームの評価に、従来の評価ベースでは説明できない事象が散見されることが示された。一方で、1990年代後半以降、ソースターム関連の研究が衰退し、その技術を支えてきた研究者、技術者の多くが第1線を離れ、技術的な空洞化が顕著となっている。1F事故に関する調査委員会の報告書の課題の中でも、ソースタームの評価の重要性とFP挙動に係わる研究、技術者の育成の重要性が指摘されている[8-1]。日本原子力学会「水化学」部会では、1F事故の反省のもと、FP挙動に係わる研究の復活とそれを支える人材の確保、育成が必須との認識に立って、FP 化学リバイバルの戦略を練っている。このためには、戦略的な方策が必須で、少しでも体系立って、FP 化学に取り組める体制作りとそれをバックアップできる組織作りを行い、系統的、組織的な対応を目指している。

(2) 事故時対応の水化学技術の分類
_事故時対応の水化学は、大きく 4つに大別される(表 8-1)。すなわち、
①事故が発生した場合を想定し、事故の拡大を抑制するためになさねばならない対処を準備するための水化学
②実際に事故が発生した場合に、発電所内外で対処しなければならない課題への対応に係わる水化学(事故が収束するまでの比較的短期間の課題への対応)
③実際に事故が発生した発電所の廃炉において対処しなければならない課題への対応に係わる水化学(廃炉完了に至るまでの長期間の対応)
④上記①~③の基礎・基盤となるFP挙動に係わる水化学

_上記①と②は、実際の対応か、想定した準備かの大きな差異はあるものの、現象論的には同じものと考えることができる。本ロードマップでの基本的な目標である「安全を大前提に、Energy security、Economic efficiency、Environment の3E達成可能な重要電源として原子力発電を継続的利用すること」に水化学から貢献することを考えると、従来の深層防護レベル3までの対応に、新たに深層防護レベル4を加えて、事故時を念頭に水化学の課題を再整理し、課題を摘出し、各課題の重要度に応じて、R&D 計画、その実施担当、資金確保の戦略を明確にすることが必須で、産官学で、その戦略を共有することは不可欠である。
_上記③は、福島第一原子力発電所で実際に直面している課題で、現実の課題ではあるが、未経験、未知の状況も多く、原子炉格納容器の外部から内部の状況を推察しつつ、適切な廃炉手法を模索し、計画を立案して、一歩ずつ実施している。主要な技術課題とその対応、及びその技術課題解決のためのロードマップは、8.3節の事故炉の廃炉推進対応の水化学で議論する。最大の眼目は、FPの存在下、如何に効率的に廃炉作業を進めるか、廃炉作業の妨げとなる作業者の体内・体外被ばくを如何に抑制するか、発電所周辺へのFPの飛散をどう抑制するか、そして廃炉に伴って発生する放射性廃棄物を如何に効率的に集約し、長期に安定に保管するかといった、全てFPに係わる課題で占められる。このため、FPの挙動は、8.1節の水化学が関与する事故時対策の基礎基盤技術のみでなく、8.2節の事故炉の廃炉推進対応の水化学の基礎基盤技術としても位置付けられる。

参考文献

[8-1] 日本原子力学会, 東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会, 福島第一原子力発電所事故その全貌と明日に向けた提言-学会事故調最終報告書-, 2014年3月11日, 丸善出版, p.98-105, ISBN978-4-621-08743-5 (2014).

7.2 人・情報の整備

_水化学技術は、これまで軽水炉プラントの運転において、構造材料、燃料の健全性とも深くかかわるとともに、固有の課題として、被ばく線量への直接的な影響を持つこと等、プラントの安全性、信頼性の維持、向上に重要な役割を果たしてきた。この結果、水化学に直接起因した大規模なトラブルは減少してきた。しかしながら、今後のプラント運用の高度化、燃料高度化、そして高経年化対応としての水化学の適用等に際し、事前に事象を予測し対策を立案しておくことでプラントの安定運転を実現するためには、プロアクティブな水化学技術の展開が必要である。このような新たな展開を図るため、これまでの知見を基礎に、水化学分野の技術情報基盤を整備していくことが重要である。一方で、プラントの運用、管理において、一般公衆に対する透明性、説明性が厳密に要求されるようになってきており、各事業者単位の管理運用の考え方、方法に関しても整合的、体系的な方針が求められている。このため、これまでの運用経験も踏まえた水化学技術の体系化により、評価技術、運用技術等の規格・基準化、標準化を進めることが必要となっている。
_また、上記のごとく、水化学起因のトラブルの減少に加え、新規プラントの建設が減少してきたことにより、水化学の研究開発及び管理を担う人材の供給が減少し、高齢化が進行している事実がある。研究の場も狭まっており、研究コミュニティの維持が危ぶまれるほどである。今後、軽水炉プラントの高経年化対応を含め、軽水炉プラントの安全性と信頼性の維持及び向上のため、水化学の一層の貢献が求められていることを考慮すると、本分野に関連する人材の裾野拡大を含む人材の確保は緊急の課題と言える。人材確保のためには、学(学術界)での水化学関連研究の基盤(場)の確保が必須で、学(学術界)での研究を通して有能な人材の教育、その結果、確保が可能となる。これは、産・官・学のいずれの領域においても強く認識すべき共通の課題である。
_これまで我が国の原子力発電の発展に際しては、諸外国での経験を参考にしつつ、独自の手法、概念を確立してきた経緯がある。今後とも継続的に国際的な情報交換を進めると同時に、近年、世界的な原子力発電の見直し機運の中で、アジア諸国での原子力開発が急速に進展すると予測されることから、我が国で培った技術をこれらの国に適正な方法で反映させていくことは、今後も重要性を増していくと考えられる地球温暖化対策やエネルギーセキュリティの確保の観点からも有用と考えられる。
_今回の改訂に当たって、1F事故を踏まえて、深層防護の各レベルにおける人・情報の整備に係わる研究の係わりを検討し、レベル1から4のいずれにおいても貢献できる課題のあることがわかった。すなわち、プラントの安全・安定な運転にかかわる情報基盤を一層充実させ、これらを支える人材の供給/技術伝承を確実に行うための活動を継続することにより、より一層の安定・安全なプラントの運転管理が達成されるとともに、整備すべき情報の範囲を廃炉や事故時対応の水化学に拡大し、過酷事故への備えを行うことにより事故発生防止及び拡大防止に貢献していくことができる。
_人・情報の整備に係わるロードマップは、2007年版で策定され、水化学ロードマップ2009でのフォローアップは限定的であったため、今回は、1F事故以降の状況変化を踏まえ、水化学分野として果たすべき役割を明確にすべく、本格的な改訂を行った。改訂に当たっては、基本的な研究課題の枠組みは変えずに、以下に示す4項目に分類して対応することとし、それぞれに事故対応に係わる課題を追加した。
_ⅰ. 研究基盤の確保
_ⅱ. 技術情報基盤の整備と技術伝承
_ⅲ. 水化学関連の規格・基準化、標準化
_ⅳ. 国際協力の推進

_図7.2-1に、人・情報の整備に関する研究フローを示す。通常運転時及び事故時対応時における人・情報の整備に基づいて、4つの項目を実施する。これらを通じて、水化学技術情報を整備するとともに、確実な技術伝承と必要な人材の育成を行い、プラントの安全・安定な運転を維持及び事故の拡大防止に貢献する。

(A) 現状分析
(1) 研究基盤の確保
_水化学の分野では、分野の特徴から産業界が中心となっていたため、従来から学(学術界)における研究例が少なく、有能な人材の教育と、その結果としての人材確保ができにくい環境にある。このため、人材育成を含め、水化学関連の基礎研究資金を容易に獲得できるような基盤確保が求められている。近年、国プロや電力共通研究等の共同プロジェクトが減少しており、産業界や国の研究機関の研究者・技術者の研究の場も狭まっている。1F事故以降の長期プラント停止からの再稼動を契機に、水化学研究プロジェクトが成立すれば、研究者が集まる場が拡大し、人材確保・育成につながっていくことが期待される。
_なお、1Fの廃炉研究においては、汚染水処理や構造材の腐食抑制等の課題で国プロが実施されており、水化学関連の研究者が多く参加している。

(2) 技術情報基盤の整備と技術伝承
①水化学に関する技術情報の整備
_プラントの安定的運用のためには、水化学に関する学術知見から実プラントにおける運転経験まで、全てのデータベースを体系的に整理・評価し、必要に応じて効率的に活用することが極めて重要である。とりわけ、プラントデータは課題解決や技術開発を行っていく上で重要な情報となるが、現状、公開に制限があり、十分に活用されていない。2020年から導入される新検査制度ではプラントのパフォーマンス指標(PI)を考慮して規制側から追加検査や特別検査の要否が示されることになる。PIとしては原子力施設の安全にかかわる事故の発生防止、拡大防止・影響緩和、閉じ込めの維持、重大事故等対処及び大規模損壊対処の4つの分類、放射線安全にかかわる公衆に対する放射線安全と従業員に対する放射線安全の2つの分類、及び核物質防護の合計7つの分類ごとに設定される。これらの分類の中で水化学と関わりの深い分野は、閉じ込めの維持と従業員に対する放射線安全であり、具体的なPIとしては、前者に関しては原子炉水中のヨウ素濃度と格納容器内漏洩、後者に関しては個人線量超過回数と計画外被ばく発生件数が検討されている。原子炉水中のヨウ素濃度は燃料健全性を、格納容器内漏洩は構造材料の健全性を示す指標となっており、水化学管理を適切に実施して水質パラメータを水化学管理指針で定める推奨範囲に保つことが重要である。計画外被ばく発生件数への水化学管理の関与はないが、個人線量超過回数に関しては、適切な水化学管理によるプラント線量率の低減により発生リスクを低減することができる。PI自体はプラントデータのごく一部であるが、その指標の背景となる水質データやプラント線量率等を公開していくことは原子力プラントの安全管理の透明性を向上させるために有用と考えられる。このような新しい検査制度の導入等をきっかけとしてプラントデータを公知化し、産業界内外の研究者や技術者の目に触れることで、課題の早期解決や新たな技術の創出促進を図れる機会が増えるものと考える。このような仕組みづくりにより、学術界や産業界の研究者のモチベーションアップや人材育成にもつながるものと考える。
_技術情報基盤の整備のためには、当面、学協会(原子力学会)の場にて産・官・学のネットワークを形成して活動を維持するとともに、水化学と深く係わる分野との相互連携による推進が必要である。将来的には、新たな仕組みを構築していくことも必要である。なお、水化学情報の集大成の成果の一つとして「原子炉水化学ハンドブック」が2000年に発行され、多くの関係者に活用されている。現在、水化学部会において改訂版発行の作業が行われている。
_1F事故を受け、特に、除染や廃炉等事故への対処のほか、事故の教訓を踏まえた原子力施設の安全性向上やシビアアクシデント対応等の課題に対する国民的な関心や社会的要請、新たな知見・技術の確立への期待・必要性が高まっており、水化学分野からの取り組みが期待されている。
②人材育成方策の検討
_我が国では、これまでの技術開発・運用を担ってきた世代のリタイアが続き、人材不足の状況が続いている。これに対しては、原子力規制委員会による原子力規制人材育成事業や文部科学省による国際原子力人材育成イニシアティブ事業等、長期的な原子力研究・開発・利用を促進させるための人材育成プログラムが実施されている。水化学分野においても、産・官・学のいずれにおいても人材が減少している状況に鑑み、産業界からの学術界への情報発信等、積極的な関与をして若い人材の育成を行い、継続的に人材を確保していくことが必要である。
_産業界における人材育成は、技術の伝承とも深く関係しており、従来蓄積されてきた経験や知見を体系的に整理していくことは、この面でも有効に活用できるため、積極的かつ継続的に推進する。特に、水化学は、原子力プラントの構造材料、燃料の健全性に影響を及ぼすため、プラントシステム全体にまたがる領域をカバーする必要があることから、総合的な知識・経験が必要となる。このため、人材育成も一朝一夕にはいかず、長期にわたる計画的な指導、教育も要求される。
_日本原子力学会は、国内外での情報発信や立場を越えた人的交流等が図れる場であり、技術的合意や共通認識の醸成に欠かせない役割を果たしている。このような活動は、人材育成にも大きく寄与している。
_1Fの廃炉に伴う汚染水処理や構造材の腐食影響評価・防食等では、水化学からの寄与が期待されており、技術情報の収集や人材の供給等で貢献している。また、過酷事故時のFP挙動解明を行っていくとともに、現在関与が薄い過酷事故拡大防止のための関連設備についても、水化学分野の設計段階からの積極的な関与していくことが期待されている。

(2) 学協会規格等の整備
_水化学関連技術の体系化を通じ、それを規格・基準、標準の形にまとめていくことは軽水炉プラントの運転に対する一般公衆への説明性、透明性を確保していく意味で重要な因子となる。水化学分野においては、既に、PWR一次系、PWR二次系及びBWRの水化学管理指針、PWR及びBWRの化学分析方法の標準が制定されている。これら指針・標準は、電気事業者やメーカの技術者にとって、より良い水化学管理を実践していく上で拠り所となるもので、解説に記載された管理値等の設定に係わる技術根拠は、若手技術者への技術伝承のみならず、大学等の機関の研究者にとっても教材として幅広く機能するよう配慮されている。今後、最新知見を取り入れていくことで、合理的な規制の実現にも結びつくことになるとともに、グローバルスタンダードの地位を確保していくことが可能となる。
_各発電所ではアクシデントマネジメントの整備が進められ、日本原子力学会においては「原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準」が制定されている。これらは、新たに獲得された研究成果を踏まえて、不断に整備・充実していく必要がある。現在のところ、化学的な観点からの対応は示されていないが、今後は、事故時の水化学情報を反映させることにより、より実効性が高まり、事故影響の低減に貢献すると考えられる。

(3) 国際協力の推進
_原子力発電プラントの安定的運転に貢献する水化学技術の高度化には、国際協力による情報交換が有益である。水化学技術の基礎基盤をはじめプラントの運転経験、それに各国の規格・基準類の整備状況等に関し、情報を確保していくことが必要である。同時に、我が国からの情報発信による相互の情報交換により、水化学分野での総合的なポテンシャルの向上が期待できる。このような活動をさらに効果的にするため、新たな枠組みも検討する。水化学国際会議は、水化学分野における最も権威ある国際会議であり、これまで、欧州、日本(アジア)、米国で隔年開催されてきている。我が国の寄与も大きく、日本原子力学会水化学部会が定期的に会議を主催する等、今後も貢献を継続していく必要がある。また、これまでの既存の水化学国際会議等の場での情報交換はもとより、人員の相互交流を含むより進んだ情報交換体制の構築も必要である。
_また、昨今のアジア諸国での原子力導入の動きに対しては、我が国での経験等を効果的に移転していくことも考えるべきであり、そのための仕組みも必要である。すでにこれまでも我が国主導で開催してきたアジア水化学シンポジウムのような場を通じた活動をベースに、これを発展させた枠組み構築も必要である。
_水化学技術の高度化や事故時対応の水化学情報整備の観点から、国際的な情報交換を継続的に進めると同時に、我が国が培った技術を海外に発信していくことは、原子力全体の発展にも有用と考えられる。

(B) 研究課題
(1) 研究基盤の確保
_産官学の研究機関が参加して、水化学共通基盤技術に係わる研究を実施し易い仕組みを構築する。学に研究ニーズを開示すると同時に、競争的研究資金獲得が少しでも容易になるように、分り易い研究ニーズドキュメントの作成を行う。また、共同研究プロジェクトを構築していく環境を整備し、その実施を通して、技術情報の拡充及び人材育成を図る。

(2) 技術情報基盤の整備
_国内外のプラントの運転状況、水化学管理、及び化学管理に係わる情報、及び化学基盤情報を整備する。併せて、新たな挑戦的な課題を提示していく。
_1F事故を受け、廃炉等事故への対処や過酷事故の発生及び拡大防止等についても、水化学の観点から技術情報を整備する。加えて、過酷事故関連設備についても、設計段階から化学的観点からの関与を強めていく。
_プラントの水化学管理に関する教育プログラムを作成し、水化学管理者の育成と技術伝承に資する。また、資格認定制度も取り入れ、社会に対する水化学管理の透明性を示す。

(3) 学協会規格等の整備
_品質保証や社会への説明性に関する要求に対し、体系的・組織的に対応するため、化学管理内容や分析技術等水化学管理に係わる技術を学協会の場で民間規格化・基準化する。
_プラント運転経験、高経年化対応技術、新しい水化学技術等、これまでに蓄積された知識・経験を次世代に適切に継承し、世界的にも高い水準にある我が国の水化学管理技術を維持するため技術継承資料の作成を目指す。
_過酷事故の発生及び拡大防止に技術情報に基づいて、規格基準類整備に化学の観点からの寄与を強化していく。

(4) 国際協力の推進
_海外情報の活用や国内情報の発信によるプラントの安全・安定運転への貢献等、水化学に関する情報を国際的に相互活用するために、日本原子力学会水化学部会を中心に、国際協力体制及び情報交換体制の整備強化を行う。原子力発電の導入・拡大が見込まれる諸国の人材育成にも協力する。
_廃炉や過酷事故対応技術については、海外の先進事例や知見について、積極的に情報収集ならびに共同研究を推進する。

_以上の課題の解決を図ることで、以下の成果が得られる。

    • 水化学技術情報が蓄積・整備されることにより、将来にわたって技術伝承と人材育成が図られ、プラントの安全・安定な運転維持に寄与できる。
    • 事故の発生及び拡大防止のための規格・基準類作りに、化学的観点から寄与できる。

(C) 実施機関/資金担当の考え方
_研究課題の実施機関及び資金担当と、その考え方を技術項目ごとに示す。
(1) 研究基盤の確保及び(4)国際協力の推進
実施機関/資金担当:産業界、官界、学術界/産業界、官界
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、研究基盤を整備し研究を実施することにより技術情報を取得し、人材の供給を受ける。
    • 学術界は、獲得した研究費により基礎・基盤研究を実施する。
    • 国は、実施主体として、安全基盤研究による情報を獲得する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

(2) 水化学に関する技術情報の整備
実施機関/資金担当:産業界・官界/産業界・官界
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、技術情報を取得でき、水化学管理に反映できる。
    • 国は、実施主体として、技術情報を獲得できる。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

(3) 化学管理に関する民間規格・基準類の整備
実施機関/資金担当:産業界、学術界/産業界
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、水質管理基準等の整備を行うことで、規格基準類の整備を行うことができる。
    • 学術界は、規格基準類の整備に関した検討を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

_図7.2-2に人・情報の整備に係わる導入シナリオ、表7.2-1に人・情報の整備に係わる技術マップ、及び図7.2-3に人・情報の整備に係わるロードマップを示す。

課題調査票

課題名 人・情報の整備

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短期 Ⅱ.信頼性のある組織・体制の構築・維持(防災支援体制含む)
⇒効果的・継続的なリスク低減活動・自主的安全向上活動が進められるためには、信頼性のある組織・体制が構築・維持される必要がある。
概要(内容) (1) 研究基盤の確保
_産官学の研究機関が参加して、水化学共通基盤技術に係わる研究を実施し易い仕組みを構築する。学に研究ニーズを開示すると同時に、競争的研究資金獲得が少しでも容易になるように、分り易い研究ニーズドキュメントの作成を行う。また、共同研究プロジェクトを構築していく環境を整備し、その実施を通して、技術情報の拡充及び人材育成を図る。
(2) 技術情報基盤の整備
_国内外の水化学管理に関するプラントの運転管理状況、化学管理及び化学基盤情報を整備する。併せて、新たな挑戦的な課題を提示していく。
_1F事故を受け、廃炉等事故への対処や過酷事故の発生及び拡大防止等についても、水化学の観点から技術情報を整備する。加えて、過酷事故関連設備についても、設計段階から水化学的観点からの関与を強めていく。
_プラントの水化学管理に関する教育プログラムを作成し、化学管理者の育成と技術伝承に資する。また、資格認定制度も取り入れ、社会に対する化学管理の透明性を示す。
(3) 学協会規格等の整備
_品質保証や社会への説明性に関する要求に対し、体系的・組織的に対応するため、水化学管理内容や分析技術等化学管理に係わる技術を学協会の場で民間規格化・基準化する。
_プラント運転経験、高経年化対応技術、新しい水化学技術等、これまでに蓄積された知識・経験を次世代に適切に継承し、世界的にも高い水準にある我が国の水化学管理技術を維持するため技術継承資料の作成を目指す。
_過酷事故の発生及び拡大防止に技術情報に基づいて、関連する規格・基準類整備に化学の観点からの寄与を強化していく。
(4) 国際協力の推進
_海外情報の活用や国内情報の発信によるプラントの安全・安定運転への貢献等、水化学に関する情報を国際的に相互活用するために、日本原子力学会水化学部会を中心に、国際協力体制及び情報交換体制の整備強化を行う。原子力発電の導入・拡大が見込まれる諸国の人材育成にも協力する。
_廃炉や過酷事故対応技術については、海外の先進事例や知見について、積極的に情報収集ならびに共同研究を推進する。
具体的な項目 (1) 研究基盤の確保
(2) 技術情報基盤の整備/技術伝承
(3) 学協会規格等の整備
(4) 国際協力の推進
導入シナリオとの関連 技術情報基盤の整備と技術伝承、人材育成を通してのプラントの安全・安定な運転の維持及び事故発生・拡大防止への寄与。

課題とする根拠
(問題点の所在)

    • プラントの安全・安定な運転を維持するため、技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要。
    • 研究コミュニティを維持していくための場が必要。
    • プラントのトラブルや異常事態の早期発見及び拡大防止に寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
    • 事故発生への備えに寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
現状分析 (1) 研究基盤の確保
_水化学の分野では、分野の特徴から、産業界が中心になっていたため、従来から学(学術界)における研究例が少なく、有能な人材の教育と、その結果としての人材確保ができにくい環境にある。このため、人材育成を含め、水化学関連の基礎研究資金を容易に獲得できるような基盤確保が求められている。近年、国プロや電力共通研究等の共同プロジェクトが減少しており、産業界や国の研究機関の研究者・技術者の研究の場も狭まっており、研究コミュニティの維持も困難さが増している。1F事故以降の長期プラント停止からの再稼動を契機に、水化学研究プロジェクトが成立し、研究の場が拡大していくことが期待される。
_1Fの廃炉研究においては、汚染水処理や構造材の腐食抑制等の課題で国プロが実施されており、水化学関連の研究者が多く参加している。
(2) 技術情報基盤の整備

① 水化学に関する技術情報の整備
_プラントの安定的運用のためには、水化学に関する学術知見から実プラントにおける運転経験まで、全てのデータベースを体系的に整理・評価し、必要に応じて効率的に活用することが極めて重要である。とりわけ、プラントデータは課題解決や技術開発を行っていく上で重要な情報となるが、現状、公開に制限があり、十分に活用されていない。2020年から導入される新検査制度ではプラントのパフォーマンス指標(PI)を考慮して規制側から追加検査や特別検査の要否が示されることになる。水化学と関わりの深い分野は、閉じ込めの維持と従業員に対する放射線安全であり、具遺体的なPIとしては、前者に関しては原子炉水中のヨウ素濃度と格納容器内漏洩、後者に関しては個人線量超過回数と計画外被ばく発生件数が検討されている。原子炉水中のヨウ素濃度は燃料健全性を、格納容器内漏洩は構造材料の健全性を示す指標となっており、水化学管理を適切に実施して水質パラメータを水化学管理指針で定める推奨範囲に保つことが重要である。個人線量超過回数に関しては、適切な水化学管理によるプラント線量率の低減により発生リスクを低減することができる。PI自体はプラントデータのごく一部であるが、その指標の背景となる水質データやプラント線量率等を公開していくことは原子力プラントの安全管理の透明性を向上させるために有用と考えられる。このような新しい検査制度の導入等きっかけとしてプラントデータを公知化し、産業界内外の研究者や技術者の目に触れることで、課題の早期解決や新たな技術の創出促進を図れる機会が増えるものと考える。このような仕組みづくりにより、学術界や産業界の研究者のモチベーションアップや人材育成にもつながるものと考える。
_技術情報基盤の整備のためには、当面、学協会(原子力学会)の場にて産・官・学のネットワークを形成して活動を維持するとともに、水化学と深く係わる分野との相互連携による推進が必要である。将来的には、新たな仕組みを構築していくことも必要である。なお、水化学情報の集大成の成果の一つとして「原子炉水化学ハンドブック」が2000年に発行され、多くの関係者に活用されている。現在、水化学部会において改定版発行の作業が行われている。
_1F事故を受け、特に、除染や廃炉等事故への対処のほか、事故の教訓を踏まえた原子力施設の安全性向上や過酷事故対応等の課題に対する国民的な関心や社会的要請、新たな知見・技術の確立への期待・必要性が高まっており、水化学分野からの取り組みが期待されている。
② 人材育成方策の検討
_我が国では、これまでの技術開発・運用を担ってきた世代のリタイアが続き、人材不足の状況が続いている。これに対しては、原子力規制委員会による原子力規制人材育成事業や文部科学省による国際原子力人材育成イニシアティブ事業等、長期的な原子力研究・開発・利用を促進させるための人材育成プログラムが実施されている。水化学分野においても、産・官・学のいずれにおいても人材が減少している状況に鑑み、産業界からの学術界への情報発信等、積極的な関与をして若い人材の育成を行い、継続的に人材を確保していくことが必要である。
_産業界における人材育成は、技術の伝承とも深く関係しており、従来蓄積されてきた経験や知見を体系的に整理していくことは、この面でも有効に活用できるため、積極的かつ継続的に推進する。特に、水化学は、原子力プラントの構造材料、燃料の健全性に影響を及ぼすため、プラントシステム全体にまたがる領域をカバーする必要があることから、総合的な知識・経験が必要となる。このため、人材育成も一朝一夕にはいかず、長期にわたる計画的な指導、教育も要求される。日本原子力学会は、国内外での情報発信や立場を越えた人的交流等が図れる場であり、技術的合意や共通認識の醸成に欠かせない役割を果たしている。このような活動は、人材育成にも大きく寄与している。
_1Fの廃炉に伴う汚染水処理や構造材の腐食影響評価・防食、及び過酷事故時のFP挙動解明、さらに過酷事故拡大防止設備の設計情報取得等に対し、水化学からの寄与が期待されており、技術情報の収集や人材の供給等で貢献している。
(3) 学協会規格等の整備
_水化学関連技術の体系化を通じ、それを規格・基準、標準の形にまとめていくことは軽水炉プラントの運転に対する一般公衆への説明性、透明性を確保していく意味で重要な因子となる。水化学分野においては、既に、PWR一次系、PWR二次系及びBWRの水化学管理指針、PWR及びBWRの化学分析方法の標準が制定されている。これら指針は、電気事業者やメーカの技術者にとって、より良い水化学管理を実践していく上で拠り所となるもので、解説に記載された管理値等の設定に係わる技術根拠は、若手技術者への技術伝承のみならず、大学等の機関の研究者にとっても教材として幅広く機能するよう配慮されている。この動きをさらに加速して学協会規格・基準に反映させていくことが重要である。今後、最新知見を取り入れていくことで、合理的な規制の実現にも結びつくことになるとともに、グローバルスタンダードの地位を確保していくことが可能となる。
_各発電所ではアクシデントマネジメントの整備が進められ、日本原子力学会においては「原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準」が制定されている。これらは、新たに獲得された研究成果を踏まえて、不断に整備・充実していく必要がある。現在のところ、化学的な観点からの対応は示されていないが、今後は、事故時の水化学情報を反映させることにより、より実効性が高まり、事故影響の低減に貢献すると考えられる。
(4) 国際協力の推進
_原子力発電プラントの安定的運転に貢献する水化学技術の高度化には、国際協力による情報交換が有益である。水化学技術の基礎基盤をはじめプラントの運転経験、それに各国の規格・基準類の整備状況等に関し、情報を確保していくことが必要である。同時に、我が国からの情報発信による相互の情報交換により、水化学分野での総合的なポテンシャルの向上が期待できる。このような活動をさらに効果的にするため、新たな枠組みも検討する。水化学国際会議は、水化学分野における最も権威ある国際会議であり、これまで、欧州、日本(アジア)、米国で隔年開催されてきている。我が国の寄与も大きく、日本原子力学会水化学部会が定期的に会議を主催する等、今後も貢献を継続していく必要がある。また、これまでの既存の水化学国際会議等の場での情報交換はもとより、人員の相互交流を含むより進んだ情報交換体制の構築も必要である。
_また、昨今のアジア諸国での原子力導入の動きに対しては、我が国での経験等を効果的に移転していくことも考えるべきであり、そのための仕組みも必要である。すでにこれまでも我が国主導で開催してきたアジア水化学シンポジウムのような場を通じた活動をベースに、これを発展させた枠組み構築も必要である。
_水化学技術の高度化や事故時対応の水化学情報整備の観点から、国際的な情報交換を継続的に進めると同時に、我が国が培った技術を海外に発信していくことは、原子力全体の発展にも有用と考えられる。

期待される効果
(成果の反映先)

①   水化学技術情報が蓄積・整備されることにより、将来にわたって技術伝承と人材育成が図られ、プラントの安全・安定な運転維持に寄与できる。
②   事故の発生及び拡大防止のための標準類作りに、化学的観点から寄与できる。
実施にあたっての課題 ・課題の緊急性の明示化
・研究開発のための資金確保
必要な人材基盤 (1) 人材育成が求められる分野

    • 広く原子力分野に精通している人材
    • 標準、規格等の制定に精通している人材
    • 広く国際的なネットワークを有する人材

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 経験豊富な人材のリタイアが進行している。
    • 研究コミュニティの維持が危ぶまれるほど研究の場が狭まっている。
    • 水化学の分野では標準、規格等の制定の実績が少なく、人材が不足している。

(3) 課題

    • 計画的かつ継続的な人材確保方策
    • 若手技術者の積極的な参加を勧め、経験を積むことで幅を広げる。
他課題との相関 「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」との対応

    • 人材育成方策、事故時マネジメント
実施時期・期間 短期~長期。着手は短期、以降、継続して実施。

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界、官界、学術界/産業界、官界
研究基盤の確保
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、研究基盤を整備し研究を実施することにより技術情報を取得し、人材の供給を受ける。
    • 学術界は、獲得した研究費により基礎・基盤研究を実施する。
    • 国は、実施主体として、安全基盤研究による情報を獲得する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界、学術界/産業界

    • 人材育成方策の検討
    • 化学管理に関する民間規格・基準類の整備
    • 水化学管理に係わる技術書の整備

<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、水質管理基準等の整備を行うことで、規格基準類の整備を行うことができる。
    • 学術界は、規格基準類の整備に関した検討を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界・官界/産業界・官界

    • 水化学に関する技術情報の整備

<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、技術情報を取得でき、水化学管理に反映できる。
    • 国は、実施主体として、技術情報を獲得できる。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
その他

 

7.1.2 核分裂生成物挙動に係わる共通基盤技術

_第6章の各項目と本基盤技術との関連は比較的希薄であるが、深層防護レベル4までの評価を行う上では、核分裂生成物(FP)挙動との関わりが生ずるものと考える。第8章は「事故時対応及び福島第一原子力発電所廃炉対応」に係わるもので、これらはともに、FP挙動とは深く係わる。汚染水の処理処分、建物の汚染とその除染あるは環境汚染の修復についても、線源であるFP挙動とは密接に関わり、それぞれの項目で議論されものと考えるが、縦割りでは、技術的な見落としを生ずる可能性も懸念される。このため、FP挙動の共通事象とその理解、対応のための、基盤技術として、水化学ロードマップ2009に記載された「水化学・腐食に係わる共通基盤技術」に加えて、「核分裂生成物挙動に関する共通基盤技術」をまとめておくことが重要と考える。第6章及び第8章に記載された各技術項目と、本章の「核分裂生成物挙動に関する共通基盤技術」の関連は、第6章の各技術項目と「水化学、腐食に係わる共通基盤技術」との関係と同様である。
_本水化学ロードマップでは、水化学ロードマップ2009をベースに組み立てられており、水化学ロードマップ2009にはなかったFP挙動を全て既確立のロードマップの各項目に加えるのみでは、全体のバランスを損なうことも明らかになった。これは、多くの項目では、深層防護のレベル4対応で初めてFP挙動との係わりが顕在化するためである。また、第8章「事故時対応及び福島第一原子力発電所廃炉対応」では、取り扱う課題の過半がFP挙動に係わるものであり、共通基盤との切り分けが難しい。このため、一部は記載が重複するが、FP挙動全般を本共通基盤技術に取り入れた。

_ここでは、まず核分裂生成物(FP)の種類と主な特性について記載する。
_ウランあるいはプルトニウムの核分裂の結果、ウランあるいはプルトニウムは、2個余の中性子を放出し、2つのFPを生じる。実際には、トリチウムを含む3体に分裂するケース(3体核分裂:確率は、0.9~1.2×10-4/核分裂)もある[7.1.2-1]。この3体核分裂がトリチウムの主要発生源となる。FPは質量数の等しいものに分裂するよりも、図7.1.2-1に示すように質量数の異なる2つのグループの原子核に分かれる[7.1.2-2]。例えば、131I、137Cs等に代表される質量数130付近の比較的重い元素と99Mo、90Sr、95Zr等に代表される質量数90付近の比較的軽い元素の2つのグループが主なものである。

_FPは、ベータ壊変を繰り返し、崩壊熱を放出しながら、長寿命もしくは安定核種を生成する。表7.1.2-1に示すように、個々のFP核種は複雑な壊変スキーム内に含まれる[7.1.2-2]

_崩壊熱は核分裂終了後、ほぼ指数関数的に減少する。崩壊熱の経時変化を、図7.1.2-2に示す。崩壊熱は、燃料の照射時間(運転時間)Ti、核分裂停止後の時間(原子炉停止後の時間)Tcの関数として、近似的に次式で与えられる(Way-Wignerの式)[7.1.2-3]

Pd=0.1Po(Tc-0.2-(Tc+Ti)-0.2)                                             (7.1.2-1)
ここに、             Pd:運転時の熱出力(W)
________Po:崩壊熱(W)
________Tc:停止後の時間(s)
________Ti運転時間(s)

_これらのFPの生成、壊変、減損について計算を行うコードシステムの代表的なものとしてORIGEN2(ORNL Isotope Generation and Depletion)コードがある[7.1.2-4]。生成、壊変の過程を連立一次常微分方程式体系で表し、行列指数法でその数値解を求める。1981年にリリースされ、1991年には高燃焼度のPWRとBWRを対象とするデータライブラリを追加したORIGEN2.1が、その後FP生成量の誤差を小さくしたORIGEN2.2が2002年にリリースされた(原子力百科事典ATOMIC、2015)。近年、MOX燃料の場合には核分裂収率が含まれていない同位体の核分裂率の寄与が増大するというバグがORIGEN2.2に発見され、JAEA須山らにより修正された結果、適切な計算結果が得られるようになった[7.1.2-5]
_表7.1.2-2には、短期・中期・長期的な観点で重要となる主なFPを示す[7.1.2-2]。これらのFPは、燃料中においては以下に示すような物理化学状態で存在しており、事故時における燃料からの放出挙動や化学形に影響を与える。

    • ウランまたはプルトニウム酸化物に固溶:全FPのほぼ半数、Sr、Y、Zr、La、Ce、Nd等
    • 酸化物析出相を形成:ウランまたはプルトニウム酸化物への固溶限度あり、Ba、 Nb等
    • 金属析出相を形成:Tc、 Ru、 Rh、 Pd、 Moの一部
    • 揮発性FP:存在状態が完全には解明されておらず、状態に応じて、酸化物へ固溶、低温領域で凝縮相形成、被覆管とのギャップ部でCsI、Cs2MoO4、Cs2Te、セシウムウラネート等として析出等のように変化する。Br、Rb、Te、I、Cs等
    • FPガス:低固溶率で酸化物相に固溶、粒内または粒界にバブルとして析出、Kr及びXe

_各FPは、事故時ソースターム評価の観点で、揮発性等の特性に応じたカテゴリーに分けられている。代表的なカテゴリー分けとしてNUREG1465 では以下のように区分されている[7.1.2-6]
① 希ガス:Xe、Kr
② ハロゲン:I、Br
③ アルカリ金属:Cs、Rb
④テルル群:Te、Sb、Se
⑤ バリウム、ストロンチウム:Ba、Sr
⑥ 貴金属:Ru、Rh、Pd、Mo、Tc、Co
⑦ 希土類:La、Zr、Nd、Eu、Nb、Pm、Pr、Sm、Y、Cm、Am
⑧セリウム群:Ce、Pu、Np

_Phébus試験等最新の知見が反映され、SARNET等欧州のシビアアクシデント研究ネットワーク活動により、以下のように揮発性に応じたFPのカテゴリー分けがなされている。

    • FPガス及び揮発性FP:FPガス(Kr、Xe)、揮発性FP(I、Cs、Br、Rb、Te、Sb、Ag)
    • 中揮発性FP:Mo、Rh、Ba、Pd、Tc
    • 低揮発性FP:Sr、Y、Nb、Ru、La、Ce、Eu
    • 非揮発性FP:Zr、Nd、Pr
    • アクチノイド:低揮発性と同等の放出率を示すU及びNpと、非揮発性と同等の放出率を示すPu等がある。

_一方で、万が一、事故が発生した場合のプラント内の放射線線量率や環境への影響という観点でFPを見ると、特に重要と考えられるのは次の核種になる。

①ヨウ素(131I):半減期(約8日)的には問題は小さいが、甲状腺ガン発症の要因とされるため。
②セシウム(134Cs、137Cs):半減期(約2年、30年)が長く、揮発性で燃料体から放出されやすく、プラント内外の線量率を決める主因となるため。
③ストロンチウム(90Sr):低揮発性でセシウムに比べて、燃料体から放出される割合は小さいが、半減期(約29年)が長く、β線放出核種として、体内被曝への影響は懸念されるため。
④トリチウム(3H):ウランの3体核分裂反応により生成される。半減期(約12年)が長く、β線放出核種である。特に、水素同位体であるため分離除去が困難である。

_ヨウ素は、化学的な挙動が非常に複雑で、特に放射線照射下では、図7.1.2-3に示すようなラジオリシス生成種との反応 7.1.2-7で、価数を変えやすく、その結果、溶液系からガス系への移行が見られ、環境へ放出される可能性が高い。これまで放射線照射下を含め、ヨウ素化学反応については研究例が多いが、事故時でのヨウ素の挙動を把握するためには、ヨウ素単独ではなく、セシウムその他のFP元素、あるいはラジオリシス生成種との反応を含む化学反応のデータベースの確保が必須となる。

_ヨウ素、セシウム、ストロンチウムが、核種フィルタや吸着剤で液中あるいは気中から除去、回収できるのに対して、トリチウムは水素の同位体としての濃縮法により除去、回収が必要で、工学的な規模での回収が難しい。表7.1.2-3にこれまで試みられてきた主要なトリチウム分離回収法を示す[7.1.2-8]。原理的には分離回収は可能であるが、工学的装置の運用という観点では、きわめて分離回収が難しい。これまでのトリチウムの処理法を見ると、海外の再処理工場でのトリチウムの処理は、重水中のトリチウムの回収の除いては、海水中への希釈放流が主である。

(A)現状分析
_研究開発の必要性は、1F廃炉対応と運転中の発電プラントの深層防護レベル4(シビアアクシデント)対応の2つに分けられる。
(1) 1F廃炉対応
_①事故時のFP挙動の解明
_②1F事故時のFP挙動の実態解明
__汚染水処理
__体内体外被ばく量評価
__除染
__廃棄物の分別保管
(2) 深層防護レベル4(シビアアクシデント)対応
_事故時FP挙動解析コードの整備と標準化
__熱流動過程との一体化
_④アクシデントマネジメントへの反映
__事故進展モード対応のサイト内蓄積量、放出量評価
研究開発の現状は、以下の通りである。
①事故時のFP挙動の解明
_シビアアクシデント時のFP挙動の基礎。実際の燃料体からのFPの放出とその移行についての研究ではPhébus FPプロジェクト実験が知られているが、FPの代表核種であり甲状腺被ばくで知られるヨウ素については、さらに詳細に、照射による影響を含む膨大な研究が行われ、データベースも充実している。一方で、1F事故時に問題となったセシウムについてのデータは必ずしも多くないのが現状である。過去のデータベース及び知見と1F事故の解析評価で指摘された技術的なギャップを埋めるため、新たな研究開発が必要とされている。

②1F事故時のFP挙動の実態解明
_1F事故時のFP挙動をPhébus FPプロジェクト実験と対比させ、従来知見で理解可能なものと、新たなデータの必要なものの対比を続けている。現状では、まだ、1F事故時のFP挙動を十分に把握できていないため、今後継続的に、実機のデータ収集と分析を続け、既存データ及び知見で理解できるものと、新たなデータベースの必要なものに弁別し、実態解明を進めるとともに、新しい研究開発の提案、計画に資する。

③事故時FP挙動解析コードの整備と標準化
_既存のシビアアクシデント解析コードをPhébus FPプロジェクト実験データに基づくベンチマーク評価に用い、今後のシビアアクシデント解析の高度化に資する。また、上記、1F事故とPhébus FPプロジェクト実験データの技術的なギャップを、シビアアクシデント解析コードを活用して埋める。

④アクシデントマネジメントへの対応
_原子力発電所に関する新基準の設定、発行に伴い、発電プラントにおいては、アクシデントマネジメントの作成と履行が求められている。深層防護の思想に則り、従来のレベル3を超えたレベル4対応を、アクシデントマネジメントとして成文化し、通常の安全系機器、システムだけでは押さえきれない事象に対して、適切に対処すべき方法を明確化し、広くプラント内で共有することが必然となる。また、その基となる、レベル4事象発生時のFP挙動に対する基礎的な知識を広く共有することが求められる。知識の共有に置いては、本章7.2節「人と情報の整備」においても記述されているが、その中でもFP挙動に関する情報の共有について言及されている。

_これまで失われていたFP化学をはじめFPに係わる技術、情報を再収集し、技術としてきちんと後進に技術伝承(TT: technical transfer)する組織として、2017年6月に日本原子力学会に「シビアアクシデント時の核分裂生成物挙動」研究専門委員会が設置され、現状の分析、関連データの収集、技術課題の発掘が進められており、共通技術の整備と同時に人と情報の整備への寄与が期待されている。

_図7.1.2-4に、FP挙動関連の研究の必要性、現状分析及び研究方針を示す。

(B)研究方針と実施にあたっての問題点
_1F事故に遭遇して、FPを研究対象とする研究者、FPに携わる技術者が極めて少ないという現実が把握出来た。1990年代後半までは、チェルノブイリ原子力発電所事故を受けて、シビアアクシデントに関する研究が活発で、格納容器内に蓄積する水素を爆鳴気になる前に燃焼させるイグナイターの開発や、ヨウ素を中心とするFP挙動及びその除去関連の研究が積極的に進められた。しかし、2000年代に入ると、急激にSAへの関心が薄れ、関係する研究者、技術者が霧散していった。
_今後二度と同じ轍を踏まないためにも、40余年にわたる1Fの廃炉作業を遠隔、完全に遂行するためにも、FP関連の技術を再整理し、次世代へ的確に技術伝承していく必要がある。

_研究開発の方針として、以下に重点を置いた。

      • 技術、研究の立ち上げは、まず関連技術者の組織化に立脚
      • これまでの知見、データの再整理
      • これまでの知識で、1F事故をどこまで評価できるかを明確化
      • 従来知見の不足を早急に補う
      • 新しい実験の提案。予算、人材確保(本ロードマップ)

_具体的な研究の進め方としては、以下の(a)、(b)の2本柱を念頭に進める必要がある。
(a) 廃炉作業円滑遂行(特に、プラント内外の被ばく抑制と廃棄物適正管理)
_①事故時のFP挙動の解明[一般的なFPに係わる基礎事象]
_②1F事故時のFP挙動の実態解明[事故時に見られた事象]
(b) 原子力発電プラントの安全運転(特に確実なレベル4対応)
_③事故時FP挙動解析コードの整備と標準化
_④アクシデントマネジメントへの対応
具体的には、
(i) FP分布の正確な把握、的確な取出と確実な処理
___可能な限り測定に基づき、測定不可の場合は予測
(ii) 事故時のFP挙動の予測とAMへの適切な反映
___シビアクシデント解析コードに依存

_ロードマップ推進のための研究開発推進体制としては、学会レベルでのFP研究の核を作るため、2017年6月、日本原子力学会「シビアアクシデント時の核分裂挙動」研究専門委員会を設立した。同準備会でまとめたPhébus FPプロジェクト実験のデータを中心に、議論し、1F事故との対比を議論して、必要な技術課題をまとめる。表7.1.2-4に主要課題を示す。

_3つのWGを組織して議論を進めているが、3つのWGの相関を図7.1.2-5に示す。

(C)産官学の役割分担の考え方

_核分裂生成物挙動に関する共通基盤技術の確立のための産官学の役割分担を図7.1.2-6に示す。

① 産業界の役割
a. 実機データの蓄積とニーズの提示
_基礎知見と実機知見の結合。特に学術界を積極的に取り込むためには、関連分野の研究ニーズの明確化とその成果の受け皿を確保することが必須である。現状では、学術界への研究ニーズの提示が研究資金の投入に優先するものと考える。学術界に関連研究拠点を確保することで、新たな研究が芽生え、その中から人材供給の可能性も育ってくる。拠点が拡大しつつある段階で、大きな研究資金を確保するという2ステップの対応が有効と考える。科学研究費補助金等の学(学術界)の分野での競争的研究資金を獲得するためには、特定機関を対象とした研究ニーズの開示では十分効果を発揮することはできない。科学研究費補助金の審査に当たる学識経験者群に研究ニーズを公式に開示することが必須となる。あるいは、不特定の学識経験者が読んで理解できる研究ニーズを明確に準備し、提案側がそのニーズドキュメント(提案書)を利用できるような配慮が必要である。こういったドキュメントの準備も、産業界の役割と考える。研究ニーズドキュメントでは、具体的な研究の必要性に留まらず、研究の難易度、期待されるブレークスルーの大きさ、さらには広く科学技術一般に対して期待される波及効果の記載が必須である。
_一方で、水化学・腐食に係わる共通基盤技術と異なり、FP挙動関連の技術は、ごく一部の通常運転時のFP挙動という例外を除くと、運転中の発電用原子炉では経験されない事象が中心であるため、プラントの運用実績から得られる知見、データは皆無に近い。にもかかわらず、レベル4対応では、FP挙動を想定したマニュアルの作成が必須である。どういうデータが必要か、何が不明確かといった情報を学術界に発信し、事故時の対応シナリオの作成が必要である。
_1F廃炉対応では、プラントの各所にアクセスし、データを収集することが産業界に求められている。こういったデータは、廃炉作業の円滑推進に必須であるとともに、世界的にも貴重なものであり、産官学での情報の共有化と国際的な情報発信が望まれる。また、アクセスの困難な箇所での遠隔計測、遠隔作業に係わる技術、中でも除染と計測技術は共通基盤技術として必須のものである。
b. プラント運用上の固有課題の評価
_複合現象のモデル化が必要である。
c. 既存技術の高度化と適用
_基本的には、産業界が独自に資金を確保して対応すべきと考える。ただし、国・官界のR&Dには積極的に参加することが必須で、この分野では、国・官界からの資金供与が必須となる。
d. 水質管理基準等の整備

② 国・官界の役割
a. 長期的戦略の指導的役割
b. 国際間の技術調整
__海外FP挙動関連の情報の把握と国内基準への反映_
__規制当局が、中心的役割を果たすのが望ましい。
c. 大規模実験の推進(に代わる研究用原子炉の建設)
_2016年に廃炉が決まったJMTRに代わる新しい研究用原子炉の建設、稼動とインパイルループ実験による“FP挙動の研究”には発電プラントの建設、運用、経年化プラントの維持、管理に当たる産業界とのかい離はあってはならないことで、装置の計画、製作の段階より、官界、学術界、産業界が一体感を持って、世界トップのインパイルループ実験の成功に向けてベクトルをそろえて対応することが必須と考える。
d. 国内自主技術の育成
_推進当局が、中心的役割を果たすのが望ましい。
e. 原子力の将来ビジョンの明確化と夢の創生

③ 学術界の役割
a. 基礎データ、新知見の発掘と蓄積
(共通的・普遍的・永続的研究テーマ)
_学術界の性格として、研究を強いて、対応できるものではないと考える。産業界の研究ニーズを理解し、能動的に新たな課題に向うような工夫と仕掛けが必要であり、研究資金の大小よりも、学術界に相応しい規模で、学術界としての活動を妨げることがないような資金提供が本質的と考える。そのためには、研究費の申請と受託が容易となるような、研究環境の構築が重要と考える。
b. FP挙動の科学的裏付け
c. 教育・人材の継続的供給
_学術界の自然な姿として、関連研究が根付くことによって、必然的に関連分野の人材育成が可能となり、その結果として、産業界で希望する分野での人材育成がなされるもと考える。結果を急ぎすぎることは、金の卵を生む鶏を損なうことにつながる。短期的には、産業界の自主努力で必要な人材を育成することが重要と考える。

④ 学協会の役割
a. ロードマップローリング
b. 規格標準類策定
c. 共通基盤技術の研究ニーズの発行
d. 人的交流と育成

⑤ 産官学の連携
a. 全体としてのベクトルそろえ
_国家全体として最大の力を発揮できるようなシナリオを提示し、共通の目標に向かって行くムード作りも重要である。特に、産業界の活力が低下気味であり、学の水化学への寄与が小さい点が問題で、連携を強めることで、問題の本質的解決を急ぐ必要がある。

_導入シナリオを図7.1.2-7に示す。
_技術マップを表7.1.2-5に、またロードマップを図7.1.2-8に示すとともに、具体的項目については、本項の末尾に、課題調査票としてまとめた。

参考文献

[7.1-1] 日本原子力学会水化学部会ロードマップフォローアップ小委員会, “水化学ロードマップ2009” (2009).
[7.1.1-1] 日本原子力学会水化学部会ロードマップフォローアップ小委員会, “水化学ロードマップ2009” (2009).
[7.1.1-2] 水化学部会, “水化学部会の現状と今後の展開―水化学高度化と標準化をめざして”, 日本原子力学会誌「アトモス」, 51, 310-313 (2009).
[7.1.1-3] 日本原子力学会編, ”原子炉水化学ハンドブック”, コロナ社 (2000).
[7.1.1-4] 腐食防食学会, ”高温水中における応力腐食亀裂進展試験方法” (2015).
[7.1.1-5] 腐食防食学会, “高温高純度水環境における単軸引張定荷重負荷(UCL)を用いた金属及び合金の応力腐食割れ試験方法” (2015).
[7.1.2-1] M. J. Fluss, N. D. Dudey and R. L. Malewickhi, “Tritium and Alpha-Particle Yields in Fast and Thermal Neutron Fission of 235U”, Phys. Rev. C, 6, 2252 (1972). http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevC.6.2252
[7.1.2-2] 日本原子力学会水化学部会「核分裂生成物挙動」研究専門委員会準備会, ”Phebus FPプロジェクトにおける核分裂生成物挙動のまとめ – 福島プラント廃炉計画及びシビアアクシデンと解析への適用”, 水化学部会報告, #2017-0001 (2017).
[7.1.2-3] K. Way and E. P. Wigner, “The Rate of Decay of Fission Products”, Phy. Rev., 73, 1318 (1948).
[7.1.2-4] A. G. CROFF, “ORIGEN-2: A Revised and Updated Version of Oak Ridge Isotope Generation and Development Code”, ORNL-5621, Oak Ridge National Laboratory (1980).
[7.1.2-5] 須山賢也, “ORIGEN2.2 コードの核分裂収率を取り扱うルーチンの問題”, 核データニュース, No.83, 63-39 (2006).
[7.1.2-6] L. E. Herranz and B. Clément, “In-containment source term: Key insights gained from a comparison between the PHÉBUS-FP programme and the US-NRC NUREG-1465 revised source term”, Progress in Nuclear Energy, Vol. 52 (5), July 2010, pp. 481-486 (2010).
[7.1.2-7] 成富満夫, “原子炉事故時における放射性ヨウ素の物理的、化学的挙動に”, 保険物理, 22, 189-207 (1987).
[7.1.2-8] S. Uchida, M. Naitoh, H. Suzuki, H. Okada, and S. Konishi, “Evaluation of Accumulated Fission Products in the Contaminated Water at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant”, Nucl. Technol., 188(3), 252-265 (2014).

課題調査票

課題名 核分裂生成物挙動に関する共通基盤技術

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短期 I. 燃料取りだし開始
=>核分裂生成物(FP)挙動に関する確実な理解短期 II. デブリ取出し方法確定
=>  FP挙動の確実な理解

短期 V. プラント再稼働
=> アクシマネジメントへの核分裂生成物挙動に関する知見の確実な適用

中期 III. デブリ取出し
=> 核分裂生成物の確実な制御

長期 IV. 廃止措置
=> 核分裂生成物の除去と長期安定化

 概要(内容) (1)    研究基盤の確保/技術伝承
_産官学の研究機関が参加して、水化学共通基盤技術に係わる研究を長期的、計画的に実施できる仕組みを構築。学に研究ニーズを開示すると同時に、競争的研究資金獲得が容易になるよう、研究ニーズを開示。また、共同研究プロジェクトを構築していく環境を整備、実施を通し、技術向上を図ると同時に、学において技術伝承を促進して、長期的な研究基盤を確保。特に、核分裂生成物挙動については、若年層のみでなく中間層への技術伝承が重要。
(2)    技術・情報の整備/新技術への挑戦
_国内外の核分裂生成物挙動に係わる技術・情報を再整理し、ドキュメント化。1F事故の経験と重ね合わせて、技術・情報の整合性、妥当性を評価して、不足な情報を抽出し、計画的に補足するための方策を提示して、実行。
_国際的に核分裂生成物挙動解明のためのプロジェクトを企画し、研究開発を主導。このために、Phébus FPプロジェクトに代わる、新しい研究用原子炉の設置を準備し、新たな国際的な核分裂生成物挙動解明研究拠点を確保。
(3)    学協会規格等の整備
_事故時の発電プラント内外の核分裂生成物の計測において、モニタリングポスト、計測器、その使用法等のレベル差、校正、測定値から核分裂生成物濃度への換算法等、統一すべき課題が散見された。品質保証や社会への説明性に関する要求に対し、体系的・組織的に対応するため、放射線計測を中心に、学協会の場で民間規格化・基準化する。こうした民間規格及びその技術説明書は、これまでに蓄積された知識・経験を次世代に適切に継承し、世界的にも高い水準にある我が国の放射線計測のみでなく、水化学管理技術を維持するための技術継承資料として有用。
_過酷事故の発生及び拡大防止に技術情報に基づいて、関連する防災マニュアル類整備に核分裂生成物挙動の観点からの寄与を強化していく。
(4)    国際協力の推進
_上記(2)記載の国際協力体制を推進する。
_防災マニュアル類整備に核分裂生成物挙動の観点からの寄与を強化していく。
導入シナリオとの関連 (1) 事故時のFP挙動解明を通して、廃炉作業の円滑遂行(特に体内・外被ばくに抑制)、原子力発電プラントの安全運転に資する。
(2) 上記を長期間にわたり維持するため、FP挙動関連の知見、技術を確実に技術伝承する。

課題とする根拠
(問題点の所在)

    • プラントの安全・安定な運転を維持するため、技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要。
    • プラントのトラブルや異常事態の早期発見及び拡大防止に寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
    • 事故発生への備えに寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
    • 事故拡大防止に寄与するための技術基盤整備、マニュアル類整備及び人材育成プログラムが必要
現状分析 (1)    事故時のFP挙動の解明:TMI-2事故処理収束後の研究活動低下

    •  設備老朽化と研究者離散=>若手研究者のFP 離れが深刻化
    •  大学他教育機関でのFP関連カリキュラム消失

(2)    1F事故時のFP挙動の実態解明

    •  実機での関連データ収集の困難さ

(3)    事故時FP挙動解析コードの整備と標準化: 多分野との連携が不可欠

    • 「シビアアクシデント時の核分裂生成物挙動」研究専門委員会発足

(4)    アクシデントマネジメントへの反映: これからの課題

期待される効果
(成果の反映先)

(a) 廃炉作業円滑遂行(プラント内外の被ばく抑制と廃棄物適正管理):上記(1)及び(2)
(b) 原子力発電プラントの安全運転(確実なレベル4対応):上記(3)及び(4)
(c) 上記を長期にわたって支える人材の確保
実施にあたっての問題点
    • 上記(a) 廃炉作業円滑遂行については、緊急性が課題。研究開発資金は獲得可能。
    • 上記(b) 原子力発電プラントの安全運転については、長期的に重要な課題ではあるが、研究開発資金は獲得が課題
    • 上記(c) 人材の確保については、産官学後協力し、体制強化が不可欠。なお、FP挙動は、水化学分野に限定された技術ではない。熱流動、核燃料、保健物理・環境科学、計算科学、再処理、廃棄物処理、核融合、原子力安全等、原子力学会においても多くの部会のサポートで解明されるもので、学内での緊密な協力体制が求められる。
必要な人材基盤 (1)    人材育成が求められる分野

    • FP挙動に関する広く深い知見を有する人材
    • FP挙動に関する新しい知識を求める研究人材
    • プラント全般に精通している人材
    • 事故時のプラント挙動に精通している人材

(2)    人材基盤に関する現状分析

    • 設備老朽化と研究者離散 => 若手研究者のFP 離れが深刻化
    • 大学他教育機関でのFP関連カリキュラム消失
    • 実機での関連データ収集が困難

(3)    課題

    • 計画的かつ継続的な人材確保方策
    • 若手技術者の積極的な参加を勧め、経験を積むことで幅を広げる
他課題との相関 「水化学ロードマップ」の他課題との対応

    • 安全基盤研究「構造材料の高信頼化」を支える共通基盤技術の位置付けであるが、その中で環境負荷低減(被ばく線源低減及び環境・一般公衆への影響低減)に関しては、深層防護レベル4対応の部分は、本共通基盤技術でカバーする。
    • 事故時対応の水化学については、特に明確な分担は決めず本共通基盤技術と協力して、対応する。
実施時期・期間 短期~長期。ロードマップ記載のステージ毎に実施。
実施機関/資金担当

<考え方>

産官学の役割分担
_産の役割
_・ FP分布の測定と予測
_・ FP除去、固定化技術の確立
___=>廃炉関連技術高度化:計測/処理
_・ AMの確立
___=>最先端のAM:あらゆる可能性包含
_官の役割
_・ 必要な基盤(知識・人材・施設・制度)の整備
___=>国家戦略としての人材育成計画
_・ 研究炉建設とin-pile実験
___=>計画的な大型投資
_・ 産学の安全に係わる研究
_学の役割
_・ 事故時FP挙動の解明
___=>評価手法の標準化
_・ 知の蓄積と展開
_・ 研究を支える人材の育成
___=>基盤研究に係わる人材の育成
_学協会の役割
_・ 規格基準化と高度化に貢献
_・ 知識ベースの普及
___=>FP取扱い方法の標準化産官学の連携
・産官学による協調・共同研究
・廃炉プロジェクトを支える要素技術の高度化
・新しい照射試験設備の推進と高度利用

関連分野との連携
・総合的な廃炉技術
・多角的なAM評価

その他 特になし

 

7.1.1 水化学・腐食に係わる共通基盤技術

_原子炉水化学は、線源強度低減、構成材料及び燃料健全性の維持・向上ならびに放射性廃棄物発生量の低減等において重要な役割を果たしてきた。技術的には、さまざまな材料と水との相互作用の解明とその抑制が基幹をなす。材料と水化学の組み合わせにより、現れる現象は多岐に渡るが、その本質的な点には、共通点も多い。
_水化学の研究における本質的・共通的な課題として、基礎メカニズムの解明、腐食環境の評価及び加速実験を含めた実験方法の確立が不可欠であり、水化学ロードマップ2007及び2009では、各項目に共通かつ基礎的な課題を共通基盤技術として記載した[7.1.1-1]
_上記経緯を踏まえ、本ロードマップにおいても、前章(6章)の各課題項目に関連した共通項を持つ基盤技術的課題を抽出し、水化学・腐食に係わる共通基盤技術として取り上げることとした。水化学・腐食に係わる共通基盤技術の課題抽出に当たり、ロードマップ2007及び2009と同様に、共通基盤の位置づけを以下のように設定し検討した。
(a) 燃料・構造材料・水化学固有の各研究を推進する上での共通の基盤技術(現象の把握及びモデル化には必須技術)である。
(b) 実機での現象の把握及び基礎実験と実機対応との橋渡しに重要な寄与を果たす。
(c) 材料・構造変更等の対応が困難なケースに対し、重要なオプションを与える代替技術評価のための技術基盤となりうる。
(d)シーズオリエンテッドな研究課題である。

_上記の位置づけをもとに、前章で取り上げた各課題を検討した。全ての課題に共通する課題として、まず、水化学環境の把握があげられる。また、SCCや配管減肉、燃料健全性等においては、高温水中での材料の腐食現象の理解が必要との共通的課題があげられる。同様に燃料健全性、被ばく線源低減等においては、酸化物やイオンの付着脱離に関する理解が必要との共通課題があげられる。また、全ての項目に共通として、実機を模擬した最適な実験法が必要なことは明白であり、実験方法の開発、検討が共通的課題としてあげられる。以上のことから、以下に示す4つの具体的項目を技術課題して取り上げることとした。
① 腐食環境評価技術
② 腐食カニズム
③ 酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム
④ 実験技術

_本節で取り上げるこれらの技術課題は、前章で取り上げた各課題共通する基盤技術であり、深層防護との関連は、各課題における深層防護との関連に準ずる。ここでは、水化学・腐食に係わる共通基盤技術にて取り上げる各技術課題と深層防護との関連について簡単に記載する。

①腐食環境評価技術
_腐食環境評価技術に関しては、基本的には、定常運転時を想定した課題を抽出している。ただし、シビアアクシデントの収束時にも、本課題で取得される評価技術に関して、その基礎知見は活用可能である。

②腐食メカニズム
_基本的には、定常運転時を想定した課題を抽出している。シビアアクシデントの収束時にも、本課題で取得される腐食に関する基礎知見は、適用可能な条件、部位の評価に関しては活用可能である。

③酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム
_基本的には、定常運転時を想定した課題を抽出している。シビアアクシデント時の収束時にも、本課題で取得される付着脱離メカニズムに関する基礎知見は、適用可能な条件、部位の評価に関しては活用可能である。セシウム等のFP等、シビアアクシデント時に放出される酸化物・イオンの付着脱離に関しては、8章で別途記載したためここでは取り上げない。

④実験技術
_基本的には、定常運転時を想定した課題を抽出している。シビアアクシデントの収束時にも、本課題で取得される実験技術に関する基礎知見は、活用可能である。

(A) 現状分析
_上述の水化学・腐食に係わる共通基盤技術に関する4つの技術課題は、水化学に限らず、その周辺研究にも係わる基礎的な技術である。これらの課題項目は、水化学分野だけではなく、他分野との連携が必要とされる課題も多く、学(学術界)が中心となり本共通基盤技術関連の研究を立ち上げ、推進することが望ましい。そのためには、水化学、広くは材料を含めた原子力関連の技術の共通基盤技術としての認知を受けることが必須で、さまざまな機会、場を通して研究の必要性、重要性、緊急性を訴え、その成果が広く他分野にも寄与することをアピールすることが不可欠である。

(1) 腐食環境評価技術
_材料の腐食は、材料と水環境の相互作用によるものであり、そのメカニズム解明や解析において、腐食環境を評価することは非常に重要である。原子炉における腐食環境の評価においては、原子炉固有の事象である水の放射線分解に起因する腐食性分解生成種の濃度分布等が議論の中心であるが、pH、Fe2+イオンの飽和溶解度、導電率等の因子との関連、高温水中でその場測定可能な腐食電位のようなマクロ的な因子についても、表面皮膜の影響、放射線照射の直接的影響等議論が必要である。また、燃料・材料関連の実験に関して、溶存酸素濃度、腐食電位の設定において、最新のラジオリシス情報に基づく水化学条件を設定する必要があり、そのための情報を取得、更新する必要がある。さらに、表面の酸化皮膜や付着クラッドの影響は考慮されていないため組み入れる必要がある。また、プラントでの現象を理解する上では、PWR、BWRといった軽水炉プラントに限定するのではなく、火力発電プラントあるいは化学プラントといった関連分野からのアナロジーも重要と考える。このような広い視点からの議論については、現状では十分に行えているとは言いがたく、他分野との交流も含め幅広い面で、最新技術に関する議論への積極的な参加による情報収集が必要である。一方で、各種実験における水化学条件の標準化が必要である。また、実機を模擬した照射実験は限界があり、実機現象と模擬実験・加速実験をつなぐ理論ツールの構築が必要である。
_高温水化学センサーは、腐食環境評価にとって重要な役割を果たす。しかし、高温水中での水化学その場測定センサーによる測定技術に関しては、開発はされるが、実用にまで至っていない。長期使用に関する信頼性が十分ではなく、破損し、ルースパーツとなる懸念が残されているためである。
_さらに、1F事故後には、放射線照射下にあり、かつ海水、淡水等の多量の不純物イオンが含まれる環境が発生しており、腐食環境評価のみならず、安全性の観点から水素発生評価等への水化学の寄与も重要となっている。

(2) 腐食メカニズム
_腐食には、水溶液中の湿食とガス中の乾食がある。さらに、腐食を定量的に理解し評価するためには、電気化学的なアプローチが不可欠である。SCC発生、進展の抑制技術として採用されている、NMCA等の貴金属添加技術のルーツが燃料電池開発等の触媒にあることからもわかるように、電気化学分野における最新知見の活用は水化学分野における新技術開発の一助となる。
_一方で、炉内では、軽水炉の燃料材料、構造材料は直接・間接的な放射線照射による様々な影響を受け、放射線分解生成種によっても腐食環境が影響を受けるとともに、構造材間の微細な隙間構造、表面に付着蓄積したスケール、冷却水の複雑な流動条件によっても、腐食挙動が異なるため、各条件下での腐食現象の特徴を把握する必要がある。さらに、実験的評価においても、腐食試験環境の把握において、試料水の減温過程において、腐食生成種の濃度・化学形態が変化することが多く、腐食環境を正しく把握することが難しく、上記(1)の課題と連携しながら進めることが重要である。また、隙間形状の影響と隙間内で発生している現象の理解が重要課題の1つとなっており、SCC試験におけるすきま付定ひずみ曲げ(Creviced bent beam、CBB)試験等では、強制的に隙間条件を形成して試験を実施しているものの、その理論付けについては実例を見ないのが実情である。
_また、1F事故後には、海水や流入地下水成分、デブリからの溶出成分等、多様な不純物が混在し、かつ放射線照射下という特殊環境に材料がさらされている。このような複雑環境に対応するには、データの蓄積のみならずメカニズム解明が重要となる。このためには、放射線化学と腐食科学分野の研究者の連携が有効であり、従来から両分野間で連携してきた水化学は重要な役割を果たすことが期待される。

(3) 酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム
_酸化物やイオン種の付着脱離メカニズについては、配管内面への放射性核種の蓄積あるいは燃料被覆管表面でのクラッド、イオンの付着挙動の解明研究が行われている。既往研究より、各材料表面で発生している現象の理解は進んできているが、これらの知見に基づく定量評価に必要な解析手法及び長期予測手法の提案と高精度化が課題として残されている。この課題解決に必要な付着メカニズム、及び機械的な脱離あるいは溶解といった脱離のメカニズムについての知見の取得、蓄積が重要である。同時に、付着している酸化物やイオン種の腐食に及ぼす影響を明確することもまた、重要課題の1つである。一方で、付着物と材料の隙間に代表される微小な隙間部については、直接実験的なアプローチは難しいため、理論評価を含めた間接的評価にならざるを得ないが、微小すき間部での腐食現象の解明には不可欠である。
_また、付着・堆積物の評価は核燃料や材料を取り出しての分析に依存するため、プラント運用中の状態の把握が難しい。実機での状態と分析された状態を橋渡しするための、in-situ測定法の確立あるいは現象の理論評価ツールの確立が必要である。

(4) 実験技術
_模擬実験、加速実験によるデータの取得、蓄積を実施するにあたって、調査対象として設定した因子を実験におけるパラメータとして適切に取り扱える手法で実施することが重要である。そのため、最適な加速実験、模擬実験手法の選定は、上記(1)~(3)項目の実施による、メカニズムと知見の把握により初めて可能となる。また、実機での大スケールかつ照射下での現象に関して、小スケールな実験室レベルでの実験的手法で評価するうえで、模擬性、加速性を把握することは不可欠である。また、近年では、我が国だけではなく世界的に実験炉が老朽化し、その数も減少傾向にある。そのため、実験炉のみではなく、照射施設等を用いた模擬実験技術の重要度が増してきている。一方で、実験炉における実証試験は、メカニズム解明等の基礎研究と実機において発生する(または発生が確認されている)事象との相関を検討するうえで重要であることは疑いなく、実炉運転相当の放射線場を再現可能な実験炉の必要性は日本国内のみならず世界的にも高いため、将来的展望として新規実験炉の建設には水化学分野としても期待が大きい[7.1.1-2]

(B) 水化学・腐食に係わる共通基盤技術開発の研究方針と課題
_実験室での腐食、電気化学、コロイド化学、放射線化学等に関する基礎研究から実機実証までをつなげていくことが、水化学の共通基礎基盤の重要な役割である。加えて、分野を超えて、計算、模擬実験から取得される知見、情報を統合する必要がある。この統合プロセスにおいて、模擬実験、照射実験と計算科学をベースに体系化を実施することが望ましい。そのためには、水化学、腐食、燃料分野の計算科学的評価と模擬実験、照射実験のさらなる推進が不可欠である。導入シナリオを図7.1.1-1に、基礎から実機へのつながりの考え方を図7.1.1-2に示す。また、技術マップを表7.1.1-1に、各課題の相関を図 7.1.1-3に示す。
_以下に、各項目の研究方針を示す。

(1) 腐食環境評価技術
_原子炉一次冷却系では、(2)の③に詳述するように、放射線照射が直接的あるいは間接的に腐食環境に影響を与える。この現象のメカニズム解明と照射影響軽減対策立案には、これら影響度を定量化する必要があり、実験室内で再現実験を可能とする技術の確立が急務である。そこで、腐食環境評価技術を水化学の中枢に位置づける。腐食環境の定量化はラジオリシスモデルによる理論的評価と、高温水化学センサーを用いた実験的な評価を両輪として展開する。構造材・燃料被覆材と水化学との相互作用解明の基盤技術として、プラント冷却系全体及び隙間部等の局所的な腐食環境を定量化する。また、原子炉固有の課題である放射線照射の直接及び間接効果の影響評価を重点的に盛り込む。
① ラジオリシス解析による照射効果の定量評価
_高温水のラジオリシスにおいては、G値、2次反応に関して、継続的な研究によるデータの更新がされている。一方で、燃料と材料関連の従来研究では、古いラジオリシスパラメータを用いた解析情報に基づく水化学条件を採用していた。これは既往研究で課題となっている実機と実験室の乖離の要因の1つになっていると考えられる。そこで、ラジオリシス解析に関するG値、2次反応に関するデータをさらに高精度化するととともに、これまで想定していなかった多様な不純物を含む系に関して解析可能となるよう基礎データを拡充する。これにより、実機環境をより正確に模擬した条件でのメカニズム研究が可能になるとともに、実機の水質予測技術の高精度化にも資する。

② 沸騰あるいは過飽和析出によるクラッド付着・蓄積及び析出物からのイオン種溶出による局所水質評価
_実際の材料表面は、表面酸化皮膜に覆われており、さらに流入鉄イオンの再析出等による酸化鉄粒子に覆われている。よって構造材表面では、酸化鉄粒子の生成、剥離、再溶出等が発生しており、これらは環境の影響を強く受ける。さらに、これらの粒子の再溶出により発生したイオンが、材料表面に蓄積し、表面近傍の水質を変化させる。したがって、構造材料や燃料表面での腐食現象を議論するにあたり、表面近傍でのイオン種のふるまいを把握することは重要である。そこで、表面近傍における材料及び付着物からの溶出イオン種の、表面近傍への蓄積、さらにそれによる表面局所水質への影響メカニズムを解明し、解析式を提案する。さらに、イオンの輸送等を考慮したマルチフィジックス解析法を提案する。

③ 隙間部、付着クラッド・酸化皮膜と母材界面等の局所水質評価
_実際の材料表面は、酸化皮膜に覆われており、さらに流入鉄イオンの再析出等による酸化鉄粒子に覆われている。腐食や付着に伴う、材料や燃料の損傷はこの皮膜や付着粒子の下で発生している。さらにその進展は亀裂内のような微小隙間構造を考慮して評価する必要がある。また実機材は放射線環境にさらされているため、局所構造と放射線環境が重畳した局所水質となっている。そこで、放射線を考慮した、隙間部やクラッド・皮膜/母材界面における局所水質評価手法を確立し、解析手法を構築、高度化する。また、ECPにおいては構造材表面の酸化皮膜の影響を考慮したうえで評価する必要があることから、ECPへの表面皮膜の影響メカニズムを解明し、それを取り入れたより高精度化したECP評価手法を提案する。

④ 腐食環境のその場(in-situ)測定法の確立
_IASCC等の高い放射線場で発生する事象を理解するには、照射下試験は有用な手段の一つであるが、試験条件の1つである照射下水質の把握が重要である。各種の高温水化学センサーに関しては、実験室系での採用は増加しつつあるが、実機の採用実績があるものとしては、主としてBWRの水素注入運転時に、適正な水素量を決めるために採用された腐食電位センサーのみである。特に、実験炉によるインパイルループ実験等の放射線直接照射下試験では、腐食環境のその場での把握に腐食電位の測定が不可欠であるが、採用される参照電極は放射線照射の影響を受け、特に高線量の中性子照射下ではセンサー寿命が短いことが課題となっている。そのため、放射線の影響を受け難い参照電極の開発とその実証はインパイルループ実験に先立って実施することが必要である。そこで、放射線照射下にある高温水の腐食環境その場測定手法を確立するための基礎検討を行い、手法を提案する。さらに、高線量の中性子照射下で長時間利用可能な水質センサーを提案する。

(2) 腐食メカニズム
_構造・燃料被覆材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、材料の腐食、溶出、酸化物形成のメカニズムを解明し、定量化する。全面腐食と同時に隙間部、亀裂先端部等の局所腐食についても、現象を明らかにするとともに、原子炉固有の課題である放射線照射の直接及び間接効果を盛り込む。酸化皮膜の形成、性状解析に重点を置き、材料研究分野、燃料研究分野の研究者と連携して推進する。
① 腐食速度の温度、pH、酸化種濃度依存性の定量化
_従来使用されている炉内構造材料や燃料材料の高温水中での腐食速度は、重量測定法により測定されたものである。腐食速度の溶存酸素濃度依存性、pH、温度等の環境条件への依存性は、これまでも幅広く取得されてきており、報告例も多い。一方で、隙間内等に代表される局所水質中での材料の腐食速度に関しては、データが不十分であると考えられ、局所水質評価と連携した局所腐食速度の取得等により知見を拡充する。また、局部腐食の発生・進展停止条件の評価も重要であり、データの取得、拡充を行う。さらに、放射線照射下での腐食速度に関しては、データが少なく、今後充実させる。

② 酸化皮膜形成メカニズムと酸化皮膜の腐食への影響の定量化
_高温水中では、材料表面に、緻密な内層とポーラスな外層の2層構造を持つ酸化皮膜が形成される[7.1.1-3]。この酸化皮膜が表面を覆うことで材料表面が保護され、腐食を抑制する。腐食の長期予測のため、この酸化皮膜の影響を定量化したうえで、メカニズムを定式化した腐食解析手法を確立する。また、酸化皮膜の腐食抑制に及ぼす放射線照射影響を明確にする。

③ 放射線照射の腐食及ぼす直接・間接効果の定量化
_放射線照射下では水の放射線分解により、過酸化水素が発生する[7.1.1-3]。よって腐食への照射影響は、照射の直接影響下で発生する腐食と、照射により発生した過酸化水素による間接影響下での腐食に分けて考える必要がある。間接効果に関して、過酸化水素は材料の腐食及びECPへ影響することは以前より指摘されており、過酸化水素の腐食影響に関する研究も進められ、影響メカニズム、溶存酸素との差異においては理解が進んでいる。一方で、直接効果に関しては、材料表面近傍での過酸化水素の湧き出し影響、短寿命ラジカルの寄与、表面保護皮膜への影響等の課題が考えられ、これらのメカニズム解明と定量化を行う。

④ 高温水中あるいは放射線照射下での腐食現象の電気化学的理解
_腐食反応は材料と水化学環境の界面における電気化学反応であり、その理解がメカニズム解明において不可欠である。これまで、高温水中で利用可能な参照電極の開発に加え、電位測定技術、分極測定技術等を用いた腐食メカニズム解明研究が進められている。このメカニズム解明をさらに進めるとともに、高温水中での局部腐食に関する電気化学反応を解明し、さらに放射線の電気化学反応に及ぼす影響も明確にする。

⑤ かい離水素の拡散・水素化物形成
_PWSCCにおいては、水素が重要な環境要素の1つとして議論されている[7.1.1-3]。また、燃料に使用されている材料の健全性の議論においても、水素の影響は重要な要素の1つとされている。特にかい離水素の材料への取り込みと、材料内での水素化物生成のメカニズムを解明する。水素の材料への侵入や、水素化物形成は、軽水炉分野だけではなくさまざまな産業分野で取り組まれている重要課題の1つであり、他分野と連携しながらメカニズム解明と定量化を進める。また、これらの現象への放射線照射影響も理解する。

⑥ 腐食現象のその場(in-situ)測定法の確立
_炉内で発生する腐食現象の解明において、放射線照射下にある高温水中での腐食現象に係わるパラメータのその場測定は非常に有用であり、その手法を確立する。

(3) 酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム
_構造・燃料被覆管材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、燃料・構造材表面での酸化物の析出・付着・脱離・溶解挙動を解明し、あわせて、析出の腐食挙動への影響を定量化する。
① 沸騰析出あるいは過飽和による濃縮析出
_燃料や材料表面への酸化物クラッドの付着量の長期予測において、沸騰析出や過飽和析出による酸化物粒子の表面への析出量の定量化及びそれに基づく解析式の構築を行う。ホウ素の析出等を議論するにあたり、沸騰析出のメカニズム解明と定量化を行う。

② 高流速部への析出と低流速部への沈積
_酸化物粒子の配管への付着を定量化し、高流速部への析出メカニズム、及び低流速部への沈積メカニズムを解明する。さらに流況と付着、沈澱現象のマルチフィジックス解析手法の確立とそれによる定量的評価手法を確立する。

③ 付着物の固着機構
_付着した酸化物粒子の固着機構の解明は表面のクラッド付着を議論するうえで必要不可欠な情報である。そのため、コロイド化学の知見に基づく議論がされており、一定の理解が得られている。一方、高温水中でのコロイド化学に基づくパラメータの直接測定は報告例が少なく、議論をより深めることで、固着機構の解析的予測手法を確立する。

④ 酸化物とイオンの相互作用
_酸化物粒子とイオンの共存条件下において、イオン種によっては酸化物粒子表面に共存イオンが吸着し、酸化物粒子の挙動を変化させる。そのため、高温水中での酸化物粒子とイオンの相互作用を解明し、高温水中での酸化物粒子のコロイド粒子的挙動に対し共存イオンの影響を考慮した評価手法を確立する。

⑤ 機械的はく離
_流況下等にある材料表面では、付着した酸化物粒子の機械的はく離が発生している。よって、配管等への酸化物の付着量、付着速度の予測に当たり、この機械的はく離を考慮する必要がある。そこで、流れによるせん断力、キャビテーション等の機械的はく離の発生要因を考慮した定量的評価を実施し、表面酸化物付着モデルへと導入する。

⑥ 局所 pH 変化
_酸化物やイオン種の付着挙動においてpHは重要な要因の1つである。とくに表面近傍の局所的なpH変化は影響が大きいため、その影響を定量化する。

(4) 実験技術
_構造材料及び燃料被覆管材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、実機条件を模擬できる実験技術を確立する。腐食挙動に影響する主要因子単独あるいは組合せ効果を適切に再現する実験法、及び加速実験法を確立する。さらに、上記(1)~(3)の成果に基づき、現象再現のための模擬及び加速実験技術確立に資する。
① 照射環境模擬実験法(H2O2浸漬実験)等実験環境標準化
_実機で発生する現象の多くは放射線照射下で起こるが、照射下試験は困難が伴うため、メカニズム研究やデータの充実化においては、照射環境を模擬した実験的手法によるアプローチが必要不可欠である。照射下では水の放射線分解により過酸化水素が発生し、高いECP条件になっている。そのため、照射環境模擬として、溶存酸素濃度を非常に高い条件にし、材料のECPを高く保つ条件で試験を実施することで照射環境を模擬している。一方で過酸化水素を用いた実験例もある。照射環境模擬実験法を標準化することで、照射環境模擬実験のデータにおける、手法、条件に起因するデータのばらつきを抑え、より効果的なメカニズム研究を推進可能となる。そこで、炉内環境を模擬した模擬実験技術に関して、提案し、標準化のための検討を行う。

② SCC 試験法
_SCC試験においては、低歪速度引張試験(SSRT)、CT試験片を用いた亀裂進展試験、意図的に隙間を付与した隙間付定ひずみ曲げ(CBB)試験、単軸定荷重引張試験(UCL)等様々な試験によるアプローチが試みられてきた。これらの試験は、手法の開発、データ取得、メカニズム解明研究が同時に進行する状況であったため、報告間のデータのばらつきが大きく、試験法の標準化が必要な状況であった。このうち、亀裂進展試験及びUCL試験に関しては、腐食防食学会により学会標準(「高温水中における応力腐食亀裂進展試験方法」、「高温高純度水環境におけるUCLを用いた金属及び合金の応力腐食割れ試験方法」)が発行され、比較的統一した試験が可能な状況となっている[7.1.1-45] 。一方で、SCCメカニズム解明においては、応力、材料、環境それぞれの要因の影響を把握するために、各要因の影響に着目した、従来の試験法にとらわれない新しい試験法が必要であり、このような新しい試験法の開発を推進する。

③ 加速試験法
_実機での事象、特に高経年化に係わる事象は、大変長い時間経過とともに進行する現象である。一方実験室内では、実機と同一の時間軸での実験は不可能であるため、加速試験による評価は不可欠である。加速試験法の選定、実験条件の設定を間違えると、実機の現象を正しく再現できないことから、採用した試験法の妥当性評価は大変重要である。そこで、各種現象に関する加速試験法の開発、最適化、高度化を実施するとともにその妥当性評価を行う。

④ 模擬実験と実機挙動の橋渡し
_実験室での模擬実験と実機挙動との間に乖離があることは長年指摘され、解決すべき問題の1つである。この乖離を解消するために、実験炉等より実機に近い条件での基礎試験を行い、模擬実験で得られる知見と実機挙動との差異を検討する。

⑤ 腐食環境のその場(in-situ)測定法の確立
_放射線照射下にある高温水の水化学パラメータのその場測定は、各種基礎研究及び実機の水質管理のどちらにおいても大変有効である。そこで、炉内を模擬した強放射線場で長時間利用可能な腐食環境その場測定法を確立する。

_水化学・腐食に係わる共通基盤技術開発に係わるロードマップを図7.1.1-4に示す。

(C) 産官学の役割分担の考え方
_水化学・腐食に係わる共通基盤技術開発における産官学の役割分担を以下にまとめる。
(1) 産業界の役割

    • 実機データの蓄積とニーズの提示
    • プラント運用上の固有課題の評価
    • 既存技術の高度化
    • 水質管理基準等の整備

(2) 国・官界の役割

    • 長期的戦略の指導的役割
    • 国際間の技術調整 海外水化学管理情報の把握と国内基準への反映
    • ホット施設、照射施設、実験炉を用いた大規模実験の推進
    • 国内自主技術の育成
    • 原子力の将来ビジョンの明確化と夢の創生

(3) 学術界の役割

    • 基礎データ、新知見の発掘と蓄積(共通的・普遍的・永続的研究テーマ)
    • 材料・水相互作用の科学的裏付け
    • 教育・人材の継続的供給
    • 体系化、数式化における指導的役割

(4) 学協会の役割

    • ロードマップローリング
    • 規格標準類策定
    • 共通基盤技術の研究ニーズの発行
    • 人的交流と育成

(5) 産官学の連携

    • 国家全体として力を発揮できるようなシナリオの提示
    • 共通の目標に向かって行く体制の構築
    • 学の水化学への寄与の拡充のための連携

課題調査票

課題名 水化学・腐食に係わる共通基盤技術

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短I. 事故発生リスク低減・更なる安全性向上の実施
_IV.信頼性向上へ向けたプラント技術・運用管理の高度化
_V. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒水化学・腐食に係わる各課題に関して、その解決と対応のためには基盤技術を確立させる必要がある中II.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒実験技術等の共通基盤技術の確立により各中期課題の解決に資する長I. プラント全体のリスク極小化
⇒実験技術等の共通基盤技術の確立によりプラントの安全性向上に資する
概要(内容) _構造・燃料被覆材料と水化学との相互作用解明に必要とされる基盤技術を確立する。
1.腐食環境評価技術
_構造材・燃料被覆材と水化学との相互作用解明の祈願技術として、プラント冷却系全体及び隙間部等の局所的な腐食環境を定量化する。さらに原子炉固有の課題である放射線照射の直接及び間接効果を重点的に盛り込む。
2.腐食メカニズム
_構造・燃料被覆材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、材料の腐食、溶出、酸化物形成のメカニズムを解明し、定量化をはかる。全面腐食と同時に隙間部、亀裂先端部等の局所腐食についても、現象を明らかにするとともに、原子炉固有の課題である放射線照射の直接及び間接効果を盛り込む。
3.酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム
_構造・燃料被覆材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、燃料・構造材表面への酸化 物の析出・付着・脱離・溶解挙動を解明し、あわせて析出の腐食挙動への影響を定量化する。
4.実験技術
_構造・燃料被覆材料と水化学との相互作用解明の基盤技術として、実機条件を模擬する実験技術を確立する。腐食挙動に影響する主要因子単独あるいは組合せ効果を、適切に再現する 実験法を明確にするとともに、加速実験法を明らかにする。
導入シナリオとの関連
    • 燃料・構造材料・水化学共通の基盤技術(現象のモデル化には必須技術)
    • 実機での現象の把握及び基礎実験と実機対応との橋渡しに寄与
    • 材料・構造変更等の対応が困難なケースに対しての重要なオプション技術

課題とする根拠
(問題点の所在)

_軽水炉の燃料材料、構造材料は直接・間接的な放射線照射による様々な腐食性生成種によって腐食環境が影響を受ける。また、構造材間の微細な隙間構造、表面に付着蓄積したスケール、冷却水の複雑な流動条件によっても、腐食環境が異なる。 一方で、腐食環境を把握するため、試料水の減温過程において、腐食性生成種の濃度・形態が変化することが多く、腐食環境を正しく計測・把握することが難しい。
_燃料被覆材、燃料材料の表面あるいは隙間構造に蓄積・堆積したクラッド、あるいは酸化皮膜が、腐食を抑制あるいは加速。付着・堆積物の評価は燃料・材料を取り出しての分析に依存するため、プラント運用中の状態の把握が難しい。実機での状態と分析された状態の橋渡しをするための、in-situ測定法の確立あるいは現象の理論評価ツールの確立が急務である。
_燃料・材料関連の実験では、古い情報に基づく水化学条件を採用。照射の直接的・間接的影響を配慮すると、原子炉条件では変更が必要である。実機を模擬した照射実験の制約があることから、模擬実験・加速実験が有効である。
現状分析 (1) 腐食環境評価技術

    • 腐食環境に及ぼす照射効果はラジオリシス理論評価手法で定量化可能
    • 隙間部、付着スケール下での腐食環境評価には新しいアプローチ要
    • 腐食環境を直接把握可能な高温水化学センサーの開発が不十分

(2) 腐食メカニズム

    • 腐食に及ぼす照射効果は、ラジオリシスによる腐食環境の変化を通しての間接効果と酸化皮膜への照射効果等直接効果が重畳
    • 隙間部、付着スケール下での局所腐食挙動評価への電気化学的手法適用性は検討要
    • 腐食挙動への酸化皮膜の影響は、皮膜物性に支配される

(3) 酸化物・イオン種の付着・脱離メカニズム

    • 燃料表面での沸騰析出に関しては、半理論モデルが提案されているが、付着力については、決定的な要因は未解明。サブクール沸騰下の付着については十分な理論武装未確立
    • 隙間部への濃縮現象、サブクール沸騰下の付着現象模擬実験。データ数が限られており、更なる研究要
    • 理論評価のためのデータベース強化要

(4) 実験技術

    • 腐食関連事象の水化学指標としてのECPの限界
    • 基礎的な現象把握・定量化のための実験と実機調査の位置づけ明確化要
    • 水化学側からの理論的なアプローチが不足
    • 基礎実験におけるin-situ計測(高温センサ)技術の確立要

期待される効果
(成果の反映先)

_精度の高い実験のためのインフラ整備と体系化により、研究の効率の向上が期待される。
_材料挙動、燃料表面の現象に対する理解が深まり、対策立案に資することができる
実施にあたっての問題点
    • 燃料、材料研究と協力・協調
    • 新しいアイディアに富んだ実験技術の開拓
    • 現象を支配するキーパラメータの摘出と確認
必要な人材基盤 腐食科学、コロイド化学、放射線化学等に関し、実験技術開発、評価等が実施可能な人材

他課題との相関

水化学:腐食生成物の発生、放射化、蓄積の各プロセス現象の定量化
燃料:照射下の被覆材の腐食現象の定量化
構造材:照射の直接・間接効果を含む構造材の腐食現象及びSCCの定量化水化学・腐食に係わる共通基盤技術に関しての他RM等との相関は、6章及び7章にある各個別課題に準ずる。

実施時期・期間

着手は短期。継続して充実化

 

7. 共通基盤技術

7.1水化学共通基盤技術

_水化学ロードマップ2020のとりまとめに当たっては、1F事故の教訓から、これまで記載の無かった核分裂生成物挙動についての記載が必須との合意が水化学ロードマップフォローアップ検討WG内で得られた。核分裂生成物の生成、蓄積、事故時を中心とした燃料からの放出、移行挙動に関する基礎事象を体系化し、これまで体系的な研究がなされてきた放射性ヨウ素に加えて、比較的データの少ない放射性セシウム、ストロンチウム等の挙動に関するデータを整備することが強く望まれている。
_水化学ロードマップ2009では、水化学の共通基盤技術として、燃料及び構造材料の腐食あるいは付着物析出に起因する諸事象の本質を理解し、燃料及び構造材料の健全性を確保し、同時に、線量率の低減・廃棄物発生量の抑制を図るための水と燃料及び構造材料の相互作用の基礎メカニズムの解明と、プラント全体の腐食環境の把握に不可欠な「水化学、腐食に係わる共通基盤技術(水化学ロードマップ2009 [7.1-1] における共通基盤技術)」を取り上げてきたが、水化学ロードマップ2020では、さらに核分裂生成物挙動に関する共通基盤技術を加えることとなった。
_今回の水化学ロードマップのローリングの主眼は、1F事故を受けて、深層防護レベルに対応した水化学の研究開発の位置づけを明確にして、ロードマップを見直した(表4-1-2)。

6.4 環境負荷低減

_原子力の平和利用が始まって半世紀が過ぎ、現在原子力はエネルギー利用と放射線利用により、様々な分野で有効に活用されている。エネルギー利用としての原子力発電は、その他の化石燃料を使用する発電と比較して温室効果ガスである二酸化炭素をほとんど放出しないエネルギー源であり、地球環境への負荷軽減に大きく貢献できる可能性がある。しかし、原子力発電は放射性廃棄物が副次的に発生することが広く認知されており、その発生量の低減が原子力安心を獲得するために必要である。
_このような背景のもと原子力発電プラントでは、安全・安定運転に資するため、これまで水化学側面からの系統構成材料、ならびに燃料に対する信頼性・健全性の維持確保や公衆、ならびに運転業務従事者の被ばく低減等を目的とした技術開発が進められており、現時点での最適な水化学制御が適用されている。それら水化学制御を運用していくなかで、副次的に放射性廃棄物(使用済樹脂、フィルタ等)や制御用薬品を含む排水等が発生してくる。現状、既存技術を用いて適切な処置・処理を実施しているが、長期サイクル運用や出力向上運転等プラント高度化と新たな水化学制御の適用に鑑み、水化学技術改善と両立させた廃棄物/排水処理の最適運用を目指し、環境負荷の少ない発電プラントとして環境への影響を低減すること(例えば、バックエンドへのリスク軽減や平準化、地域共生・共存、作業被ばく線量低減等)が重要である。
_この環境への影響低減に関する現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析
(1) 廃棄物発生抑制(PWR、BWR)
_一次系においては、材料健全性維持、被ばく低減や環境放出低減のため、イオン交換樹脂やフィルタを使用して一次冷却材中の放射性腐食生成物や核分裂生成物を除去している。イオン交換樹脂は除染係数(DF)の低下、酸化劣化等により新樹脂に取替えられ放射性廃棄物となる。また、フィルタは経年劣化に加え、放射性腐食生成物等により発生する差圧等により取替えられて放射性廃棄物となる。これらの取替えはプラントの運転管理の一環で各原子力発電事業者の経験により運用されている。
_イオン交換樹脂やフィルタの浄化性能維持と廃棄物発生量低減とはトレードオフの関係がある。例えばイオン交換樹脂の使用期間延長は粒子状成分に対するDF低下とともに樹脂劣化に伴い発生するTOC等の放出による影響もある。また、フィルタの細メッシュ化は微小粒子に対しても除去可能となるが、差圧上昇等の取替本数増大を招くことになる。
_イオン交換樹脂は過酸化水素を含む水の通水等により酸化し、TOCの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、脱塩塔の使用期間を短くしている。大気開放され放射線が存在する使用済み燃料ピット(SFP)水の浄化系で特に顕著である。
_また、放射性廃棄物中に存在する14Cは、半減期が5730年と埋設後も長期にわたり放射線を放出するため、環境への影響が大きい核種である。原子力発電所における14Cの生成源としては、冷却材(水)や燃料ペレット中の酸素(UO2として)の17O(n、α)14C反応によるもの、構造材料や燃料ペレット中に不純物として含まれる炭素の 13C(n、γ)14C反応によるもの、及び燃料の製造過程において不純物として混入する窒素の14N(n、p)14C反応によるものがある。このうち、燃料内部で発生する14Cは燃料被覆管の破損が発生していない通常運転プラントにおいては問題とならず、また、構造材料の不純物成分の放射化により発生する14Cも微量であり、軽水炉における14Cの主な生成源は、原子炉水自身が持つ酸素であると言われている [6.4-1]。この原子炉水中の酸素の放射化によって発生した14Cは原子沪水中で反応により化学種を生成し、構造材表面に付着する。
_まず、インベントリ低減の観点からは、軽水炉である以上は原子炉水からの14Cの生成を抑制することは困難である。しかしながら、添加薬品やガス、イオン交換樹脂に含まれる窒素は中性子吸収断面積が大きく、14N(n、p)14C反応による生成も無視できない可能性があり、この場合は水化学の改善により低減できる可能性がある。また、構造材料の放射化によって生成する14Cは材料の腐食に伴って炉水中に溶出する可能性があるため、材料の腐食抑制が放射性廃棄物中の14Cの低減に繋がる可能性がある。
_次に、廃棄物発生量低減の観点からは、放射化により生成した14Cの放射性廃棄物中への移行・付着を抑制することが必要である。すなわち、14Cのインベントリ低減に加え、放射性廃棄物へ移行する経路を断つ、または放射性廃棄物から除去することが出来れば、環境への影響を軽減することができる。しかしながら、炉内で生成した14Cが放射性廃棄物へ移行する経路及びそのメカニズムが明確となっていないことから、現段階においては移行経路を遮断するための有効な手段は見出されていない。従って、冷却材中での14Cの挙動解明、すなわち、14Cの発生から廃棄物への取り込みに至る過程での化学形態を含めた挙動解明が重要な課題となる。

(2) 環境への放出低減(PWR)
_PWR二次系においては、設備・機器の腐食防食等の観点から、制御用薬品としてアミン(アンモニアやエタノールアミン)、脱酸素剤としてヒドラジンといった窒素含有の化学薬品を使用している。また、蒸気発生器伝熱管等へ付着したスケールを改質/除去する技術として、キレート剤(例としてEDTA:エチレンジアミン四酢酸)等を用いた化学洗浄の適用が考えられる。このようなプラント保全活動の中で発生する化学薬品等を含む排水は、既存の技術により適切に無害化処理等を行い、問題ないことを確認したのちに放出している。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_放射性廃棄物を低減させる手法としては、廃棄物の濃縮や高効率化による減容対策も挙げられるが、浄化系統運用の合理化・最適化や新技術の導入(樹脂やフィルタ開発等)による発生量抑制も有効な手法であることから、水化学的側面からの廃棄物発生低減方策を検討する必要がある。
_水質汚濁に関する環境基準は、化学的酸素要求量(COD)の他に指定海域について全窒素の規定がある。アミンの一部はCOD管理対象薬剤となり、また、全てアミン基を有していることから窒素管理対象薬剤となる。このため、これら薬剤の使用量低減手法並びに脱窒手法の高度化について検討していく必要がある。また、ヒドラジンについてはがん原性が認められ、使用量を低減し環境への放出を低減するか、ヒドラジン代替剤が求められている。制御薬品の選択や処理技術の開発においては、廃棄物発生抑制や環境負荷低減を効率的かつ効果的に達成するため、プラント高度化や新たな水化学管理の影響も同時並行で評価し、改善策を立案する。さらに、実機適用実績を踏まえたPDCAサイクルを確立する。

(1) 一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の最適化(PWR、BWR)
_イオン交換樹脂、フィルタについては、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂及び耐酸化性イオン交換樹脂の開発とその適用、脱塩塔樹脂運用及びフィルタ形状選定の更なる最適化検討を行う。これにより、現在の年間廃棄物発生量に比べて1割低減を目標とし、原子力安心の獲得と廃棄物処理費用の低減による発電コストの低減を目指す。また、プラントの安定・安全運転のために原子力発電所における廃棄物管理のあるべき姿として、廃棄物量の増加によるプラント運転に支障を来たさない状態を維持するためにも1割低減が必要。

(2) 環境への放出低減(PWR)
_アミンを含む廃液については、実機適用可能な全窒素の低減手法、処理手法の高度化について技術的な検討を行う。ヒドラジン使用量については、SG伝熱管の電位に影響のないレベルまで低減可能な濃度を評価し、実機試験を行う。ヒドラジン代替剤については、国内プラントへの適用に向け、低温での脱酸素性、還元性、ならびに、定常運転時の高温環境での構成材料への適合性評価を行うことが重要である。
_蒸気発生器二次側化学洗浄廃液については、実機適用可能な効率的且つ合理的な廃液処理手法の確立について技術的な検討を行う。

(3) 14Cの生成・移行抑制(PWR、BWR)
_前述の通り、14Cによる環境への影響を軽減するためには、炉内で生成する14Cのインベントリ低減に加え、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去が有効であるが、その技術開発のためには先ず14C発生源の特定と発生量に及ぼす各々の寄与割合の推定に加え、放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムを解明する必要がある。
_14C発生源の特定と寄与割合の推定に対しては、冷却材、材料からのものに加え、添加薬品やガス、イオン交換樹脂に含まれる窒素から生じる14C量を推定し、各々から生じる14C量を比較し水化学面からの低減策を検討する。
_放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムの解明に対しては、炉水中(BWRでは主蒸気、復水も含む)、液体、固体、気体廃棄物中における炭素の化学形態を詳細に調査し、それに基づき移行メカニズムを推定し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の更なる最適化
    • 高交換容量イオン交換樹脂及び耐酸化性イオン交換樹脂の開発と適用性評価
    • ヒドラジン使用量低減のためのラボ試験と実機適用性評価
    • ヒドラジン代替剤の定常運転環境におけるラボ試験と実機適用性評価
    • 効率的且つ合理的な洗浄廃液処理手法の高度化
    • 廃棄物中の14C低減
    • 新技術の開発促進
    • 環境リスク低減
    • 地域との共生・共益
    • 積極的な情報公開・情報提供

②国・官界の役割

    • 基盤整備
      _-環境負荷の低い原子力発電に対する国民理解促進
      _-原子力への投資の確保(インセンティブの付与等)
    • 環境リスク低減のための制度構築・運用
    • 海外規制動向等の把握と国内への反映

③学術会の役割

    • 化学物質等の科学的リスクの基礎データ、新知見の蓄積
    • エネルギー・原子力教育の充実と強化
    • 研究の活性化と充実
    • 人材の育成及び供給

④ 学協会の役割

    • ロードマップ策定・維持
    • 人的交流と育成

⑤ 産官学の連携

    • 資金の効率的且つ効果的な運用と成果の共有
    • 実用化までの期間短縮、開発資金の重複の削減
    • 成果の透明性と客観性、規制への迅速な対応
    • 人的交流と育成

_図6.4-1に環境負荷低減に係わる導入シナリオ、表6.4-1に技術マップ、図6.4-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.4-1] 日本原子力学会標準, “放射性廃棄物の放射能濃度決定方法-原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の放射能濃度決定方法に関する基本手順:2007-浅地中ピット処分廃棄物について-”, 日本原子力学会 (2008).

課題調査票

課題名 環境負荷低減

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

・廃棄物量軽減に向けた技術の整備
→ 廃棄物量軽減により、発電所での保管量縮小による安全性、信頼性向上を図るとともに、環境への漏えいリスク低減を図る必要がある。・環境影響低減に向けた技術の整備
→ 水処理薬剤変更や運用方法の最適化により、環境への放出量を低減し、環境の安全性に貢献する必要がある。
概要(内容) ①  PWR一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の最適化
_イオン交換樹脂、フィルタについては、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂の開発とその適用、脱塩塔樹脂運用及びフィルタメッシユ選定の更なる最適化検討を行う。
②  PWR一次系浄化耐酸化性イオン交換樹脂の適用
_イオン交換樹脂は過酸化水素を含む水の通水等により酸化し、TOC、硫酸イオンの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、架橋度を高くした耐酸化性イオン交換樹脂の実機適用性を評価する。
③  BWRのCUW・FPC系ろ過脱塩器樹脂の交換頻度の延長
_イオン交換樹脂は、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂の開発とその適用、及び樹脂寿命を勘案した樹脂交換の最適化検討を行う。
④  BWR 耐酸化性樹脂及び高浄化性能樹脂の開発
_イオン交換樹脂は酸素等の酸化剤を含む水の通水等により酸化し、TOC、硫酸イオンの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、架橋度を高くした耐酸化性イオン交換樹脂の実機適用性を評価する。
⑤  ヒドラジン代替剤の実機適用性評価
_ヒドラジンの代替剤に関して、防食性能並びに高温での系統材料とのコンパチビリティーに関するデータを取得し、定常運転時の代替剤実機適用を目指す。
⑥  PWR アミン系水処理廃液の低減と処理技術の向上
_PWR二次系のpH調整剤として用いられるアミンは、一部のものはCOD管理対象薬剤となり、また、全てアミン基を有していることから窒素管理対象薬剤となる。このため、これら薬剤の使用量低減手法並びに脱窒手法の高度化を行う。
⑦  PWR 蒸気発生器二次側化学洗浄廃液処理技術の向上
_蒸気発生器の長期保全において、60年運転を達成するためには、蒸気発生器二次側の化学洗浄は必要な工程となりつつある。このため、化学洗浄で発生する廃液の処理手法の高度化を行う。
⑧  廃棄物中の14C低減
_14C生成インベントリ低減の観点では、原子炉水中の酸素からの生成については、プラントの運転方法を大きく変えることは出来ないことから対応が困難である。一方、窒素からの生成に着目した生成原因を特定し、廃棄物中の14C低減方策の検討を行う。また、廃棄物発生量低減の観点では、放射性廃棄物中への14Cの移行・付着メカニズムを解明し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。
導入シナリオとの関連 ・廃棄物量軽減に向けた技術の整備
→ 廃棄物量軽減により、発電所での保管量縮小による安全性、信頼性向上とともに、環境への漏えいに対するリスク低減となる。
・環境影響低減に向けた技術の整備
→ 環境への放出を低減でき、環境の安全性に貢献できる。

課題とする根拠
(問題点の所在)

①  イオン交換樹脂やフィルタは、プラント状態に対応した運用の最適化を検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
②  耐酸化性イオン交換樹脂使用に向け、長期使用による劣化や使用済み樹脂の処理方法等、全体的な検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
③  CUW・FPC系ろ過脱塩器樹脂の長期間使用を検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
④  イオン交換樹脂の劣化速度や浄化率低下を防ぐ新樹脂の開発を行い、出力増強等に備えておく必要がある。
⑤  ヒドラジンは変異原生が認められていることから、環境への放出の低減が求められていることから、使用量を減らす必要がある。
⑥  水質汚濁に関する環境基準を遵守するために、アミン系水処理廃液の低減手法及び処理手法の高度化を検討する必要がある。
⑦  洗浄廃液の処理手法を確立し、環境への洗浄薬品等の放出量を削減する必要がある。
⑧  14C生成原因及び移行経路を特定し、廃棄物中の14C発生抑制を図る必要がある。
現状分析 ①  イオン交換樹脂やフィルタは、プラント固有差があることから、最適化の余地があると考えられる。
②  架橋度を高めたイオン交換樹脂は一部のプラントで使用が始まっている。
③  CUW・FPC系ろ過脱塩器の樹脂は、残交換容量を確認していないため、交換頻度を延長する余地があると考えられる。
④  原子炉出力増大に伴う復水温度の上昇等により現状の樹脂では寿命が短くなることが想定され、廃樹脂発生量増加が懸念される。また、プラント長期停止による廃樹脂発生量増加も懸念される。
⑤  実機温度条件での材料に関する材料健全性データを取得し、ヒドラジン代替剤の定常運転中への適用性評価を行う必要がある。
⑥  全窒素については、必ずしも低減対策が取られていない状況にある。
⑦  蒸気発生器性能回復のために化学洗浄が行われており、環境負荷低減を図るためにも効率的な廃液処理手法を構築する必要がある。
⑧  インベントリ低減の観点では、酸素からの発生抑制はプラント運転上困難なことから、窒素に着目した14C発生抑制方策を構築する必要がある。また、廃棄物発生量低減の観点では、放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムを解明し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 被ばく線源の増加を避けながら廃棄物発生量の低減が可能となる。
    • 環境の安全性に貢献できるとともに環境負荷の低減が可能となる。
実施にあたっての問題点 ①  系統水中の粒径分布等を測定するには時間を要するため、プラント間で比較可能な調査要領を準備しておく必要がある。
②  樹脂の性能確認だけでなく、使用済み樹脂の処理方法や樹脂移送上の物理的な性質も確認しておく必要がある。
③  実機での効果確認に時間を要する。
④  海外動向を把握する必要がある。
⑤  ヒドラジン代替剤の定常運転時に関するデータを拡充するには、PWR環境を模擬した高温・高圧水環境下で長時間試験が必要である。
⑥  PWRに実機適用可能な全窒素の低減手法、処理手法の高度化について技術的な検討が必要である。
⑦  化学洗浄廃液処理手法の高度化について技術的な検討が必要である。
⑧  14C発生原因及び移行経路の特定が必要である。
必要な人材基盤 (1)人材育成が求められる分野

    • 水化学、放射線防護

(2)    人材基盤に関する現状分析

    •  環境影響低減のための水化学管理技術はメーカや電気事業者が開発を継続してきており、現在は十分な人材の確保に努めているが、継続して開発を進めるために人員の維持が必要である。官・学には水化学の専門家が少ない。
    •  技術の実証のためには実験炉や高温高圧環境下での長時間試験を行う必要があるが、必ずしも十分ではない。

(3)    課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 東電福島第一事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、東電福島第一事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。
他課題との相関
    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d33-1 被ばく低減技術の高度化(水質管理技術、遠隔操作・ロボット技術、放射線防護技術)
    • S111_d39 検査・補修技術の高度化
    • M107_d34 保守・運転管理の合理化・省力化による保守・運転員負荷軽減
    • S113_d45 処分場の設計・評価技術の確立による社会的受容性の向上
実施時期・期間 中期(2030年)
実施機関/資金担当

<考え方>

産業界・学協会/産業界

    • 廃棄物量軽減に向けた技術の整備
    • 環境影響低減に向けた技術の整備

<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、電に事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電気事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • メーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて規制基準及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
その他

 

6.3 被ばく線源低減

_水化学改善による被ばく線源低減は、作業環境改善により検査・点検作業が円滑に進められ、従事者の安全確保に大きく貢献できるだけでなく、原子力発電所の安全・安定運転にも貢献する。このため、水化学改善による被ばく線源低減は、プラントの安全性維持に必要な深層防護のレベル1 「水化学による信頼性の確保」に該当する。また異常な過渡変化時の水質変化が燃料健全性や配管への付着挙動に影響を与え、その結果線源強度上昇に至ることを防止若しくは最小限にとどめるためにも有効であり、深層防護のレベル2「異常・故障の拡大防止」に該当する。さらに、水化学により炉心内外の放射能インベントリを低減することは深層防護のレベル3「事故の影響緩和」に該当する。なお、事故後の従事者の被ばく低減は物理的な対策(遮蔽、換気、防護装備)が主体であり、水化学のアプローチは深層防護のレベル4 「設計基準を超す事故への施設内対策」には該当しない。
_我が国の原子力発電プラント1基当たりの年間平均線量(以下、「平均線量」という)は90年代後半以降、諸外国と比較して高く推移しており、この原因は1サイクルあたりの運転期間の違いによる年間作業量の違いによるとの指摘があった。しかしながら、米国やスウェーデンでは近年も着実に減少傾向にあることから、単純に年間作業量の違いのみとは言い切れず、我が国の被ばくの現状を詳細に分析し、さらに被ばく低減を進める必要がある。
_また我が国の原子力発電プラントでは震災後に長期停止を余儀なくされているが、長期停止による線源核種の減衰と作業量の減少に伴い、平均線量は震災以前より大幅に低減しているが、再稼働後の平均線量がどのように推移するか注目されるところである。6.3-1再稼働後も現状の平均線量を維持するためには、既存技術の着実な適用のみならず、新規の水化学技術の開発・適用が望まれる。

_以上の背景をふまえ、原子力発電所の再稼働後の線源強度上昇を抑制するため、今後も継続して被ばく線源低減のための水化学技術の研究・開発を進めることとし、その目標を以下のとおり設定した。
<当面の目標>

    • 2023年度末を目途に既存線源低減技術の高度化を図り、再稼働後の線量率を2009年度線量率の30%減に抑制する。(世界トップレベルの平均線量維持)

<中長期目標>

    • 2024年度以降被ばく線源生成メカニズムの解明等により、革新的な線源低減技術の開発を進める。(世界トップレベルの平均線量を維持)

_以下に現状分析、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について示す。

(A) 現状分析
①  我が国の原子力発電所で従事する放射線業務従事者の「個人被ばく線量」は、適切に管理されており、線量限度を十分満足している。またこれまでPWRでは高pH管理、BWRでは酸素注入、給水鉄制御等の水化学対策のほか各種被ばく線源低減対策が実施されてきたことにより、1990年以前までは平均線量も欧米諸国に比較して良好な結果を得ていた。しかし、1990年以降は諸外国の被ばく線量低減が進む中、我が国の平均線量はほぼ横ばいで推移し、震災前の時点では欧米諸国と比べるとやや高い水準にあった。
② 我が国の平均線量が横ばいである理由としては、欧米諸国と比較し線量率は同程度であるものの、運転期間の違い等の理由により年間あたりの作業量に違いがあることに起因する可能性がある。
③ 福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の停止が長期間に及んでおり、長期停止による線源核種の減衰と作業量の減少に伴い、平均線量は震災以前より大幅に低減しているが、再稼働後の線量がどのように推移するか注目されるところである。
④ 世界的規模で環境問題が問われるなか、原子力の価値が注目されているとともに、世界各国では原子力安心を獲得するべく、近年IAEAを中心に被ばく線量低減活動が盛んに実施されている。我が国もより一層の被ばく線源強度低減対策を行い欧米諸国と同等の状況に改善する努力が必要である。
⑤ 2009年1月より新保全プログラム(新検査制度、柔軟な運転サイクル)が適用され、今後作業量の低減が期待される。なお、福島第一原子力発電所での事故後、運転時間の増加、炉出力向上、燃料高燃焼度化等の被ばく線源の増加に繋がる動きは停滞しているが、一方で福島第一原子力発電所の廃炉作業や新規制基準対応、プラント高経年化に伴う作業量の増加、ならびに熟練者技術者が(高齢化による)減少するなかでの現状同等の設備保全品質の維持等を考慮すると、被ばく線量低減に対する社会的ニーズは今後も依然として高い。このため、被ばく線量低減のためには、水化学管理の状態を監視し、そのデータを診断した結果に基づいて合理的な保全を行うことが必要である。また、再稼働後も欧米にて達成している世界トップレベルの平均線量を維持できるよう継続的な水化学技術の開発が必要である。
⑥ 現在、既存技術の高度化と被ばく線源生成メカニズムの解明という視点から、PDCAサイクルを廻し平均線量低減のための技術開発を進めており、当面、溶存水素最適化や亜鉛注入の高度化及び供用中除染の適用により、2009年度の線量率を30%低減(2023年度)することを目標とし、新保全プログラムの適用効果と合わせて世界トップレベルの平均線量の維持を目指す。また中長期的には線源生成メカニズム解明により、より効果的な新技術の開発を目指して取り組んでいる。なお、これらの技術の中には溶存水素最適化等被ばく線源強度低減のみならず系統材料の健全性確保にも有効な技術があり、これらは次世代炉の水化学技術としても非常に有望である。
⑦ 被ばく線源強度低減技術の開発には、関連する燃料、材料等から専門的な知識・知見を集約し、産官学が共通認識をもって合理的に進める必要があり、今後より一層、分野横断的な取り組みが必要となる。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_冷却材中のクラッド挙動については、従来から、日本も含め各国で検討がなされており、実機クラッド分析、水質調査結果を元に、水化学という視点から被ばく線源強度低減を目的に冷却材への低濃度亜鉛注入等、種々の線量低減対策が実施されている。
_これら水化学改善策の適用効果の評価には、現在、被ばく線源挙動メカニズムに基づくモデルを用いて評価しているが、新規の水化学対策を適用した場合の評価精度が低下する等の問題があり、メカニズム解明についてもさらに検討が必要な状況にある。
_このような状況を踏まえ、今後の研究開発には、技術開発とメカニズム解明を並行して進めることが重要で、具体的には既存技術の高度化や新技術の開発を図りつつ、その検討過程で得られた試験データや実機データ等の知見をメカニズムの解明にフィードバックし、PDCAサイクルを回しながらシステマチックに検討する必要がある。また、燃料高度化、軽水炉利用高度化を考慮すると、水化学だけでなく、燃料や系統材料への影響評価の検討が必要となることから、燃料、材料等関連分野と幅広く連携して、専門的な知識・知見を集約し、産官学が共通認識をもって合理的に技術開発を進めることが重要である。

① 既存線源低減技術高度化
_PWRにあってはリチウム(Li)濃度や水素濃度の最適化、亜鉛注入等、BWRにあっては給水水質制御・亜鉛注入等の水質制御に関する既存技術の高度化をはかるとともに、Liの代替剤として有望視されている天然カリウム(K)によるpH制御の高度化を図る。
_被ばく線源除去技術である除染技術を、より廃棄物の少なく定期検査工程に影響しない技術に改良していく。

a. 高Li運用(PWR)
_最適pH値に管理することは腐食抑制と燃料表面への腐食生成物移行抑制による被ばく低減に有効とされていて、弱酸であるホウ酸の濃度に対応してLi濃度を高め、運転サイクル全体を最適pHとすることが考えられる。しかし、高Li濃度管理の適用には、照射試験等による燃料被覆管腐食影響確認とともにラボ試験によるニッケル基合金のPWSCC亀裂進展に対する影響を確認する必要がある。一方、Kは、Liよりも材料への腐食性が小さいと言われていることから、Kの適用によってニッケル基合金のPWSCC感受性を高めることなく運転サイクルを通して最適なpHに維持できる可能性がある。
b. 濃縮10B運用(PWR)
_被ばく低減のために最適pH管理とするには高Li濃度管理適用以外に10Bの比率を高めた濃縮10Bの適用がある。既設プラントに適用するにはホウ酸置換、廃液処理、10B濃度分析管理や、発電所内で天然ホウ酸と混在することとなるため、ホウ酸粉の識別管理、等運用面での要領作成が必要であり、放射性廃棄物量及び定検期間延長については、定量化する必要があるが、研究要素は残っていない。なお、ドイツでは、30%程度の濃縮10Bが実機で使用されている。
c. 溶存水素濃度最適化(PWR)
_溶存水素はNiの化学形態を通して被ばく線源挙動に影響を与え、低溶存水素濃度の方が被ばく線源強度の低減に有効であると考えられている。ただし、出力運転時の溶存水素濃度下限値(15cc/kg・H2O)を下回る低濃度(低DH)の適用に関しては、水の放射線分解抑制効果の維持、燃料被覆管等材料健全性及びPWSCC抑制効果を確認する必要があり、それらの結果を踏まえて実機適用を目指す。この実機適用に向けて燃料照射試験(燃料被覆管材料健全性、被ばく低減、及び放射線分解評価)並びにSCC試験(PWSCC、IASCC評価)を実施する必要がある。また、本試験で得られたデータをPWSCC発生メカニズム解明の一助とする。
d. Co除去イオン交換樹脂適用(PWR)
_近年、米国のPWRプラントにおいて、フィルタで除去できない微細な粒子状(コロイド状)のCoを除去するイオン交換樹脂の適用例が報告されており、適用後に冷却材中放射性Co濃度の著しい低下が認められている。当該樹脂の国内プラントへの適用に際しては性能と設備への影響を確認する必要がある。国内でも採用された場合には、実機プラントのデータをフォローし、効果を把握する必要がある。
e. プラント停止時水質管理の高度化(PWR)
_PWRプラントでは、溶存水素及び放射性希ガスの除去、配管等からのクラッド溶解促進のための、停止操作・水質管理(脱ガス、酸化運転)が行われているものの、停止時のこれらクラッドの溶解挙動については充分に理解されていない。停止時におけるクラッドの溶解挙動を評価し、被ばく低減に有効な脱ガス、酸化運転手法を開発する必要がある。
f. 被ばく線源低減水質制御技術の高度化(BWR)
_貴金属注入、酸化チタン等の水化学技術の適用にあたり、炉内での放射能挙動を評価することにより、被ばく線量に与える水質変更の影響を確認し、必要に応じ対応策を立案する。
g. 除染法の高度化(BWR、PWR)
_点検/保守作業での作業被ばく線量を低減するために機器除染がPWR、BWRで実施されている。また系統全体の除染は国内では“ふげん”と一部のBWRにおいて適用されており、点検・検査や大型工事の作業被ばく低減に貢献してきている。今後さらに機器除染、系統除染とも実機で活用される範囲を拡大するには、機器健全性に問題が無いのはもちろんのこと、除染に要する工程を短縮し、発生廃棄物が少なく、しかも除染後の再汚染の問題が無い除染法の開発が必要である。
_また、廃炉プラントにおける被ばく線量低減及び廃棄物の処分費用を含む解体費の削減のためには、比較的線量率の高い廃棄物量の削減が有効であるが、このためには、より除染効果が大きく且つ二次廃棄物量が小さい除染方法の開発が必要である。
h. 亜鉛注入の高度化(BWR、PWR)
_亜鉛注入については、メカニズムに立脚した最適な注入運用を目指すべく、亜鉛注入プラントから取り出した機器表面の酸化被膜の観察等から亜鉛注入による線源低減機構を明らかとする必要がある。
_また、亜鉛注入の副次効果として、SCC抑制効果が得られる可能性について提唱されていることから、プラント高経年化対策としての亜鉛注入の有効性についても検証する必要がある。

② 革新的線源低減技術開発
a. 被ばく線源生成のメカニズム解明
_被ばく線源(線量率)低減による作業環境の大幅な改善のためには、ブレークスルー技術が必要である。既存の技術にとらわれず、改めて基盤研究を立ち上げ、機構論に基づいた技術の開発を目指すことも必要であり、メカニズム解明のための試験が必要である。
_定期検査時の被ばく線源評価のため放射性腐食生成物の挙動はこれまでの研究によりある程度は解明されてきているが、多くは現状の実機実績をベースとした範囲での評価である。出力増加による沸騰状態の変化や新材料採用等これまでの実績の延長線から外れる場合に対しても線源強度を推測できるように、メカニズムに基づいた挙動モデルを構築し線源評価を可能とすることが望ましい。
_被ばく線源の生成は、放射線照射や沸騰現象、材料の腐食機構等が複雑に関連した事象である。このため、メカニズム解明のための試験が必要で、材料や熱流動分野等と連携しつつ、基礎メカニズムを解明し、機構論的手法を構築し、それに基づいたモデルを構築する。
_具体的には「PWR一次冷却材溶存水素濃度最適化」や「被ばく線源生成メカニズムに基づいた対策技術開発・実証(PWR、BWR)」において取得されるデータを検討の出発点として被ばく線源生成メカニズム解明を進めるのが適当である。
_また、当面メカニズム解明の検討のために必要なデータは実機のデータや既存の試験炉等を有効利用して取得することとなるが、放射線照射や沸騰の複合的因子を解明し、メカニズムの検討を高度化するためには今後、照射試験施設等試験設備の整備が望まれる。
b. 燃料高度化、軽水炉利用高度化、高経年化対応水質変更の影響評価
_米国の事例では、燃料の高燃焼度化や増出力により被ばく線源が増加する懸念が指摘されている。また、水化学によるSCC対策である「貴金属注入」により被ばく線源が増加した事例も報告されている。
_海外事例の調査や機構論的手法により影響を定量的に理解し、トレードオフを回避した最適な水化学管理を目指す。
i) 燃料高度化の影響評価
(イ)PWR
_運転期間の長期化により腐食生成物量の増加と比放射能の上昇が予想されるため、海外調査等により先行している海外プラントをベースとして、AOAや放射性クラッドバースト発生等の放射能挙動への影響を評価する。
_なお、本評価については、後述する軽水炉利用高度化での沸騰による燃料付着クラッドに関する試験と併せて検討し、実機データ、メカニズム検討及びラボデータをPDCAサイクルの中で有機的に結合し検討を進めていく。
(ロ)BWR
_運転期間の長期化を実施することにより、原子炉水放射能濃度の上昇が懸念される。また、原子炉内への鉄持込量が増加することによる停止時クラッドスパイク量の上昇も懸念される。これらの影響を明確にしておき、運転サイクルの長期化に備える。
ii) 軽水炉利用高度化の影響評価(出力向上、運転期間の長期化)
(イ)PWR
_発電機増出力による一次系高温側温度上昇に加えて、燃料表面でのサブクール沸騰の程度が大きくなる。炉心ボイド率の上昇により、燃料表面への腐食生成物の沈着量の増加と生成放射能量が増加すると考えられ、これらは放射能クラッドバーストの発生を増加させる。さらに、現状採用されている線源低減対策の効果が低下することも考えられる。これらの点から、試験炉による沸騰を考慮した燃料付着クラッドに関する照射試験を行い、線源強度への影響を評価する。具体的には前述の溶存水素濃度最適化での燃料照射試験及びSCC試験にて評価を実施していくことが適切である。
(ロ)BWR
_発電機増出力による原子炉熱出力が増加するため、炉心中性子量(束)が増加(分布が変化)する。ゆえに、放射化腐食生成物の生成量の増加が予想され、さらに、被ばく線源強度の増加が懸念される。
_このため、線源強度の上昇を抑制する適切な対策選定の検討に資するため、炉内環境の変化による放射化腐食生成物の挙動について評価を行う。
iii)BWR水化学変更の影響評価
_貴金属注入、酸化チタン等の新しい水化学技術の適用にあたり、炉内での線源挙動を評価することにより、水質の変更が被ばく線源強度に与える影響を確認し、必要に応じ対応策を立案する。
c. 革新的線源低減技術の開発と適用
_上記a.、b.の検討を基に、燃料や系統材料へのクラッドの付着・剥離現象を解明し、出力増加による沸騰状態の変化や高経年化対応水化学の改良、燃料材料の高度化等にも対応した新しい水化学を提案し、被ばく線源強度低減のブレークスルーに資する。
_BWRにおいてはタービン系へ放射能が移行する。BWR運転中のタービン系の主要な被ばく線源である16Nの主蒸気への移行を低減しタービン系線量率やスカイシャイン線量率を抑える。16Nの移行は高経年化対応水化学により増加する場合があるだけでなく、出力増加も影響する可能性があり、その影響を評価する必要がある。
_また、我が国発の技術であるBWR及びPWR一次系への分散剤添加による線源除去技術について、線源低減効果の検証、燃料被覆管、系統材料への影響評価を経て実機への適合性を評価する必要がある。

(C) 産官学の役割の分担の考え方
① 産業界の役割

    • 被ばく線量の制御と実績評価:有効性検証と副次影響確認
    • プラント運用上の影響評価
    • 被ばく線源低減技術の開発
    • 管理指針等の整備

② 国・官界の役割

    • データ及び評価手法の検証
    • 海外規制動向等の把握
    • 長期的な施設基盤の整備(照射試験炉)

③ 学術界

    • 基盤研究(基礎データ、新知見の蓄積)
    • 腐食生成物メカニズム解明への支援(放射能蓄積挙動等の科学的裏付け)及び研究

④ 学協会の役割

    • 人的交流と育成
    • ロードマップの策定・改定
    • 水化学評価技術、管理技術等の規格・基準化、標準化

⑤ 産官学の連携

    • 技術検証及び施設整備
    • 人材育成

(D) 関連分野との連携
① 燃料高度化
_運転サイクルの長期化、炉出力向上に伴い腐食生成物の発生・付着の増加により被ばく線源の増加が懸念されることから、燃料部門のほか関連各所と広く連携して対応が必要。
② 被ばく線量低減
_被ばく線源強度低減技術の開発は、原子力発電所の被ばく線量低減により、国際貢献に資するとともに、被ばく線源強度低減技術を盛り込んだプラント設計・運用計画を行うことによるプラント輸出競争力の強化にも大きく寄与することから、産官学が一体となって取り組むことが必要。また、世界トップレベルの平均線量を目指し、それを維持するという目標の達成には、実施主体である産業界がこの目標に対して高いインセンティブが持てることが重要であり、今後、その対策について産、学で検討が必要。

図6.3-1に導入シナリオ、表6.3-1に技術マップ、図6.3-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.3-1]A.Suzuki, “The Radiation Management Reported by Licensees and the Relevant Regulations Amendment in Japan”, 2018 ISOE international Symposium, October (2018).

課題調査票

課題名 被ばく線源低減

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒自主的安全性向上の効果的・継続的な取り組みにより、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。さらに、安全性向上を図りながら、我が国の原子力発電所従事者の被ばく量を低減する取組を行う必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給性かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期安定運転が必要となる。

概要(内容)

(1) 被ばく線源低減技術の高度化と適用
_被ばく線源低減のため、被ばく線源となる放射能の発生・移行・蓄積を抑制する水質管理技術を高度化するとともに効率的な腐食生成物の除去の検討や除染技術の高度化を行う。
(2) 軽水炉を取り巻く変化の影響評価
_貴金属注入等の水化学技術の適用、軽水炉利用高度化及び燃料高度化に伴い、被ばく線源の増加が懸念される。このため、プラント線量率上昇を抑制する適切な対策選定の検討に資するため、炉内環境の変化による放射能の挙動について評価を行う。
(3) メカニズム解明
_将来の新技術開発のため、材料表面における腐食・放射線影響・沸騰事象等の複合事象のミクロ的なメカニズムを解明し、被ばく線源の生成・蓄積メカニズムの知見を拡充する。
(4) 被ばく線源低減技術の開発
_被ばく線源の生成・蓄積メカニズムに基づいた新たな被ばく線源低減対策の開発を行う。

導入シナリオとの関連

_水化学による被ばく線源低減技術の高度化・開発による被ばく線源の低減

課題とする根拠
(問題点の所在)

水化学RMと深層防護との関連付けの検討結果を参照

現状分析

(1) 被ばく線源低減技術の高度化と適用
_水質変更に伴う被ばく線源低減効果並びに材料及び燃料への影響評価が必要である。また、腐食生成物除去技術の高度化に対しては放射性廃棄物処分対応との兼ね合いを考慮した検討が必要である。
(2) 軽水炉を取り巻く変化の影響評価
_炉内環境変化に伴って放射能挙動がどのように変化するかは海外プラントの実績評価等からある程度予測可能であるが、対応策の検討が十分でない。
(3) メカニズム解明
_被ばく線源である放射性腐食生成物の挙動メカニズムは実機サンプルの調査や腐食試験等、基礎試験データを基に把握する研究が継続されているが、環境変化等に十分対応できる状態にはなっていない。
(4) 被ばく線源低減技術の開発と適用
_国外を含め、全く新しい被ばく線源低減技術の開発は進んでおらず、メカニズム解明等の基礎知見の拡充とブレークスルー技術の立案が求められる。

期待される効果
(成果の反映先)

    • プラント従事者の被ばく量が低減し、従事者の安全性が向上する。
    • プラント関連業務への抵抗感が減少し、社会的受容性が向上するとともに作業人員の確保が容易になる。
    • 被ばく低減に係わる国際貢献に資する。
    • 被ばく低減技術を盛り込んだプラント設計・運用計画を行うことで、プラント輸出における競争力が高まる。

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 再稼働後の線源の再付着防止等が求められることから、課題解決には緊急性を要する。
    • 研究開発のための資金確保が必要である。

必要な人材基盤

(1)    人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術、放射線防護技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 放射線作業従事を希望する者は減少していく方向にあると考えられ、技術を有した作業員も減じていくと思われる。
    • 被ばく低減のための水質管理技術はメーカや電気事業者が開発を継続してきており、現在は十分な人材の確保に努めているが、継続して開発を進めるために人員の維持が必要である。官・学には水化学の専門家が少ない。
    • 大学や研究機関では被ばく低減をテーマに扱う研究者・設備が少ない。

(3) 課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 東電福島第一事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、東電福島第一事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

    • S111_d33-1:被ばく低減技術の高度化(水質管理技術、遠隔操作・ロボット技術、放射線防護技術)

実施時期・期間

長期(2050年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界/産業界
_腐食生成物発生低減や除染方法の高度化等、実プラントへの適用によって効果が確認される被ばく線源低減対策の検討を行う。
<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界・学協会/産業界
_放射能挙動の評価に係わる研究を実施し、得られた知見は必要に応じて原子力学会標準等の規格基準に反映する。
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって放射能挙動評価を行う。
    • 学協会は、被ばく線源低減に関する水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 放射能評価の実施主体が資金担当となることが適当と考える。
実施機関/資金担当

<考え方>

産業界・原子力規制委員会・学協会/産業界・原子力規制委員会
_ 被ばく線源低減に関する水化学技術の高度化及び開発を行う。これらが標準的手法となった場合には必要に応じて原子力学会標準等の規格基準に反映する。また、原子力規制に係わる水質基準の変更を伴う場合には規制研究の実施が必要である。
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって被ばく線源低減技術の高度化及び開発を行う。
    • 学協会は、被ばく線源低減に関する水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、水質基準変更の可否を判断するための試験を実施する。
その他

 

6.2.2 燃料性能維持(CIPS対策)

_CIPSは、クラッドが燃料の軸方向に不均一に付着し、ほう素の不均一析出により、炉心の軸方向の線出力分布(偏差)に異常を生じる事象である[6.2.2-1 6.2.2-2]。本事象の進行に伴い、炉心の安全性に支障を来たす恐れや、燃料の健全性に問題を生じる可能性がある。また、軸方向のピーク位置での出力を抑えるため、炉心全体の出力を下げる必要が生じ、場合によっては、プラントや燃料の運用効率に支障を来たすことになる。
_CIPSはPWR固有の事象で、米国や欧州ではその発生が確認されている。特に、600合金製のSG伝熱管を有するプラントのうち、炉心燃焼指数の高い(HCDI値>150)プラントでCIPSが多く発生している。CIPSの発生には、被覆管表面でサブクール沸騰が発生するような熱水力条件、燃料被覆管表面での十分な厚みのクラッド層の形成及びクラッド層内へのほう素の取り込みと蓄積の3条件が関与しているとされている。
_現在、我が国のPWRではCIPSの発生は認められていない。これは燃料表面でサブクール沸騰が生じるような高負荷条件で運用されていないことや、厚いクラッド層の形成やクラッド内へのほう素の蓄積が顕在化するような環境下で運転されていないためと考えられる。
_CIPSを抑制するための通常運転時の水質管理は、プラントの安全性維持に必要な深層防護のレベル1「異常・故障の発生防止」に該当する。また、通常運転時の状態を逸脱した場合の対応はレベル2「異常・故障の拡大防止」に該当する。一方、設計基準事故やシビアアクシデント発生時のサンプスクリーン、及び事故時の燃料プール内の燃料のCIPS対策に果たす水化学の役割は殆どないため、水化学レベル3「事故の影響緩和」には該当しない。また、シビアアクシデントの前後における被覆管のZr-水反応、炉心溶融後の水素発生挙動、炉心溶融に伴うFPの核種、性状、放出・移行挙動に対するCIPSの関与は非常に小さいことから、レベル4「設計基準を超す事故への施設内対策」にも該当しない。
_我が国においては、FP放出低減/温度上昇抑制ペレットの開発と通常時材料劣化低減被覆管の開発が加速されるとともに、事故時(LOCA、Post-DNB)高温酸化劣化抑制部材(被覆管/集合体)や事故耐性燃料(Accident Tolerant. Fuel、以下ATF)の開発と実機への早期導入が検討されている。2011年3月の1F事故以降も、従来の軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)もプラント運用のオプションとして残されている。このため、これら技術開発は、日本原子力学会核燃料部会で検討中の『燃料高度化に関するロードマップ』にも位置づけられている。
_運転サイクルの変更に伴い、一次冷却材水質を変更(pH低下等)する場合や、炉出力向上によりサブクール沸騰が生じる場合、またこれらが複合的に生じる場合には、従来燃料、ATF等の改良型燃料を問わず、被覆管表面へのクラッド付着が促進されCIPSに至る可能性がある。PWRの再稼働後もこのような運転管理の変更に対応し、構造材の健全性や被ばく線量率の上昇を抑制しながら燃料の性能維持ならびにCIPS対策を講じ、プラントの安全性・信頼性維持、高効率化を図る役割が水化学に新たに求められるようになった。
_このため、標準化やガイドライン等の作成も視野に入れた上で、熱水力的因子等も考慮したCIPSモデルの構築と評価手法の開発による合理的かつ効率的な燃料性能維持、及びCIPS対策が重要となった。被覆管表面のへほう素の取り込み、チムニーを有するクラッドの異常成長メカニズムに立脚したモデルが開発され、それを包含した機構論的評価手法が確立されれば、水化学高度化やATF等の改良型燃料の開発等に対し、実証的な健全性評価手法の全部または一部を省略でき、加えて加速試験による簡易評価も可能となる。このようなモデルに基づく評価手法を規格基準化することにより、検査・補修・取替等の維持管理の合理化と併せ、被覆管や燃料部材の変更、運転管理の変更等に対し、迅速かつ的確に対応できる。
_燃料性能維持(CIPS対策)に関する現状、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析
<加圧水型軽水炉(PWR)>
_CIPSの発生は、クラッド付着・剥離と密接に関連している。クラッド付着・剥離メカニズムは、水化学因子(Niやほう素濃度、Ni/Fe比、pH等)や熱水力因子(沸騰、流況等)が複雑に関与する。さらに、CIPSの発生は、炉水中のほう素濃度にも影響され、ほう素取り込み機構をはじめ、全体のメカニズムは明確になっていない。

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_CIPSに及ぼす水質変更の影響に関する統一的な機構論は明確になっていない。影響因子ごとの現知見を以下に示す。

① クラッド付着・剥離に及ぼす燃料棒線出力及び沸騰状況の影響
_最近の実機調査やラボ研究によると、CIPSの直接の原因となるクラッド付着に関し、水化学影響因子として、炉水中のニッケル(Ni)濃度、Ni/Fe比、ほう素濃度、pH等が、熱水力因子として被覆管表面での沸騰や流況が、加えて放射線の影響も考えられるとの報告がある。
_現在、CIPSを経験している米国、フランス、韓国等において、実機調査とラボ試験を中心にクラッド付着及びCIPS発生原因の検討と対策が検討されている。米国電力中央研究所(EPRI)やフランス原子力庁(CEA)は、クラッドの沸騰析出や物質移動を考慮した溶解・析出モデルを提案しているが、クラッドの溶解・析出挙動や化学形態についても諸説があり、統一的なモデルの構築には到っていない。日本では、電中研が基礎研究に着手しており、非照射下ではあるものの、ラボ内でのクラッド付着の再現と水化学及び熱水力(沸騰、流況)因子の影響評価を行った。
_クラッド付着・剥離に及ぼす燃料棒線出力の影響を評価するには、付着・剥離挙動を定量的かつ正確に把握する必要がある。しかしながら、現状は、燃料の照射後試験から過度のクラッドが存在しないことの確認に留まっている。

② ほう素取り込み機構の解明
_CIPSメカニズム解明の観点からは、クラッドの付着挙動だけでなく、クラッド中に取り込まれるほう素の析出挙動の評価が重要である。CIPS発生プラントでは、クラッドのかきとり調査を行っているが、ほう素の取り込み形態等の分析結果がプラント間で異なる。米国のEPRI[6.2.2-3]、CEA[6.2.2-4]、スウェーデンのStudsvik[6.2.2-5]、韓国のKAERI[6.2.2-6]、及び電中研[6.2.2-7]が、ほう素取り込みに関する基礎研究を実施している。しかしながら、ほう素取り込み挙動は、炉水中のほう素濃度、Ni濃度、pH等の水化学因子や放射線の影響以外に、被覆管表面での沸騰や流況にも影響されるとの報告があり、また、沸騰析出や結晶析出、化学形態についても諸説があるため、いまだ統一的なモデルの構築には到っていない。

(2) CIPS対策技術の開発
_CIPS発生メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。

(3) データや評価技術の検証
_CIPSと水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化が燃料被覆管のクラッド付着に及ぼす影響に関する最新知見について、日本原子力学会指針「PWR一次冷却系水化学管理指針:2017」の解説に規定している。

<沸騰水型軽水炉(BWR)>
_CIPSの発生には、燃料被覆管付着クラッド内へのほう素の取り込みが深く関与すると考えられており、BWRプラントでは発生していない。現状ではPWRプラント固有の課題とされている。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_PWR再稼働後も軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)が計画されており、プラントや燃料に対する負荷は徐々に増加していくと考えられる。ここ数年間に適用される運用条件においては、CIPS発生の可能性は比較的低いものと予想される。従って、至近では、現象論的(経験的)評価手法により、先行プラントの実績から悪影響がないことの確認で充分と考えられる。しかしながら、長期で見た場合、燃料への過度なクラッド付着が懸念され、CIPSの発生リスクは高まる可能性がある。このため、従来の現象論的(経験的)評価手法でなく、機構論的(メカニズム)評価手法を確立することにより、実機先行試験に依存するのではなく、AOAリスク、及びリスクを最小限に抑えるのに最適な運用条件を検討する必要がある。これにより、プラントの安全性確保、高効率化、公益性向上に大きく貢献できるものと考えられる。
_現在、CIPSを経験している米国やフランスを中心に、クラッドの沸騰析出や物質移動を考慮した溶解・析出モデルが提案されているが、クラッドの付着・剥離挙動及びCIPSの主要因とされるほう素の取り込み挙動については諸説があり、いまだ統一的なモデルの構築には到っていない。その一因として、限られた実機データのみで検討せざるを得ず、これら挙動を定量的かつ正確に把握できていないことが挙げられる。
_この問題解決のためには、CIPS事象をメカニズムの視点から捉え、技術基盤を用いた試験結果に基づき、各因子の相関性をモデル化し、新しい評価手法を開発することが肝要である。このようなモデル及び新評価技術の開発は、水化学によるCIPS抑制効果の有効性評価、CIPS発生リスク評価に基づくプラント運用条件及び水化学の最適化・高度化に繋がると考えられる。
_燃料やプラントの信頼性及び運用効率の観点から、CIPSに関する課題解決は産官が共有するニーズとなる。モデルの構築とそれに基づく対策の立案には、情報、知見、人材、施設基盤の拡充が必要であり、産官学が適宜協力した体制で臨むことが肝要である。
_実施にあたっての課題全体の問題点としては、原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。また、研究開発のための資金確保が必要である。
_以下に具体策を示す。

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに及ぼす水質変更の影響を、機構面から明らかにする。

① 従来知見の整理
_CIPSの主たる原因であるほう素を含むクラッド付着・剥離挙動を定量的かつ正確に把握するため、これまでの燃料棒の照射後試験等の調査結果、国内外のプラントデータ、ラボデータを含め、従来知見を整理する。

② クラッド付着・剥離メカニズムの解明
_燃料被覆管へのクラッド付着・剥離は水化学因子と熱水力因子等が重畳する事象である。このため、クラッド付着・剥離モデルは、被覆管表面へのクラッドの析出・物理付着、成長、化学溶解・物理剥離等を考慮した定性的なものにとどまっている。燃料被覆管へのクラッド付着・剥離を適切に制御するためには、クラッド付着・剥離メカニズムを解明し、メカニズムに基づいて、付着・剥離に及ぼす水化学及び熱水力因子に対し個別の影響度と重畳効果による影響度を定量化する必要がある。

③ CIPS発生メカニズム(ほう素取り込みメカニズム)の解明
_CIPSメカニズム解明の観点からは、燃料付着クラッド内へのほう素の取り込み挙動の評価が重要である。今後、長期サイクル運転の導入により、CIPSリスクが増加する可能性があることから、ほう素の取り込みメカニズムを解明し、メカニズムに基づいて、ほう素の取り込みに及ぼす水化学及び熱水力因子に対し個別の影響度と重畳効果による影響度を定量化する必要がある。

(2) CIPS対策技術の開発
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないようCIPS対策を検討する。

① CIPS普遍モデルの構築
_新しい評価手法を確立するためには、(1)に示すように、各因子の影響を定量的に検討した上で、各相関をモデル化し、総合的なモデルを開発する必要がある。これらモデルは、ATF等の改良型燃料被覆管に対しても適用できるよう普遍的なものとする必要がある。

_a.燃料棒表面へのクラッド付着・剥離に及ぼす影響

        • 燃料棒線出力との相関、沸騰状況(サブクール沸騰)との相関
        • 水質条件が及ぼす影響

_b.燃料付着クラッド内へのほう素の取り込みに及ぼす影響

        • 燃料棒表面のクラッド付着状態との相関
        • 沸騰状況(サブクール沸騰)との相関
        • 水質条件との相関

② CIPS評価方法の適用
_従来の現象論的(経験的)評価は、計画している水化学対策やプラント運用条件を一部のプラントで先行運用し、悪影響が無いことを確認する手法である。ATF等の改良型燃料の採用や新たな水化学の採用に際し、CIPSへの影響を効率的に評価するには、従来の現象論的評価手法と新たに検討する機構論的評価手法とを選択・組み合わせた評価方法の導入が望まれる。これにより、様々なケースについてCIPS発生リスクを前もって評価できるとともに、実証的な確認を最小限行うことで合理的に運用条件の最適化が図れる。

③ CIPS防止対策技術の開発
_軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)に対応しつつ、CIPSの防止等燃料性能を維持していくには、水化学による対策も求められている。これに応えるには、高Li適用、溶存水素最適化等の水化学によるCIPS防止対策を検討する必要がある。なお、これら水化学高度化対策の適用にあたっては、新しい評価手法を用いたCIPS発生リスクの検証を合理的に行えると考えられる。また、クラッド付着・剥離挙動の把握は、被ばく線源強度低減等の対策立案に密接に関連するため、水化学高度化全体において重要度が高く、それらとの技術的な連携が必要である。

(3) データや評価技術の検証
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに係わるデータや評価技術を検証する。また、燃料性能維持(CIPS対策)技術について、各種試験やモニタリング等により予防保全としての有効性を検証する。
_軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)に対応しつつ、CIPSの防止等燃料性能の維持に最適な水化学改良策の有効性を評価するには、クラッド付着・剥離挙動及びほう素取り込み挙動の再現性をチェックしながら、モデルや評価手法を検証する必要がある。必要に応じ評価手法を見直すことも重要である。このためには、照射試験設備を活用するとともに、クラッド付着・剥離及びほう素取り込みモニタリング技術を開発し、関連のデータベースを構築・拡充し、ラボデータと実炉現象との乖離を小さくする必要がある。また、照射試験炉を用いたモニタリング技術の開発やクラッド層内の核種移行モデル、燃料被覆管表面近傍のラジオリシスモデルの精緻化を図ることにより、燃料性能維持(CIPS対策)に関する評価技術を高度化するとともに、高度化した技術をプラントの維持管理に反映させるため、照射試験炉や実機において有効性を検証する。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学技術を学会指針に取り入れる。また、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の設定値を見直す。

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 燃料性能維持(CIPS)評価手法の開発・高度化・標準化
    • 燃料性能維持(CIPS対策)技術の開発・高度化・標準化
    • 燃料性能維持(CIPS)に及ぼす環境因子の影響に関するデータ整備・高精度化

② 国・官界の役割

    • データや評価技術の検証
    • 安全規制行政
    • 学協会基準のエンドース・規制基準の整備
    • 基盤の整備(知識、人材、照射試験炉、制度の整備)

③ 学術界の役割

    • CIPS発生メカニズム解明への支援
    • 燃料性能維持(AOA対策)に関する基盤研究(反応機構、速度定数、表面・隙間における照射、被覆管表面の沸騰・流況の影響等)

④ 学協会の役割

    • 規格基準の作成・精緻化
    • 産官学の連携
    • CIPS発生メカニズム解明(環境因子の効果・影響)
    • 燃料性能維持(CIPS対策)に関する基盤研究
    • CIPS発生メカニズムの解明及び対策立案を担う人材の育成
    • 照射試験炉の整備・利用
    • 照射試験炉を用いた各種モニタリング技術の開発

(D) 関連分野との連携
① 燃料高度化
_CIPSは、その程度によっては出力低下を引き起こす可能性が大きい。このため、下記のような連携を図る必要がある。

    • 被ばく低減対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 燃料高度化(高燃焼度、MOX、最適運転サイクル)及び軽水炉利用高度化(出力向上)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

② 高経年化対応

    • SCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 燃料高度化(高燃焼度、MOX、最適運転サイクル)及び軽水炉利用高度化(出力向上)とSCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が重畳する場合、腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

_図6.2.2-1に燃料性能維持(CIPS対策)に係わる導入シナリオ、表6.2.2-1に技術マップ、図6.2.2-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.2.2-1] “NRC Information Notice Effects of CRUD Buildup and Boron Deposition on Power Distribution and Shutdown Margin”, NRC Information Notice Vol.97-85 (1997).
[6.2.2-2] B. Armstrong, J. Bosma, P. Frattini, K. Epperson, P. Kennamore, T. Moser, K. Sheppard, and A. Strasser, “PWR Axial Offset Anomaly (AOA) Guidelines”, EPRI Report TR-110070 (1999).
[6.2.2-3] J. Deshon, D. Hussey, J. Westacott, M. Young, J. Secker, K. Epperson, J. McGurk, and J. Henshaw, “Recent Development of BOA Version 3”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2010, Paper No. 8.03 (2010).
[6.2.2-4] F. Dacquait, C. Andrieu, M. Berger, J. L. Bretelle, and A. Rocher, “Corrosion Product Transfer in French PWRs during Shutdown”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems, Chimie 2002 (2002).
[6.2.2-5] Jiaxin Chen, Chuck Marks, Bernt Bengtsson, John Dingee, Daniel Wells, and Jonas Eskhult, “Characteristics of Fuel CRUD from Ringhals Unit 4 -A Comparison of CRUD Samples from Ultrasonic Fuel Cleaning and Fuel Scrape”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2014 (2014).
[6.2.2-6] W. Y. Maeng, B. S. Choi, D. K. Min, H. M. Kwon, I. K. Choi, J. W. Yeon, J. I. Kim, H. S. Woo, Y. K. Kim, and J. Y. Park, “The Status of AOA in Korean PWR and a study on the CRUD Deposition on Cladding Surface”, Proc. of Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2008, Paper No. L14-1, Berlin (2008).
[6.2.2-7] H. Kawamura, “Empirical Fuel CRUD Deposition Model in Simulated PWR Primary Water”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2016 (2016).

課題調査票

課題名

CIPS対策による核燃料の性能維持

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒自主的安全性向上の効果的・継続的な取り組みにより、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。さらに、安全性向上を図りながら、我が国の原子力発電所従事者の被ばく量を低減する取組を行う必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給性かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期安定運転が必要となる。

概要(内容)

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに及ぼす水質変更の影響を、機構面から明らかにする。(2) CIPS対策技術の開発
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPS対策を検討する。

(3) データや評価技術の検証
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに係わるデータや評価技術を検証する。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学管理技術を学会指針に取り入れる。また、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の設定値を見直す。

導入シナリオとの関連

水化学によるCIPS対策による核燃料の性能維持

課題とする根拠
(問題点の所在)

水化学RMと深層防護との関連付けの検討結果を参照

現状分析

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_CIPSに及ぼす水質変更の影響に関する統一的な機構論は明確になっていない。(2) CIPS対策技術の開発
_CIPS発生メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。

(3) データや評価技術の検証
_CIPSと水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化が燃料被覆管のクラッド付着に及ぼす影響に関する最新知見について、日本原子力学会指針「PWR一次冷却系水化学管理指針」の解説に規定している。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 原子力発電所の高稼働運転における核燃料の健全性維持及び環境負荷軽減が可能となる。
    • 燃料等の炉心構成要素の高度化や、原子炉の運転条件が見直された場合においても、運転上の制限を遵守し安全余裕を確保した状態で原子炉の運転が可能となる。

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。
    • 研究開発のための資金確保が必要である。

必要な人材基盤

(1)人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術

(2)人材基盤に関する現状分析

    • 事業者においては、現在導入している状態監視技術に関する知識・技能を有した人材の育成が行なわれてきた。
    • メーカでは原子力設備の海外輸出等を通じて、必要な技術開発にかかる人材の育成を行っている。
    • 大学等では、共同研究やインターンシップ等により、人材育成や人的交流を図ってきた。
    • 水化学技術は、原子力発電所の保全のみならず、リスクの概念を併用すれば、安全の確保の基本となる技術の一つであり、必要な人材基盤を継続して確保していくことが重要である。今後も人材基盤を維持していくためには、大学等の教育段階から優秀な人材を集め、かつ、人材を計画的に育成していくとともに、実際に炉心設計、運用管理の経験を積んでいくことが必要である。
    • 海外の実用化技術の反映にとどまらず、その改良をもって、更なる原子力安全に役立つ運用管理技術を国際的に展開できる人材を育成し、活躍してもらうことが必要。
    • 特に海外で豊富な実績を有する解析手法等については、その迅速かつ円滑な導入を促す仕組みの充実(国際共同研究、国際会議、人的交流等の活性化等)。

(3)課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 1F事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、1F事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

    • 「炉心・熱水力設計評価技術の高度化」(ロードマップ)
    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • M107_d38 建屋構造・材料の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M107_d25:運転性能の高度化(事象進展抑制、停止機能、L/F等)
    • S103_b07:廃棄物長期保管に向けた健全性評価技術、管理技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界/産業界
_CIPS発生メカニズムの解明、CIPS対策技術の開発、データや評価技術の検証等に必要な技術開発を実施
<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、電に事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電気事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • メーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて規制基準及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える
    • 原子力規制委員会が規制の観点からが主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_対CIPSに係わる規格基準の策定

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって核燃料の健全性維持に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価及び認可を行う。
その他