7.2 人・情報の整備

_水化学技術は、これまで軽水炉プラントの運転において、構造材料、燃料の健全性とも深くかかわるとともに、固有の課題として、被ばく線量への直接的な影響を持つこと等、プラントの安全性、信頼性の維持、向上に重要な役割を果たしてきた。この結果、水化学に直接起因した大規模なトラブルは減少してきた。しかしながら、今後のプラント運用の高度化、燃料高度化、そして高経年化対応としての水化学の適用等に際し、事前に事象を予測し対策を立案しておくことでプラントの安定運転を実現するためには、プロアクティブな水化学技術の展開が必要である。このような新たな展開を図るため、これまでの知見を基礎に、水化学分野の技術情報基盤を整備していくことが重要である。一方で、プラントの運用、管理において、一般公衆に対する透明性、説明性が厳密に要求されるようになってきており、各事業者単位の管理運用の考え方、方法に関しても整合的、体系的な方針が求められている。このため、これまでの運用経験も踏まえた水化学技術の体系化により、評価技術、運用技術等の規格・基準化、標準化を進めることが必要となっている。
_また、上記のごとく、水化学起因のトラブルの減少に加え、新規プラントの建設が減少してきたことにより、水化学の研究開発及び管理を担う人材の供給が減少し、高齢化が進行している事実がある。研究の場も狭まっており、研究コミュニティの維持が危ぶまれるほどである。今後、軽水炉プラントの高経年化対応を含め、軽水炉プラントの安全性と信頼性の維持及び向上のため、水化学の一層の貢献が求められていることを考慮すると、本分野に関連する人材の裾野拡大を含む人材の確保は緊急の課題と言える。人材確保のためには、学(学術界)での水化学関連研究の基盤(場)の確保が必須で、学(学術界)での研究を通して有能な人材の教育、その結果、確保が可能となる。これは、産・官・学のいずれの領域においても強く認識すべき共通の課題である。
_これまで我が国の原子力発電の発展に際しては、諸外国での経験を参考にしつつ、独自の手法、概念を確立してきた経緯がある。今後とも継続的に国際的な情報交換を進めると同時に、近年、世界的な原子力発電の見直し機運の中で、アジア諸国での原子力開発が急速に進展すると予測されることから、我が国で培った技術をこれらの国に適正な方法で反映させていくことは、今後も重要性を増していくと考えられる地球温暖化対策やエネルギーセキュリティの確保の観点からも有用と考えられる。
_今回の改訂に当たって、1F事故を踏まえて、深層防護の各レベルにおける人・情報の整備に係わる研究の係わりを検討し、レベル1から4のいずれにおいても貢献できる課題のあることがわかった。すなわち、プラントの安全・安定な運転にかかわる情報基盤を一層充実させ、これらを支える人材の供給/技術伝承を確実に行うための活動を継続することにより、より一層の安定・安全なプラントの運転管理が達成されるとともに、整備すべき情報の範囲を廃炉や事故時対応の水化学に拡大し、過酷事故への備えを行うことにより事故発生防止及び拡大防止に貢献していくことができる。
_人・情報の整備に係わるロードマップは、2007年版で策定され、水化学ロードマップ2009でのフォローアップは限定的であったため、今回は、1F事故以降の状況変化を踏まえ、水化学分野として果たすべき役割を明確にすべく、本格的な改訂を行った。改訂に当たっては、基本的な研究課題の枠組みは変えずに、以下に示す4項目に分類して対応することとし、それぞれに事故対応に係わる課題を追加した。
_ⅰ. 研究基盤の確保
_ⅱ. 技術情報基盤の整備と技術伝承
_ⅲ. 水化学関連の規格・基準化、標準化
_ⅳ. 国際協力の推進

_図7.2-1に、人・情報の整備に関する研究フローを示す。通常運転時及び事故時対応時における人・情報の整備に基づいて、4つの項目を実施する。これらを通じて、水化学技術情報を整備するとともに、確実な技術伝承と必要な人材の育成を行い、プラントの安全・安定な運転を維持及び事故の拡大防止に貢献する。

(A) 現状分析
(1) 研究基盤の確保
_水化学の分野では、分野の特徴から産業界が中心となっていたため、従来から学(学術界)における研究例が少なく、有能な人材の教育と、その結果としての人材確保ができにくい環境にある。このため、人材育成を含め、水化学関連の基礎研究資金を容易に獲得できるような基盤確保が求められている。近年、国プロや電力共通研究等の共同プロジェクトが減少しており、産業界や国の研究機関の研究者・技術者の研究の場も狭まっている。1F事故以降の長期プラント停止からの再稼動を契機に、水化学研究プロジェクトが成立すれば、研究者が集まる場が拡大し、人材確保・育成につながっていくことが期待される。
_なお、1Fの廃炉研究においては、汚染水処理や構造材の腐食抑制等の課題で国プロが実施されており、水化学関連の研究者が多く参加している。

(2) 技術情報基盤の整備と技術伝承
①水化学に関する技術情報の整備
_プラントの安定的運用のためには、水化学に関する学術知見から実プラントにおける運転経験まで、全てのデータベースを体系的に整理・評価し、必要に応じて効率的に活用することが極めて重要である。とりわけ、プラントデータは課題解決や技術開発を行っていく上で重要な情報となるが、現状、公開に制限があり、十分に活用されていない。2020年から導入される新検査制度ではプラントのパフォーマンス指標(PI)を考慮して規制側から追加検査や特別検査の要否が示されることになる。PIとしては原子力施設の安全にかかわる事故の発生防止、拡大防止・影響緩和、閉じ込めの維持、重大事故等対処及び大規模損壊対処の4つの分類、放射線安全にかかわる公衆に対する放射線安全と従業員に対する放射線安全の2つの分類、及び核物質防護の合計7つの分類ごとに設定される。これらの分類の中で水化学と関わりの深い分野は、閉じ込めの維持と従業員に対する放射線安全であり、具体的なPIとしては、前者に関しては原子炉水中のヨウ素濃度と格納容器内漏洩、後者に関しては個人線量超過回数と計画外被ばく発生件数が検討されている。原子炉水中のヨウ素濃度は燃料健全性を、格納容器内漏洩は構造材料の健全性を示す指標となっており、水化学管理を適切に実施して水質パラメータを水化学管理指針で定める推奨範囲に保つことが重要である。計画外被ばく発生件数への水化学管理の関与はないが、個人線量超過回数に関しては、適切な水化学管理によるプラント線量率の低減により発生リスクを低減することができる。PI自体はプラントデータのごく一部であるが、その指標の背景となる水質データやプラント線量率等を公開していくことは原子力プラントの安全管理の透明性を向上させるために有用と考えられる。このような新しい検査制度の導入等をきっかけとしてプラントデータを公知化し、産業界内外の研究者や技術者の目に触れることで、課題の早期解決や新たな技術の創出促進を図れる機会が増えるものと考える。このような仕組みづくりにより、学術界や産業界の研究者のモチベーションアップや人材育成にもつながるものと考える。
_技術情報基盤の整備のためには、当面、学協会(原子力学会)の場にて産・官・学のネットワークを形成して活動を維持するとともに、水化学と深く係わる分野との相互連携による推進が必要である。将来的には、新たな仕組みを構築していくことも必要である。なお、水化学情報の集大成の成果の一つとして「原子炉水化学ハンドブック」が2000年に発行され、多くの関係者に活用されている。現在、水化学部会において改訂版発行の作業が行われている。
_1F事故を受け、特に、除染や廃炉等事故への対処のほか、事故の教訓を踏まえた原子力施設の安全性向上やシビアアクシデント対応等の課題に対する国民的な関心や社会的要請、新たな知見・技術の確立への期待・必要性が高まっており、水化学分野からの取り組みが期待されている。
②人材育成方策の検討
_我が国では、これまでの技術開発・運用を担ってきた世代のリタイアが続き、人材不足の状況が続いている。これに対しては、原子力規制委員会による原子力規制人材育成事業や文部科学省による国際原子力人材育成イニシアティブ事業等、長期的な原子力研究・開発・利用を促進させるための人材育成プログラムが実施されている。水化学分野においても、産・官・学のいずれにおいても人材が減少している状況に鑑み、産業界からの学術界への情報発信等、積極的な関与をして若い人材の育成を行い、継続的に人材を確保していくことが必要である。
_産業界における人材育成は、技術の伝承とも深く関係しており、従来蓄積されてきた経験や知見を体系的に整理していくことは、この面でも有効に活用できるため、積極的かつ継続的に推進する。特に、水化学は、原子力プラントの構造材料、燃料の健全性に影響を及ぼすため、プラントシステム全体にまたがる領域をカバーする必要があることから、総合的な知識・経験が必要となる。このため、人材育成も一朝一夕にはいかず、長期にわたる計画的な指導、教育も要求される。
_日本原子力学会は、国内外での情報発信や立場を越えた人的交流等が図れる場であり、技術的合意や共通認識の醸成に欠かせない役割を果たしている。このような活動は、人材育成にも大きく寄与している。
_1Fの廃炉に伴う汚染水処理や構造材の腐食影響評価・防食等では、水化学からの寄与が期待されており、技術情報の収集や人材の供給等で貢献している。また、過酷事故時のFP挙動解明を行っていくとともに、現在関与が薄い過酷事故拡大防止のための関連設備についても、水化学分野の設計段階からの積極的な関与していくことが期待されている。

(2) 学協会規格等の整備
_水化学関連技術の体系化を通じ、それを規格・基準、標準の形にまとめていくことは軽水炉プラントの運転に対する一般公衆への説明性、透明性を確保していく意味で重要な因子となる。水化学分野においては、既に、PWR一次系、PWR二次系及びBWRの水化学管理指針、PWR及びBWRの化学分析方法の標準が制定されている。これら指針・標準は、電気事業者やメーカの技術者にとって、より良い水化学管理を実践していく上で拠り所となるもので、解説に記載された管理値等の設定に係わる技術根拠は、若手技術者への技術伝承のみならず、大学等の機関の研究者にとっても教材として幅広く機能するよう配慮されている。今後、最新知見を取り入れていくことで、合理的な規制の実現にも結びつくことになるとともに、グローバルスタンダードの地位を確保していくことが可能となる。
_各発電所ではアクシデントマネジメントの整備が進められ、日本原子力学会においては「原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準」が制定されている。これらは、新たに獲得された研究成果を踏まえて、不断に整備・充実していく必要がある。現在のところ、化学的な観点からの対応は示されていないが、今後は、事故時の水化学情報を反映させることにより、より実効性が高まり、事故影響の低減に貢献すると考えられる。

(3) 国際協力の推進
_原子力発電プラントの安定的運転に貢献する水化学技術の高度化には、国際協力による情報交換が有益である。水化学技術の基礎基盤をはじめプラントの運転経験、それに各国の規格・基準類の整備状況等に関し、情報を確保していくことが必要である。同時に、我が国からの情報発信による相互の情報交換により、水化学分野での総合的なポテンシャルの向上が期待できる。このような活動をさらに効果的にするため、新たな枠組みも検討する。水化学国際会議は、水化学分野における最も権威ある国際会議であり、これまで、欧州、日本(アジア)、米国で隔年開催されてきている。我が国の寄与も大きく、日本原子力学会水化学部会が定期的に会議を主催する等、今後も貢献を継続していく必要がある。また、これまでの既存の水化学国際会議等の場での情報交換はもとより、人員の相互交流を含むより進んだ情報交換体制の構築も必要である。
_また、昨今のアジア諸国での原子力導入の動きに対しては、我が国での経験等を効果的に移転していくことも考えるべきであり、そのための仕組みも必要である。すでにこれまでも我が国主導で開催してきたアジア水化学シンポジウムのような場を通じた活動をベースに、これを発展させた枠組み構築も必要である。
_水化学技術の高度化や事故時対応の水化学情報整備の観点から、国際的な情報交換を継続的に進めると同時に、我が国が培った技術を海外に発信していくことは、原子力全体の発展にも有用と考えられる。

(B) 研究課題
(1) 研究基盤の確保
_産官学の研究機関が参加して、水化学共通基盤技術に係わる研究を実施し易い仕組みを構築する。学に研究ニーズを開示すると同時に、競争的研究資金獲得が少しでも容易になるように、分り易い研究ニーズドキュメントの作成を行う。また、共同研究プロジェクトを構築していく環境を整備し、その実施を通して、技術情報の拡充及び人材育成を図る。

(2) 技術情報基盤の整備
_国内外のプラントの運転状況、水化学管理、及び化学管理に係わる情報、及び化学基盤情報を整備する。併せて、新たな挑戦的な課題を提示していく。
_1F事故を受け、廃炉等事故への対処や過酷事故の発生及び拡大防止等についても、水化学の観点から技術情報を整備する。加えて、過酷事故関連設備についても、設計段階から化学的観点からの関与を強めていく。
_プラントの水化学管理に関する教育プログラムを作成し、水化学管理者の育成と技術伝承に資する。また、資格認定制度も取り入れ、社会に対する水化学管理の透明性を示す。

(3) 学協会規格等の整備
_品質保証や社会への説明性に関する要求に対し、体系的・組織的に対応するため、化学管理内容や分析技術等水化学管理に係わる技術を学協会の場で民間規格化・基準化する。
_プラント運転経験、高経年化対応技術、新しい水化学技術等、これまでに蓄積された知識・経験を次世代に適切に継承し、世界的にも高い水準にある我が国の水化学管理技術を維持するため技術継承資料の作成を目指す。
_過酷事故の発生及び拡大防止に技術情報に基づいて、規格基準類整備に化学の観点からの寄与を強化していく。

(4) 国際協力の推進
_海外情報の活用や国内情報の発信によるプラントの安全・安定運転への貢献等、水化学に関する情報を国際的に相互活用するために、日本原子力学会水化学部会を中心に、国際協力体制及び情報交換体制の整備強化を行う。原子力発電の導入・拡大が見込まれる諸国の人材育成にも協力する。
_廃炉や過酷事故対応技術については、海外の先進事例や知見について、積極的に情報収集ならびに共同研究を推進する。

_以上の課題の解決を図ることで、以下の成果が得られる。

    • 水化学技術情報が蓄積・整備されることにより、将来にわたって技術伝承と人材育成が図られ、プラントの安全・安定な運転維持に寄与できる。
    • 事故の発生及び拡大防止のための規格・基準類作りに、化学的観点から寄与できる。

(C) 実施機関/資金担当の考え方
_研究課題の実施機関及び資金担当と、その考え方を技術項目ごとに示す。
(1) 研究基盤の確保及び(4)国際協力の推進
実施機関/資金担当:産業界、官界、学術界/産業界、官界
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、研究基盤を整備し研究を実施することにより技術情報を取得し、人材の供給を受ける。
    • 学術界は、獲得した研究費により基礎・基盤研究を実施する。
    • 国は、実施主体として、安全基盤研究による情報を獲得する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

(2) 水化学に関する技術情報の整備
実施機関/資金担当:産業界・官界/産業界・官界
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、技術情報を取得でき、水化学管理に反映できる。
    • 国は、実施主体として、技術情報を獲得できる。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

(3) 化学管理に関する民間規格・基準類の整備
実施機関/資金担当:産業界、学術界/産業界
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、水質管理基準等の整備を行うことで、規格基準類の整備を行うことができる。
    • 学術界は、規格基準類の整備に関した検討を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

_図7.2-2に人・情報の整備に係わる導入シナリオ、表7.2-1に人・情報の整備に係わる技術マップ、及び図7.2-3に人・情報の整備に係わるロードマップを示す。

課題調査票

課題名 人・情報の整備

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短期 Ⅱ.信頼性のある組織・体制の構築・維持(防災支援体制含む)
⇒効果的・継続的なリスク低減活動・自主的安全向上活動が進められるためには、信頼性のある組織・体制が構築・維持される必要がある。
概要(内容) (1) 研究基盤の確保
_産官学の研究機関が参加して、水化学共通基盤技術に係わる研究を実施し易い仕組みを構築する。学に研究ニーズを開示すると同時に、競争的研究資金獲得が少しでも容易になるように、分り易い研究ニーズドキュメントの作成を行う。また、共同研究プロジェクトを構築していく環境を整備し、その実施を通して、技術情報の拡充及び人材育成を図る。
(2) 技術情報基盤の整備
_国内外の水化学管理に関するプラントの運転管理状況、化学管理及び化学基盤情報を整備する。併せて、新たな挑戦的な課題を提示していく。
_1F事故を受け、廃炉等事故への対処や過酷事故の発生及び拡大防止等についても、水化学の観点から技術情報を整備する。加えて、過酷事故関連設備についても、設計段階から水化学的観点からの関与を強めていく。
_プラントの水化学管理に関する教育プログラムを作成し、化学管理者の育成と技術伝承に資する。また、資格認定制度も取り入れ、社会に対する化学管理の透明性を示す。
(3) 学協会規格等の整備
_品質保証や社会への説明性に関する要求に対し、体系的・組織的に対応するため、水化学管理内容や分析技術等化学管理に係わる技術を学協会の場で民間規格化・基準化する。
_プラント運転経験、高経年化対応技術、新しい水化学技術等、これまでに蓄積された知識・経験を次世代に適切に継承し、世界的にも高い水準にある我が国の水化学管理技術を維持するため技術継承資料の作成を目指す。
_過酷事故の発生及び拡大防止に技術情報に基づいて、関連する規格・基準類整備に化学の観点からの寄与を強化していく。
(4) 国際協力の推進
_海外情報の活用や国内情報の発信によるプラントの安全・安定運転への貢献等、水化学に関する情報を国際的に相互活用するために、日本原子力学会水化学部会を中心に、国際協力体制及び情報交換体制の整備強化を行う。原子力発電の導入・拡大が見込まれる諸国の人材育成にも協力する。
_廃炉や過酷事故対応技術については、海外の先進事例や知見について、積極的に情報収集ならびに共同研究を推進する。
具体的な項目 (1) 研究基盤の確保
(2) 技術情報基盤の整備/技術伝承
(3) 学協会規格等の整備
(4) 国際協力の推進
導入シナリオとの関連 技術情報基盤の整備と技術伝承、人材育成を通してのプラントの安全・安定な運転の維持及び事故発生・拡大防止への寄与。

課題とする根拠
(問題点の所在)

    • プラントの安全・安定な運転を維持するため、技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要。
    • 研究コミュニティを維持していくための場が必要。
    • プラントのトラブルや異常事態の早期発見及び拡大防止に寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
    • 事故発生への備えに寄与する技術基盤整備、規格基準類の整備及び人材育成プログラムが必要
現状分析 (1) 研究基盤の確保
_水化学の分野では、分野の特徴から、産業界が中心になっていたため、従来から学(学術界)における研究例が少なく、有能な人材の教育と、その結果としての人材確保ができにくい環境にある。このため、人材育成を含め、水化学関連の基礎研究資金を容易に獲得できるような基盤確保が求められている。近年、国プロや電力共通研究等の共同プロジェクトが減少しており、産業界や国の研究機関の研究者・技術者の研究の場も狭まっており、研究コミュニティの維持も困難さが増している。1F事故以降の長期プラント停止からの再稼動を契機に、水化学研究プロジェクトが成立し、研究の場が拡大していくことが期待される。
_1Fの廃炉研究においては、汚染水処理や構造材の腐食抑制等の課題で国プロが実施されており、水化学関連の研究者が多く参加している。
(2) 技術情報基盤の整備

① 水化学に関する技術情報の整備
_プラントの安定的運用のためには、水化学に関する学術知見から実プラントにおける運転経験まで、全てのデータベースを体系的に整理・評価し、必要に応じて効率的に活用することが極めて重要である。とりわけ、プラントデータは課題解決や技術開発を行っていく上で重要な情報となるが、現状、公開に制限があり、十分に活用されていない。2020年から導入される新検査制度ではプラントのパフォーマンス指標(PI)を考慮して規制側から追加検査や特別検査の要否が示されることになる。水化学と関わりの深い分野は、閉じ込めの維持と従業員に対する放射線安全であり、具遺体的なPIとしては、前者に関しては原子炉水中のヨウ素濃度と格納容器内漏洩、後者に関しては個人線量超過回数と計画外被ばく発生件数が検討されている。原子炉水中のヨウ素濃度は燃料健全性を、格納容器内漏洩は構造材料の健全性を示す指標となっており、水化学管理を適切に実施して水質パラメータを水化学管理指針で定める推奨範囲に保つことが重要である。個人線量超過回数に関しては、適切な水化学管理によるプラント線量率の低減により発生リスクを低減することができる。PI自体はプラントデータのごく一部であるが、その指標の背景となる水質データやプラント線量率等を公開していくことは原子力プラントの安全管理の透明性を向上させるために有用と考えられる。このような新しい検査制度の導入等きっかけとしてプラントデータを公知化し、産業界内外の研究者や技術者の目に触れることで、課題の早期解決や新たな技術の創出促進を図れる機会が増えるものと考える。このような仕組みづくりにより、学術界や産業界の研究者のモチベーションアップや人材育成にもつながるものと考える。
_技術情報基盤の整備のためには、当面、学協会(原子力学会)の場にて産・官・学のネットワークを形成して活動を維持するとともに、水化学と深く係わる分野との相互連携による推進が必要である。将来的には、新たな仕組みを構築していくことも必要である。なお、水化学情報の集大成の成果の一つとして「原子炉水化学ハンドブック」が2000年に発行され、多くの関係者に活用されている。現在、水化学部会において改定版発行の作業が行われている。
_1F事故を受け、特に、除染や廃炉等事故への対処のほか、事故の教訓を踏まえた原子力施設の安全性向上や過酷事故対応等の課題に対する国民的な関心や社会的要請、新たな知見・技術の確立への期待・必要性が高まっており、水化学分野からの取り組みが期待されている。
② 人材育成方策の検討
_我が国では、これまでの技術開発・運用を担ってきた世代のリタイアが続き、人材不足の状況が続いている。これに対しては、原子力規制委員会による原子力規制人材育成事業や文部科学省による国際原子力人材育成イニシアティブ事業等、長期的な原子力研究・開発・利用を促進させるための人材育成プログラムが実施されている。水化学分野においても、産・官・学のいずれにおいても人材が減少している状況に鑑み、産業界からの学術界への情報発信等、積極的な関与をして若い人材の育成を行い、継続的に人材を確保していくことが必要である。
_産業界における人材育成は、技術の伝承とも深く関係しており、従来蓄積されてきた経験や知見を体系的に整理していくことは、この面でも有効に活用できるため、積極的かつ継続的に推進する。特に、水化学は、原子力プラントの構造材料、燃料の健全性に影響を及ぼすため、プラントシステム全体にまたがる領域をカバーする必要があることから、総合的な知識・経験が必要となる。このため、人材育成も一朝一夕にはいかず、長期にわたる計画的な指導、教育も要求される。日本原子力学会は、国内外での情報発信や立場を越えた人的交流等が図れる場であり、技術的合意や共通認識の醸成に欠かせない役割を果たしている。このような活動は、人材育成にも大きく寄与している。
_1Fの廃炉に伴う汚染水処理や構造材の腐食影響評価・防食、及び過酷事故時のFP挙動解明、さらに過酷事故拡大防止設備の設計情報取得等に対し、水化学からの寄与が期待されており、技術情報の収集や人材の供給等で貢献している。
(3) 学協会規格等の整備
_水化学関連技術の体系化を通じ、それを規格・基準、標準の形にまとめていくことは軽水炉プラントの運転に対する一般公衆への説明性、透明性を確保していく意味で重要な因子となる。水化学分野においては、既に、PWR一次系、PWR二次系及びBWRの水化学管理指針、PWR及びBWRの化学分析方法の標準が制定されている。これら指針は、電気事業者やメーカの技術者にとって、より良い水化学管理を実践していく上で拠り所となるもので、解説に記載された管理値等の設定に係わる技術根拠は、若手技術者への技術伝承のみならず、大学等の機関の研究者にとっても教材として幅広く機能するよう配慮されている。この動きをさらに加速して学協会規格・基準に反映させていくことが重要である。今後、最新知見を取り入れていくことで、合理的な規制の実現にも結びつくことになるとともに、グローバルスタンダードの地位を確保していくことが可能となる。
_各発電所ではアクシデントマネジメントの整備が進められ、日本原子力学会においては「原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準」が制定されている。これらは、新たに獲得された研究成果を踏まえて、不断に整備・充実していく必要がある。現在のところ、化学的な観点からの対応は示されていないが、今後は、事故時の水化学情報を反映させることにより、より実効性が高まり、事故影響の低減に貢献すると考えられる。
(4) 国際協力の推進
_原子力発電プラントの安定的運転に貢献する水化学技術の高度化には、国際協力による情報交換が有益である。水化学技術の基礎基盤をはじめプラントの運転経験、それに各国の規格・基準類の整備状況等に関し、情報を確保していくことが必要である。同時に、我が国からの情報発信による相互の情報交換により、水化学分野での総合的なポテンシャルの向上が期待できる。このような活動をさらに効果的にするため、新たな枠組みも検討する。水化学国際会議は、水化学分野における最も権威ある国際会議であり、これまで、欧州、日本(アジア)、米国で隔年開催されてきている。我が国の寄与も大きく、日本原子力学会水化学部会が定期的に会議を主催する等、今後も貢献を継続していく必要がある。また、これまでの既存の水化学国際会議等の場での情報交換はもとより、人員の相互交流を含むより進んだ情報交換体制の構築も必要である。
_また、昨今のアジア諸国での原子力導入の動きに対しては、我が国での経験等を効果的に移転していくことも考えるべきであり、そのための仕組みも必要である。すでにこれまでも我が国主導で開催してきたアジア水化学シンポジウムのような場を通じた活動をベースに、これを発展させた枠組み構築も必要である。
_水化学技術の高度化や事故時対応の水化学情報整備の観点から、国際的な情報交換を継続的に進めると同時に、我が国が培った技術を海外に発信していくことは、原子力全体の発展にも有用と考えられる。

期待される効果
(成果の反映先)

①   水化学技術情報が蓄積・整備されることにより、将来にわたって技術伝承と人材育成が図られ、プラントの安全・安定な運転維持に寄与できる。
②   事故の発生及び拡大防止のための標準類作りに、化学的観点から寄与できる。
実施にあたっての課題 ・課題の緊急性の明示化
・研究開発のための資金確保
必要な人材基盤 (1) 人材育成が求められる分野

    • 広く原子力分野に精通している人材
    • 標準、規格等の制定に精通している人材
    • 広く国際的なネットワークを有する人材

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 経験豊富な人材のリタイアが進行している。
    • 研究コミュニティの維持が危ぶまれるほど研究の場が狭まっている。
    • 水化学の分野では標準、規格等の制定の実績が少なく、人材が不足している。

(3) 課題

    • 計画的かつ継続的な人材確保方策
    • 若手技術者の積極的な参加を勧め、経験を積むことで幅を広げる。
他課題との相関 「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」との対応

    • 人材育成方策、事故時マネジメント
実施時期・期間 短期~長期。着手は短期、以降、継続して実施。

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界、官界、学術界/産業界、官界
研究基盤の確保
<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、研究基盤を整備し研究を実施することにより技術情報を取得し、人材の供給を受ける。
    • 学術界は、獲得した研究費により基礎・基盤研究を実施する。
    • 国は、実施主体として、安全基盤研究による情報を獲得する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界、学術界/産業界

    • 人材育成方策の検討
    • 化学管理に関する民間規格・基準類の整備
    • 水化学管理に係わる技術書の整備

<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、水質管理基準等の整備を行うことで、規格基準類の整備を行うことができる。
    • 学術界は、規格基準類の整備に関した検討を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界・官界/産業界・官界

    • 水化学に関する技術情報の整備

<考え方>

    • 電気事業者は、実施主体として、技術情報を取得でき、水化学管理に反映できる。
    • 国は、実施主体として、技術情報を獲得できる。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
その他