6.4 環境負荷低減

_原子力の平和利用が始まって半世紀が過ぎ、現在原子力はエネルギー利用と放射線利用により、様々な分野で有効に活用されている。エネルギー利用としての原子力発電は、その他の化石燃料を使用する発電と比較して温室効果ガスである二酸化炭素をほとんど放出しないエネルギー源であり、地球環境への負荷軽減に大きく貢献できる可能性がある。しかし、原子力発電は放射性廃棄物が副次的に発生することが広く認知されており、その発生量の低減が原子力安心を獲得するために必要である。
_このような背景のもと原子力発電プラントでは、安全・安定運転に資するため、これまで水化学側面からの系統構成材料、ならびに燃料に対する信頼性・健全性の維持確保や公衆、ならびに運転業務従事者の被ばく低減等を目的とした技術開発が進められており、現時点での最適な水化学制御が適用されている。それら水化学制御を運用していくなかで、副次的に放射性廃棄物(使用済樹脂、フィルタ等)や制御用薬品を含む排水等が発生してくる。現状、既存技術を用いて適切な処置・処理を実施しているが、長期サイクル運用や出力向上運転等プラント高度化と新たな水化学制御の適用に鑑み、水化学技術改善と両立させた廃棄物/排水処理の最適運用を目指し、環境負荷の少ない発電プラントとして環境への影響を低減すること(例えば、バックエンドへのリスク軽減や平準化、地域共生・共存、作業被ばく線量低減等)が重要である。
_この環境への影響低減に関する現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析
(1) 廃棄物発生抑制(PWR、BWR)
_一次系においては、材料健全性維持、被ばく低減や環境放出低減のため、イオン交換樹脂やフィルタを使用して一次冷却材中の放射性腐食生成物や核分裂生成物を除去している。イオン交換樹脂は除染係数(DF)の低下、酸化劣化等により新樹脂に取替えられ放射性廃棄物となる。また、フィルタは経年劣化に加え、放射性腐食生成物等により発生する差圧等により取替えられて放射性廃棄物となる。これらの取替えはプラントの運転管理の一環で各原子力発電事業者の経験により運用されている。
_イオン交換樹脂やフィルタの浄化性能維持と廃棄物発生量低減とはトレードオフの関係がある。例えばイオン交換樹脂の使用期間延長は粒子状成分に対するDF低下とともに樹脂劣化に伴い発生するTOC等の放出による影響もある。また、フィルタの細メッシュ化は微小粒子に対しても除去可能となるが、差圧上昇等の取替本数増大を招くことになる。
_イオン交換樹脂は過酸化水素を含む水の通水等により酸化し、TOCの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、脱塩塔の使用期間を短くしている。大気開放され放射線が存在する使用済み燃料ピット(SFP)水の浄化系で特に顕著である。
_また、放射性廃棄物中に存在する14Cは、半減期が5730年と埋設後も長期にわたり放射線を放出するため、環境への影響が大きい核種である。原子力発電所における14Cの生成源としては、冷却材(水)や燃料ペレット中の酸素(UO2として)の17O(n、α)14C反応によるもの、構造材料や燃料ペレット中に不純物として含まれる炭素の 13C(n、γ)14C反応によるもの、及び燃料の製造過程において不純物として混入する窒素の14N(n、p)14C反応によるものがある。このうち、燃料内部で発生する14Cは燃料被覆管の破損が発生していない通常運転プラントにおいては問題とならず、また、構造材料の不純物成分の放射化により発生する14Cも微量であり、軽水炉における14Cの主な生成源は、原子炉水自身が持つ酸素であると言われている [6.4-1]。この原子炉水中の酸素の放射化によって発生した14Cは原子沪水中で反応により化学種を生成し、構造材表面に付着する。
_まず、インベントリ低減の観点からは、軽水炉である以上は原子炉水からの14Cの生成を抑制することは困難である。しかしながら、添加薬品やガス、イオン交換樹脂に含まれる窒素は中性子吸収断面積が大きく、14N(n、p)14C反応による生成も無視できない可能性があり、この場合は水化学の改善により低減できる可能性がある。また、構造材料の放射化によって生成する14Cは材料の腐食に伴って炉水中に溶出する可能性があるため、材料の腐食抑制が放射性廃棄物中の14Cの低減に繋がる可能性がある。
_次に、廃棄物発生量低減の観点からは、放射化により生成した14Cの放射性廃棄物中への移行・付着を抑制することが必要である。すなわち、14Cのインベントリ低減に加え、放射性廃棄物へ移行する経路を断つ、または放射性廃棄物から除去することが出来れば、環境への影響を軽減することができる。しかしながら、炉内で生成した14Cが放射性廃棄物へ移行する経路及びそのメカニズムが明確となっていないことから、現段階においては移行経路を遮断するための有効な手段は見出されていない。従って、冷却材中での14Cの挙動解明、すなわち、14Cの発生から廃棄物への取り込みに至る過程での化学形態を含めた挙動解明が重要な課題となる。

(2) 環境への放出低減(PWR)
_PWR二次系においては、設備・機器の腐食防食等の観点から、制御用薬品としてアミン(アンモニアやエタノールアミン)、脱酸素剤としてヒドラジンといった窒素含有の化学薬品を使用している。また、蒸気発生器伝熱管等へ付着したスケールを改質/除去する技術として、キレート剤(例としてEDTA:エチレンジアミン四酢酸)等を用いた化学洗浄の適用が考えられる。このようなプラント保全活動の中で発生する化学薬品等を含む排水は、既存の技術により適切に無害化処理等を行い、問題ないことを確認したのちに放出している。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_放射性廃棄物を低減させる手法としては、廃棄物の濃縮や高効率化による減容対策も挙げられるが、浄化系統運用の合理化・最適化や新技術の導入(樹脂やフィルタ開発等)による発生量抑制も有効な手法であることから、水化学的側面からの廃棄物発生低減方策を検討する必要がある。
_水質汚濁に関する環境基準は、化学的酸素要求量(COD)の他に指定海域について全窒素の規定がある。アミンの一部はCOD管理対象薬剤となり、また、全てアミン基を有していることから窒素管理対象薬剤となる。このため、これら薬剤の使用量低減手法並びに脱窒手法の高度化について検討していく必要がある。また、ヒドラジンについてはがん原性が認められ、使用量を低減し環境への放出を低減するか、ヒドラジン代替剤が求められている。制御薬品の選択や処理技術の開発においては、廃棄物発生抑制や環境負荷低減を効率的かつ効果的に達成するため、プラント高度化や新たな水化学管理の影響も同時並行で評価し、改善策を立案する。さらに、実機適用実績を踏まえたPDCAサイクルを確立する。

(1) 一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の最適化(PWR、BWR)
_イオン交換樹脂、フィルタについては、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂及び耐酸化性イオン交換樹脂の開発とその適用、脱塩塔樹脂運用及びフィルタ形状選定の更なる最適化検討を行う。これにより、現在の年間廃棄物発生量に比べて1割低減を目標とし、原子力安心の獲得と廃棄物処理費用の低減による発電コストの低減を目指す。また、プラントの安定・安全運転のために原子力発電所における廃棄物管理のあるべき姿として、廃棄物量の増加によるプラント運転に支障を来たさない状態を維持するためにも1割低減が必要。

(2) 環境への放出低減(PWR)
_アミンを含む廃液については、実機適用可能な全窒素の低減手法、処理手法の高度化について技術的な検討を行う。ヒドラジン使用量については、SG伝熱管の電位に影響のないレベルまで低減可能な濃度を評価し、実機試験を行う。ヒドラジン代替剤については、国内プラントへの適用に向け、低温での脱酸素性、還元性、ならびに、定常運転時の高温環境での構成材料への適合性評価を行うことが重要である。
_蒸気発生器二次側化学洗浄廃液については、実機適用可能な効率的且つ合理的な廃液処理手法の確立について技術的な検討を行う。

(3) 14Cの生成・移行抑制(PWR、BWR)
_前述の通り、14Cによる環境への影響を軽減するためには、炉内で生成する14Cのインベントリ低減に加え、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去が有効であるが、その技術開発のためには先ず14C発生源の特定と発生量に及ぼす各々の寄与割合の推定に加え、放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムを解明する必要がある。
_14C発生源の特定と寄与割合の推定に対しては、冷却材、材料からのものに加え、添加薬品やガス、イオン交換樹脂に含まれる窒素から生じる14C量を推定し、各々から生じる14C量を比較し水化学面からの低減策を検討する。
_放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムの解明に対しては、炉水中(BWRでは主蒸気、復水も含む)、液体、固体、気体廃棄物中における炭素の化学形態を詳細に調査し、それに基づき移行メカニズムを推定し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の更なる最適化
    • 高交換容量イオン交換樹脂及び耐酸化性イオン交換樹脂の開発と適用性評価
    • ヒドラジン使用量低減のためのラボ試験と実機適用性評価
    • ヒドラジン代替剤の定常運転環境におけるラボ試験と実機適用性評価
    • 効率的且つ合理的な洗浄廃液処理手法の高度化
    • 廃棄物中の14C低減
    • 新技術の開発促進
    • 環境リスク低減
    • 地域との共生・共益
    • 積極的な情報公開・情報提供

②国・官界の役割

    • 基盤整備
      _-環境負荷の低い原子力発電に対する国民理解促進
      _-原子力への投資の確保(インセンティブの付与等)
    • 環境リスク低減のための制度構築・運用
    • 海外規制動向等の把握と国内への反映

③学術会の役割

    • 化学物質等の科学的リスクの基礎データ、新知見の蓄積
    • エネルギー・原子力教育の充実と強化
    • 研究の活性化と充実
    • 人材の育成及び供給

④ 学協会の役割

    • ロードマップ策定・維持
    • 人的交流と育成

⑤ 産官学の連携

    • 資金の効率的且つ効果的な運用と成果の共有
    • 実用化までの期間短縮、開発資金の重複の削減
    • 成果の透明性と客観性、規制への迅速な対応
    • 人的交流と育成

_図6.4-1に環境負荷低減に係わる導入シナリオ、表6.4-1に技術マップ、図6.4-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.4-1] 日本原子力学会標準, “放射性廃棄物の放射能濃度決定方法-原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の放射能濃度決定方法に関する基本手順:2007-浅地中ピット処分廃棄物について-”, 日本原子力学会 (2008).

課題調査票

課題名 環境負荷低減

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

・廃棄物量軽減に向けた技術の整備
→ 廃棄物量軽減により、発電所での保管量縮小による安全性、信頼性向上を図るとともに、環境への漏えいリスク低減を図る必要がある。・環境影響低減に向けた技術の整備
→ 水処理薬剤変更や運用方法の最適化により、環境への放出量を低減し、環境の安全性に貢献する必要がある。
概要(内容) ①  PWR一次系浄化脱塩塔、フィルタの運用の最適化
_イオン交換樹脂、フィルタについては、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂の開発とその適用、脱塩塔樹脂運用及びフィルタメッシユ選定の更なる最適化検討を行う。
②  PWR一次系浄化耐酸化性イオン交換樹脂の適用
_イオン交換樹脂は過酸化水素を含む水の通水等により酸化し、TOC、硫酸イオンの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、架橋度を高くした耐酸化性イオン交換樹脂の実機適用性を評価する。
③  BWRのCUW・FPC系ろ過脱塩器樹脂の交換頻度の延長
_イオン交換樹脂は、廃棄物発生量軽減を図るため、高交換容量イオン交換樹脂の開発とその適用、及び樹脂寿命を勘案した樹脂交換の最適化検討を行う。
④  BWR 耐酸化性樹脂及び高浄化性能樹脂の開発
_イオン交換樹脂は酸素等の酸化剤を含む水の通水等により酸化し、TOC、硫酸イオンの放出量が多くなる。そのため、イオン交換容量に余裕があっても取替える場合があり、架橋度を高くした耐酸化性イオン交換樹脂の実機適用性を評価する。
⑤  ヒドラジン代替剤の実機適用性評価
_ヒドラジンの代替剤に関して、防食性能並びに高温での系統材料とのコンパチビリティーに関するデータを取得し、定常運転時の代替剤実機適用を目指す。
⑥  PWR アミン系水処理廃液の低減と処理技術の向上
_PWR二次系のpH調整剤として用いられるアミンは、一部のものはCOD管理対象薬剤となり、また、全てアミン基を有していることから窒素管理対象薬剤となる。このため、これら薬剤の使用量低減手法並びに脱窒手法の高度化を行う。
⑦  PWR 蒸気発生器二次側化学洗浄廃液処理技術の向上
_蒸気発生器の長期保全において、60年運転を達成するためには、蒸気発生器二次側の化学洗浄は必要な工程となりつつある。このため、化学洗浄で発生する廃液の処理手法の高度化を行う。
⑧  廃棄物中の14C低減
_14C生成インベントリ低減の観点では、原子炉水中の酸素からの生成については、プラントの運転方法を大きく変えることは出来ないことから対応が困難である。一方、窒素からの生成に着目した生成原因を特定し、廃棄物中の14C低減方策の検討を行う。また、廃棄物発生量低減の観点では、放射性廃棄物中への14Cの移行・付着メカニズムを解明し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。
導入シナリオとの関連 ・廃棄物量軽減に向けた技術の整備
→ 廃棄物量軽減により、発電所での保管量縮小による安全性、信頼性向上とともに、環境への漏えいに対するリスク低減となる。
・環境影響低減に向けた技術の整備
→ 環境への放出を低減でき、環境の安全性に貢献できる。

課題とする根拠
(問題点の所在)

①  イオン交換樹脂やフィルタは、プラント状態に対応した運用の最適化を検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
②  耐酸化性イオン交換樹脂使用に向け、長期使用による劣化や使用済み樹脂の処理方法等、全体的な検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
③  CUW・FPC系ろ過脱塩器樹脂の長期間使用を検討し、廃棄物発生量抑制を図る必要がある。
④  イオン交換樹脂の劣化速度や浄化率低下を防ぐ新樹脂の開発を行い、出力増強等に備えておく必要がある。
⑤  ヒドラジンは変異原生が認められていることから、環境への放出の低減が求められていることから、使用量を減らす必要がある。
⑥  水質汚濁に関する環境基準を遵守するために、アミン系水処理廃液の低減手法及び処理手法の高度化を検討する必要がある。
⑦  洗浄廃液の処理手法を確立し、環境への洗浄薬品等の放出量を削減する必要がある。
⑧  14C生成原因及び移行経路を特定し、廃棄物中の14C発生抑制を図る必要がある。
現状分析 ①  イオン交換樹脂やフィルタは、プラント固有差があることから、最適化の余地があると考えられる。
②  架橋度を高めたイオン交換樹脂は一部のプラントで使用が始まっている。
③  CUW・FPC系ろ過脱塩器の樹脂は、残交換容量を確認していないため、交換頻度を延長する余地があると考えられる。
④  原子炉出力増大に伴う復水温度の上昇等により現状の樹脂では寿命が短くなることが想定され、廃樹脂発生量増加が懸念される。また、プラント長期停止による廃樹脂発生量増加も懸念される。
⑤  実機温度条件での材料に関する材料健全性データを取得し、ヒドラジン代替剤の定常運転中への適用性評価を行う必要がある。
⑥  全窒素については、必ずしも低減対策が取られていない状況にある。
⑦  蒸気発生器性能回復のために化学洗浄が行われており、環境負荷低減を図るためにも効率的な廃液処理手法を構築する必要がある。
⑧  インベントリ低減の観点では、酸素からの発生抑制はプラント運転上困難なことから、窒素に着目した14C発生抑制方策を構築する必要がある。また、廃棄物発生量低減の観点では、放射性廃棄物中への14Cの移行メカニズムを解明し、放射性廃棄物への移行経路の遮断及び放射性廃棄物からの除去法について検討する。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 被ばく線源の増加を避けながら廃棄物発生量の低減が可能となる。
    • 環境の安全性に貢献できるとともに環境負荷の低減が可能となる。
実施にあたっての問題点 ①  系統水中の粒径分布等を測定するには時間を要するため、プラント間で比較可能な調査要領を準備しておく必要がある。
②  樹脂の性能確認だけでなく、使用済み樹脂の処理方法や樹脂移送上の物理的な性質も確認しておく必要がある。
③  実機での効果確認に時間を要する。
④  海外動向を把握する必要がある。
⑤  ヒドラジン代替剤の定常運転時に関するデータを拡充するには、PWR環境を模擬した高温・高圧水環境下で長時間試験が必要である。
⑥  PWRに実機適用可能な全窒素の低減手法、処理手法の高度化について技術的な検討が必要である。
⑦  化学洗浄廃液処理手法の高度化について技術的な検討が必要である。
⑧  14C発生原因及び移行経路の特定が必要である。
必要な人材基盤 (1)人材育成が求められる分野

    • 水化学、放射線防護

(2)    人材基盤に関する現状分析

    •  環境影響低減のための水化学管理技術はメーカや電気事業者が開発を継続してきており、現在は十分な人材の確保に努めているが、継続して開発を進めるために人員の維持が必要である。官・学には水化学の専門家が少ない。
    •  技術の実証のためには実験炉や高温高圧環境下での長時間試験を行う必要があるが、必ずしも十分ではない。

(3)    課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 東電福島第一事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、東電福島第一事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。
他課題との相関
    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d33-1 被ばく低減技術の高度化(水質管理技術、遠隔操作・ロボット技術、放射線防護技術)
    • S111_d39 検査・補修技術の高度化
    • M107_d34 保守・運転管理の合理化・省力化による保守・運転員負荷軽減
    • S113_d45 処分場の設計・評価技術の確立による社会的受容性の向上
実施時期・期間 中期(2030年)
実施機関/資金担当

<考え方>

産業界・学協会/産業界

    • 廃棄物量軽減に向けた技術の整備
    • 環境影響低減に向けた技術の整備

<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、電に事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電気事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • メーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて規制基準及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
その他

 

6.3 被ばく線源低減

_水化学改善による被ばく線源低減は、作業環境改善により検査・点検作業が円滑に進められ、従事者の安全確保に大きく貢献できるだけでなく、原子力発電所の安全・安定運転にも貢献する。このため、水化学改善による被ばく線源低減は、プラントの安全性維持に必要な深層防護のレベル1 「水化学による信頼性の確保」に該当する。また異常な過渡変化時の水質変化が燃料健全性や配管への付着挙動に影響を与え、その結果線源強度上昇に至ることを防止若しくは最小限にとどめるためにも有効であり、深層防護のレベル2「異常・故障の拡大防止」に該当する。さらに、水化学により炉心内外の放射能インベントリを低減することは深層防護のレベル3「事故の影響緩和」に該当する。なお、事故後の従事者の被ばく低減は物理的な対策(遮蔽、換気、防護装備)が主体であり、水化学のアプローチは深層防護のレベル4 「設計基準を超す事故への施設内対策」には該当しない。
_我が国の原子力発電プラント1基当たりの年間平均線量(以下、「平均線量」という)は90年代後半以降、諸外国と比較して高く推移しており、この原因は1サイクルあたりの運転期間の違いによる年間作業量の違いによるとの指摘があった。しかしながら、米国やスウェーデンでは近年も着実に減少傾向にあることから、単純に年間作業量の違いのみとは言い切れず、我が国の被ばくの現状を詳細に分析し、さらに被ばく低減を進める必要がある。
_また我が国の原子力発電プラントでは震災後に長期停止を余儀なくされているが、長期停止による線源核種の減衰と作業量の減少に伴い、平均線量は震災以前より大幅に低減しているが、再稼働後の平均線量がどのように推移するか注目されるところである。6.3-1再稼働後も現状の平均線量を維持するためには、既存技術の着実な適用のみならず、新規の水化学技術の開発・適用が望まれる。

_以上の背景をふまえ、原子力発電所の再稼働後の線源強度上昇を抑制するため、今後も継続して被ばく線源低減のための水化学技術の研究・開発を進めることとし、その目標を以下のとおり設定した。
<当面の目標>

    • 2023年度末を目途に既存線源低減技術の高度化を図り、再稼働後の線量率を2009年度線量率の30%減に抑制する。(世界トップレベルの平均線量維持)

<中長期目標>

    • 2024年度以降被ばく線源生成メカニズムの解明等により、革新的な線源低減技術の開発を進める。(世界トップレベルの平均線量を維持)

_以下に現状分析、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について示す。

(A) 現状分析
①  我が国の原子力発電所で従事する放射線業務従事者の「個人被ばく線量」は、適切に管理されており、線量限度を十分満足している。またこれまでPWRでは高pH管理、BWRでは酸素注入、給水鉄制御等の水化学対策のほか各種被ばく線源低減対策が実施されてきたことにより、1990年以前までは平均線量も欧米諸国に比較して良好な結果を得ていた。しかし、1990年以降は諸外国の被ばく線量低減が進む中、我が国の平均線量はほぼ横ばいで推移し、震災前の時点では欧米諸国と比べるとやや高い水準にあった。
② 我が国の平均線量が横ばいである理由としては、欧米諸国と比較し線量率は同程度であるものの、運転期間の違い等の理由により年間あたりの作業量に違いがあることに起因する可能性がある。
③ 福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の停止が長期間に及んでおり、長期停止による線源核種の減衰と作業量の減少に伴い、平均線量は震災以前より大幅に低減しているが、再稼働後の線量がどのように推移するか注目されるところである。
④ 世界的規模で環境問題が問われるなか、原子力の価値が注目されているとともに、世界各国では原子力安心を獲得するべく、近年IAEAを中心に被ばく線量低減活動が盛んに実施されている。我が国もより一層の被ばく線源強度低減対策を行い欧米諸国と同等の状況に改善する努力が必要である。
⑤ 2009年1月より新保全プログラム(新検査制度、柔軟な運転サイクル)が適用され、今後作業量の低減が期待される。なお、福島第一原子力発電所での事故後、運転時間の増加、炉出力向上、燃料高燃焼度化等の被ばく線源の増加に繋がる動きは停滞しているが、一方で福島第一原子力発電所の廃炉作業や新規制基準対応、プラント高経年化に伴う作業量の増加、ならびに熟練者技術者が(高齢化による)減少するなかでの現状同等の設備保全品質の維持等を考慮すると、被ばく線量低減に対する社会的ニーズは今後も依然として高い。このため、被ばく線量低減のためには、水化学管理の状態を監視し、そのデータを診断した結果に基づいて合理的な保全を行うことが必要である。また、再稼働後も欧米にて達成している世界トップレベルの平均線量を維持できるよう継続的な水化学技術の開発が必要である。
⑥ 現在、既存技術の高度化と被ばく線源生成メカニズムの解明という視点から、PDCAサイクルを廻し平均線量低減のための技術開発を進めており、当面、溶存水素最適化や亜鉛注入の高度化及び供用中除染の適用により、2009年度の線量率を30%低減(2023年度)することを目標とし、新保全プログラムの適用効果と合わせて世界トップレベルの平均線量の維持を目指す。また中長期的には線源生成メカニズム解明により、より効果的な新技術の開発を目指して取り組んでいる。なお、これらの技術の中には溶存水素最適化等被ばく線源強度低減のみならず系統材料の健全性確保にも有効な技術があり、これらは次世代炉の水化学技術としても非常に有望である。
⑦ 被ばく線源強度低減技術の開発には、関連する燃料、材料等から専門的な知識・知見を集約し、産官学が共通認識をもって合理的に進める必要があり、今後より一層、分野横断的な取り組みが必要となる。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_冷却材中のクラッド挙動については、従来から、日本も含め各国で検討がなされており、実機クラッド分析、水質調査結果を元に、水化学という視点から被ばく線源強度低減を目的に冷却材への低濃度亜鉛注入等、種々の線量低減対策が実施されている。
_これら水化学改善策の適用効果の評価には、現在、被ばく線源挙動メカニズムに基づくモデルを用いて評価しているが、新規の水化学対策を適用した場合の評価精度が低下する等の問題があり、メカニズム解明についてもさらに検討が必要な状況にある。
_このような状況を踏まえ、今後の研究開発には、技術開発とメカニズム解明を並行して進めることが重要で、具体的には既存技術の高度化や新技術の開発を図りつつ、その検討過程で得られた試験データや実機データ等の知見をメカニズムの解明にフィードバックし、PDCAサイクルを回しながらシステマチックに検討する必要がある。また、燃料高度化、軽水炉利用高度化を考慮すると、水化学だけでなく、燃料や系統材料への影響評価の検討が必要となることから、燃料、材料等関連分野と幅広く連携して、専門的な知識・知見を集約し、産官学が共通認識をもって合理的に技術開発を進めることが重要である。

① 既存線源低減技術高度化
_PWRにあってはリチウム(Li)濃度や水素濃度の最適化、亜鉛注入等、BWRにあっては給水水質制御・亜鉛注入等の水質制御に関する既存技術の高度化をはかるとともに、Liの代替剤として有望視されている天然カリウム(K)によるpH制御の高度化を図る。
_被ばく線源除去技術である除染技術を、より廃棄物の少なく定期検査工程に影響しない技術に改良していく。

a. 高Li運用(PWR)
_最適pH値に管理することは腐食抑制と燃料表面への腐食生成物移行抑制による被ばく低減に有効とされていて、弱酸であるホウ酸の濃度に対応してLi濃度を高め、運転サイクル全体を最適pHとすることが考えられる。しかし、高Li濃度管理の適用には、照射試験等による燃料被覆管腐食影響確認とともにラボ試験によるニッケル基合金のPWSCC亀裂進展に対する影響を確認する必要がある。一方、Kは、Liよりも材料への腐食性が小さいと言われていることから、Kの適用によってニッケル基合金のPWSCC感受性を高めることなく運転サイクルを通して最適なpHに維持できる可能性がある。
b. 濃縮10B運用(PWR)
_被ばく低減のために最適pH管理とするには高Li濃度管理適用以外に10Bの比率を高めた濃縮10Bの適用がある。既設プラントに適用するにはホウ酸置換、廃液処理、10B濃度分析管理や、発電所内で天然ホウ酸と混在することとなるため、ホウ酸粉の識別管理、等運用面での要領作成が必要であり、放射性廃棄物量及び定検期間延長については、定量化する必要があるが、研究要素は残っていない。なお、ドイツでは、30%程度の濃縮10Bが実機で使用されている。
c. 溶存水素濃度最適化(PWR)
_溶存水素はNiの化学形態を通して被ばく線源挙動に影響を与え、低溶存水素濃度の方が被ばく線源強度の低減に有効であると考えられている。ただし、出力運転時の溶存水素濃度下限値(15cc/kg・H2O)を下回る低濃度(低DH)の適用に関しては、水の放射線分解抑制効果の維持、燃料被覆管等材料健全性及びPWSCC抑制効果を確認する必要があり、それらの結果を踏まえて実機適用を目指す。この実機適用に向けて燃料照射試験(燃料被覆管材料健全性、被ばく低減、及び放射線分解評価)並びにSCC試験(PWSCC、IASCC評価)を実施する必要がある。また、本試験で得られたデータをPWSCC発生メカニズム解明の一助とする。
d. Co除去イオン交換樹脂適用(PWR)
_近年、米国のPWRプラントにおいて、フィルタで除去できない微細な粒子状(コロイド状)のCoを除去するイオン交換樹脂の適用例が報告されており、適用後に冷却材中放射性Co濃度の著しい低下が認められている。当該樹脂の国内プラントへの適用に際しては性能と設備への影響を確認する必要がある。国内でも採用された場合には、実機プラントのデータをフォローし、効果を把握する必要がある。
e. プラント停止時水質管理の高度化(PWR)
_PWRプラントでは、溶存水素及び放射性希ガスの除去、配管等からのクラッド溶解促進のための、停止操作・水質管理(脱ガス、酸化運転)が行われているものの、停止時のこれらクラッドの溶解挙動については充分に理解されていない。停止時におけるクラッドの溶解挙動を評価し、被ばく低減に有効な脱ガス、酸化運転手法を開発する必要がある。
f. 被ばく線源低減水質制御技術の高度化(BWR)
_貴金属注入、酸化チタン等の水化学技術の適用にあたり、炉内での放射能挙動を評価することにより、被ばく線量に与える水質変更の影響を確認し、必要に応じ対応策を立案する。
g. 除染法の高度化(BWR、PWR)
_点検/保守作業での作業被ばく線量を低減するために機器除染がPWR、BWRで実施されている。また系統全体の除染は国内では“ふげん”と一部のBWRにおいて適用されており、点検・検査や大型工事の作業被ばく低減に貢献してきている。今後さらに機器除染、系統除染とも実機で活用される範囲を拡大するには、機器健全性に問題が無いのはもちろんのこと、除染に要する工程を短縮し、発生廃棄物が少なく、しかも除染後の再汚染の問題が無い除染法の開発が必要である。
_また、廃炉プラントにおける被ばく線量低減及び廃棄物の処分費用を含む解体費の削減のためには、比較的線量率の高い廃棄物量の削減が有効であるが、このためには、より除染効果が大きく且つ二次廃棄物量が小さい除染方法の開発が必要である。
h. 亜鉛注入の高度化(BWR、PWR)
_亜鉛注入については、メカニズムに立脚した最適な注入運用を目指すべく、亜鉛注入プラントから取り出した機器表面の酸化被膜の観察等から亜鉛注入による線源低減機構を明らかとする必要がある。
_また、亜鉛注入の副次効果として、SCC抑制効果が得られる可能性について提唱されていることから、プラント高経年化対策としての亜鉛注入の有効性についても検証する必要がある。

② 革新的線源低減技術開発
a. 被ばく線源生成のメカニズム解明
_被ばく線源(線量率)低減による作業環境の大幅な改善のためには、ブレークスルー技術が必要である。既存の技術にとらわれず、改めて基盤研究を立ち上げ、機構論に基づいた技術の開発を目指すことも必要であり、メカニズム解明のための試験が必要である。
_定期検査時の被ばく線源評価のため放射性腐食生成物の挙動はこれまでの研究によりある程度は解明されてきているが、多くは現状の実機実績をベースとした範囲での評価である。出力増加による沸騰状態の変化や新材料採用等これまでの実績の延長線から外れる場合に対しても線源強度を推測できるように、メカニズムに基づいた挙動モデルを構築し線源評価を可能とすることが望ましい。
_被ばく線源の生成は、放射線照射や沸騰現象、材料の腐食機構等が複雑に関連した事象である。このため、メカニズム解明のための試験が必要で、材料や熱流動分野等と連携しつつ、基礎メカニズムを解明し、機構論的手法を構築し、それに基づいたモデルを構築する。
_具体的には「PWR一次冷却材溶存水素濃度最適化」や「被ばく線源生成メカニズムに基づいた対策技術開発・実証(PWR、BWR)」において取得されるデータを検討の出発点として被ばく線源生成メカニズム解明を進めるのが適当である。
_また、当面メカニズム解明の検討のために必要なデータは実機のデータや既存の試験炉等を有効利用して取得することとなるが、放射線照射や沸騰の複合的因子を解明し、メカニズムの検討を高度化するためには今後、照射試験施設等試験設備の整備が望まれる。
b. 燃料高度化、軽水炉利用高度化、高経年化対応水質変更の影響評価
_米国の事例では、燃料の高燃焼度化や増出力により被ばく線源が増加する懸念が指摘されている。また、水化学によるSCC対策である「貴金属注入」により被ばく線源が増加した事例も報告されている。
_海外事例の調査や機構論的手法により影響を定量的に理解し、トレードオフを回避した最適な水化学管理を目指す。
i) 燃料高度化の影響評価
(イ)PWR
_運転期間の長期化により腐食生成物量の増加と比放射能の上昇が予想されるため、海外調査等により先行している海外プラントをベースとして、AOAや放射性クラッドバースト発生等の放射能挙動への影響を評価する。
_なお、本評価については、後述する軽水炉利用高度化での沸騰による燃料付着クラッドに関する試験と併せて検討し、実機データ、メカニズム検討及びラボデータをPDCAサイクルの中で有機的に結合し検討を進めていく。
(ロ)BWR
_運転期間の長期化を実施することにより、原子炉水放射能濃度の上昇が懸念される。また、原子炉内への鉄持込量が増加することによる停止時クラッドスパイク量の上昇も懸念される。これらの影響を明確にしておき、運転サイクルの長期化に備える。
ii) 軽水炉利用高度化の影響評価(出力向上、運転期間の長期化)
(イ)PWR
_発電機増出力による一次系高温側温度上昇に加えて、燃料表面でのサブクール沸騰の程度が大きくなる。炉心ボイド率の上昇により、燃料表面への腐食生成物の沈着量の増加と生成放射能量が増加すると考えられ、これらは放射能クラッドバーストの発生を増加させる。さらに、現状採用されている線源低減対策の効果が低下することも考えられる。これらの点から、試験炉による沸騰を考慮した燃料付着クラッドに関する照射試験を行い、線源強度への影響を評価する。具体的には前述の溶存水素濃度最適化での燃料照射試験及びSCC試験にて評価を実施していくことが適切である。
(ロ)BWR
_発電機増出力による原子炉熱出力が増加するため、炉心中性子量(束)が増加(分布が変化)する。ゆえに、放射化腐食生成物の生成量の増加が予想され、さらに、被ばく線源強度の増加が懸念される。
_このため、線源強度の上昇を抑制する適切な対策選定の検討に資するため、炉内環境の変化による放射化腐食生成物の挙動について評価を行う。
iii)BWR水化学変更の影響評価
_貴金属注入、酸化チタン等の新しい水化学技術の適用にあたり、炉内での線源挙動を評価することにより、水質の変更が被ばく線源強度に与える影響を確認し、必要に応じ対応策を立案する。
c. 革新的線源低減技術の開発と適用
_上記a.、b.の検討を基に、燃料や系統材料へのクラッドの付着・剥離現象を解明し、出力増加による沸騰状態の変化や高経年化対応水化学の改良、燃料材料の高度化等にも対応した新しい水化学を提案し、被ばく線源強度低減のブレークスルーに資する。
_BWRにおいてはタービン系へ放射能が移行する。BWR運転中のタービン系の主要な被ばく線源である16Nの主蒸気への移行を低減しタービン系線量率やスカイシャイン線量率を抑える。16Nの移行は高経年化対応水化学により増加する場合があるだけでなく、出力増加も影響する可能性があり、その影響を評価する必要がある。
_また、我が国発の技術であるBWR及びPWR一次系への分散剤添加による線源除去技術について、線源低減効果の検証、燃料被覆管、系統材料への影響評価を経て実機への適合性を評価する必要がある。

(C) 産官学の役割の分担の考え方
① 産業界の役割

    • 被ばく線量の制御と実績評価:有効性検証と副次影響確認
    • プラント運用上の影響評価
    • 被ばく線源低減技術の開発
    • 管理指針等の整備

② 国・官界の役割

    • データ及び評価手法の検証
    • 海外規制動向等の把握
    • 長期的な施設基盤の整備(照射試験炉)

③ 学術界

    • 基盤研究(基礎データ、新知見の蓄積)
    • 腐食生成物メカニズム解明への支援(放射能蓄積挙動等の科学的裏付け)及び研究

④ 学協会の役割

    • 人的交流と育成
    • ロードマップの策定・改定
    • 水化学評価技術、管理技術等の規格・基準化、標準化

⑤ 産官学の連携

    • 技術検証及び施設整備
    • 人材育成

(D) 関連分野との連携
① 燃料高度化
_運転サイクルの長期化、炉出力向上に伴い腐食生成物の発生・付着の増加により被ばく線源の増加が懸念されることから、燃料部門のほか関連各所と広く連携して対応が必要。
② 被ばく線量低減
_被ばく線源強度低減技術の開発は、原子力発電所の被ばく線量低減により、国際貢献に資するとともに、被ばく線源強度低減技術を盛り込んだプラント設計・運用計画を行うことによるプラント輸出競争力の強化にも大きく寄与することから、産官学が一体となって取り組むことが必要。また、世界トップレベルの平均線量を目指し、それを維持するという目標の達成には、実施主体である産業界がこの目標に対して高いインセンティブが持てることが重要であり、今後、その対策について産、学で検討が必要。

図6.3-1に導入シナリオ、表6.3-1に技術マップ、図6.3-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.3-1]A.Suzuki, “The Radiation Management Reported by Licensees and the Relevant Regulations Amendment in Japan”, 2018 ISOE international Symposium, October (2018).

課題調査票

課題名 被ばく線源低減

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒自主的安全性向上の効果的・継続的な取り組みにより、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。さらに、安全性向上を図りながら、我が国の原子力発電所従事者の被ばく量を低減する取組を行う必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給性かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期安定運転が必要となる。

概要(内容)

(1) 被ばく線源低減技術の高度化と適用
_被ばく線源低減のため、被ばく線源となる放射能の発生・移行・蓄積を抑制する水質管理技術を高度化するとともに効率的な腐食生成物の除去の検討や除染技術の高度化を行う。
(2) 軽水炉を取り巻く変化の影響評価
_貴金属注入等の水化学技術の適用、軽水炉利用高度化及び燃料高度化に伴い、被ばく線源の増加が懸念される。このため、プラント線量率上昇を抑制する適切な対策選定の検討に資するため、炉内環境の変化による放射能の挙動について評価を行う。
(3) メカニズム解明
_将来の新技術開発のため、材料表面における腐食・放射線影響・沸騰事象等の複合事象のミクロ的なメカニズムを解明し、被ばく線源の生成・蓄積メカニズムの知見を拡充する。
(4) 被ばく線源低減技術の開発
_被ばく線源の生成・蓄積メカニズムに基づいた新たな被ばく線源低減対策の開発を行う。

導入シナリオとの関連

_水化学による被ばく線源低減技術の高度化・開発による被ばく線源の低減

課題とする根拠
(問題点の所在)

水化学RMと深層防護との関連付けの検討結果を参照

現状分析

(1) 被ばく線源低減技術の高度化と適用
_水質変更に伴う被ばく線源低減効果並びに材料及び燃料への影響評価が必要である。また、腐食生成物除去技術の高度化に対しては放射性廃棄物処分対応との兼ね合いを考慮した検討が必要である。
(2) 軽水炉を取り巻く変化の影響評価
_炉内環境変化に伴って放射能挙動がどのように変化するかは海外プラントの実績評価等からある程度予測可能であるが、対応策の検討が十分でない。
(3) メカニズム解明
_被ばく線源である放射性腐食生成物の挙動メカニズムは実機サンプルの調査や腐食試験等、基礎試験データを基に把握する研究が継続されているが、環境変化等に十分対応できる状態にはなっていない。
(4) 被ばく線源低減技術の開発と適用
_国外を含め、全く新しい被ばく線源低減技術の開発は進んでおらず、メカニズム解明等の基礎知見の拡充とブレークスルー技術の立案が求められる。

期待される効果
(成果の反映先)

    • プラント従事者の被ばく量が低減し、従事者の安全性が向上する。
    • プラント関連業務への抵抗感が減少し、社会的受容性が向上するとともに作業人員の確保が容易になる。
    • 被ばく低減に係わる国際貢献に資する。
    • 被ばく低減技術を盛り込んだプラント設計・運用計画を行うことで、プラント輸出における競争力が高まる。

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 再稼働後の線源の再付着防止等が求められることから、課題解決には緊急性を要する。
    • 研究開発のための資金確保が必要である。

必要な人材基盤

(1)    人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術、放射線防護技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 放射線作業従事を希望する者は減少していく方向にあると考えられ、技術を有した作業員も減じていくと思われる。
    • 被ばく低減のための水質管理技術はメーカや電気事業者が開発を継続してきており、現在は十分な人材の確保に努めているが、継続して開発を進めるために人員の維持が必要である。官・学には水化学の専門家が少ない。
    • 大学や研究機関では被ばく低減をテーマに扱う研究者・設備が少ない。

(3) 課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 東電福島第一事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、東電福島第一事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

    • S111_d33-1:被ばく低減技術の高度化(水質管理技術、遠隔操作・ロボット技術、放射線防護技術)

実施時期・期間

長期(2050年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界/産業界
_腐食生成物発生低減や除染方法の高度化等、実プラントへの適用によって効果が確認される被ばく線源低減対策の検討を行う。
<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界・学協会/産業界
_放射能挙動の評価に係わる研究を実施し、得られた知見は必要に応じて原子力学会標準等の規格基準に反映する。
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって放射能挙動評価を行う。
    • 学協会は、被ばく線源低減に関する水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 放射能評価の実施主体が資金担当となることが適当と考える。
実施機関/資金担当

<考え方>

産業界・原子力規制委員会・学協会/産業界・原子力規制委員会
_ 被ばく線源低減に関する水化学技術の高度化及び開発を行う。これらが標準的手法となった場合には必要に応じて原子力学会標準等の規格基準に反映する。また、原子力規制に係わる水質基準の変更を伴う場合には規制研究の実施が必要である。
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって被ばく線源低減技術の高度化及び開発を行う。
    • 学協会は、被ばく線源低減に関する水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、水質基準変更の可否を判断するための試験を実施する。
その他

 

6.2.2 燃料性能維持(CIPS対策)

_CIPSは、クラッドが燃料の軸方向に不均一に付着し、ほう素の不均一析出により、炉心の軸方向の線出力分布(偏差)に異常を生じる事象である[6.2.2-1 6.2.2-2]。本事象の進行に伴い、炉心の安全性に支障を来たす恐れや、燃料の健全性に問題を生じる可能性がある。また、軸方向のピーク位置での出力を抑えるため、炉心全体の出力を下げる必要が生じ、場合によっては、プラントや燃料の運用効率に支障を来たすことになる。
_CIPSはPWR固有の事象で、米国や欧州ではその発生が確認されている。特に、600合金製のSG伝熱管を有するプラントのうち、炉心燃焼指数の高い(HCDI値>150)プラントでCIPSが多く発生している。CIPSの発生には、被覆管表面でサブクール沸騰が発生するような熱水力条件、燃料被覆管表面での十分な厚みのクラッド層の形成及びクラッド層内へのほう素の取り込みと蓄積の3条件が関与しているとされている。
_現在、我が国のPWRではCIPSの発生は認められていない。これは燃料表面でサブクール沸騰が生じるような高負荷条件で運用されていないことや、厚いクラッド層の形成やクラッド内へのほう素の蓄積が顕在化するような環境下で運転されていないためと考えられる。
_CIPSを抑制するための通常運転時の水質管理は、プラントの安全性維持に必要な深層防護のレベル1「異常・故障の発生防止」に該当する。また、通常運転時の状態を逸脱した場合の対応はレベル2「異常・故障の拡大防止」に該当する。一方、設計基準事故やシビアアクシデント発生時のサンプスクリーン、及び事故時の燃料プール内の燃料のCIPS対策に果たす水化学の役割は殆どないため、水化学レベル3「事故の影響緩和」には該当しない。また、シビアアクシデントの前後における被覆管のZr-水反応、炉心溶融後の水素発生挙動、炉心溶融に伴うFPの核種、性状、放出・移行挙動に対するCIPSの関与は非常に小さいことから、レベル4「設計基準を超す事故への施設内対策」にも該当しない。
_我が国においては、FP放出低減/温度上昇抑制ペレットの開発と通常時材料劣化低減被覆管の開発が加速されるとともに、事故時(LOCA、Post-DNB)高温酸化劣化抑制部材(被覆管/集合体)や事故耐性燃料(Accident Tolerant. Fuel、以下ATF)の開発と実機への早期導入が検討されている。2011年3月の1F事故以降も、従来の軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)もプラント運用のオプションとして残されている。このため、これら技術開発は、日本原子力学会核燃料部会で検討中の『燃料高度化に関するロードマップ』にも位置づけられている。
_運転サイクルの変更に伴い、一次冷却材水質を変更(pH低下等)する場合や、炉出力向上によりサブクール沸騰が生じる場合、またこれらが複合的に生じる場合には、従来燃料、ATF等の改良型燃料を問わず、被覆管表面へのクラッド付着が促進されCIPSに至る可能性がある。PWRの再稼働後もこのような運転管理の変更に対応し、構造材の健全性や被ばく線量率の上昇を抑制しながら燃料の性能維持ならびにCIPS対策を講じ、プラントの安全性・信頼性維持、高効率化を図る役割が水化学に新たに求められるようになった。
_このため、標準化やガイドライン等の作成も視野に入れた上で、熱水力的因子等も考慮したCIPSモデルの構築と評価手法の開発による合理的かつ効率的な燃料性能維持、及びCIPS対策が重要となった。被覆管表面のへほう素の取り込み、チムニーを有するクラッドの異常成長メカニズムに立脚したモデルが開発され、それを包含した機構論的評価手法が確立されれば、水化学高度化やATF等の改良型燃料の開発等に対し、実証的な健全性評価手法の全部または一部を省略でき、加えて加速試験による簡易評価も可能となる。このようなモデルに基づく評価手法を規格基準化することにより、検査・補修・取替等の維持管理の合理化と併せ、被覆管や燃料部材の変更、運転管理の変更等に対し、迅速かつ的確に対応できる。
_燃料性能維持(CIPS対策)に関する現状、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析
<加圧水型軽水炉(PWR)>
_CIPSの発生は、クラッド付着・剥離と密接に関連している。クラッド付着・剥離メカニズムは、水化学因子(Niやほう素濃度、Ni/Fe比、pH等)や熱水力因子(沸騰、流況等)が複雑に関与する。さらに、CIPSの発生は、炉水中のほう素濃度にも影響され、ほう素取り込み機構をはじめ、全体のメカニズムは明確になっていない。

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_CIPSに及ぼす水質変更の影響に関する統一的な機構論は明確になっていない。影響因子ごとの現知見を以下に示す。

① クラッド付着・剥離に及ぼす燃料棒線出力及び沸騰状況の影響
_最近の実機調査やラボ研究によると、CIPSの直接の原因となるクラッド付着に関し、水化学影響因子として、炉水中のニッケル(Ni)濃度、Ni/Fe比、ほう素濃度、pH等が、熱水力因子として被覆管表面での沸騰や流況が、加えて放射線の影響も考えられるとの報告がある。
_現在、CIPSを経験している米国、フランス、韓国等において、実機調査とラボ試験を中心にクラッド付着及びCIPS発生原因の検討と対策が検討されている。米国電力中央研究所(EPRI)やフランス原子力庁(CEA)は、クラッドの沸騰析出や物質移動を考慮した溶解・析出モデルを提案しているが、クラッドの溶解・析出挙動や化学形態についても諸説があり、統一的なモデルの構築には到っていない。日本では、電中研が基礎研究に着手しており、非照射下ではあるものの、ラボ内でのクラッド付着の再現と水化学及び熱水力(沸騰、流況)因子の影響評価を行った。
_クラッド付着・剥離に及ぼす燃料棒線出力の影響を評価するには、付着・剥離挙動を定量的かつ正確に把握する必要がある。しかしながら、現状は、燃料の照射後試験から過度のクラッドが存在しないことの確認に留まっている。

② ほう素取り込み機構の解明
_CIPSメカニズム解明の観点からは、クラッドの付着挙動だけでなく、クラッド中に取り込まれるほう素の析出挙動の評価が重要である。CIPS発生プラントでは、クラッドのかきとり調査を行っているが、ほう素の取り込み形態等の分析結果がプラント間で異なる。米国のEPRI[6.2.2-3]、CEA[6.2.2-4]、スウェーデンのStudsvik[6.2.2-5]、韓国のKAERI[6.2.2-6]、及び電中研[6.2.2-7]が、ほう素取り込みに関する基礎研究を実施している。しかしながら、ほう素取り込み挙動は、炉水中のほう素濃度、Ni濃度、pH等の水化学因子や放射線の影響以外に、被覆管表面での沸騰や流況にも影響されるとの報告があり、また、沸騰析出や結晶析出、化学形態についても諸説があるため、いまだ統一的なモデルの構築には到っていない。

(2) CIPS対策技術の開発
_CIPS発生メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。

(3) データや評価技術の検証
_CIPSと水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化が燃料被覆管のクラッド付着に及ぼす影響に関する最新知見について、日本原子力学会指針「PWR一次冷却系水化学管理指針:2017」の解説に規定している。

<沸騰水型軽水炉(BWR)>
_CIPSの発生には、燃料被覆管付着クラッド内へのほう素の取り込みが深く関与すると考えられており、BWRプラントでは発生していない。現状ではPWRプラント固有の課題とされている。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_PWR再稼働後も軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)が計画されており、プラントや燃料に対する負荷は徐々に増加していくと考えられる。ここ数年間に適用される運用条件においては、CIPS発生の可能性は比較的低いものと予想される。従って、至近では、現象論的(経験的)評価手法により、先行プラントの実績から悪影響がないことの確認で充分と考えられる。しかしながら、長期で見た場合、燃料への過度なクラッド付着が懸念され、CIPSの発生リスクは高まる可能性がある。このため、従来の現象論的(経験的)評価手法でなく、機構論的(メカニズム)評価手法を確立することにより、実機先行試験に依存するのではなく、AOAリスク、及びリスクを最小限に抑えるのに最適な運用条件を検討する必要がある。これにより、プラントの安全性確保、高効率化、公益性向上に大きく貢献できるものと考えられる。
_現在、CIPSを経験している米国やフランスを中心に、クラッドの沸騰析出や物質移動を考慮した溶解・析出モデルが提案されているが、クラッドの付着・剥離挙動及びCIPSの主要因とされるほう素の取り込み挙動については諸説があり、いまだ統一的なモデルの構築には到っていない。その一因として、限られた実機データのみで検討せざるを得ず、これら挙動を定量的かつ正確に把握できていないことが挙げられる。
_この問題解決のためには、CIPS事象をメカニズムの視点から捉え、技術基盤を用いた試験結果に基づき、各因子の相関性をモデル化し、新しい評価手法を開発することが肝要である。このようなモデル及び新評価技術の開発は、水化学によるCIPS抑制効果の有効性評価、CIPS発生リスク評価に基づくプラント運用条件及び水化学の最適化・高度化に繋がると考えられる。
_燃料やプラントの信頼性及び運用効率の観点から、CIPSに関する課題解決は産官が共有するニーズとなる。モデルの構築とそれに基づく対策の立案には、情報、知見、人材、施設基盤の拡充が必要であり、産官学が適宜協力した体制で臨むことが肝要である。
_実施にあたっての課題全体の問題点としては、原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。また、研究開発のための資金確保が必要である。
_以下に具体策を示す。

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに及ぼす水質変更の影響を、機構面から明らかにする。

① 従来知見の整理
_CIPSの主たる原因であるほう素を含むクラッド付着・剥離挙動を定量的かつ正確に把握するため、これまでの燃料棒の照射後試験等の調査結果、国内外のプラントデータ、ラボデータを含め、従来知見を整理する。

② クラッド付着・剥離メカニズムの解明
_燃料被覆管へのクラッド付着・剥離は水化学因子と熱水力因子等が重畳する事象である。このため、クラッド付着・剥離モデルは、被覆管表面へのクラッドの析出・物理付着、成長、化学溶解・物理剥離等を考慮した定性的なものにとどまっている。燃料被覆管へのクラッド付着・剥離を適切に制御するためには、クラッド付着・剥離メカニズムを解明し、メカニズムに基づいて、付着・剥離に及ぼす水化学及び熱水力因子に対し個別の影響度と重畳効果による影響度を定量化する必要がある。

③ CIPS発生メカニズム(ほう素取り込みメカニズム)の解明
_CIPSメカニズム解明の観点からは、燃料付着クラッド内へのほう素の取り込み挙動の評価が重要である。今後、長期サイクル運転の導入により、CIPSリスクが増加する可能性があることから、ほう素の取り込みメカニズムを解明し、メカニズムに基づいて、ほう素の取り込みに及ぼす水化学及び熱水力因子に対し個別の影響度と重畳効果による影響度を定量化する必要がある。

(2) CIPS対策技術の開発
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないようCIPS対策を検討する。

① CIPS普遍モデルの構築
_新しい評価手法を確立するためには、(1)に示すように、各因子の影響を定量的に検討した上で、各相関をモデル化し、総合的なモデルを開発する必要がある。これらモデルは、ATF等の改良型燃料被覆管に対しても適用できるよう普遍的なものとする必要がある。

_a.燃料棒表面へのクラッド付着・剥離に及ぼす影響

        • 燃料棒線出力との相関、沸騰状況(サブクール沸騰)との相関
        • 水質条件が及ぼす影響

_b.燃料付着クラッド内へのほう素の取り込みに及ぼす影響

        • 燃料棒表面のクラッド付着状態との相関
        • 沸騰状況(サブクール沸騰)との相関
        • 水質条件との相関

② CIPS評価方法の適用
_従来の現象論的(経験的)評価は、計画している水化学対策やプラント運用条件を一部のプラントで先行運用し、悪影響が無いことを確認する手法である。ATF等の改良型燃料の採用や新たな水化学の採用に際し、CIPSへの影響を効率的に評価するには、従来の現象論的評価手法と新たに検討する機構論的評価手法とを選択・組み合わせた評価方法の導入が望まれる。これにより、様々なケースについてCIPS発生リスクを前もって評価できるとともに、実証的な確認を最小限行うことで合理的に運用条件の最適化が図れる。

③ CIPS防止対策技術の開発
_軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)に対応しつつ、CIPSの防止等燃料性能を維持していくには、水化学による対策も求められている。これに応えるには、高Li適用、溶存水素最適化等の水化学によるCIPS防止対策を検討する必要がある。なお、これら水化学高度化対策の適用にあたっては、新しい評価手法を用いたCIPS発生リスクの検証を合理的に行えると考えられる。また、クラッド付着・剥離挙動の把握は、被ばく線源強度低減等の対策立案に密接に関連するため、水化学高度化全体において重要度が高く、それらとの技術的な連携が必要である。

(3) データや評価技術の検証
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに係わるデータや評価技術を検証する。また、燃料性能維持(CIPS対策)技術について、各種試験やモニタリング等により予防保全としての有効性を検証する。
_軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)に対応しつつ、CIPSの防止等燃料性能の維持に最適な水化学改良策の有効性を評価するには、クラッド付着・剥離挙動及びほう素取り込み挙動の再現性をチェックしながら、モデルや評価手法を検証する必要がある。必要に応じ評価手法を見直すことも重要である。このためには、照射試験設備を活用するとともに、クラッド付着・剥離及びほう素取り込みモニタリング技術を開発し、関連のデータベースを構築・拡充し、ラボデータと実炉現象との乖離を小さくする必要がある。また、照射試験炉を用いたモニタリング技術の開発やクラッド層内の核種移行モデル、燃料被覆管表面近傍のラジオリシスモデルの精緻化を図ることにより、燃料性能維持(CIPS対策)に関する評価技術を高度化するとともに、高度化した技術をプラントの維持管理に反映させるため、照射試験炉や実機において有効性を検証する。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学技術を学会指針に取り入れる。また、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の設定値を見直す。

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 燃料性能維持(CIPS)評価手法の開発・高度化・標準化
    • 燃料性能維持(CIPS対策)技術の開発・高度化・標準化
    • 燃料性能維持(CIPS)に及ぼす環境因子の影響に関するデータ整備・高精度化

② 国・官界の役割

    • データや評価技術の検証
    • 安全規制行政
    • 学協会基準のエンドース・規制基準の整備
    • 基盤の整備(知識、人材、照射試験炉、制度の整備)

③ 学術界の役割

    • CIPS発生メカニズム解明への支援
    • 燃料性能維持(AOA対策)に関する基盤研究(反応機構、速度定数、表面・隙間における照射、被覆管表面の沸騰・流況の影響等)

④ 学協会の役割

    • 規格基準の作成・精緻化
    • 産官学の連携
    • CIPS発生メカニズム解明(環境因子の効果・影響)
    • 燃料性能維持(CIPS対策)に関する基盤研究
    • CIPS発生メカニズムの解明及び対策立案を担う人材の育成
    • 照射試験炉の整備・利用
    • 照射試験炉を用いた各種モニタリング技術の開発

(D) 関連分野との連携
① 燃料高度化
_CIPSは、その程度によっては出力低下を引き起こす可能性が大きい。このため、下記のような連携を図る必要がある。

    • 被ばく低減対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 燃料高度化(高燃焼度、MOX、最適運転サイクル)及び軽水炉利用高度化(出力向上)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

② 高経年化対応

    • SCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 燃料高度化(高燃焼度、MOX、最適運転サイクル)及び軽水炉利用高度化(出力向上)とSCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が重畳する場合、腐食生成物の発生・移行・付着挙動、及びCIPSに及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

_図6.2.2-1に燃料性能維持(CIPS対策)に係わる導入シナリオ、表6.2.2-1に技術マップ、図6.2.2-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.2.2-1] “NRC Information Notice Effects of CRUD Buildup and Boron Deposition on Power Distribution and Shutdown Margin”, NRC Information Notice Vol.97-85 (1997).
[6.2.2-2] B. Armstrong, J. Bosma, P. Frattini, K. Epperson, P. Kennamore, T. Moser, K. Sheppard, and A. Strasser, “PWR Axial Offset Anomaly (AOA) Guidelines”, EPRI Report TR-110070 (1999).
[6.2.2-3] J. Deshon, D. Hussey, J. Westacott, M. Young, J. Secker, K. Epperson, J. McGurk, and J. Henshaw, “Recent Development of BOA Version 3”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2010, Paper No. 8.03 (2010).
[6.2.2-4] F. Dacquait, C. Andrieu, M. Berger, J. L. Bretelle, and A. Rocher, “Corrosion Product Transfer in French PWRs during Shutdown”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems, Chimie 2002 (2002).
[6.2.2-5] Jiaxin Chen, Chuck Marks, Bernt Bengtsson, John Dingee, Daniel Wells, and Jonas Eskhult, “Characteristics of Fuel CRUD from Ringhals Unit 4 -A Comparison of CRUD Samples from Ultrasonic Fuel Cleaning and Fuel Scrape”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2014 (2014).
[6.2.2-6] W. Y. Maeng, B. S. Choi, D. K. Min, H. M. Kwon, I. K. Choi, J. W. Yeon, J. I. Kim, H. S. Woo, Y. K. Kim, and J. Y. Park, “The Status of AOA in Korean PWR and a study on the CRUD Deposition on Cladding Surface”, Proc. of Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2008, Paper No. L14-1, Berlin (2008).
[6.2.2-7] H. Kawamura, “Empirical Fuel CRUD Deposition Model in Simulated PWR Primary Water”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems 2016 (2016).

課題調査票

課題名

CIPS対策による核燃料の性能維持

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒自主的安全性向上の効果的・継続的な取り組みにより、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。さらに、安全性向上を図りながら、我が国の原子力発電所従事者の被ばく量を低減する取組を行う必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給性かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期安定運転が必要となる。

概要(内容)

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに及ぼす水質変更の影響を、機構面から明らかにする。(2) CIPS対策技術の開発
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPS対策を検討する。

(3) データや評価技術の検証
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、CIPSに係わるデータや評価技術を検証する。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化がCIPSに影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学管理技術を学会指針に取り入れる。また、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の設定値を見直す。

導入シナリオとの関連

水化学によるCIPS対策による核燃料の性能維持

課題とする根拠
(問題点の所在)

水化学RMと深層防護との関連付けの検討結果を参照

現状分析

(1) CIPS発生メカニズムの解明
_CIPSに及ぼす水質変更の影響に関する統一的な機構論は明確になっていない。(2) CIPS対策技術の開発
_CIPS発生メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。

(3) データや評価技術の検証
_CIPSと水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) CIPSに係わる規格基準の策定
_通常運転時の水質変化が燃料被覆管のクラッド付着に及ぼす影響に関する最新知見について、日本原子力学会指針「PWR一次冷却系水化学管理指針」の解説に規定している。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 原子力発電所の高稼働運転における核燃料の健全性維持及び環境負荷軽減が可能となる。
    • 燃料等の炉心構成要素の高度化や、原子炉の運転条件が見直された場合においても、運転上の制限を遵守し安全余裕を確保した状態で原子炉の運転が可能となる。

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。
    • 研究開発のための資金確保が必要である。

必要な人材基盤

(1)人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術

(2)人材基盤に関する現状分析

    • 事業者においては、現在導入している状態監視技術に関する知識・技能を有した人材の育成が行なわれてきた。
    • メーカでは原子力設備の海外輸出等を通じて、必要な技術開発にかかる人材の育成を行っている。
    • 大学等では、共同研究やインターンシップ等により、人材育成や人的交流を図ってきた。
    • 水化学技術は、原子力発電所の保全のみならず、リスクの概念を併用すれば、安全の確保の基本となる技術の一つであり、必要な人材基盤を継続して確保していくことが重要である。今後も人材基盤を維持していくためには、大学等の教育段階から優秀な人材を集め、かつ、人材を計画的に育成していくとともに、実際に炉心設計、運用管理の経験を積んでいくことが必要である。
    • 海外の実用化技術の反映にとどまらず、その改良をもって、更なる原子力安全に役立つ運用管理技術を国際的に展開できる人材を育成し、活躍してもらうことが必要。
    • 特に海外で豊富な実績を有する解析手法等については、その迅速かつ円滑な導入を促す仕組みの充実(国際共同研究、国際会議、人的交流等の活性化等)。

(3)課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 1F事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、1F事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

    • 「炉心・熱水力設計評価技術の高度化」(ロードマップ)
    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • M107_d38 建屋構造・材料の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M107_d25:運転性能の高度化(事象進展抑制、停止機能、L/F等)
    • S103_b07:廃棄物長期保管に向けた健全性評価技術、管理技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界/産業界
_CIPS発生メカニズムの解明、CIPS対策技術の開発、データや評価技術の検証等に必要な技術開発を実施
<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、電に事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電気事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • メーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて規制基準及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える
    • 原子力規制委員会が規制の観点からが主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_対CIPSに係わる規格基準の策定

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって核燃料の健全性維持に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価及び認可を行う。
その他

 

6.2.1 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策

_燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収を設計基準範囲内に維持するための通常運転時の水質管理は、プラントの安全性維持に必要な深層防護のレベル1「異常・故障の発生防止」に該当する。また、通常運転時の状態を逸脱した場合の対応はレベル2「異常・故障の拡大防止」に該当する。さらに、シビアアクシデント前後における被覆管のZr-水反応、炉心溶融後の水素発生挙動、炉心溶融に伴うFPの核種、性状、放出・移行挙動、及びATF等改良型燃料の被覆管・部材の耐食性向上には水化学の関与が想定されることから、レベル4「設計基準を超す事故への施設内対策」に該当する。一方、設計基準事故やシビアアクシデント発生時のサンプスクリーン、及び事故時の燃料プール内の燃料の腐食/水素吸収対策に果たす水化学の役割は殆どないため、レベル3「事故の影響緩和」には該当しない。
_実機に新たな水化学技術を導入する際、燃料健全性評価に対し、想定される燃焼度を包絡した照射試験による評価手法が用いられてきた。これに対し、1F事故後、国内の多くの照射試験炉の廃炉が決定され、当面は新設の計画もない。このため、日本原子力学会核燃料部会で検討中の『燃料高度化に関するロードマップ』では、新たな燃料評価手法が必要と指摘されている。これは、現象論的(経験論的)健全性評価手法から、メカニズムに立脚した機構論的な健全性評価手法への転換の重要性と必要性を示しており、核燃料-水化学の境界領域では、燃料被覆管・部材の腐食、及び腐食に密接に関連した水素吸収のメカニズム解明とそれに基づくモデル開発のニーズがあるといえる。
_腐食/水素吸収メカニズムに立脚したモデルが開発され、それを包含した機構論的評価手法が確立されれば、水化学高度化やATF等の改良型燃料の被覆管の開発に対し、実証的な健全性評価手法の全部、または一部を省略でき、加えて加速試験による評価も可能となる。これにより、現行炉のみならず、次世代炉の燃料開発や燃料健全性評価に係わる時間とコストの削減に繋がるものと考えられる。また、このような評価手法を標準とすることで、公開性・透明性のある安全審査を迅速に行うことが期待される。さらに、構築したモデルや健全性評価手法を国際標準とすることにより、我が国の燃料開発や水化学高度化に対する国際競争力の強化に繋がる可能性がある。このためには、国外動向を見極めつつ、モデル構築と水化学影響を考慮した機構論的評価手法を駆使した燃料開発を、産官学連携により効率的に行う必要がある。このアプローチは当該分野の嚆矢となるものと考える。
_国内の軽水炉においては、プラントの安全運転と事故時対応が喫緊の課題であり、核燃料分野においては、事故時の更なる安全性向上に向け、FP放出低減/温度上昇抑制ペレットの開発と専用の通常時材料劣化低減被覆管の開発が加速されるとともに、事故時(LOCA、Post-DNB)高温酸化劣化抑制部材(被覆管/集合体)やATFの開発と実機への早期導入が検討されている。また、『燃料高度化に関するロードマップ』の中では、従来の軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル対応)及び燃料高度化(高燃焼度化、MOX)もプラント運用のオプションとして位置づけられている。
_一方、水化学分野では、2011年3月の1F事故前は、水化学の高度化は主に構造材料と燃料の健全性維持・向上や線源強度低減等を目的に実施されてきた。事故後は、先行する海外事例を参考に、高経年化対応、線源強度低減に向けた新たな水化学技術の開発が計画されている。
_燃料被覆管の腐食は、ジルカロイ合金と水との反応により生じた水素がジルカロイ合金中に取り込まれ生じる。ジルカロイ合金中にNb等の微量元素を添加し、結果的に表面酸化皮膜を介しての水素の拡散を抑えているが、水素取り込み抑制のメカニズムについては未だ定説がない。
_また、燃料被覆管/冷却水界面は水化学の影響を大きく受ける。さらに、MOX燃料の採用等によりラジオリシスが変化する可能性もある。このことから、燃料被覆管・部材、及び運転管理が変更したとしても、燃料被覆管・部材への酸化物付着の制御により線源強度の上昇を抑制しながら、燃料被覆管・部材の耐食性を確保する役割が水化学に新たに求められるようになった。このため、従来、先行照射によって実証してきた燃料被覆管・部材の腐食や水素吸収特性について、そのメカニズムに立脚したモデルを構築し、様々な運転条件や水化学環境における使用範囲を合理的に(迅速かつ精度良く)評価できる手法を確立することが重要となった。
被覆管・部材の腐食/水素化に関する現状、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について以下に述べる。

(A)現状分析
_ジルコニウム合金の一様腐食は燃焼度に比例することは判っているが、時間に対して単調増加せず変極点をもって急増するブレーカウェイ現象[6.2.1-1] の原因や水素吸収機構については諸説あり、理解の統一に至っていない。水化学が被覆管と部材の腐食に影響することは明らかであるが、影響因子の定量的影響や重畳効果はほとんど判っていない。また、ジルコニウム合金中に吸収される水素の大半は、腐食によって生成すると考えられているが、吸収機構については諸説あり、その複雑さゆえに統一的理解に至っていない。

(1) 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明
_新規に開発した燃料の健全性評価は、現在、先行照射等の試験結果に基づく評価(現象論的評価)が主体となっている。燃料被覆管の耐食性/水素吸収特性と水質因子との相関を含め、ATF等の改良型燃料のみならず現行燃料に対しても、被覆管・部材の腐食/水素吸収性に係わる統一的な機構論は明確になっていない。また、水質変更の際、燃料被覆管への影響も考慮すべきであるが、水化学の変更がATF等の改良型燃料の被覆管腐食にどのように作用するか明確になっていない。燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収特性は、プラント、水化学、燃料の材料因子が複雑に関与しており、これら因子を結び付ける統一的なモデルの構築に着手できていない。
_実施にあたっての問題点としては、本課題は原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。

(2) 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発
_ATF等の改良型燃料の被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。対策技術の開発にあたり、燃料被覆管の腐食/水素吸収に及ぼす水質やプラント運転に係わる因子等について、現知見を下記に示す。

① 燃料被覆管の腐食/水素吸収に関する評価手法の確立
_現行の燃料被覆管の腐食/水素吸収に関する評価手法では、想定する燃焼度を包絡した照射試験が不可欠であり、専用設備の整備等過大な時間及びコストが必要となる。

② 燃料被覆管の腐食/水素吸収挙動への水環境中水素の影響評価
_ジルカロイ腐食量に対する溶存水素の影響については、1960年代の古いデータ[6.2.1-2]は存在するものの、比較的最近の、かつ詳細なデータが不足している。

③ 水化学高度化の影響評価(溶存水素最適化、pH管理最適化、亜鉛注入、NMCA、新SCC対策技術)
_ジルカロイ-2被覆管への一様腐食や水素吸収に対しては、NMCA(noble metal chemical addition、貴金属注入)、酸化チタン注入、OLNC(on-line noble metal chemical addition、オンラインNMCA)とHWCや亜鉛注入を併用した場合においても、その影響は認められていない[6.2.1-3 6.2.1-4 6.2.1-5 6.2.1-6]
_材料やプラントの既取得データを基に、フィッティングにより水化学の影響を評価している。例えば、米国EPRIのB. Chengらは、Li濃度、熱流束、照射、水素化物加速因子等を取り込んだ酸化膜厚さ予測モデルを提案している[6.2.1-4]。しかしながら、依然として新たな水化学に対するデータやデータベースが不足している。
_一方、国内のプラントでは、水化学の変更に伴い、定期検査時に燃料被覆管の酸化皮膜厚さを計測する場合がある。しかしながら、計測の労力と費用削減の観点から、データベース等の整備やモデルの構築が望まれている。

④ 軽水炉利用高度化等による影響評価
_軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)に伴い、燃料被覆管の腐食に影響する水化学因子の特定、影響度について明らかになっていない。また、プラント状態、水化学、核燃料分野をまたぐ横断的な評価法も存在しない。

⑤ 水化学を利用した燃料健全性維持・向上策の検討
_PWRでは、燃料被覆管・部材の腐食低減策にはリチウムの低減が好ましいが、サイクル初期ではほう素濃度が高いため冷却系のpHが低下し、線源強度低減及びプラント材料健全性の点からは好ましくない。このため、濃縮10Bの適用、またはカリウム(K)等、リチウム(Li)に代わるpH調整剤の検討が進んでいる[6.2.1-7]。被覆管の腐食はpHが11.5を超えると加速される[6.2.1-8]。影響はリチウム濃度が20~30ppm程度以上の場合、ジルカロイ被覆管表面の酸化皮膜内にリチウムが取り込まれ、腐食を加速する[6.2.1-9]。このとき酸化皮膜中のリチウム濃度は50~100ppm程度であり、照射場における表面酸化皮膜中のリチウム濃度は15~115ppm程度と報告されている[6.2.1-10. 6.2.1-11]6Li(n、α)3H反応により生成した水素のジルカロイ合金中への取り込みも想定されるが、生成する水素量は微量であり、その影響については不明である。
_米国の一部のPWRでは24カ月運転を採用している。この場合、サイクル初期は炉心反応度制御(ケミカルシム)を適切に管理するため、ほう素濃度を13か月運転時の比べ高く維持する必要があることから、添加するリチウムを6~7ppmに高める必要がある [6.2.1-12]。一方、カリウムはリチウムに比べ燃料被覆管腐食に及ぼす影響が小さいことに加え、リチウムの資源量の制約から、近年、代替剤としてKOHの代替適用が検討されるようになってきた。しかしながら、カリウムは運転サイクル中にも添加する必要があることから、10B(n、α)7Li反応により生成するリチウムとの共存により、浄化プロセスやpH管理が複雑化することへの対応等、課題解決が残っている。
_BWRでは、構造材料の腐食抑制を目的とした水化学の導入に際し、燃料被覆管の腐食に及ぼす影響評価も行っている。しかしながら、PWR、BWRとも、燃料被覆管に対する腐食抑制対策についての具体的な検討は十分でない。

⑥ 燃料腐食モニタリング技術開発
_オンサイトでの追加検査は大掛かりになる傾向があり、腐食モニタリングデータの拡充の上では障害となっている。

⑦ 水素分析簡便化技術開発
_超音波探傷(UT)による支持格子への適用検討例はあるが、簡便な水素分析手法はない。

⑧ オンラインクラッド付着モニタリング技術開発
_現状、確立されたオンラインモニタリング技術はない。

(3) データや評価技術の検証
_ATF等の改良型燃料を含め、被覆管・部材の腐食/水素吸収と水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) 被覆管・部材の健全性評価に係わる規格基準の策定
_ATF等の改良型燃料を含め、被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が及ぼす影響に関する最新知見に基づいた管理項目等を原子力学会指針に規定している。

(B)研究方針と実施にあたっての問題点
_今後、導入が計画されているATF等の改良型燃料に対し、被覆管・部材の腐食/水素吸収対策を講じることにより、プラントの安全性・効率、公益性のさらなる向上に大きく貢献できる可能性がある。現状では、実機の現象と試験結果とが一致しない場合があることから、先行照射等の試験結果に基づく評価(現象論的評価)の依存度が大きい。腐食/水素吸収メカニズムに立脚したモデルが開発され、それを包含した機構論的評価手法が確立されれば、水化学高度化や燃料被覆管材料の改良等の変化に対し、実証的な健全性評価手法の全部または一部を省略でき、加えて加速試験による評価も可能となる。このようなアプローチは、現行炉のみならず、次世代炉の燃料開発や燃料健全性評価に係わる時間とコストの削減に繋がる。
_また、腐食/水素吸収モデル及び健全性評価手法を標準化することにより、安全審査にも利用でき、維持管理(検査・取替)の合理化と併せ、プラントの公益性を高めることに寄与できる。このためには、産官の協調の下に標準モデルを構築していくことが不可欠である。メカニズム解明については学の協力も必要不可欠であり、このようなスキームをもってモデルを開発していくことが重要であり、実効性も兼ね備えると考えられる。
_実施にあたっての課題全体の問題点としては、原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。また、研究開発のための資金確保が必要である。
_以下に研究方針と課題を示す。

(1) 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明
① 従来知見の整理
_クラッド付着・剥離挙動を定量的かつ正確に把握するため、従来の照射後試験等の調査結果、国内外のプラントデータやラボデータを含め、従来知見を整理する。

② 燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明
_燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収挙動は、水化学環境因子と熱水力因子等が複合する事象であり、これを適切に制御するには、燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収挙動に及ぼす水化学因子の効果・影響を定量化した上で、メカニズムを解明する必要がある。

(2) 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発
① 燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収モデルの構築
_これまで燃料被覆管・部材の腐食挙動は、水蒸気酸化雰囲気下における被覆管・部材の酸化試験結果を基に、被覆管材料中の不純物や欠陥等に起因する酸化モデルが検討され、水化学等の環境因子の影響はモデルには十分反映されていなかった。このため、試験研究等により、温度、水分解生成物(ラジオリシスにより生成する水素、過酸化水素、酸素等)、炉水添加物、炉水中不純物、酸化物の種類(化学組成、化学形態)と付着量、放射線の直接的影響を定量化しつつ、既存の被覆管酸化モデルの改良・高度化を進める必要がある。

② 水化学改善による燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発
_水質面からの新たな対策を施すには燃料被覆管への影響を考慮する必要がある。このためには、燃料被覆管の耐食性・水素吸収特性と水質因子との相関の明確化が求められる。

(3) データや評価技術の検証
_ATF等の改良型燃料の被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化に起因した破損、異常や事故に至ることがないよう、データや評価技術を検証する。
_燃料被覆管の腐食/水素吸収モデルの開発にあたっては、照射試験炉や実機を活用し、評価結果と実機現象との整合性を確認する必要がある。また、ATF等の改良型燃料を含め、被覆管・部材の健全性維持に対する水化学改良策の有効性と再現性をチェックしながら、モデルや評価手法を検証する必要がある。必要に応じ評価手法を見直すことも重要である。国外を中心に照射試験設備を有効利用するとともに、燃料被覆管・部材の健全性と損傷に関するデータベースを構築・拡充することにより、ラボデータと実機現象との乖離を小さくし、構築したモデルや評価技術の検証を合理的に行う必要がある。
_また、評価の高速化と精緻化に向け、簡便かつ高精度な燃料被覆管・部材腐食モニタリング技術、水素分析簡便化技術、オンライン酸化物モニタリング技術、ならびにECPや光電気化学等のモニタリング技術等の開発やラジオリシスモデルの精緻化を図る必要がある。

(4) 被覆管・部材の健全性評価に係わる規格基準の策定
_ATF等の改良型燃料の被覆管・部材の腐食/水素吸収モデルを活用していくには、安全審査との適合性を図る必要がある。予防保全としてのモデルの有効性を、各種試験やモニタリング等により検証する。また、燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学管理技術を日本原子力学会の水化学管理指針に取り入れる。さらに、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の設定値を見直す。このためには、産官学が連携して、試験方法や評価方法、モデルの検証方法の標準化を図ることも重要となる。
_腐食/水素吸収モデルの開発、検証、標準化には、水化学分野と燃料分野が協働で進めることが重要かつ合理的であり、以下に示す情報交換体制の整備が必要と考える。

    • 核燃料分野と水化学分野の連携
    • 情報交換・検討の場の設置

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収評価手法の開発・高度化・標準化
    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発・高度化・標準化
    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収に及ぼす環境因子の影響に関するデータ整備・高精度化

② 国・官界の役割

    • データや評価技術の検証
    • 安全規制行政
    • 学協会基準のエンドース・規制基準の整備
    • 基盤の整備(知識、人材、照射試験炉、制度の整備)

③ 学術界の役割

    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズム解明への支援
    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収に関する基盤研究(反応機構、速度定数、表面・隙間における照射、被覆管表面の沸騰・流況の影響等)

④ 学協会の役割

    • 規格基準の作成・精緻化

⑤ 産官学の連携

    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズム解明(環境因子の効果・影響)
    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収に関する基盤研究
    • 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明及び対策立案を担う人材の育成
    • 照射試験炉の整備・利用
    • 照射試験炉を用いた各種モニタリング技術の開発

(D) 関連分野との連携
① 燃料高度化

    • 線源強度低減対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)がATF等の改良型燃料を含む被覆管・部材の腐食・水素化に及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)が被覆管・部材の腐食・水素化に及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

② 高経年化対応

    • SCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が被覆管・部材の腐食・水素化に及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野での連携により、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。
    • 軽水炉利用高度化(出力向上、最適運転サイクル)及び燃料高度化(高燃焼度、MOX)とSCC及び配管減肉の環境緩和対策としての水化学の高度化(水化学条件の変更)が重畳する場合、被覆管・部材の腐食・水素化に及ぼす影響について、メカニズム解明、照射試験を含む試験・評価技術分野、モニタリング技術の開発等の分野で連携を行い、効率的かつ合理的に技術開発を行う必要がある。

図6.2.1-1に被覆管・部材の腐食/水素吸収対策に係わる導入シナリオ、表6.2.1-1に技術マップ、図6.2.1-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.2.1-1] 日本原子力学会編, “原子炉水化学ハンドブック”, コロナ社 (2000).
[6.2.1-2] E. Hillner, “Hydrogen Absorption in Zircaloy during Aqueous Corrosion, Effect of Environment”, WAPD-TM-411 (1964).
[6.2.1-3] R. L. Cowan, “BWR Water Chemistry…A delicate Balance”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactors System 8, p.97-102 (2000).
[6.2.1-4] B. Cheng et al., Proc. Int. Meeting on LWR Fuel Performance, Paper 1069 (2004).
[6.2.1-5] Y. Ishii et al., “The Effect of TiO2 on Corrosion on Behavior of Zircaloy-2 Fuel Cladding”, Proc. 2005 Water Reactor Fuel Performance Meeting, Paper 1100 (2005).
[6.2.1-6] S. E. Garcia and C. J. Wood, “Recent Advances in BWR Water Chemistry”, Proc. Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactors System 2008 (NPC’08), Paper L04-1 (2008).
[6.2.1-7] Lena Oliver et al., “Westinghouse VVER Fuel Experience and Fuel QUALIFICATION Need for INTRODUCING KOH in PWR”, Proc. 21st Int. Conf. on Water Chemistry in Nuclear Reactor Systems (2018).
[6.2.1-8] E. Hillner, “The Effect of Lithium Hydroxide and Related Solution on the Corrosion Rate of Zircaloy in 680oF Water”, WAPD-TM-307 (1962).
[6.2.1-9] F. Garzarolli et. al., 1989 IAEA Meeting, Portland (1989).
[6.2.1-10] H. Stehle et. al., ASTM STP 824, p.483-506 (1984).
[6.2.1-11] P. Billot et. al.、 ANS/ENS Meeting, Avignon (1991).
[6.2.1-12] J. N. Iyer et al., “ZIRLOTM Clad Fuel Performance in Simultaneous Zinc and Elevated Lithium Environment”, Proc. of Int. Conf. on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems, Paper L13-3 (2008).

課題調査票

課題名

核燃料被覆管の健全性維持

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒自主的安全性向上の効果的・継続的な取り組みにより、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。さらに、安全性向上を図りながら、我が国の原子力発電所従事者の被ばく量を低減する取組を行う必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給性かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期安定運転が必要となる。

概要(内容)

(1) 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明
_通常運転時の水質変化が燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に及ぼす水質変更の影響を機構面から明らかにする。対象とする被覆管は従来材に加え、事故耐性燃料も含む。(2) 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収対策を検討する。(3) データや評価技術の検証
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることがないよう、データや評価技術を検証する。

(4) 被覆管・部材の健全性評価に係わる規格基準の策定
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が影響を与え、その結果、被覆管の破損等が生じ、異常状態や事故に至ることを防ぐことを目的とし、標準化に適した水化学管理技術を学会指針に取り入れる。また、燃料被覆管・部材の健全性に係わる最新知見に基づき、必要に応じ水化学管理指針の管理項目等の管理項目等の設定値を見直す。

導入シナリオとの関連

水化学による燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発による核燃料の健全性維持

課題とする根拠
(問題点の所在)

水化学RMと深層防護との関連付けの検討結果を参照

現状分析

(1) 被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に及ぼす水質変更の影響に関する統一的な機構論は明確になっていない。(2) 被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムに立脚した水化学対策技術は確立されていない。(3) データや評価技術の検証
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収と水化学との相関に係わるデータの整備や評価技術は確立されていない。

(4) 被覆管・部材の健全性評価に係わる規格基準の策定
_事故耐性燃料を含む燃料被覆管・部材の腐食/水素吸収性に対し、通常運転時の水質変化が及ぼす影響に関する最新知見に基づいた管理項目等を原子力学会指針に規定している。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 原子力発電所の高稼働運転における核燃料の健全性維持及び環境負荷軽減が可能となる。
    • 燃料等の炉心構成要素の高度化や、原子炉の運転条件が見直された場合においても、運転上の制限を遵守し安全余裕を確保した状態で原子炉の運転が可能となる。

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 原子力安全とも大きく関連することから、課題解決には緊急性を要する。
    • 研究開発のための資金確保が必要である。

必要な人材基盤

(1)    人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術

(2)    人材基盤に関する現状分析

    • 事業者においては、現在導入している状態監視技術に関する知識・技能を有した人材の育成が行なわれてきた。
    • メーカでは原子力設備の海外輸出等を通じて、必要な技術開発にかかる人材の育成を行っている。
    • 大学等では、共同研究やインターンシップ等により、人材育成や人的交流を図ってきた。
    • 水化学技術は、原子力発電所の保全のみならず、リスクの概念を併用すれば、安全の確保の基本となる技術の一つであり、必要な人材基盤を継続して確保していくことが重要である。今後も人材基盤を維持していくためには、大学等の教育段階から優秀な人材を集め、かつ、人材を計画的に育成していくとともに、実際に炉心設計、運用管理の経験を積んでいくことが必要である。
    • 海外の実用化技術の反映にとどまらず、その改良をもって、更なる原子力安全に役立つ運用管理技術を国際的に展開できる人材を育成し、活躍してもらうことが必要。
    • 特に海外で豊富な実績を有する解析手法等については、その迅速かつ円滑な導入を促す仕組みの充実(国際共同研究、国際会議、人的交流等の活性化等)。

(3)    課題

    • 必要とされる人材規模は、原子力発電に関する国の方針に依存し、これに対応して、計画的かつ継続的な人材確保が必要である。
    • 1F事故後の原子力プラントの長期停止により、実際に経験を積む場が損なわれている。
    • 優秀な人材を惹きつけるという意味において、1F事故とそれに続く原子力プラントの長期停止は、若い世代の原子力離れを招いている。

他課題との相関

    • 「炉心・熱水力設計評価技術の高度化」(ロードマップ)
    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • M107_d38 建屋構造・材料の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M107_d25:運転性能の高度化(事象進展抑制、停止機能、L/F等)
    • S103_b07:廃棄物長期保管に向けた健全性評価技術、管理技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界/産業界
_事故耐性燃料を含む被覆管・部材の腐食/水素吸収メカニズムの解明、被覆管・部材の腐食/水素吸収対策技術の開発、データや評価技術の検証等に必要な技術開発を実施
<考え方>

    • 電気事業者は、事業主体としてプラント要件を取り纏めるとともに、プラントへの適用性評価を行う。
    • メーカは、プラント設計を熟知していることから、具体的な設計とプラントに合った技術開発を行うとともに、電に事業者が実施するプラントへの適用性評価を支援する。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術を開発する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電気事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • メーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて規制基準及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える
    • 原子力規制委員会が規制の観点からが主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
被覆管・部材の健全性評価に係わる規格基準の策定

    • 産業界(電気事業者、メーカ)が主体となって核燃料の健全性維持に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、核燃料の健全性維持及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価及び認可を行う。
その他

 

6.2 燃料の高信頼化

_2011年3月に発生した1F事故の教訓を踏まえ、研究開発ロードマップの策定の際には、深層防護の考え方に基づき、異常・故障の発生防止と事故への拡大防止、事故の影響緩和、設計基準を超す事故への施設内対策等、外部環境への影響を考慮したレベルに応じ、原子力発電所の安全性向上に向けた技術を開発していくこととなった。
_2018年現在、PWRを中心に再稼働が進んできたが、核燃料分野においては、1F事故を契機に、FP放出低減/温度上昇抑制ペレットの開発と通常時材料劣化低減被覆管の開発が加速されるとともに、事故時(LOCA、Post-DNB)高温酸化劣化抑制部材(被覆管/集合体)や事故耐性燃料(Accident Tolerant Fuel、以下ATF)の開発と実機への早期導入が求められるようになった。
_新たな水化学技術を導入する際には、現行燃料の被覆管や部材の腐食対策及び水素吸収特性に及ぼす水化学の影響の有無を事前に評価しておく必要がある。さらに、上記の改良型燃料の導入に際しては、被覆管や部材の材質変更に及ぼす水化学の影響を事前に評価しておく必要がある。加えて、被覆管表面へのクラッド付着に起因するCIPS(Crud Induced Power Shift)あるいはAOA(Axial Offset Anomalies)、以下、CIPSと表記)に対しても、現行及び改良型の燃料被覆管を対象に、水化学の影響の有無を事前に評価しておく必要がある。
_本節では、核燃料に対する水化学の影響が比較的大きいと考えられる被覆管・部材の腐食/水素吸収対策及び燃料性能維持(CIPS対策)を取り上げる。

6.1.4 状態基準保全の支援

_将来、炉内や配管の健全性モニタリングが可能になれば、長期にわたる経年劣化の予測評価精度の向上や状態基準保全の充実が期待される。SCCやFAC等の経年劣化事象について材料・応力・環境面から多面的に計測・評価可能なモニタリング技術を開発・適用することは今後目標とすべき研究課題である。
_今回の改訂に当たって、1F事故を踏まえて、深層防護各レベルにおける状態基準保全の支援に係わる研究の係わりを検討し、レベル1から4のいずれにおいても貢献できる課題のあることがわかった。すなわち、プラント構成材料の経年劣化状態を長期にわたり高精度に監視し、損傷リスクに応じた適切な保全を行うことにより設備の信頼性を向上させ、事故発生リスクを低減すること、一次冷却材の水質異常兆候を早期に検出し、プラントの運転管理への適切な判断材料を提供すること、また、格納容器内雰囲気や原子沪水の状況のモニタリング技術高度化を化学の観点から支援することにより、事故発生防止及び拡大防止に貢献していくことができる。
状態基準保全の支援に関する現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析

(1) 環境モニタリング技術の高度化
_「原子力発電施設に対する検査制度の改善について(案)2006年9月原子力安全保安院」や検査のあり方検討会において、高経年化対策の充実のために状態基準保全や運転中を含めた新しい監視・評価技術の導入が有効であるとされ、新検査制度では、回転機器の劣化進展把握のため、振動分析等運転中の状態監視が導入された。米国では既にオンラインメンテナンスの導入が進められ、また、EPRIではタービンに対し、ヘルスマネジメントの概念を導入・活用している。
_震災以後、軽水炉プラントの事故発生リスク低減が、より一層求められている。状態基準保全の支援技術は、運転トラブルの防止、経年劣化対策の確かな実施及び作業環境の改善の観点から、重要度を増している。また、緊急時におけるプラント状態把握のため、キーとなるプラントパラメーターのオンライン収集と状態把握が求められている。
_水質のモニタリング技術は、これまでにも多くの研究開発が行われてきており、プラント水質の維持管理に貢献してきたが、今後、さらに重要性が増すと考えられる。近年、AI技術が飛躍的に発展してきており、これらを導入することでモニタリング技術の更なる高度化が期待される。一方で、原子炉構成材料の経年劣化に関する状態基準保全技術の開発・適用は進んでおらず、炉内各部の腐食環境をモニタし、あるいは、異常予兆を早期に察知し対処する水質管理を確立するには、更なる研究開発が必要である。2011年にBWRプラントにおいて復水器から炉内に大量の海水が流入するトラブルが発生したことから、水質管理システム高度化に当たっては、急激な水質変化にも対応できるようにすることが必要である。
_1F事故においては、原子炉水位計や格納容器雰囲気モニタが十分機能せず、事故の対応に影響を与えた。過酷事故時の原子炉や格納容器内の状況を把握できるモニタリング技術の高度化が求められており、化学の立場からの支援を考える必要がある。

(2) 機材劣化評価手法
_現行は健全性評価等に基づいた時間計画保全(TBM)を中心とした保全となっており、例えば、SCCの点検頻度は過度の保守性に基づいている可能性がある。水素注入等のSCC環境緩和技術を適用した効果を反映した保全を行うことについてのニーズは大きく、炉内水質環境のモニタリング技術確立は重要な課題である。
_これまで、炉内環境のモニタは限られた部位でのみ実施されており、炉内全体については行われていない。炉内各部位の評価は主としてモデル解析を通じ評価している。腐食環境の可視化はこれまで実施されていない。
_プラント構成材の状態基準保全技術の開発にあたっては、水質以外の劣化要因(材料、応力、流況その他劣化モードに応じた他のパラメータ)の影響評価及び実機条件の把握等の課題もある。このため、これら他の劣化要因を含めた精度の高い経年劣化評価技術の開発が状態基準保全技術の開発に不可欠である。実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、腐食環境評価法の高度化に係わる研究が国の高経年化対策事業として実施されたが、その後継続されていない状況にあり、再構築が必要である。

(3)状態基準保全手法
_状態基準保全に係わる研究事例はまだ少なく、水素注入等のSCC環境緩和技術を適用した効果を反映した保全を行うことを目指して、近年、プラント運転中の炉内ヘルスモニタリングの一つとして炉内腐食電位測定が計画されていたが、震災の影響で中止になっている。今後、研究開発の再構築が必要である。また、実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、国の事業として腐食環境評価法の高度化に係わる研究が実施された。

(B)研究方針と課題
_SCCやFACに関する水質の影響評価及び実機水質モニタリング/評価技術の開発を推進する。ただし、水化学技術単独では状態基準保全を実現することは難しい。人材RMにおいて、状態監視・モニタリング技術や劣化評価技術高度化の研究課題が取り上げられており、これらと状態基準保全技術開発をリンクさせて研究を進めていく必要がある。
_状態基準保全(及びオンラインメンテナンス)の実現により、損傷リスクに応じた適切な保全方法の展開と合理的な点検が可能となり、経年劣化対策の確かな実施を支えることができる。同時に、適切な情報発信の組み合わせによって見える化に資することができ、安心・安全意識の醸成も期待される。
_このためには、以下に示す技術開発や高度化が必要と考えられる。同時に、これらの技術を保全技術に展開していくためのスキームもあわせて考えていく必要がある。そのためには、安全実績指数(PI)と結びつけて考えることも重要である。

(1)環境モニタリング技術の高度化
構成材料の腐食損傷は、炉水環境が一つの重要な要因となっており、炉内各部位での環境パラメータ(酸化種濃度、腐食電位等)を評価しておくことが必要である。原子炉内各部の水質環境をモニタする方法、及びモニタした結果を可視化し全体を鳥瞰できるような手法を検討する。可視化手法は、実測値のみならずモデル解析結果の可視化も含める。さらに、これらの実測、解析結果の評価を実施し、その精度の確認とその向上を図る。
_プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することが可能になる。水質管理システムに関連しては、これまでエキスパートシステム等、異常予兆診断技術の開発が行われ、一部プラントに導入されている。状態基準保全の支援に用いるためには、多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復できる高度化された水質管理システムを構築する必要がある。これにより水質面からプラントの状態基準保全を支援することが可能になる。近年、飛躍的に発展しているAI技術等を導入することにより、モニタリング技術の更なる高度化を図る。また、海水リーク等圧力バウンダリーの損傷に伴う急激な水質異常にも対応できるシステムを検討する。
_現状、サンプリングラインを用いた試料採取とその分析結果から炉内水質監視を行っているが、短寿命の放射線分解生成物濃度の把握は困難で、ラジオリシスモデルによる解析により炉水環境を精度良く評価するには至っていない。また、実機構成材料のSCCモニタリング手法も確立していない。オンラインモニタリング技術の確立が望まれる。
_現状の分析機器の信頼性から一旦冷却した水を分析しているため、対象物の形態や状態変化が起こっていることも考えられる。また、一般にサンプリングを介する為に情報の平均化や時間遅れが生じていると考えられる。これまで高温水モニタ技術はIAEA国際共同研究プロジェクト等で実施され、実機へ適用されているものもある。プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することが可能になるため、オンラインモニタによる連続的な系統内の微量不純物・金属・核種のモニタリング技術、高温サンプリングによる放射性腐食生成物(CP)、CP形態等のモニタリング技術を確立し、水質面から状態基準保全を支援する必要がある。また、オンラインモニタリング化を進めることは、現在行われている多くの手動による分析が低減し、作業者の負担低減にもつながる。
_多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切に処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築する。また、一次冷却水中の核分裂生成物濃度やオフガス系等の放射線線量率を監視することにより、燃料破損を早期に検出し、迅速かつ的確な対応が取れるモニタリング技術の高度化を図る。炉心損傷事故の発生時における格納容器雰囲気(放射線線量率、ガス濃度等)モニタや原子炉水位計等の計装機器の機能強化により、損傷状況を的確に把握できるモニタリング技術の高度化に、化学の面から支援する。事故時のヨウ素挙動研究の成果を取り入れつつ、監視技術の高度化を図っていく。

(2)実機材劣化評価手法
現在、BWRでは、炉水環境を緩和する種々の方策が開発されつつあり、一部は実機に適用されている。これらの手法の有効性を評価するために、研究炉を用いた検討が行われるが、種々の制約から実機との対応という点で課題がある。これを解決する方策として実機環境で曝露された材料を直接活用することが考えられる。さらに、このような評価手法が確立できれば、運転中の実プラントの健全性モニタとして適用していくことが可能となる。
_一方、PWSCC発生試験では、試験温度を高めに設定する等、加速試験が一般的に行われ、この試験データに基づきSCCの評価・実機材料の寿命評価を行うことがある。そのため、実機により近い条件を模擬したSCC試験データに基づく評価精度の向上が望ましい。
_状態基準保全の充実においてSCCの発生・進展/抑制状況を直接または間接的にモニタリングする、または評価する手法の確立が望まれる。材料ならびに応力の要素は概ね製造・施工時に決まりやすい一方で、環境の効果は運転条件に応じて変化する要素であるから、腐食環境のモニタリング評価もこの点で状態基準保全の充実において重要な要素であると考えられる。
_現状の維持規格ベースの亀裂進展評価では過度に保守的な傾向があると考えられており、きめ細かなモニタリングあるいは評価手法に基づいた状態基準保全を導入することにより、保全周期の適正化が図ることができる。

(3)状態基準保全手法
プラント状態監視技術の適用により、プラントの安全・安定な運転が図られる。つまり、状態基準保全やオンラインメンテナンスの実現により、損傷リスクに応じた適切な保全方法の展開と合理的な点検が可能となり、また、適切な水質管理により燃料や構造材の劣化が抑制されることにより、より一層の安全性向上が図られる。

(C)産官学の役割分担の考え方
①産業界の役割

    • 実機腐食環境の詳細評価
    • モニタリング技術の高度化
    • 実機材劣化評価手法の開発と既存技術の高度化
    • 状態基準保全手法の開発

②国・官界の役割

    • 安全規制に必要な技術基盤の推進
    • 規制の高度化、合理化

③学術界の役割

    • 基礎データの蓄積、基盤技術の開発
    • 腐食環境シミュレーション技術の高度化
    • 実機材料劣化モデリング/シミュレーション
    • 人材育成

④学協会の役割

    • 規格基準・民間標準策定
    • 国内外への情報発信
    • 人的交流と育成

⑤産官学の連携

    • 状態基準保全技術開発の効率的推進
    • 保全プログラム高度化への反映
    • 産官学間の人材交流

(D)関連分野との連携
_SCCの抑制に関する課題のうち、「実機腐食環境評価及び環境緩和効果の実証」「実機腐食環境モニタリング技術及びSCCモニタリング/評価技術の開発」に関連する。また、水化学共通基盤のうち、「腐食環境評価技術」及び「腐食メカニズム」に係わる課題と関連する。これらとは、連携を図って研究を進める必要がある。
_人材RMについても、「状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化」及び「高経年化評価手法・対策技術の高度化」が謳われており、連携が必要である。

図6.1.4-1に導入シナリオ、表6.1.4-1に技術マップ、図6.1.4-2にロードマップを示す。

 

課題調査票

課題名 状態基準保全の支援

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短期 V.保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒保全・運転における負荷軽減により作業品質を向上させ、ヒューマンエラー防止等へ繋げる取組みの継続がなされる必要がある。中期 II.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒安定かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。

長期 I. プラント全体のリスク極小化
⇒事故低減に係わる革新的技術がなされるために必要がある。

概要(内容)

(1) 環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化
(1-1) 異常予兆に迅速に対応できる水質管理システム構築
プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することを可能とする。多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築することにより、材料損傷リスクを低減し、水質面からプラントの状態基準保全を支援する。海水リーク等圧力バウンダリーの損傷に伴う急激な水質異常にも対応できるシステムを検討する。
(1-2) オンラインモニタリングの高度化
_多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築する。また、一次冷却水中の核分裂生成物濃度やオフガス系等の放射線線量率を監視することにより、燃料破損を早期に検出し、迅速かつ的確な対応が取れるモニタリング技術の高度化を図る。炉心損傷事故の発生時における格納容器雰囲気(放射線線量率、ガス濃度等)モニタや原子炉水位計等炉内状態把握のための計装機器の機能強化により、損傷状況を的確に把握できるモニタリング技術の高度化に化学の面から支援する。
(1-3) プラントの腐食環境モニタリングと材料損傷リスクの可視化
_プラント各部の腐食環境をモニタする方法、及びモニタした結果に基づいて材料損傷リスクを可視化し全体を鳥瞰できる手法を検討する。可視化は、実測値及びモデル解析結果とその評価結果も対象とする。
_二次系系統各部での鉄濃度、主に復水系での腐食電位やORP等の運転中連続モニタリングと配管等からの鉄溶出量との相関把握、及び水質変更時の影響を把握する。また、従来の還元性環境に対しヒドラジン無添加、或いは微量酸素注入による鉄低減効果の知見を充実させる。(2) 実機材劣化評価手法の開発
(2-1) 環境加速
_炉水環境が原子炉構成材料の腐食損傷に与える影響を実機に装着した構成材料を用いることで直接評価する方策を検討する。特に、強酸化環境による腐食加速と環境改善策を適用した場合の緩和効果を直接比較評価できる手法の構築を目指す。
(2-2) 材料劣化に及ぼす環境加速/緩和効果の実機構成材での評価方策(PWR/BWR共通)
実機環境に曝露された材料を直接活用して、材料劣化に及ぼす環境影響評価手法を開発する。運転中の実プラントの健全性モニタとしての適用を検討する。
(2-3) 材料劣化に及ぼす環境加速/緩和効果の実機構成材での評価方策(PWR)
_実機で長時間経過後に発生するSCCを短時間に実験室試験で再現できる加速試験方法を開発し、実験室試験を用いた精度良い実機SCC評価方法を確立する。

(3) 状態基準保全手法の開発 - ヘルスマネジメントのための状態監視技術の開発と適用 –
_プラント状態監視技術を開発・適用し、プラント状態基準保全技術に基づく経年劣化管理による損傷リスクに応じた適切な保全方法の構築を図る。

具体的な項目

(1) 環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化
(2) 実機材劣化評価手法の開発
(3) 状態基準保全手法の開発

導入シナリオとの関連

水化学によるプラント状態基準保全の支援

課題とする根拠
(問題点の所在)

_水化学による状態基準保全の支援技術の適用により、運転トラブルの防止、経年劣化対策の確かな実施及び作業環境の改善を通じて、事故発生リスクが低減する。一次冷却材の水質異常兆候を早期に検出し、プラントの運転管理への適切な判断材料が提供される。また、格納容器内雰囲気や炉水状況のモニタリング技術高度化を化学の観点から支援することにより、事故発生防止及び拡大防止に貢献できる。

現状分析

(1)    環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化
_炉水水質のモニタリングや水質診断技術に関してはこれまでに多くの研究開発が行われ、プラントの水質維持に貢献してきた。一方で、原子炉構成材料の経年劣化に関する状態基準保全技術の開発・適用方策進んでおらず、炉内各部の腐食環境をモニタし、あるいは、異常予兆を早期に察知し対処する水質管理を確立するには、更なる研究開発が必要である。
_2011年に、BWRプラント復水器から炉内に大量の海水が流入するトラブルが発生した。水質管理システム高度化に当たっては、急激な水質変化にも対応できるようにすることが必要である。
_これまで、炉内環境のモニタは限られた部位でのみ実施されており、炉内全体については行われていない。炉内各部位の評価は主としてモデル解析を通じ評価している。腐食環境の可視化はこれまで実施されていない。
_1F事故においては、原子炉水位計や格納容器雰囲気モニタが十分機能せず、事故の対応に影響を与えた。過酷事故時の原子炉や格納容器内の状況を把握できるモニタリング技術の高度化が求められており、化学の立場からの支援を考える必要がある。(2)    実機材劣化評価手法の開発
_プラント構成材の状態基準保全技術の開発にあたっては、実機水質モニタリング/評価技術を高度化するとともに、SCCやFACによる材料の劣化・損傷に及ぼす水質影響を含めた精度の高い経年劣化評価技術の開発が不可欠である。実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、腐食環境評価法の高度化に係わる研究が国の高経年化対策事業として実施されたが、継続されていない状況であり、再構築が必要である。

(3)    状態基準保全手法の開発
_状態基準保全に繋がる研究開発の実施例は少ないが、水素注入等のSCC環境緩和技術を適用した効果を反映した保全を行うことを目指して、近年、プラント運転中の炉内ヘルスモニタリングの一つとして炉内腐食電位測定が計画されたが、震災の影響で中止になっている。今後、研究開発の再構築が必要である。保全支援のための技術開発を推進していくには、水化学技術単独では難しく、高経年化対応等の関連研究等と連携していく必要がある。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 状態基準保全の実現により、損傷リスクに対する適切な保全方法の展開により合理的な点検が実現
    • 水質等の異常予兆を早期に察知することにより、プラントの安定・安全な運転に寄与
    • 適切な情報発信の組み合わせによって見える化に資することができ、安心・安全意識が醸成

実施にあたっての課題

    • 実機炉内データの取得が成否の鍵となるが、多額の研究開発費が必要
    • 総合的技術であるため、多くの関係者の連携・協働が必要

必要な人材基盤

(1)    人材育成が求められる分野
_状態基準保全の支援技術の研究開発を推進していくためには、以下の分野に精通した人材が求められる。
水質管理・診断、材料劣化評価、設備・機器の状態監視、オンラインメンテナンス、可視化(2)    人材基盤に関する現状分析
_これらの分野に関する研究開発は、従来、水質管理や保全に係わる研究開発はメーカと電力会社をはじめ、研究機関、大学で行われてきた。

(3)    課題
_長い経験が必要な分野であり、熟練には時間がかかる。また、今後人材の不足が予想されることから、長期的視野に立った育成計画が必要である。非原子力の分野との連携・協働も有効と考えられる。

他課題との相関

人材RM
【S111_d32】状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
【S111M107_d36】高経年化評価手法・対策技術の高度化

実施時期・期間

短~長期

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界、学術界/産業界

    • 異常予兆に迅速に対応できる水質管理システム構築による状態基準保全の支援
    • オンラインモニタの高度化による状態基準保全支援
    • 材料劣化に及ぼす環境加速/緩和効果の実機構成材での評価方策

<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、安全性・信頼性・経済性の確保向上を目的とした開発研究及び基盤整備を行う。
    • 安全基盤研究の推進・検証を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界/産業界

    • プラントの腐食環境モニタリングと材料損傷リスクの可視化

<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、安全性・信頼性・経済性の確保向上を目的とした開発研究及び基盤整備を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

産業界、官界、学術界/産業界、官界

    • ヘルスマネジメントのための状態監視技術の開発と適用

<考え方>

    • 産業界(電気事業者、メーカ)は、実施主体として、安全性・信頼性・経済性の確保向上を目的とした開発研究及び基盤整備を行う。
    • 学術界は、安全基盤研究の推進・検証を行う。
    • 官界は、安全規制につながる安全研究と安全基盤研究の推進を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
その他

 

6.1.3 PWR 蒸気発生器長期信頼性確保

_蒸気発生器(以下SG)長期健全性確保のための水質管理は、SG伝熱管腐食損傷の発生による一次系冷却材の二次系統、環境への放射能放出を防止することを目的としており、プラント安全性維持に必要な深層防護レベル1「異常・故障の発生防止」に該当する。
_また、一次系冷却材の漏洩による放射能の環境放出拡大防止対策は、一、二次系の水質管理技術の範囲外となり、SG伝熱管健全性確保に対する影響が大きい、復水器冷却水漏えい等の水質劣化に対しては、水質監視設備、水質浄化系設備の増強等、設備側の保全対策が確立されているため、レベル2「異常・故障の拡大防止」、レベル3「事故の影響緩和」、レベル4「設計基準を超す事故への施設内対策」に該当しない。
_なお、スケール付着影響緩和技術の開発、実機適用に際しては、SG伝熱性能の維持、回復についても考慮する。

6.1.3.1 蒸気発生器伝熱管の健全性確保
_国内PWRでは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、MA600合金製伝熱管を採用した旧型のSG伝熱管の腐食損傷が顕在化し、種々の水質改善対策が適用されるとともに、より耐食性の高いTT600合金、さらにはTT690合金製伝熱管を採用した新型SGに取替えられた結果、現状、SG二次側でSGの信頼性にかかわる腐食損傷は顕在化していない。
_SG伝熱管の二次側腐食損傷として主に経験されてきたIGA(Inter Granular Attack 粒界割れ)に対し、TT690合金は従来の600合金から材料耐性の向上が図られているが、不純物の介在によりクレビス環境が大きく酸、あるいはアルカリ側に偏った環境下で、酸化銅等の酸化剤の共存により腐食電位が上昇した場合は、600合金と同様にIGA発生感受性を有しており、クレビス環境の確認、環境緩和対策の開発を継続していくことは重要である。
_SG伝熱管の健全性を確保していくためには、設計・建設段階における材料・形状等の選択、製作・施工方法の管理、運転開始後における適切な検査・補修を行うことはもちろんのこと、SGに持ち込まれる不純物管理を適切に行うとともに、クレビス環境が良好に維持されていることを確認し、クレビス環境変動時には、効果的なクレビス環境緩和対策を施すことにより、SG伝熱管損傷の発生、進展を防止することが重要である。
_これらSG伝熱管の健全性確保に関する、現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SGは管外蒸発型の熱交換器であり、SG伝熱管と管支持板間に物理的に形成されるクレビス、あるいは給水から持ち込まれた鉄が管板上に堆積、固着した下部に形成されるクレビスにおいて乾湿交番(Dry & Wet)環境が生じ、SG器内水に含まれる微量の不純物が高濃度に濃縮する。不純物バランスの偏りにより、クレビス内環境が強アルカリ性、あるいは強酸性となり、かつ酸化剤の共存による腐食電位の上昇がIGAの発生原因となることを確認し、SGへの不純物持込み防止、系統内の還元性環境強化等水質改善対策を適用してきた [6.1.3.1][6.1.3.2] [6.1.3.4] [6.1.3.6] [6.1.3.7]
_最近のPWR二次系水質管理実績によると、SG伝熱管の損傷を経験した時期に比べて不純物濃度は大幅に低減され、さらに、改良伝熱管であるTT690合金の適用による材料耐性の向上により、SG伝熱管損傷の発生リスクは大きく低減しているものと判断している。
_一方、海外では鉛等の微量金属が関与すると想定されるSG伝熱管損傷が600合金で認められており[6.1.3.5]、国内プラント水質実績から、鉛等微量金属成分が確認されている。しかしながら、これら微量金属のクレビスへの濃縮挙動、SG伝熱管腐食への影響、供給系統の特定ができておらず、管理手法、方針の設定ができていない。

(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SG二次側クレビス環境の評価に対し、高温電極、模擬濃縮部等を用いたモデルボイラー試験による適用性検討が行われてきた[6.1.3.8]が、これら直接監視評価技術は、設備が大がかりとなる、連続計測が困難である等の課題があり、実用化に至っていない。
_このため、現状はプラント運転中のクレビス環境評価として、SGバルク水質からの計算による評価を適用している[6.1.3.9]

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_SG伝熱管損傷防止を目的として取り組んできた清浄度管理(使用副資材管理、機器洗浄等)の徹底により、プラント起動時、定常運転時の不純物のうち、ナトリウム、塩化物イオンの濃度は大幅に低減された。
_一方で、復水脱塩設備カチオン交換樹脂の劣化生成物であるPSS(ポリスチレンスルホン酸)に起因すると想定される硫酸イオンの影響が相対的に大きくなり、夏期の復水温度上昇時等にSGクレビス環境が酸性側に偏るケースが増え、酸性側環境での伝熱管損傷緩和対策の必要性が高まっている[6.1.3.1][6.1.3.6]
_硫酸イオン持込抑制対策として、復水脱塩設備カチオン樹脂劣化防止、溶出低減対策技術の導入が進められており、一定の導入効果が得られている。しかしながら、一部プラントで運転中に硫酸イオンのスパイク的な増加が認められる例があり、一方では、高pH処理の適用に伴う復水脱塩設備の部分通水、バイパス運用等浄化効率が低下するケースもある。また、酸性クレビス環境緩和対策として、緩衝剤の基礎検討を開始しているが、化学物性に基づく机上検討の段階である。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_海外では、管板上のハードスラッジ堆積部においてデンティグや孔食、SCCが顕在化している。化学洗浄も適用されているが、クレビス固着スケールの除去効果は十分ではなく、廃液処理にかかる費用及び労力も大きい。国内ではスラッジランシングによる管板上固着スケールの除去を行うとともに、給水鉄濃度の低減による管板上スラッジ堆積抑制に取り組んでおり、比較的良好なSG環境が達成されている。また、一部プラントではASCA(Advanced Scale Conditioning Agent)洗浄による固着スケール脆弱化に対する試行が行われている[6.1.3.10]が、その効果は今後確認の必要があり、長期健全性維持の観点からは更なる技術革新が必要と考えられる。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、海外でスケール分散剤[6.1.3.1]、フィルムフォーミング・アミン(FFA)等の試験運用が開始されつつある[6.1.3.11]が、これら技術の国内プラント適用の必要性、適合性に関する見極めを早期に行うことが重要である。なお、FFAについては、フィルムフォーミング・プロダクト(FFP)と表現することがあるが、ここではFFAと称する。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_SGクレビス環境は試験による再現が困難であり、長期健全性への水化学の影響を把握することは容易ではない。また、耐SCC改良材であるTT690合金に対しても、SCC進展の感受性があることが報告されている。これらの状況から、長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するために、廃炉活用研究として実機材の抜管調査等による適合性検証が重要と考えられる。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_主にPWRプラントの二次系水処理に使用している脱酸素剤としてのヒドラジンは、取扱い上の危険性が指摘されており、1997年に制定されたPRTR法(※1)により管理対象物質として使用状況の公開が義務付けられているほか、SAICM(※2)により将来的に、ヒドラジンを使用できなくなる可能性が高く、ヒドラジンを使用しない水処理の開発を行っていく必要がある。

※1:PRTR:環境汚染物質排出移動登録の略で、有害物質移動量の届出制度
※2:SAICM:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_SGの長期信頼性を確保し、プラントの公益性を高めるためには、上述した現状課題に対し、以下に示すような水化学技術の高度化、新技術の開発に継続的に取り組んでいくことが重要である。

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SG伝熱管材料の腐食メカニズムについては、酸性、アルカリ性環境下で酸化剤の共存により発生することが確認され、SGへの不純物、酸化剤持込み防止による管理手法を確立、提案、実機適用することにより、SG二次側伝熱管損傷は大幅に低減した。
_しかしながら、鉛等一部の微量金属成分が関与する腐食メカニズム、クレビスへの濃縮挙動、及び持ち込み源、形態は明確になっておらず、これらを明確化することにより、SGクレビス環境緩和のための管理指針を確立するとともに、プラント設計、建設、補修、点検で鉛を含む材料、資材を使用制限するための方策を検討する。

(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_現状SGのクレビス環境評価は、SG器内水不純物濃度から濃縮部の環境を推定するクレビス濃縮評価コードを構築し、本計算コードを介して評価を行っている。
_一方、クレビス環境を直接、逐次監視する技術の開発は、クレビスへの不純物の濃縮、腐食メカニズムの解明、並びに環境緩和技術の開発においても重要であり、この観点からin-situ分析技術等最新の分析評価技術の開発による検証に最重要課題として取り組んでいく。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_クレビス酸性化環境緩和を目的とし、硫酸イオン発生源の一因と想定しているPSSの持ち込み低減のため、復水脱塩設備カチオン樹脂への耐酸化劣化樹脂の適用、復水脱塩設備通水率の低減等の対策が進められているが、依然としてクレビス環境が酸性化する傾向は認められている。
_SGの硫酸イオン低減のためには、復水脱塩設備カチオン樹脂の更なる劣化防止、溶出抑制等新たな技術の開発に加えて、復水脱塩設備の運用方法(コンデミ部分通水、バイパス、SGブローダウン選択浄化等)を含む二次系浄化システム全体の最適化検討を行う。
_また、酸性クレビス環境に対して有効な中和効果を有する緩衝剤として、Ca、Mg等アルカリ土類金属添加が検討されたが、これら化学成分の塩類は当該環境での溶解度が小さく、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させ、濃縮倍率を増加させる懸念がある。このため、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させない、非析出型の緩衝剤を開発し、中和効果の確認、二次系系統構成材料への影響確認を行い、実機適用を推進する。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_SG器内クレビスの濃縮低減による腐食環境緩和を目的とし、SG二次側構成材料健全性確保、廃液環境負荷低減を考慮し、スケール除去効果の高い洗浄技術の開発を行う。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、スケール分散剤、FFAの国内プラントへの適用を検討する場合には、適用検討に先立って、使用する薬剤の二次系系統構成材料、復水脱塩設備樹脂への影響評価、パッキン、ガスケット等有機系材料への適合性評価を実施しておくことが重要である。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_実機で長期間運転に供された廃炉材を用い、SG健全性への水化学管理技術の改善効果、影響について把握・検証を行う。これにより、水化学管理技術の妥当性を確認するとともに、更なる高度化の方向性に対する指標を得る。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_ヒドラジン代替剤、ヒドラジン量低減策の実機適用に際し、従来のヒドラジンが担う、脱酸素性、SGでの酸化物(酸化剤)還元効果、系統のpH維持の確認を行った上で実機試験を行い、実機での成立性を実証していくことになるが、それに合わせ、対象薬剤の安定性、並びに分解生成物の種類と、構成材料に及ぼす影響(例えばpH低下)についても検証を行う必要がある。

(C) 産官学の役割分担の考え方

(1) 産業界の役割
_① SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_② SGクレビス環境評価手法の開発
_③ SGクレビス酸性環境緩衝技術の開発
_④ SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_⑤ スケール付着抑制技術の適用影響評価
_⑥ 水質管理技術の適合性実力検証
_⑦ 代替ヒドラジンの導入
_⑧ プラント実態を把握するための実機運転データ、水質データの蓄積

(2) 国・官界の役割
_① データや評価技術の検証
_② 国内外状況を確認した上、現実的な対応方針の策定

(3) 学術界
_① 基礎データ、新知見の蓄積と新知見レビュー
_② 新実験技術、新計測技術開発のための基盤研究
_③ 基盤研究に係わる人材育成
_④ 人材の供給

(4) 学協会の役割
_① 民間標準類策定
_② 人的交流と育成

(5) 産官学の連携
_① SG伝熱管健全性確保に対応できる人材の育成

6.1.3.2 スケール付着影響緩和技術の開発
_プラント長期信頼性確保のためには、構成材の健全性を維持するとともに、SGをはじめとする機器内表面へのスケール付着、蓄積に基づく性能劣化現象を極力小さくしていくことが必要である。
_二次系系統で材料のFAC(Flow Assisted / Accelerated Corrosion)によって発生した鉄がSGへ持ち込まれ、SG器内構造物に付着し、伝熱抵抗、流動抵抗となりプラント性能、運用に影響を及ぼす機器の性能劣化現象が顕在化している。
_また、クレビス部にスケールが蓄積することにより、当該部の濃縮倍率が増加し、当該部での損傷発生リスクが増大する。
_これら機器性能劣化を防止し、プラント安定運転を確保していくためには、スケール付着、蓄積を抑制することが重要であり、対応策として系統からの腐食生成物の発生を抑制する技術、機器表面に付着させない技術、機器表面に付着したスケールを除去し機器性能を回復させる技術がある。
_これら技術の適用に対し、水化学改善あるいは化学的技術を基にした新水処理薬剤の適用等による効果的、効率的な対応が必要であり、現状技術の高度化、新技術の開発を推進していくことが重要である。
_SGスケール付着影響緩和技術に関する、現状、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着による機器の性能低下抑制対策として、スケール付着に伴う機器性能に対する鉄濃度の関係を整理し、水質改善等による鉄低減対策が適用されつつある[6.1.3.1][6.1.3.6]。しかしながら、スケール付着メカニズム、及び機器の性能低下抑制対策による機器毎の性能変化の精度高い予測は出来ておらず、PWR二次系機器全体のスラッジマネジメントを効率的に進める上での課題となっている。

(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_SGへの鉄の持ち込み抑制、二次系系統材料のFAC抑制対策として、気液二相流域のpH上昇を目的として、高pH処理、代替アミン処理の適用等給水処理条件の改善に取り組んでいる[6.1.3.12]
_二次系系統の銅系材料を排除し、高pH処理(給水pH9.8~10)を適用したプラントでは、十分な鉄低減効果が得られ、スケール付着抑制傾向が認められつつある。
_一方、銅系材料が残留しているプラントでは、プラント毎に系統構成、材料に配慮し、適切な処理を適用していくことが必要であるが、従来AVTpH9.2~9.8の中間pHではスケール付着試験データ、実機実績が乏しく、スケール付着抑制効果が得られるpHの見極めはできていない。
_また、主に火力プラントで試運用が進められている、低温系統の機器、配管内表面に有機性の皮膜を形成し、当該部からの鉄の溶出を抑制するFFAについては、二次系系統構成材料、復水脱塩設備樹脂への影響評価、パッキン、ガスケット等有機系材料への適合性評価を実施するとともに、高pH処理との併用の必要性について検討を行ったうえで国内プラントへの適用を判断していくことが重要である。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_付着スケールを積極的に全量除去することを目的とした手法として、海外で適用されている化学洗浄があげられるが、化学洗浄は高温でかつ比較的高濃度の洗浄液を用いることから、SGの系統構成材に及ぼす影響を確認しておくことが重要であり、また、化学洗浄の実施により多量の高濃度洗浄液を含んだ廃液が発生する。
_一方、付着したスケールの一部を除去、改質する技術として、従来の化学洗浄よりも希薄洗浄液条件かつ低温条件で実施するASCAの国内プラントへの適用が開始されている。本手法はSG器内スケール全量ではなく一部を溶解し、スケール空隙率、脆弱性を増加させることによって伝熱性能の回復、BEC管支持板付着スケールの除去を主目的としたものであり、実機適用実績から期待された効果が得られつつある。しかしながら、SG器内のスケールの一部を洗浄対象としているため、洗浄1回あたりの除去量は少なく、AVT条件下での洗浄頻度は高くなる。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_SGにスケールを付着しにくくする技術として、米国において、ポリアクリル酸を用いたスケール分散剤の適用がEPRI主導のもとで検討、実機試運用が開始され、一部スケール付着抑制に対する良好なデータが得られつつある。
_国内プラントへの適用にあたっては、スケール性状、プラント構成、運用の違いによる適用効果の違い、プラント構成材への影響を把握し、適用性を早期に判断する必要がある。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_代替ヒドラジンの実機適用に当たり、使用薬剤の気液分配に基づく気液2相流系統中ミストのpH低下、有機系薬剤の場合はSG器内等高温系統で分解、生成する有機酸による主に蒸気中ミストのpH低下挙動と、pH低下がFAC速度に及ぼす影響を確認しておくことが重要である。
_また、使用する薬剤、並びに分解生成物がスケールの稠密化に及ぼす影響の有無を把握しておくことが必要である。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点

_SGの長期信頼性を確保し、プラントの公益性を高めるためには、上述した現状課題に対し、以下に示すような水化学技術の高度化、新技術の開発に継続的に取り組んでいくことが重要である。

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_高温水中機器(熱交換器、給水ポンプ、制御弁、流量計等)へのスケール付着抑制対策を検討するため、各機器環境条件下でのスケール付着メカニズムを解明する。また、スケール付着抑制対策を検討するための付着現象再現試験及び機器性能変化予測方法の構築を行う。

(2) SGへの鉄持ち込み抑制技術の開発
_プラント毎に系統構成、材料を考慮したスケール付着抑制効果を得るための給水pH条件、並びにpH上昇手法(代替アミン等)を検討し、実機適用に際しては、系統構成材料への影響、プラント運用について検討を行う。
_また、高pH処理、代替アミン処理等SGへの鉄持ち込み技術を適用したプラントの、鉄低減実績、スケール付着抑制効果を評価し、新たな代替アミンの適用等更なる対応策の必要性、手法について検討を行う。
_一方、FFAの国内プラントへの適用に関しては、高pH処理、代替アミン処理との併用の必要性を見極めるとともに、二次系系統使用材料との適合性評価を行っていく。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_ASCA洗浄は、AVT条件下でBEC閉塞、伝熱性能低下効果を維持するためには1~2回定検毎の高頻度適用が必要であり、廃液タンク設置に大きなスペースを必要とし、廃液処理に長期間を要している。このため、廃液処理の合理化(廃液の排出時その場処理、廃液処理手法の改善等)技術の開発、適用を行う。
_また、ASCA洗浄はSGクレビス部等の強固なスケールを除去できる洗浄手法ではないことから、SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、スケール除去、改質効果が高く、強固なスケールも洗浄可能な除去技術の開発を行う。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_EPRI主導のもと検討されているスケール分散剤の国内プラントへの適用性評価を行う。
_国内プラントへの適用性判断にあたり、スケール性状、プラント構成の違いによる適用効果、プラント構成材への影響、プラント運用への影響を見極め、適用効果が限定される、あるいは構成材料に影響がある場合、新分散剤の開発、実機適用性検討を行う。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_代替ヒドラジンの国内プラントへの適用にあたり、使用する薬剤のプラント運転中の還元効果、プラント停止中の保管時腐食抑制効果、並びに環境負荷への影響を確実に把握するとともに、使用する薬剤、並びに分解生成物のプラント構成材への影響、プラント運用への影響、スケール稠密化に対する影響について十分なプラント適用性検討を行う。

(C) 産官学の役割分担の考え方

(1) 産業界の役割
_① スケール付着メカニズムの解明と付着抑制技術の開発
_② SGへの鉄持ち込み抑制技術の開発
_③ スケール除去・改質技術の開発
_④ スケール付着抑制技術の開発
_⑤ 代替ヒドラジン適用への対応
_⑥ プラント実態を把握するための実機運転データ、水質データの蓄積

(2) 国・官界の役割
_① データや評価技術の検証
_② 国内外状況を確認した上、現実的な対応方針の策定

(3) 学術界
_① 基礎データ、新知見の蓄積と新知見レビュー
_② 新実験技術、新計測技術開発のための基盤研究
_③ 基盤研究に係わる人材育成
_④ 人材の供給

(4) 学協会の役割
_① 民間標準類策定
_② 人的交流と育成

(5) 産官学の連携
_① スケール付着影響緩和技術の開発に対応できる人材の育成

図6.1.3-1に導入シナリオ、表6.1.3-1に技術マップ、図6.1.3-2図6.1.3-3にロードマップを示す。

参考文献

[6.1.3.1] 日本原子力学会編, “原子炉水化学ハンドブック”, コロナ社 (2000).
[6.1.3.2] I. Ohsaki et.al, Proc. of Internal SG & Heat Exchanger Conf., Tront, Canada, 2, p.893 (1994).
[6.1.3.3] PWR Secondary Water Chemistry Guide Lines Revision 6, EPRI 108224 (2004).
[6.1.3.4] A. Kishida, H. Takamatsu, H. Kitamura et al., “The Causes and Remedial Measures of Steam Generator Tube Intergranular Attack in Japanese PWR”, Proc. 3rd Int. Symp. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, p.465 (1987).
[6.1.3.5] K. Fruzzetti, “Pressurized Water Reactor Lead Sourcebook”, EPRI 1013385 (2006).
[6.1.3.6] A. Maeda et al., Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France (2012).
[6.1.3.7] 八島清爾, 原子力工業, 41[4], 62-69 (1995).
[6.1.3.8] T. Tsuruta, S. Okamoto, E. Kadokami, and H. Takamatsu, “IGA/SCC Crack Propagation Rate Measurement on Alloy 600 SG Tubing Using a Side Stream Model Boiler”, The 3rd JSME/ASME Joint International Conference on Nuclear Engineering, Kyoto, Japan, p.291 (1995).
[6.1.3.9] Y. Shoda, E. Kadokami, and T. Hattori, “Examination of New Bulk Water Molar Ratio Index for Crevice Environment Estimation”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems 7, Bournemouth, UK, p.608 (1996).
[6.1.3.10] M. Little, R. Varrin, A. Pellman, and M. Kreider, “Advanced Scale Conditioning Agent (ASCA) Applications: 2012 Experience Update”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France, Paper No.O60-140 (2012).
[6.1.3.11] U. Ramminger, S. Hoffmann-Wankerl, and J. Fandrich, “The application of film-foming amines in secondary side chemistry treatment of NPPs”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France, 26.Sep. (2012).
[6.1.3.12] O. Jonas, “Control Erosion/Corrosion of Steels in Wet Steam”, Power, p102 (1985).

 

課題調査票

課題名

SG伝熱管の健全性確保

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ.保全・運転負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上のため、保全・運転管理の確立、高度化を図る必要がある。中Ⅱ.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給、かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。

概要(内容)

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SG伝熱管材料の腐食メカニズムについては、酸性、アルカリ性環境下で酸化剤の共存により発生することが確認され、SGへの不純物、酸化剤持込み防止による管理手法を確立、提案、実機適用することにより、SG二次側伝熱管損傷は大幅に低減した。しかしながら、鉛等一部の微量金属成分が関与する腐食メカニズム、クレビスへの濃縮挙動は明確になっておらず、これらを明確化することにより、管理要否、手法を検討する。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SGクレビス環境が伝熱管の腐食環境にないことをモデルボイラー試験、計算評価の構築により、間接的に環境評価を行っているが、より直接的な監視を行う上でのin-situe監視技術等の開発・検証を行う。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_最近の実機二次系水質実績において、SGクレビス環境の酸性化傾向が認められ、当該環境を中和でき、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させない、揮発性等の中和剤の開発、効果確認、実機適用を行う。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_プラントの運転長期化に伴いSGへ持ち込まれた鉄がSG二次側クレビス等へ付着し濃縮環境を増加させる。SG二次側に付着した固着スケールを構成材料の健全性を確保した上で除去できる技術を検討する。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、スケール分散剤、フィルムフォーミング・アミン(FFA)等の国内プラント適用の必要性、適合性に関する見極めを早期に行う。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するために、廃炉活用研究として実機材の抜管調査等による実力適合性検証手法の検討、確立を行う。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_SG伝熱管健全性確保のため、系統内還元性維持のため使用されているヒドラジンは、将来的に、有害物質として使用が制限される可能性が大きく、ヒドラジンを使用しない水処理の検討を行う。

導入シナリオとの関連

_水化学によるSG伝熱管腐食メカニズムの明確化と、環境評価技術高度化、環境緩和技術の開発・実機適用によるSG伝熱管長期健全性の向上

課題とする根拠
(問題点の所在)

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_海外で鉛等微量金属が関与すると想定されるSG伝熱管損傷が認められている。国内プラント水質実績から、鉛等微量金属成分が確認されているが、これら微量金属のクレビスへの濃縮挙動、SG伝熱管腐食への影響、供給系統の特定ができておらず、管理手法の設定ができていない。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SGクレビス環境評価コードは、計算を介した環境評価であり、一方、模擬濃縮部を設けたモデルボイラー、高温電極による直接監視評価技術は、設備が大がかりとなり、連続計測が困難である等課題があり、実用化に至っていない。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_クレビス環境酸性化の要因の一つにコンデミ樹脂の劣化生成物であるPSS(ポリスチレンスルホン酸)の持込があげられ、酸性環境中和手法の一つとして、Ca、Mg等アルカリ土類金属添加が検討されたが、これら化学成分の塩類は当該環境での溶解度が小さく、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させ、濃縮倍率を増加させる懸念がある。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_SG器内クレビスの濃縮低減による腐食環境緩和のためには、SG二次側構成材料健全性確保、廃液環境負荷低減を考慮した、スケール除去効果の高い技術の開発が必要である。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール分散剤、FFAの国内プラントへの適用を検討する場合には、適用検討に先立って、使用する薬剤の二次系系統構成材料への適合性評価、復水脱塩設備樹脂への影響評価を実施しておくことが重要である。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_実機で長期間運転に供された廃炉材を用い、SG健全性への水化学管理技術の改善効果、影響について把握・検証を行い、水化学管理技術の妥当性確認、更なる高度化の方向性に対する指標を得る。

(7) 代替ヒドラジンの導入
_ヒドラジン代替剤、ヒドラジン量低減策の実機適用に当たり、脱酸素性、SGでの酸化物(酸化剤)還元効果、系統のpH維持の確認を行うとともに、対象薬剤の安定性、分解生成性生物の種類と、構成材料に及ぼす影響(例えばpH低下)について検証を行う必要がある。

現状分析

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_鉛等微量金属のSG器内での濃縮挙動、腐食寄与が不明であり、SG伝熱管腐食に及ぼす影響が明確化できておらず、管理方針が決定できていない。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_プラント運転中のクレビス環境が適切に管理できているか直接的に監視できる技術の実機適用には至っていない。本技術開発により、腐食メカニズム解明、環境緩和技術の開発に対し、検証ツールとなることが期待できる。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_硫酸イオン持込抑制対策として、更なる復水脱塩設備カチオン樹脂劣化防止、溶出低減対策技術の導入が進められている。一方、酸性クレビス環境中和対策として、非析出型中和剤の基礎検討を開始しているが、化学物性に基づく机上検討の段階である。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_海外適用実績のある化学洗浄は、クレビス固着スケールの除去効果が十分ではなく、廃液処理負荷が非常に大きい。一方、国内実績のある希釈化学薬品を用いるASCAは、固着スケールの除去には適していない。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_SGへの鉄持ち込み抑制技術の適用効果に基づき、スケール分散剤、フィルムフォーミング・アミン(FFA)適用の必要性の見極め、適用に際しては適合性の見極めを行うことが必要である。

(6) 水質管理技術の適合性実力検証
_長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するための、廃炉活用研究による実力適合性検証手法を確立する必要がある。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_系統内還元性維持のため、各種代替ヒドラジン剤の適用性検討が行われてきたが、現状適合剤の選定に至っていない。

期待される効果
(成果の反映先)

・SG伝熱管健全性向上によるプラント信頼性向上

・スケール除去方法の適正化による環境負荷軽減

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 課題の緊急性(当面SG伝熱管健全性は良好)
    • 課題の原子力安全との相関性の明確化(SG伝熱管の長期健全性確保)
    • 研究開発費の確保(SA対策、再稼動対応ではないため費用の早期確保が難しい可能性あり)

必要な人材基盤

(1) 人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術
    • 化学物性評価技術
    • 腐食環境評価技術
    • 高温、高圧条件下実験技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 電力事業者は、プラント運転を通じ評価データの蓄積、検討課題の抽出、確認を実施してきた。
    • プラントメーカは、国プロ、電共研、委託研究で研究開発を実施し、必要な人材の育成を行ってきた。
    • 大学等では、共同研究、インターシップ等により、技術交流、人材育成を行ってきた。
    • 水化学技術は大学での専門コース、講座等が無いため、(1)項の各技術分野に対しOJTを通じて人材育成してきた。
    • 海外の新技術導入について、積極的な情報の入手を行うことを念頭においた人材育成が必要である。

(3) 課題

    • 1F事故後のプラント長期停止により、電力事業者、プラントメーカとも実務経験を積む場が減少している。
    • 原子力プラント水化学関連改善技術については、SA対策、プラント再稼動に係わる項目ではないため、開発研究の実施が先送りとなり、OJTを通じた人材育成が行えていない。
    • 上記に伴い、若手技術者の原子力離れを招き、ベテラン技術者からの技術伝承が円滑に行えない状況になりつつある。

他課題との相関

    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d39:検査・補修技術の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界・学術界/産業界
_SG伝熱管腐食メカニズムの解明、SGクレビス環境評価技術の開発・高度化、クレビス環境、濃縮緩和対策に関する技術開発を実施
<考え方>

    • 電力事業者はプラント実態を確認し、研究開発課題の選定、実機適用、実機適用効果の確認・評価を行う。
    • プラントメーカは研究開発課題に応じた技術開発を推進し、プラント毎に具体的な設計を行い、電力事業者が実施する実機適用、適用効果の評価に関する支援を行う。
    • 電力事業者、プラントメーカは技術開発が必要な技術課題、検討に必要な技術分野について大学側へ発信を行う。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術の開発、検証を実施する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術に関する研究を推進するとともに、研究開発に必要な人材を育成する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電力事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • プラントメーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて、規制基準、及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
    • 原子力規制委員会が規制の観点から主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_SG伝熱管の健全性評価に関する規格基準の策定
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、プラントメーカ)が主体となって、SG伝熱管健全性確保に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、SG伝熱管健全性確保、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、SG伝熱管健全性確保、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価、及び認可を行う。

その他

 

課題調査票

課題名

スケール付着影響緩和技術の開発

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ.保全・運転負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上のため、保全・運転管理の確立、高度化を図る必要がある。中Ⅱ.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給、かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。

概要(内容)

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_高温水中機器(熱交換器、給水ポンプ、制御弁、流量計等)へのスケール付着抑制対策を検討するため、各機器環境条件下でのスケール付着メカニズムを解明する。また、スケール付着抑制対策を検討するための付着現象再現試験及び機器性能変化予測方法の構築を行う。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_スケール付着事象毎に抑制に必要なpH条件、プラント構成毎のpH上昇手法(pH調整剤の変更等)、海外火力等で試運用が開始されている、FFA(フィルム・フォーミング・アミン)の適用性について検討する。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、よりスケール除去、改質効果の高い洗浄技術の開発を行う。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_EPRI主導の元、米国にて検討されているスケール分散剤の国内プラントへの適用性評価、並びに国内プラントに適した新分散剤についても検討を実施する。

(5) 代替ヒドラジン適用への対応
_代替ヒドラジンの実機適用に当たり、使用薬剤、分解生成物による気液2相流系統中ミストのpH低下がFAC速度に及ぼす影響、スケールの稠密化に及ぼす影響の有無を把握しておく。

導入シナリオとの関連

_水化学によるスケール付着メカニズムの明確化と、鉄低減技術高度化、スケール除去・改質技術の開発・実機適用によるプラントの長期安定運用確保、性能低下抑制、保守点検作業の適正化

課題とする根拠
(問題点の所在)

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着による機器の性能変化抑制対策として、水質改善等による鉄低減対策がなされつつあるが、スケール付着メカニズム及び機器の性能変化抑制対策による機器毎の性能変化の精度高い予測は出来ておらず、PWR二次系機器全体のスラッジマネジメントを効率的に進める上での課題となっている。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_プラント毎に系統構成、材料を考慮したスケール付着抑制効果を得るための給水pH条件、並びにpH上昇手法(代替アミン等)を検討し、実機適用に際しては、系統構成材料への影響、プラント運用について検討を行う必要がある。また、海外火力等で試運輸が開始されつつあるFFAについて、高pH処理等pH上昇対策との併用の必要性を検討するとともに、二次系系統設備、材料との適合性を確認しておくことが必要である。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_ASCAの高頻度での適用は、洗浄廃液処理の対応負荷増大にもつながっており、SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、よりスケール除去、改質効果の高い洗浄技術の開発が必要である。また、高pH処理等水処理改善後の生成スケールに対する改質効果の確認ができておらず、早期の実機検証、洗浄改善要否の判断が急務である。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_国内プラントへの適用性判断にあたり、スケール性状、プラント構成の違いによる適用効果、プラント構成材への影響、プラント運用への影響を確実に見極める必要がある。また、既存の分散剤で効果が限定される、あるいは他の構成材料に影響がある場合、新分散剤の開発、実機適用性検討が必要である。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
代替ヒドラジンの適用にあたり、使用する薬剤のプラント運転中の還元効果、プラント停止中の保管時腐食抑制効果、環境への影響、プラント構成材への影響、プラント運用への影響、スケール稠密化に対する影響について十分なプラント適用性検討を行う必要がある。

現状分析

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着に伴う機器性能に対する鉄濃度の関係が整理されつつあるが、系統水中鉄形態等も考慮した詳細予測モデルはなく、また、再現試験は高鉄濃度条件下で実施している等必ずしも実機を模擬・再現出来ていない。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_pH処理(給水pH9.8~10)適用プラントでは、十分な腐食生成物低減効果が得られ、スケール付着に対しても抑制傾向が認められつつある。一方、プラント毎に、系統構成、材料に配慮し、適切な処理を適用していくことが必要であるが、従来AVTのpH9.2~9.8の中間pHではスケール付着試験データ、実機実績が乏しく、スケール付着抑制効果が得られるpHの見極めはできていない。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_SG二次側の付着スケール除去に効果的であるASCAは、BEC閉塞、伝熱性能低下効果を維持するためには、AVT条件下では1~2回定検毎の高頻度適用が必要であり、廃液負荷の低減が必要。また、水処理改善条件化スケール改質効果の確認に基づく、適用頻度の適正化が必要。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_国内プラントへの適用に際し、スケール性状、プラント構成、運用の違いによる適用効果の違い、プラント構成材への影響を確実に把握し、国内プラントへの適用性を早期に判断する必要がある。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_系統内還元性維持のため、各種代替ヒドラジン剤の適用性検討が行われてきたが、現状適合剤の選定に至っていない。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 高温水系統でのスケール付着現象の再現と影響予測式の構築。
    • SGをはじめとする機器へのスケール付着抑制により、長期安全性の確保、プラント安定運転の維持に貢献

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 課題の緊急性(SA対策、再稼動対応ではないが、プラント安定運用の観点から早期の対応が必要)
    • 課題の原子力安全との相関性の明確化(プラント安定運転の維持に貢献)
    • 研究開発費の確保(SA対策、再稼動対応ではないが、プラント安定運用の観点から早期の対応が必要)

必要な人材基盤

(1) 人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術
    • 化学物性評価技術
    • 腐食環境評価技術
    • 高温、高圧条件下実験技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 電力事業者は、プラント運転を通じ評価データの蓄積、検討課題の抽出、確認を実施してきた。
    • プラントメーカは、国プロ、電共研、委託研究で研究開発を実施し、必要な人材の育成を行ってきた。
    • 大学等では、共同研究、インターシップ等により、技術交流、人材育成を行ってきた。
    • 水化学技術は大学での専門コース、講座等が無いため、(1)項に示した各技術分野の人材をOJTを通じて人材育成してきた。
    • 海外の新技術導入について、積極的な情報の入手を行うことを念頭においた人材育成が必要である。

(3) 課題

    • 1F事故後のプラント長期停止により、電力事業者、プラントメーカとも実務経験を積む場が減少している。
    • 原子力プラント水化学関連改善技術については、SA対策、プラント再稼動に係わる項目ではないため、開発研究の実施が先送りとなり、OJTを通じた人材育成が行えていない。
    • 上記に伴い、若手技術者の原子力離れを招き、ベテラン技術者からの技術伝承が円滑に行えない状況になりつつある。

他課題との相関

    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d39:検査・補修技術の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界・学術界/産業界
_スケール付着メカニズムの明確化と、鉄低減技術高度化、スケール除去・改質技術の開発・実機適用によるプラントの長期安定運用確保、性能低下抑制対策に関する技術開発を実施。
<考え方>

    • 電力事業者はプラント実態を確認し、研究開発課題の選定、実機適用、実機適用効果の確認・評価を行う。
    • プラントメーカは研究開発課題に応じた技術開発を推進し、プラント毎に具体的な設計を行い、電力事業者が実施する実機適用、適用効果の評価に関する支援を行う。
    • 電力事業者、プラントメーカは技術開発が必要な技術課題、検討に必要な技術分野について大学側へ発信を行う。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術の開発、検証を実施する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術に関する研究を推進するとともに、研究開発に必要な人材を育成する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電力事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • プラントメーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて、規制基準、及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
    • 原子力規制委員会が規制の観点から主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_スケール付着抑制、除去技術に関する規格基準の策定
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、プラントメーカ)が主体となって、スケール付着抑制、除去技術に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、スケール付着抑制、除去技術、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、スケール付着抑制、除去技術、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価、及び認可を行う。

その他

 

9. おわりに

_水化学ロードマップ 2020 を刊行する。
_福島第一原子力発電所の事故を経験して、原子力技術ならびに水化学技術を取り巻く環境は大きく変化した。今回の改訂では、軽水炉安全技術・人材ロードマップとの整合性を図りながら、水化学技術の意義を改めて見直し、より広い視点でその役割を再定義した。新たに章を設けて、深層防護の観点から水化学技術の役割について考察を深め、また、核分裂生成物の挙動や汚染水処理等、過酷事故のレベルにおいても水化学が果たす役割は大きいことから、やはり章を新設して事故時対応の水化学を記述した。一方では、これまで水化学ロードマップにおいて安全基盤研究の 3 本柱と位置づけてきた「構造材料の高信頼化」、「燃料の高信頼化」、「被ばく線源低減・環境負荷低減」は、その重要性が変わるものではなく、前回のロードマップ改訂から十余年の技術的進展を網羅して反映するべくこれらの章の内容を見直した。共通基盤技術についても同様である。
_前回 2009 年版から十余年ぶりの改訂であることのみならず、2011 年の福島第一原子力発電所事故を経て原子力発電における水化学技術の役割を根本から問い直した結果、大幅な改訂となった。改訂作業の過程で、原子力安全、材料、核燃料等、関連する他分野の専門家と意見を交わし、議論を重ねた。これは、コミュニケーション・ツールとしてのロードマップの意義を再認識する機会ともなった。
_次世代の水化学分野の技術者・研究者にとって目指すべき方向を指し示す道標として、また、他分野の技術者との意思疎通を深めるツールとして、水化学ロードマップ 2020 が役割を果たすことを期待する。水化学ロードマップ 2020 の編纂は、水化学部会メンバーの尽力によるものである。関係者の惜しみない協力に深く感謝する。

2020 年 3 月 4 日
水化学ロードマップフォローアップ検討ワーキンググループ
主査 渡邉 豊

略語表

  略語  説明  記載
箇所
 
  1F  福島第一原子力発電所  1章、
3章、
4章、
5章、
6章、
7章、
8 
A  AOA  燃料軸方向出力異常(Axial Offset Anomalies  6.2
6.3 
ASCA  Advanced Scale Conditioning Agent  6.1.3 
ATF  事故耐性燃料(Accident Tolerant Fuel  6.2 
AVT  全揮発性薬品水処理(All Volatile Treatment  6.1.3 
B  BIP  NEA Behaviour of Iodine Project (よう素挙動プロジェクト)  8.2 
BWR  沸騰水型軽水炉 (Boiling Water Reactor)  6
6.3
7.1.1
8.1 
C  CBB  すき間付与低ひずみ曲げ試験 (Creviced Bent Beam)  7.1.1 
CIPS  クラッド誘起型出力シフト(Crud Induced Power Shift
燃料表面へのクラッド、特にホウ素の付着による原子炉局所出力の低下 
6
6.2.
6.3 
COD  化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand  6.4 
CT  コンパクトテンション (Compact Tension)  7.1.1 
D  DBA  設計基準事故(Design Basis Accident  8.2 
DF  除染係数(Decontamination Factor  6.4 
E  ECP  電気化学的腐食電位(Electrochemical Corrosion Potential  6.1.1
7.1.1 
EdF  フランス電力(Électricité de France  6.2 
EPRI  米国電力研究所(Electric Power Research Institute  6.2 
F  FAC  流れ加速型腐食(Flow Accelerated Corrosion  6.1.2
6.1.3 
FCS  可燃性ガス制御系(Flammable gas Control System  8.2 
FFA  フィルムフォーミング・アミン(Film Forming Amine  6.1.3 
FFP  フィルムフォーミング・プロダクト(Film Forming Product  6.1.3 
FP  核分裂生成物(Fission Product  6
6.2
7.1.2
8 
H  HCDI  高炉心燃焼指数(High Core Duty Index  6.2 
HWC  水素注入(Hydrogen Water Chemistry  6.1.1
6.1.2 
I  IAEA  国際原子力機関(International Atomic Energy Agency  6.3 
IASCC  照射誘起応力腐食割れ(Irradiation Assisted Stress Corrosion Cracking  6.1.1
6.3
7.1.1 
IGA  粒界割れ(Inter Granular Attack  6.1.3 
IGSCC  粒界型応力腐食割れ(Intergranular Stress Corrosion Cracking  6.1.1 
IHSI  誘導加熱による残留応力緩和法(Induction Heating Stress Improvement  6 
K  KAERI  韓国原子力エネルギー研究所(Korean Atomic Energy Research Institute  6.2 
L  LDI  液滴衝撃エロージョン(Liquid Droplet Impingement Erosion  6.1.2 
LOCA  原子炉冷却材喪失事故(Loss of Coolant Accident  6.1.1 
M  MA600  ミルアニール処理を施した600合金(mill annealed alloy 600  6.1.3 
MOX  混合酸化物燃料(Mixed Oxide  6.2 
N  NISA  原子力安全・保安院(Nuclear and Industrial Safety Agency  6.1.2 
NMCA  貴金属注入(Noble Metal Chemical Addition  6.1.1
7.1.1
6.1.2
NUREG  米国原子力規制委員会(NRC)の発行する原子力規制に係わる一連の技術レポート  7.1.2 
O  ODSCC  外面応力腐食割れ(Outside Diameter Stress Corrosion Cracking  6.1.1 
OECD/NEA  経済協力開発機構原子力機関(Organisation for Economic Co-operation and Development Nucleaer Energy Egency)  8.2 
OLNC  オンラインNMCAOn-Line Noble Metal Chemical Addition  6.1.1 
ORIGEN2  核分裂生成物生成、燃焼解析コード (ORNL Isotope Generation and Depletion)  7.1.2 
OWC  酸素注入(Oxygenated Water Chemistry  6.1.2 
P  PAR  静的触媒式水素再結合器(Passive Autocatalytic Recombiner)  8.2 
PCV  原子炉格納容器(Pressure Containment Vessel)  8.2 
PDCA  Plan計画→ Do(実行)→ Check評価→ Act改善)の 4段階を繰り返すことによる継続的な業務改善(Plan-Do-Check-Act  6.3 
Phèbus FP Project  仏国Cadarasche原子力研究所で実施されたPhèbus実験炉を用いた実UO2燃料を用いた燃料溶融時の核分裂生成物移行模擬実験  7.1.2 
Post-DNB  ポスト核沸騰離脱(Post-Departure from Nucleate Boiling  6.1.1 
PRTR  環境汚染物質排出移動登録(Pollutant Release and Transfer Register  6.1.3 
PSS  ポリスチレンスルホン酸(Polystyrene Sulfonate  6.1.3 
PWR  加圧水型軽水炉 (Pressurized Water Reactor)  6
6.3
7.1.1
8.1 
PWSCC  一次冷却材応力腐食割れ(Primary Water Stress Corrosion Cracking  6.1.1
6.3
7.1.1 
S  SA  シビアアクシデント、重大事故 (Severe Accident)  7.1.2
8 
SAICM  国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(The Strategic Approach to International Chemicals Management  6.1.3 
SCC  応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking  6
6.1.1
6.1.2
6.3
7.1.1 
SFP  使用済み燃料プール(Spent Fuel Pool  6.4 
SG  蒸気発生器(Steam Generator  6
6.1.3
6.4 
S/P  サプレッションプール(Suppression Pool)  8.2 
SSRT  低歪速度引張試験 (Slow Strain Rate Test)  7.1.1 
STEM  NEA Source Term Evaluation and Mitigation Project(ソースターム評価及び緩和プロジェクト)  8.2 
T  THAI  NEA Thermal-hydraulics Hydrogen Aerosols and Iodine Project(熱水力、水素、エアロゾル及びよう素プロジェクト)  8.2 
TMI-2  米国ペンシルバニア州にあったPWRプラント(Three Mile Island-2  6
8 
TOC  全有機炭素(Total Organic Carbon  6.4 
TT 600  粒界にクロム欠乏層を形成することなく炭化物を析出させる熱処理を施した600合金(Thermally treated alloy 600  6.1.3 
TT 690  粒界にクロム欠乏層を形成することなく炭化物を析出させる熱処理を施した690合金(Thermally treated alloy 690  6.1.3 
U  UCL  単軸定荷重引張試験 (Uniaxial Constant Load)  7.1.1 
UT  超音波探傷検査(Ultrasonic Testing  6.2 

 

 

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水化学ロードマップ2020 

 2020年3月1日発行 

 発行 一般社団法人日本原子力学会 水化学部会
 〒105-0004 東京都港区新橋2-3-7 新橋第二中ビル
       TEL 03-3508-1261 FAX 03-3581-6128
  URL http://www.aesj.net/ 

6.1.2 配管減肉環境緩和

_原子力発電所では、運転に伴う、機器・配管の肉厚が減少する事象が進行することが知られており、これは系統水の漏えいや圧力バウンダリーの維持によるプラントの安全性や信頼性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、発生した腐食生成物に起因する熱伝達の阻害、堆積部での腐食環境の形成や被ばく線源の上昇等の原因にもなっている。
_配管減肉管理においては、FAC及びLDIを対象として日本機械学会が作成した「発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格」に定められた配管取替基準に基づいて、肉厚測定結果に応じた配管の取替が行われている[6.1.2-1] [6.1.2-2] [6.1.2-3]。LDIは機械的作用が支配的な減肉現象であるのに対し、FACは化学的な作用が支配する現象であり、材料因子、流況因子及び環境因子が複合して影響を及ぼす。両者のメカニズムは異なり、環境緩和による対策が有効となるのはFACのみである。このため、本ロードマップにおいては、FACを対象とした配管減肉環境緩和に関する課題のみを対象とする。
_原子力発電所では、FACの対策として、耐食材料への配管取替(材料因子の改善)、配管レイアウトの変更(流況因子の改善)の他に、pH制御や酸素注入といった水化学の改良(環境緩和技術の適用)を行っている。配管減肉管理をより安全に、且つ、合理的に遂行するためには、環境緩和技術の高度化を進めるとともに、その効果に応じて肉厚測定の箇所及び頻度を設定する等、肉厚測定計画の策定にも反映させることが有効である。
_しかしながら、現行の規格では、環境緩和技術の適用によるFACの抑制効果は、管理には反映されるまでに時間を要する等の課題が指摘されている。このため、日本機械学会において、配管減肉管理の高度化に向けた研究・検討が進められており、その一環として配管減肉予測手法の規格化の方針が検討されている。配管減肉規格に予測手法を用いた管理が導入されれば、環境緩和技術の適用等、運転条件の変更による効果も考慮された合理的な管理の実現が期待される。
_このような状況を踏まえて、配管減肉環境緩和に関する現状と課題、研究方針及び産官学の役割分担について、以下に述べる。
_なお、水化学の改良による減肉環境緩和は、プラントの安全性を維持するための深層防護におけるレベル1に該当する。但し、系統への海水流入等により通常の水質管理から逸脱した場合には、配管減肉挙動にも影響が及ぶ可能性があり、その対応に関する課題についてはレベル2に該当する。また、FACによる配管減肉の進行は経年的な事象であり、その予防のための配管減肉緩和技術の適用が、非常用系機器・配管の機能に悪影響を及ぼす可能性は低いため、レベル3及びレベル4の対象とはならない。

(A) 現状分析
_現在、国内の原子力発電所における配管減肉管理は、2005年に発生した美浜発電所3号機の配管損傷事故を契機に、NISA指示文書「原子力発電所の配管肉厚管理に対する要求事項について」(2005年2月18日)において、技術規格策定の要求が出され、これを受けて日本機械学会が制定した「発電用原子力設備規格 加圧水型/沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」(2006年11月発行、以下「減肉技術規格」)に基づいて実施されている。配管減肉管理の安全性は、技術規格により体系化して整理されたため、それ以前の管理と比べて、飛躍的に向上した。但し、現在の減肉管理は、十分に裕度を持って設定された減肉速度や肉厚測定結果に基づき算出した減肉速度の実績に基づいて設定されているため、新たな環境緩和技術を適用して減肉が抑制されても、肉厚測定結果が蓄積しないと減肉管理に反映できない体系となっている。今後、安全性の更なる追求と合理性の調和を達成するためには、環境因子の影響を定量的に評価し、FACメカニズムに立脚した減肉環境緩和技術の高度化を行うとともに、同技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることが求められる。以下にその課題を示す。

(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
_材料因子や流況因子の改善は、対策施工部位における減肉抑制効果が確実に得られるが、配管取替のタイミングにしか適用することができず、また、効果の範囲も限られる。一方で、水化学の改良による配管減肉の抑制は、その技術の適用開始が比較的容易な場合もあり、効果は広範囲で得られるメリットがある。このため、水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきである。但し、同技術による減肉抑制効果は、同じ系統内においても、場所により異なることが判明している。これは、環境因子以外の影響因子(流況、材料)との相乗として効果が現れるためと考えられている。従って、これらの影響因子が減肉速度に及ぼす効果・影響を層別化し、最適な配管減肉防止技術を構築することが期待される。
_また、HWC、NMCA等のSCC環境緩和技術の適用時や軽水炉利用高度化を目的とした出力向上時の配管減肉への影響、さらには代替ヒドラジン適用時の影響についても評価し、必要に応じてその対策を検討する必要がある。深層防護における異常・故障の拡大防止の観点からは、海水リーク等による水質悪化による腐食挙動への影響についても把握する必要がある。

(2) 配管減肉予測評価手法の構築・標準化
_材料・流況・環境の各因子が重畳して変化した場合における配管減肉挙動に及ぼす定量的な影響については、十分な知見(データ)が得られていない。このため、偏流発生部位等の一部の部位では予想外の配管減肉の進行が認められている。このような事象の発生を未然に防ぎ、配管減肉の進行による漏えいの危険性を低減させるには、減肉予測評価手法の活用が有効であり、その構築のためには、配管減肉メカニズムの解明が不可欠である。
_減肉メカニズムに立脚した減肉予測評価手法が構築されれば、流動条件や材料が種々異なる部位ごとに減肉抑制の効果を予測することが可能となり、環境緩和技術の最適化が可能となる。また、減肉予測評価手法を減肉管理に活用することによって、FAC減肉事象の予知保全の最適化ができるとともに、プラントの安全性を損なうことなく、現在実施している減肉管理の合理化や肉厚測定が困難な部位における適切な肉厚評価等、より合理的、且つ精緻な減肉管理が実現できる。
_日本機械学会では、「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改訂・充実化に向けた技術戦略マップ」(以下「日本機械学会ロードマップ」)において、減肉メカニズムの解明とそれに立脚した減肉モデルの構築の必要性とスケジュールを示し、これに基づいて、各機関が各種研究・検討を行っているところであり、国内においても複数の減肉モデルが開発・提案されている。しかしながら、環境因子の効果に対する定量的な精度等に課題が残されている。このため、日本機械学会での活動と連携し、環境緩和技術の効果を精度良く評価し得る配管減肉予測評価モデルを構築・標準化する必要がある。

(3) 規格・基準の整備
_減肉技術規格[6.1.2-1] [6.1.2-2] [6.1.2-3]には、上記のFACとLDIの管理範囲、管理方法(肉厚計測方法 他)及び評価方法等が示されている。流況状態(水単相流及び水、あるいは蒸気の混合二相流)・流速・温度・湿り度で分けた各カテゴリーに対し、国内全プラントで計測された膨大な配管肉厚計測結果から定められた最大減肉速度が示されており、肉厚検査計画(頻度)への反映が要求されている。各発電所では、減肉技術規格に基づいて、肉厚計測箇所及び頻度を安全側に設定した肉厚検査計画を策定・遂行し、その結果に応じて適宜配管取替を実施している。
_配管減肉管理で示される最大減肉速度は、水化学の改良以前の時期に得られた値を含む肉厚計測値より算出されている。また、各カテゴリーにおける最大減肉速度を有する管理部位は、流況(偏流)の影響を大きく受けた部位である。流況による減肉速度への影響を他の影響因子(材料、環境)と区別して評価できないため、系統単位や流動条件毎に、十分に裕度を持った減肉速度を用いて、初回及び2回目の肉厚計測を実施することとなっている。このため、新たな配管減肉環境緩和技術の適用により実際には配管減肉が抑制されても、算出される減肉速度は、適用以前の減肉速度データを含めた値となる。このように、環境緩和技術の適用によって減肉が抑制されても、配管減肉管理には反映されにくい体系となっている。
_減肉環境緩和技術の導入を促進させるためには、減肉予測評価手法と併せて同技術を減肉管理規格へ反映させることが有効である。このためには、減肉発生状況をデータベース化し、減肉環境緩和技術の効果を分析するとともに、減肉予測評価モデルにより得られる結果の妥当性(保守性、余裕度)を評価・検証する必要がある。

(B) 研究方針と実施に当たっての問題点
_配管減肉環境緩和技術の開発・適用と、環境改善による減肉抑制効果を予測・評価するための配管減肉予測評価手法に関する検討を進めることにより、各部位に応じた減肉挙動の予知とそれに対する予防保全の高度化が実現でき、最終的には、環境の改善の効果を取り込んだ高次の減肉管理が可能となる。
_このような状況を踏まえ、以下の技術開発をすすめていく。なお、FACメカニズムの解明と減肉管理への予測手法の反映については、日本機械学会ロードマップに基づき各機関で進められている研究・検討との連携を強化していく。

(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
_PWRでは、近年、国内プラントに導入されている二次系高pH運転の配管減肉抑制効果の評価と、一部の国内プラントにおいて導入されている二次系への酸素注入(OWC)等の導入に向けた検討を推進する。BWRでは、現在実施している酸素注入による配管減肉抑制のきめ細かい評価をすすめる。また、実機における配管減肉抑制技術と減肉抑制効果の関係を蓄積するとともに、その関係を技術的に示すことにより、減肉抑制のためのガイドラインの整備を目指す。
_一方で、塩化物イオン混入時の減肉挙動への影響を評価し、通常の水質管理から逸脱した場合の炭素鋼配管の減肉挙動を整理する。
_実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 水化学及び材料の各因子を変化させたラボ試験の実施及び、実機減肉データ等、できるだけ多くのデータを蓄積する必要がある。
    • 新技術の適用に当たってはプラント設備の状況を踏まえた設備改造やその他の構成材に対する影響評価が必要である。
    • ガイドライン制定に時間を要する。

(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
_FACは、水化学因子(温度、pH、溶存酸素)、流況因子(偏流条件、単相流/二相流)、配管材料(Cr含有率)が複合して影響する事象であることから、各因子の組合せによる減肉挙動への影響を定量的に評価し、FACメカニズムを解明する。また、FACメカニズムと実機運転情報等の結果を総合して、環境改善による減肉抑制効果を部位ごとに予測可能な評価モデルを構築・標準化する。
実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 減肉予測評価モデルの標準化には、実機の多数の減肉情報を用いた検証が必要ある。

(3) 規格・基準の整備
_環境緩和技術の適用前後の運転情報、減肉データ等を用いて、FACメカニズム及び減肉予測評価手法における減肉環境緩和の効果を検証する。また、日本機械学会ロードマップにおいて研究・検討が進められている減肉予測評価手法の構築に対して連携を強化し、将来的に、環境緩和技術の適用の効果を減肉技術規格へ反映させる。
_実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 大規模な試験装置を用いた減肉試験の実施による検証には時間を要する(3年程度)

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 環境因子による配管減肉挙動の定量評価に関する検討
    • 配管減肉環境緩和技術の開発・標準化
    • 環境緩和技術の適用による実機配管減肉データの蓄積と予測評価手法検証への活用

②国・官界の役割

    • 各実験データの検証
    • 学協会基準のエンドース・規制基準の整備

③学術界の役割

    • 配管減肉メカニズムにおける環境因子の影響評価及びそのために必要な研究の実施

④学協会の役割

    • 配管減肉管理に関する規格基準の作成、精緻化

⑤産官学の連携

    • 環境因子による影響を含む配管減肉メカニズムの解明と減肉予測評価手法の構築・高度化

(D) 関連分野との連携
①軽水炉安全技術・人材ロードマップにおける配管減肉関連研究との関係

    • 軽水炉安全技術・人材ロードマップにおいても、配管減肉を含む腐食劣化損傷の有効な対策技術として水化学の高度化による環境緩和対策、また、事故発生リスク低減のための劣化予測手法の高度化が短期的な課題(S111M107_d36)として位置付けられている。このため、減肉メカニズムの解明に向けた研究のうち、環境因子による減肉挙動への影響に関する研究の具体的な進め方について働きかけていく。水化学部門は減肉現象の化学的な説明を主体的に担当し、機械部門は、実機減肉データの提供による検証や配管減肉管理への反映要領について主体的に担当することが望ましい。

② 日本機械学会ロードマップとの関係

    • 2022年に配管減肉管理に係わる規格改定が予定されており、管理シナリオ(管理全体、試験計画、試験、評価、判断基準、保守補修)の抜本改定に向けた検討が進められている。この中ではFAC及びLDI予測評価手法の規格への反映も含まれており、「P-SCCII-4 配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会 成果報告書」第III部に「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改定・充実化に向けた技術戦略マップ(2014改定案)」には、技術開発の役割分担が示されている[6.1.2-4]。R&D実施における各機関の相互調整は、日本機械学会の動力エネルギーシステム部門を中心とした研究分科会で継続して行われる予定であり、減肉メカニズムの解明に向けた研究において連携する。なお、2018年に発行された「P-SCD391 配管減肉保全管理の高度化のための調査研究分科会 成果報告書」の第2章には、配管減肉予測手法の規格化方針案の検討結果が示されている[6.1.2-5]

図6.1.2-1に導入シナリオ、表6.1.2-1に技術マップ、及び図6.1.2-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.1.2-1] 日本機械学会, “発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格(2016年度版)”, JSME S CA1-2016 (2016).
[6.1.2-2] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2016年度版)”, JSME S NG1-2016 (2016).
[6.1.2-3] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2016年度版)”, JSME S NH1-2016 (2016).
[6.1.2-4] 日本機械学会, “配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会 P-SCCII-4 成果報告書”  (2014).
[6.1.2-5] 日本機械学会, “P-SCD391 配管減肉保全管理の高度化のための調査研究分科会 成果報告書”  (2018).

 

課題調査票

課題名 配管減肉環境緩和
マイルストーン
及び
目指す姿との関連
短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上が図られるため、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。
⇒保全・運転における負荷軽減により作業品質を向上させ、ヒューマンエラー防止等へ繋げる取組みの継続がなされる必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒安定かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。
概要(内容) 原子力発電所では、運転に伴う機器・配管の肉厚が減少する事象が進行することが知られており、これは系統水の漏えいや圧力バウンダリーの維持によるプラントの安全性や信頼性に影響を及ぼす可能性がある。機器・配管の減肉は系統全体で生じることから、この減肉状況を適切に把握することは、原子力発電所の安全上重要な管理の一つである。
主な減肉現象である流れ加速型腐食(以下「FAC」)は、材料因子、流況因子及び環境因子が複合して影響を及ぼす現象である。材料因子や流況因子の改善に比較し、水化学の改良による配管減肉の抑制は、適用開始が比較的容易であり、抑制効果が広範囲で得られるメリットがある。このため水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきであるが、関連する技術の規格化・標準化、減肉メカニズムにおける環境因子の影響評価とそれを踏まえた減肉予測評価モデルの構築等以下の課題への対応が求められている。(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
配管減肉環境緩和技術(高pH処理、酸素処理、代替アミン処理等)の適用による配管減肉抑制技術を開発するとともにガイドラインの整備により減肉管理を高度化する。海水リーク等の異常時における配管減肉挙動に及ぼす影響を把握する。

(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
減肉メカニズム、及び、実機運転情報等の結果を総合して、配管減肉予測評価モデルを構築し、環境改善による減肉抑制効果を予測/評価する。

(3) 規格・基準の整備
構築された配管減肉予測評価モデルにより得られる結果の妥当性(保守性、余裕度)を評価する。環境緩和技術の適用の効果を減肉技術規格へ反映させる。

導入シナリオとの関連 水化学による配管減肉環境緩和技術の開発によるプラント設備の信頼性向上
課題とする根拠
(問題点の所在)
配管減肉は、内包する流体の漏洩・噴出といった安全上のリスクとともに、これを防止するための維持管理(点検・補修・取替)コストの増大を招いている。さらに、発生した腐食生成物に起因する熱伝達の阻害や被ばく線源の上昇等の原因にもなっている。
原子力発電所における配管減肉の主な原因は、流れ加速型腐食(FAC)や液滴衝撃エロージョン(LDI)である。特に、FACは、材料・流況(流速、偏流有無等)・水化学環境(温度、pH、酸素)の各因子により複合的な影響を受ける。従って、配管減肉環境緩和技術により、配管寿命の延伸を進めるとともに、プラント各部の条件に則した適切、且つ合理的な減肉管理(肉厚測定計画、配管取替え)を行うため、減肉メカニズムを解明する必要がある。
現状分析 配管減肉管理については、日本機械学会「配管減肉に関する技術規格2006年版」(平成18年11月)が整備され、現在、各発電所では、この規格に基づいて減肉管理を行っている。但し、現行の技術規格では環境緩和技術の適用による効果が、配管減肉管理には反映されにくい体系となっている。今後、安全性の更なる追求と合理性の調和を達成するためには、以下に示す通り、FACメカニズムに立脚した減肉環境緩和技術を構築するとともに、同技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることが求められる。

(1)      配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
プラントの安全性確保の観点から、水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきである。但し、その効果は、他の影響因子(流況、材料)との相乗として現れるため、同じ系統内においても、場所により異なる。従って、これらの影響因子が減肉速度に及ぼす効果・影響を層別化し、最適な配管減肉防止技術を構築することが期待される。
また、HWC、NMCA等のSCC環境緩和技術の適用時や軽水炉利用高度化を目的とした出力向上時の配管減肉への影響さらには代替ヒドラジン適用時の影響についても評価し、必要に応じてその対策を検討する必要がある。深層防護における異常・故障の拡大防止の観点からは、海水リーク等による水質悪化による腐食挙動への影響についても把握する必要がある。

(2)      配管減肉予測評価手法の構築・標準化
材料・流況・環境の各因子が重畳して変化した場合における配管減肉挙動に及ぼす定量的な影響については、十分な知見(データ)が得られていない。このため、偏流発生部位等の一部の部位では予想外の配管減肉の進行が認められている。このような事象の発生を未然に防ぎ、配管減肉の進行による漏えいリスクを低減させるには、減肉予測評価モデルの活用が有効であり、その構築のためには、配管減肉メカニズムの解明が不可欠である。現在、提案されている減肉予測評価モデルには、環境因子の効果に対する定量的な精度等に課題が残されている。このため、日本機械学会での活動と連携し、環境緩和技術の効果を精度良く評価し得る配管減肉予測評価モデルを構築・標準化する必要がある。

(3)      規格・基準の整備
減肉技術規格では、過去の肉厚測定結果に基づいて、使用条件(温度、単相流/二相流)毎に減肉速度を示し、これに基づいた減肉管理を規定している。このため、新たな環境緩和技術の効果が反映されるためには時間を要する。偏流や水化学環境の効果・影響を層別化できれば、各部に応じた適切な減肉管理が可能となる。また、減肉予測評価手法と併せて減肉環境緩和技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることにより、安全性の更なる追求と合理性の調和が達成できる。

期待される効果
(成果の反映先)
配管減肉環境緩和技術の開発・適用と、環境改善による減肉抑制効果を予測・評価するための配管減肉予測評価手法に関する検討を進めることにより、各部位に応じた減肉挙動の予知とそれに対する予防保全の高度化が実現でき、最終的には、環境の改善の効果を取り込んだ高次の減肉管理が可能となる。
実施にあたっての問題点 (1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
水化学及び材料の各因子を変化させたラボ試験の実施及び、実機減肉データ等、できるだけ多くのデータを蓄積する必要がある。
新技術の適用に当たってはプラント設備の状況を踏まえた設備改造やその他の構成材に対する影響評価が必要である。ガイドライン制定に時間を要する。(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
減肉予測評価モデルの標準化には、実機の多数の減肉情報を用いた検証が必要である。

(3)規格・基準の整備
大規模な試験装置を用いた減肉試験の実施による検証には時間を要する(3年程度)。

必要な人材基盤 (1)人材育成が求められる分野

    • 伝熱流動(数値流体力学、気液二相流)
    • 構造材料(腐食科学、防食技術)
    • 水化学(水化学管理・処理)

(2)人材基盤に関する現状分析

    • 事業者における配管減肉管理は、機械・補修面からの対応が中心であり、化学管理に関する技術者の関心・寄与を高める必要がある。
    • 大学等では、高経年化対策強化基盤整備事業の終了以降、規模は減少しつつあるが共同研究等により、継続して人材育成や人的交流を図ってきた。

(3)課題

    • 化学管理面から配管減肉研究に係わる若手研究者・技術者の育成
他課題との相関
    • 「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」との対応
      • S111M107_d36 高経年化評価手法・対策技術の高度化
      • L104_d41     高経年プラントの安全運転に向けた革新的技術の開発(材料開発等)
      • M106_d40-2 耐震安全性の評価と結び付けた維持管理(機器)
    • JSME「発電用原子力設備規格整備に関するロードマップ」及び「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改定・充実化に向けた技術戦略マップ」との提携が必要である。
実施時期・期間 短期~中期
実施機関/資金担当
<考え方>
産業界/産業界

    • 環境因子による減肉挙動への影響(定量評価)に関する検討
    • 環境緩和技術の導入に関する検討
    • 実機情報による環境改善による減肉挙動への有効性検証
    • 減肉予測評価モデルの構築と減肉抑制効果の予測/評価

<考え方>
安全性・信頼性・経済性の確保向上を目的とした開発研究及び基盤整備を行う。

国・官界

    • データや評価技術の検証
    • 学協会規格のエンドース及び規格の整備
    • 施設基盤の整備

<考え方>
安全規制における適切な行政判断に必要な安全研究、必要な基盤(知識・人材・施設・制度)の整備、産学の安全に係わる研究と基盤整備に係わる支援を行う。

学術界/学協会

    • 配管減肉メカニズムの構築
    • 基盤研究にかかわる人材育成
    • 規格基準の構築・精緻化支援
    • 規格基準の精緻化

<考え方>
知の蓄積と展開、研究を支える人材の育成、規格基準化とその高度化に貢献する。

その他