寺地氏の受賞のコメント

株式会社原子力安全システム研究所
技術システム研究所
高経年化研究センター 材料グループ
寺地 巧

「水化学国際会議2008ポスター賞」を受賞して

私が頂いた賞は“Poster presentation and design”というカテゴリーであった。英語が得意では無いため受賞の連絡を受けたときは驚いたが、受賞者というよりポスターが評価されるカテゴリーのようで、なんとなく納得できた。とはいえ、私にとって国際会議の場でこのような賞をいただけることは大変光栄なことで、副賞として頂いたワインは記念品として飲まずに保管してある。
さて、ポスターの内容は、PWR1 次系環境下におけるSUS316 と600 合金の材料表面および粒界における腐食挙動について検討した結果である。SUS316 より600 合金の方が耐食性に優れるが、顕著な粒界部の酸化は600 合金のみで生じることを示し、その理由を両合金の耐食機構の違いにあると考察したものである。これらの腐食挙動は応力腐食割れの発生・進展に影響すると考えられ、現在もその詳細を継続検討している。
私が所属する原子力安全システム研究所は、原子力発電の安全性および信頼性の一層の向上のために関西電力(株)により設立された会社で、技術的な視点からだけでなく、社会的な視点からの研究も行っている。安全に関する重要な役割を担っているとの高い志を持ち、材料に関する基礎的な研究に地道に取り組んでいるため、このような形で評価されることは研究の励みになり、本当にいい機会であったと感じている。
最後に、受賞を紹介させていただく場を提供いただいた水化学委員会の部会長ならびに幹事の皆様に感謝したい。

河村氏の受賞のコメント

(財)電力中央研究所
材料科学研究所
原子力材料領域
河村 浩孝

「水化学国際会議2008ポスター賞」を受賞して

2008年9月14(日)~18日(金)に、ドイツBerlin市のMaritimホテルで開催された” International Conference on Water Chemistry of Nuclear Reactor Systems, 別称NPC’08”において、”Poster Award”を頂いた。何やら、最優秀ポスター賞で、“Technical Content of the Poster”、”Author’s Presentation and Explanations”及び”Poster Presentation & Design”の3部門の総合優勝とのことであった。
今回、私の発表は口頭発表の枠からはずれ、正直、モチベーションが下がっていた。でもせっかくの機会なのでと開き直り、「内容に乏しい分、第一印象が勝負」と考え、デザインと読み易さ重視の発表ポスターを持ち込んだ。会場では、思いがけなく多くの参加者に関心を持って頂き、質問や問い合わせを多数受け、セッションは充実したものとなった。ポスター賞があることは判っていたが、3つのカテゴリーがあることも知らず、「デザインで点数をくれる審査員がいるかな」ぐらいにしか思っておらず、受賞は全くの想定外であった。バンケットで最後に名前を呼ばれたときには口に含んだビールを吹き出しそうになるくらい驚いた。授賞式で、石槫顕吉東大名誉教授から、「すごいぞ。3部門の総合優勝だよ。」と声をかけられたとき、膝が震えた。翌日、一部の審査員から選考過程の詳細を伺い、多数の審査員に支持され、投票頂いたことを知り、改めて身の引き締まる思いであった。
水化学研究に従事している一研究者として、関連の大きな国際会議で受賞できたことは、大変名誉なことであり、今後の研究活動の励みとなる。なお、副賞のワインは、自宅で就寝中である。
ポスターの内容は、PWR燃料被覆管表面へのクラッド付着現象を非照射下のラボで再現するとともに、付着因子として想定される熱水力因子と水化学因子をパラメータとし、各因子の寄与度合いを検討した結果をまとめたものである。想定される全ての因子について検討が終了しているわけでなく、寄与度合いの定量評価、クラッド付着モデルの構築等、課題は山積である。
今回、7枠中、2枠において日本人受賞者が出たが、水化学部会の刺激と活力に繋がれば幸いである。
最後に、紹介の場を提供頂いた水化学委員会の部会長ならびに幹事の皆様に感謝する。

河村氏のポスター

アジア水化学シンポジウム2009

アジア水化学シンポジウム2009

ポスターセッション賞

アジア水化学シンポジウムの第1,2日目の口頭発表終了後にポスターセッションが開催され、国内外から32件の発表が行われた。今回のシンポジウムからセッションの活性化を図ることを目的とし、優秀な発表に対して表彰を行うこととした。ポスターセッション中は発表者と参加者との終始活発な議論が所々で見られ、国境を越えた技術交流がされ、発表会場は大いに賑わいをみせた。すべてのセッション終了後、特に優秀なポスターについては水化学部会長、東京大学の勝村庸介先生から賞状と記念品が授与された。
ポスターセッションの受賞者を以下に紹介する。

 

ポスターセッションの様子

 

ポスターセッション賞受賞者

Best Poster Award  梶谷 博康氏 中国電力

総合的に優れているポスターに授与

Innovation Award    塙 悟史氏 JAEA

独創性、新しい見方や考え方
及び実用性があるポスターに授与

Good Design Award  Mr.Anders Molander Studsvik:スウェーデン

個々の表記の美しく、
配色のよいポスターに授与

Good Presentation Award   松浦 正和氏 関西電力

説明と質疑の優れたポスターに授与

Future Dream Award  Mr.Rong Sheng Zhou 上海交通大学:中国

将来の可能性が広がっているポスターに授与

評価ポイント(各5点_計30点)
1)独創性(総合的)
 新しい見方、考え方
2)達成できた場合、実用性はあるか
3)ポスターの美しさ、配色の良さ
4)奇抜さ、面白み
5)将来の可能性
6)説明技術と質疑対応

ポスターセッション賞受賞時の様子

Best Poster Award:梶谷 博康氏(中国電力)

Innovation Award:塙 悟史氏(JAEA)

Good Design Award:Mr.Anders Molander(Studsvik:スウェーデン)

Good Presentation Award:松浦 正和氏(関西電力)

Future Dream Award:Mr.Rong Sheng Zhou(上海交通大学:中国)

2017年秋の大会

2017年9月13日

日本原子力学会2017年秋の大会 水化学部会企画セッション報告
「福島第一原子力発電所デブリ取り出しに関わる水化学管理」実施報告
(東芝)高木 純一

  1. 日時
    2017年9月13日(水)13:00~14:30
  2. 場所
    北海道大学工学部
  3. セッションタイトル
    「福島第一原子力発電所デブリ取り出しに関わる水化学管理」
    座長 (東芝)高木 純一 氏
  4. 講演タイトル
    (1)燃料デブリ取り出しに向けての取組み
    (NDF)中野 純一 氏
    (2)PCV内部調査の進捗状況
    (東京電力HD)久米田 正邦 氏
    (3)デブリ取り出し工法の検討状況
    (IRID)高守 謙郎 氏
    (4)デブリ性状把握と放射線分解挙動評価
    (JAEA)永石 隆二 氏
    (5)水化学管理面からの研究課題~各部会トピックス~
    核燃料部会、材料部会、バックエンド部会、水化学部会
  5. 概要
    4部会共催(水化学(主催)、核燃料、材料、バックエンド)にて、「1Fデブリ取り出しに関わる水化学管理」と題し、今後の水化学面からの取り組みを議論した。
    前半はNDFより戦略プラン2017、東京電力HDよりPCV内部調査、IRIDより取り出し工法、JAEAより放射線分解に関する4件の講演を行い、最新の情報共有を図った。後半は4部会の代表から、学会としての課題、今後の取り組み方針を述べ、認識の共有を図った。
    デブリ取り出しに向けての議論は緒に就いたばかりであり、現状、各部会、各組織とも自領域の課題設定が主体になっているが、継続的に部会横断の検討を行う必要性を認識するとともに、今後の水化学管理の方向性(デブリ化学的性状把握、水処理設計、水素・腐食対策、等)を確認した。100人定員の会場では立ち見が出る盛況であり関心の高さが窺われた。

以上

2009年春の大会

2009年4月8日

日本原子力学会2009年春の年会 水化学部会企画セッション

「被ばく線量低減に向けての課題と将来の取り組みについて」実施報告

関西電力(株)

中村 年孝

はじめに    

「被ばく線量低減に向けての課題と将来の取り組みについて」と題した水化学部会の企画セッションを、日本原子力学会2009年・春の大会(3月23日13時~14時30分、東京工業大学B会場 西3号館 W323)において開催した。約80名の参加者を得て熱心な議論が繰り広げられた。以下に具体的な内容を記述する。

企画セッション趣旨説明

企画セッション開催にあたり、担当委員の中村(関西電力㈱)より今回の企画セッションの趣旨について、以下の通り説明があった。

原子力発電所で従事する作業者の被ばく線量は、これまで種々の対策の実施により、経年的に低下してきたが、最近の線量はほぼ横ばい状態にある。また1990年代にはかなり優位性のあった諸外国の線量と比較しても、最近ではほとんど差がない。原子力に対するより一層の安心・信頼を獲得するためにも、更なる被ばく線量低減が必要である。

これまでの海外調査結果から、わが国の線量率は世界的に見ても依然として低い状態を維持している。一方で運転サイクルや検査制度の違い等により、諸外国に比べ作業量が多いことが判明している。現在進められている新検査制度検討の中で作業量が減少し、結果的に被ばく線量が低減することも期待できるが、線量率をさらに低減するという選択肢も重要で、この点で水化学の寄与が求められている。

今回のセッションでは、国、事業者、メーカーから現状の取り組みと今後の課題や意見等を発表してもらい、今後の水化学改善による被ばく線源低減技術開発に向けての取組みの方向性について議論する事を目的とする。

講演

まず、辻氏(経産省)より「被ばく線量低減への国の関与」と題して、原子力発電所の従事者被ばくに係る国内外の規制状況及び従事者被ばく線量、被ばく低減に係る取り組み、さらに米国で実施されているリモートモニタリング、国内放射線作業管理における要改善事例等の具体的な事例の紹介があった。これら諸外国と我が国は、原子炉の運転・検査などの法的制度に差があり一概には言えないが、ALARA検査の導入が従事者被ばくの低減に寄与する可能性があるとの考えを示された。現在、原子力安全・保安院では、現行の保安検査の枠組みの中で、ALARA検査と類似な検査項目を保安検査の枠組みへ導入することにより、従事者被ばくの低減を図れないか検討を行っている。この検討作業は、単に放射線管理業務にとどまらず、原子力発電所の運転管理全般にも関係する内容となるため、実現までの道のりは容易ではないが、放射線安全に対する国民の理解を得る上でも有効と考えられる。原子炉設置者を始めとした関係者の幅広いご協力をお願いしたいとの説明があった。

 次に、伊藤氏(東北電力)より、「東北電力における被ばく線量低減の取組み」と題して、女川1号機で実施されている給水鉄ニッケル比制御、女川2・3号機、東通1号機で実施している極低鉄・高ニッケル運転について紹介があり、PLR配管線量率を長期間に渡り低いレベルに維持することが可能であるとの説明があった。また、東北電力では、低コバルト材の採用等被ばく低減に配慮した設計を行い、建設時のクラッド低減対策として事業者・協力会社・メーカーが一丸となってクリーンプラント活動を継続的に行い、運転中の適切な水質管理により被ばく低減に努めているとの説明があった。

続いて伊東氏(九州電力)より、「九州電力における被ばく低減の取組み」と題して、玄海発電所において実施されている満水酸化法について紹介があり、従来法(外層クラッド除去)と比較し、放射性コバルトやニッケルの除去量は同程度であり、燃料クラッドバースト等不具合もなく、定期検査期間短縮やミッドループ運転期間短縮に寄与できるとの紹介があった。

 最後に、瀧口氏(日本原子力発電)より、「水化学ロードマップでの被ばく線源低減戦略」と題して、『水化学による原子力発電プラントの安全性および信頼性維持への貢献』を目的として、(社)日本原子力学会「水化学ロードマップ検討」特別専門委員会にて、産官学の専門家による検討を通じて作成された第一次水化学ロードマップ(2007年2月)の背景と目的、そして、現在(社)日本原子力学会水化学部会「水化学ロードマップフォローアップ小委員会」にてローリング中の「水化学ロードマップ2009」における被ばく線源低減に関して検討状況の紹介があり、技術の高度化等により2016年頃までに集団被ばく線量を世界トップレベルを目標とし、また2016年以降の中長期目標としてもPDCAを回し、常に世界トップレベルの集団被ばく線量を維持することを目標とすると説明があった。

パネル討論

パネル討論では勝村先生(東京大学)を座長として、水化学ロードマップでの被ばく線源低減戦略について議論した。まずメーカー、研究機関それぞれの立場のパネリストから水化学ロードマップ推進に向けて、意見・要望が提案された。

西村氏(三菱重工業)からは「PWRプラント溶存水素濃度低減について」と題し、一次冷却材中の溶存水素濃度を低減することにより、被ばく線源低減並びに600合金のPWSCC抑制効果が期待される旨、説明があり、燃料健全性試験等の試験規模が大きいものについては国家プロジェクトにて実施を期待しているとの要望が示された。
山崎氏(東芝)からは「BWRプラントの被ばく低減について」と題し、被ばく低減と材料健全性確保を両立させた水化学を達成による配管表面最適制御の推進と今後の更なる被ばく低減の達成の為に現象論ではなく機構論の掘り下げやアプローチの方法論など新しい取り組みの議論を行うべきとの提案があった。
長瀬氏(日立GE)からは「被ばく線源低減戦略」と題し、放射性クラッドの移行メカニズムの抜本的解明をし、新技術適用時の影響評価と線源低減対策立案を推進していくべきとの提案があった。また、化学除染法の高度化を例に挙げ、要求事項の明確化及び研究開発費の確保モチベーションの維持が重要であると考えが示された。
太田氏(電力中央研究所)からは「被ばく線量低減に向けての課題と将来の取組みについて」と題し、被ばく線源低減に寄与する因子を定量的に評価することが重要であり、より定量的なロードマップの作成に繋がり、メカニズム解明と技術の高度化・適用の架け橋になるとの考えが示された。

総合討論

 上述の講演とパネリストコメントを踏まえ総合討論を行った。フロアからの主なコメントを以下に示す。

○  被ばく低減対策には工事、作業の放射線管理等のソフト対策と水質改善による線源低減、機器の自動化等のハード対策がある。今までの個人的な経験・感覚では、水質改善による被ばく低減対策が、最も大きな効果があるとの認識があり、今後も水化学部会において先導的な役割を担って行って欲しい。また、新たな被ばく低減対策を各発電所の状況に応じ積極的に導入して行って欲しい。

○  燃料の観点から、水質改善すると燃料健全性にも影響が懸念されるが、他分野への影響を定量的に把握できるガイドラインや指標というものが今後重要になってくると考えられる。安全基盤としての指標をどのように検証するかといった位置づけで、研究を実施すれば産官学が協力して研究する材料になる。

○  ALARA精神は可能な範囲で実施すればよいのではなく、可能なものは全て実施するという前向きな姿勢で臨むことが重要である。また、新検査制度導入に伴い、必ずしも被ばく線量が下がるわけではないと考えており、実際にどういった作業では被ばく線量が上がり、どういった作業では下がるのかきっちりと分析をし、その結果によりどのような部分にどのような対策を実施する必要があるか、十分に検証していくことが重要と考える。

最後に座長の勝村先生より、産官学の関連する技術者が一同に介する原子力学会の場で、将来の被ばく線源低減戦略について議論することは非常に重要であり、今回の企画セッションで出た要望・意見を「水化学ロードマップ2009」へ盛り込み、それぞれが共通認識を持って取り組むことは今後の被ばく低減を更に加速することが期待できる。ロードマップを今後更に充実させることにより、原子力立国に相応しいレベルまで被ばく線量低減を目指したいと締めくくられた。

2008年秋の大会

2008年9月30日

日本原子力学会2008年秋の大会

核燃料・水化学部会合同企画セッション実施報告

三菱マテリアル(株)

磯部 毅

はじめに      

「軽水炉燃料信頼性向上の観点から燃料と水化学が連携すべき課題と将来の取組み方法について」と題した核燃料部会と水化学部会の合同企画セッションを、日本原子力学会2008年・秋の大会(於;高知工科大学)の初日9月4日の午後(13時から14時30分)開催した。約70名の参加者を得て熱心な議論が繰り広げられた。以下に具体的な内容を記述する。

セッション企画趣旨説明

座長・磯部(三菱マテリアル)より両技術分野の現状認識とセッション企画趣旨を次の通り説明した。水化学は、高経年化対応や作業員被ばく低減の観点から各種高度化を燃料の健全性確保を図りながら進めている。同時に燃料もプラント高度利用化や更なる高燃焼度化を目的にその高度化を鋭意進めている。そしてそれぞれの分野で、例えばロードマップなどで、燃料被覆管材料の腐食・水素吸収やPWRにおけるAOAなど境界領域の将来課題が取り上げられ議論されている。しかし境界領域の事象は、界面反応かつ中性子およびガンマ線の照射効果が重畳し非常に複雑である。そこで本企画セッションは、この難度の高い境界領域の課題の効率的な解決に向けて、両分野の技術者が相互理解を深め、俯瞰的な技術体系と新たに必要な連携の構築に向けての将来ビジョンを議論することを目的とする。

講演

電気事業者より、燃料側と水化学側それぞれの立場から今後の計画、将来課題・懸念事項や解決に向けたアプローチ方法が述べられた。

まず、阿部氏(東京電力)は、「BWR燃料の水に関連する将来課題と解決に向けたアプローチ」と題してBWR燃料集合体に係わる導入当初からの幾多の改良経緯、段階的な高燃焼度化等の開発経緯、その過程での被覆管材料開発や適切な水質管理による健全性確保実績を示すと共に、さらなる燃料高燃焼度化、軽水炉の高度化利用や水質環境変化に伴う、例えば腐食・水素吸収の増加傾向など将来の課題や懸念事項を述べた。そして、その解決のためには局所環境の定義やその環境と材料(燃料被覆管)の相互作用解明が理想であるが、当面は従来の実証的アプローチ(Cook-and-Look Approach)を主体とし、今後は、燃料と水化学分野のコミュニケーションを通じてそれぞれのデータや知見の一層の有効活用や機構論的解明範囲を順次拡大していくことが重要との考えが示された。

続いて、荒川氏(関西電力)は、「PWR燃料の水に関連する将来課題と解決に向けたアプローチ」と題して、PWR燃料の高度化を目的とし燃料高度化技術戦略マップに沿って進められている燃材料の開発計画および課題、その中での被覆管の位置づけと高耐食性および低水素吸収材料の開発の重要性を示すと共に、水化学管理の変更が、開発した燃材料の腐食・水素吸収量やAOAなどに影響を与える懸念を述べた。即ち、開発材導入時点の水化学が開発開始時に明確であればそれを前提に進めれば良いが、必ずしもそうではなく、導入に際してはあらためて影響を検討する必要があるという点である。その効率的な解決のためには、被覆管の腐食・水素吸収メカニズムの解明が期待されるが、時間が掛かる長期的な課題であり、当面は実証的アプローチの合理化・高度化が重要であること、そして両分野さらには材料の専門家とも密接なコミュニケーションをとり、問題意識、情報や施設基盤など共有し、課題解決を図ることが重要との考えが示された。

最後に、門井氏(日本原電)は、「水化学側から軽水炉燃料の将来課題解決に向けたアプローチ」と題し、前二者とは別の立場から考えを述べた。水は材料と燃料の両方に接しており、これまでも水化学の変更は、プラントへの影響評価と同時に燃料被覆管の健全性確保を前提として進められてきた。そして最近では、BWRでの貴金属や酸化チタン注入、PWRでの高濃度亜鉛注入など多くの技術開発課題があるが、開発中の燃材料に対してそれらの実用化段階の水化学環境での影響評価が都度必要となる。これを効率的に行うためには、簡易的かつ比較的短期間で腐食評価を行える試験手法の確立が望まれ、そのためには燃材料や水化学技術の両分野の専門家が互いに情報を共有し、それぞれの研究開発に利用できる環境を構築すると共に、両者が協力しメカニズムに関する研究を進めることの必要性を述べた。

パネル討論

続いて研究機関、大学、メーカーのそれぞれの立場からのパネリストにより、軽水炉燃料と水化学の境界領域における将来課題の効率的な解決に向けた連携についてそのビジョンや具体的方法などが示された。

内田氏(JAEA)は、「水化学部会からの核燃料開発研究への寄与の可能性」と題し、燃材料開発期間の長期化傾向の改善のためには機構論的な燃材料挙動・健全性評価が重要であり、そのために例えばラジオリシスモデルなどによる腐食評価技術や局所腐食環境のin-situ計測技術など共同でプロジェクトを組む必要性を述べた。また将来のプラント高度化に際し、AOAへの対策準備の必要性に言及した。

宇埜氏(阪大)は、核燃料研究のおける大学の立場と役割を述べた。技術戦略マップで「学」に対しては、機構論的研究主体と継続的な人材育成・基盤整備が期待されており、阪大においてもJNESや電力、メーカーと共同で燃料(被覆管)関連の研究を実験から理論計算まで幅広く進めていること、さらに人材を育成するための教授に対する人材充実プログラムも並行して進められていることが紹介された。

河村氏(電中研)は、研究機関かつ水化学の立場から考えを示した。水と燃材料の境界領域の課題解決のためには現象論的評価に加えメカニズム解明に向けた検討が必要であり、両分野の専門家の協力、研究体制の整備さらには照射下試験設備の整備の重要性を述べた。そして照射試験設備の整備の為には国レベルでの取り組みの必要性が示唆された。

土内氏(原燃工)は、PWR燃料メーカーかつ燃料側の立場よりコメントした。境界領域の課題には被覆管の腐食・水素吸収とAOAがある。前者は、燃料および水化学はそれぞれの高度化に際し、互いに意識し影響を評価しつつ進めているが、悪影響が無い範囲での取組みとなる。それに対し後者はクラッド低減、SCC対策など両者のベクトルが一致することから、協力して取組む課題として適当であるとの考えを示した。

四柳氏(東芝)は、BWR燃料メーカーかつ水化学側の立場よりコメントした。水化学は燃料健全性、材料健全性、被ばく線量低減および放射性廃棄物量低減の4つの目的を同時に達成することが求められ、水-燃料間の相互作用に限ってもそのパラメータは非常に多い。技術課題解決のためには実機での挙動メカニズムに基づき制御すべきパラメータを一つ一つ明確にする作業を繰り返すことが重要であると述べた。

総合討論

内田氏(JAEA)を進行役とし上述の講演とパネリストコメントを踏まえ総合討論を行った。フロアからの主なコメントを以下に示す。

・    燃料や水化学分野の開発においては、全体としてのコスト、産業としての競争力を定量的に評価することが重要である。それ無しでは仲間内で課題を共有しただけで終わってしまう。もう少しシリアスに、予算をいくらかけて何をしたらどういうことが起きるか、さらには専用施設を作るならば、予算要求するための根拠は何かという、積極的かつ具体的な検討をこの機会に始める必要がある。

・    具体的に燃料側から水にどういう要求があるのか、水から燃料側にどういう具体的な内容があるかということが見えてこない。もっとお互い明確に認識しないと、境界領域の課題解決など出来ないのではないか。

・    実際に実験室で再現ができない理由は、現場で起きていることが複合現象のためである。その必要不可欠なパラメータが全部揃った研究・実験をやらなければならない。パラメータの中で重要なのは照射で、電子線加速器は非常に有効だと思われる。

・    電子線やその他の加速器の重要性が議論されるが、定量的に何がどう効いているのかを、きっちり押さえながら進めないと定性論に流れてしまう懸念がある。

・    材料側にはたくさん優秀な人が行っているが、燃料-水の界面現象は非常に面白いにも係わらず人材を集めることに必ずしも成功していない。学問的な問題設定など両者が協力し、学会として総力をあげて取組むことが大事である。

・    未知の広大な分野が研究対象となっているが、具体的に、例えばベクトルが一致しているAOAを取り上げ、解決するメリットを議論し、トリガーを引き、それから徐々に全体に広げていくとういうようなアプローチが必要と考える。

・    ラジオリシスワークショップでは、ステンレスの腐食や構造材料が主な対象であるが、ラジオリシスは、英国バーンズ氏が、ステンレスではなくジルカロイの腐食に及ぼすHO2、O2-の影響を評価するために始めたのが端緒である。燃料-水境界領域の課題を議論する上で、炉心のラジオリシスにもう一回光をあてて、再度検討することが重要と感じた。

・    JAEAとして水化学は重要という認識がある。JMTRでは水化学を比較的自由に操作できる材料用小型ループも考えている。具体的な提案があれば、出来るだけ対応したい。

最後に進行役の内田氏により、一緒にやろうというムードは出来たが、それだけでは進まない。これを機に核燃料部会と水化学部会が、それぞれの強みをさらに強くする意味で協力し連携して進めていく努力をすることを確認できたと締めくくられた。

以上

設立総会 総1-3 「水化学部会規約」

一般社団法人 日本原子力学会 1002-16 

 

水化学部会規約

平成22年10月1日 第512回理事会改定

(目的)

第1条 部会規約(1002)に基づき、水化学部会を設置する。水化学部会(以下「本部会」と称す)は、原子力に関連した水化学分野の研究者および技術者間の交流と情報交換を積極的に行うとともに研究活動を支援し、その発展に貢献することを目的とする。

(運営)

第2条 本部会は、その運営および主要な事業について、部会等運営委員会を経て理事会に報告する。

(事業)

第3条 本部会は、その目的に基づき、以下の事業を行う。

(1)本部会の活動や研究関連の情報を提供するためのニュースレターを随時発行する。

(2)研究会、セミナー、講演会、講習会、見学会等を適宜開催する。

(3)水化学に関する理解の促進のため、必要に応じて、研究、調査及び評価等のためのワーキンググループ等を組織し、研究者間の交流と関連分野の研究活動を活性化する。

(4)本部会の活動に関連する他部会、研究専門委員会、特別専門委員会等の活動と積極的に交流する。

(5)本部会に関わる国内外の関連学協会、諸機関との交流を推進し、必要に応じて国際シンポジウム、ワークショップ、研究会等を共催する。

(6)必要に応じて、水化学に関する事項について社会に対して情報を発信する。

(7)その他、適切な事業を随時、実施する。

(会員資格)

第4条 学会正会員および学生会員は本部会員となる資格を有する。

(部会費)

第5条 本部会に参加を希望する会員は、学会事務局に所定の手続きを行うとともに、日本原子力学会会員管理内規(0203-00-01)に従って部会費を納入する。なお、退会の際はその旨を学会事務局に申し出る。

(運営組織)

第6条 本部会の運営は、本部会員の互選により選出された部会長1名、副部会長および運営委員若干名からなる運営小委員会が行う。また、運営委員とは別に部会員から監事を設ける。なお、部会長の推薦により顧問を置くことができる。

2 部会長、副部会長、運営委員および監事の任期は2年とする。ただし、再任を妨げない。

3 部会長、副部会長、運営委員および監事の選出方法は別に定める。

第7条 組織運営のため、運営小委員会の他に、小委員会を設けることができる。

2 各委員は、部会長が委嘱し、その状況を必要に応じて部会等運営委員会へ報告する。

(監事)

第8条 監事は部会活動および運営小委員会活動が適切に執行されていることの監理を行う。

(部会全体会議)

第9条 部会全体会議を年1回以上開催し、次の事項を審議する。

(1)活動計画および予算

(2)活動報告および決算

(3)運営体制

(4)その他、重要な事項

(運営費)

第10条 本部会は、部会配布金、事業収入、賛助金、その他をもって運営することを基本とする。

2  賛助金等小額の外部入金で実施する活動の開始に当っては、企画委員会での審議を必要とする。また、外部入金の定率を本部管理費として学会に収める。

第11条 運営費の予算、決算については、部会全体会議で審議し、部会等運営委員会および理事会の承認を得る。

(変更)

第12条 本規約の変更は、運営小委員会の発議に基づき、部会全体会議での審議を経た後、部会等運営委員会および理事会での承認を要する。

(下部規定)

第13条 本規約に定めるもののほか、本部会の運営に関し必要な事項は、本部会が別に定める。

附則

1 この規約は平成22年10月1日から施行する。

2 改定履歴

 ①2007年5月22日 第487回理事会承認

②2008年9月4日 第3回総会承認

③2010年3月26日 第6回総会承認

④2010年9月17日 第7回総会承認

設立総会 総1-1 「水化学部会設置趣意書」

資料総1-1 (杜)日本原子力学会水化学部会設置趣意書

エネルギ-保障や地球温暖化防止の観点から原子力は我が国の基幹エネルギーと位置づけられている。現在、その中心的な役割を果たしている軽水炉では、炉心冷却材・中性子減速材である水(軽水)が、様々な温度・圧力・照射条件下で多様な金属材料と接しながら主幹系統内を循環している。水化学技術は、この界面で生じる構造材料・燃料の腐食損傷を環境面から予防すると共に、その結果生じる腐食生成物の移行・放射化を制御し、従業員の被ばく線量や放射性廃棄物の発生量の低減を通じて、原子力プラントの安全性維持と経済性向上に大きく寄与してきた。今後、軽水炉ではその利用の高度化、高経年化への対応及び燃料高度化の取り組みを本格化する方向にあり、これらに関連する技術開発の合理的な推進に貢献する視点から、水化学分野の研究および技術を一層高度化する必要がある。即ち、炉出力向上によって過酷化する放射線場や腐食環境にあって、経年劣化や高負荷により腐食影響を受けやすくなる構造材料や燃料の健全性を合理的に維持する必要がある。このため、腐食環境緩和技術の開発と適用およびその標準化を進めると共に、燃料・構造材料および関連する他分野における技術開発との調和・融合を図り、軽水炉の安全性・経済性を更に総合的に向上させていかなければならない。更に、これら水化学関連技術の基盤となる学問分野の基礎研究の育成・支援も不可欠である。また、このような取り組みの中で蓄積される知識や経験を、産官学が共有する水化学情報デ-タベースとして構築し、本分野或は関連する領域における人材育成と技術伝承、新たな技術開発、基盤整備と標準化、および科学的合理性を有する安全規制の推進に役立てる。また、既存軽水炉のみならず、次世代軽水炉、高速増殖炉および高速増殖炉を含む新型炉、或は、使用済み燃料の貯蔵・保管、再処理設備などの原子力施設の設計・建設・運転における水の挙動や水と構造材料・燃料材料との相互作用を広く検討対象として、その安全性確保や高度化に貢献する。更に、熟練技術者の減少や自然環境保護に対する意識の高まりが想定される将来を見据え、一層の被ばく低減や放射性廃棄物の発生抑制などの課題に取り組み、作業環境の改善や社会的受容性の向上を目指す。  (社)日本原子力学会では、1982年以来6期24年間に亘る活発な水化学研究専門委員会活動を展開してきたが、上述の如く原子力において今後水化学が果たすべき使命の普遍性・重要性を鑑みると、核燃料・材料・再処理など課題を共有する部会間、或は、国際レベルでの協力と連携を効率的に実施すると共に、研究ロードマップ検討および水化学技術の体系化・標準化などに継続して取り組むためには、それに相応しい連続性のある体制を構築し、中長期的視点に立って活動を継続することが不可欠である。このような認識に立ち、ここに水化学部会を設置する。