部会報第7号

  1. 部会報 巻頭文
    会沢元浩 副部会長
  2. 水化学国際会議(NPC 2014札幌)報告
    勝村庸介 実行委員長
  3. 特別寄稿: 第46回日本原子力学会賞技術賞(第4607号)
    ラジオリシス反応解析に基づいた福島第一原発使用済燃料プールへのヒドラジン注入効果の提示

    (独)日本原子力研究開発機構 本岡隆文 氏、佐藤智徳氏、山本正弘 氏
  4. 特別寄稿: 第46回日本原子力学会賞奨励賞(第4609号)
    ゼオライトを用いた放射性汚染水処理における水の放射線分解と水素発生の研究

    (独)日本原子力研究開発機構 熊谷友多 氏
  5. 水の話シリーズ(“水”あれこれ ・・・(6))
    長尾博之 顧問
  6. 水化学部会定例研究会開催概要
  7. 編集後記

部会報第8号 水化学部会定例研究会開催概要

水化学部会定例研究会開催概要

水化学部会では最新のプラントに関する情報交換を目的に定期的に研究会を開催している。最近行われた研究会の概要及び講演テーマを次回開催予定の研究会と併せて下記に示す。なお,各講演資料は水化学部会ホームページに掲載されているので,詳細についてはそちらを参照下さい。

◎  第23回研究会(平成27年3月12日:電源開発株式会社本店)

基調テーマ「NPC2014札幌」及び「水化学管理基準の制定」に関する報告

2014/20/26-31に札幌で開催されたNPC2014の概要と得られた技術成果について報告された。また、システム安全専門部会水化学管理分科会で作成中のBWRおよびPWR水化学管理指針の作成状況と内容について紹介された。

講演1:原子力発電プラントの水化学に関する国際会議2014札幌実施報告

元(株)東芝 瀧口 英樹 氏、(株)東芝 高木 純一 氏

講演2:水化学管理標準の制定に係る取り組みついて

(一社)原子力安全推進協会 北島 英明 氏

講演3:講演タイトル:BWR水化学管理指針の策定とその内容

(一財)電力中央研究所 平野 秀朗 氏

講演4:講演タイトル:PWR水化学管理指針の策定とその内容

(一財)電力中央研究所 河村 浩孝 氏

◎  第24回研究会(平成27年6月15日:オルガノ株式会社本社ビル)

基調テーマ「除染・廃炉技術」および「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」

ふげんと浜岡1,2号機の廃止措置の状況について、トリチウム処理や除染を中心に報告された。また通常プラントの除染技術、福島向け建屋除染技術、固形分を含む水の撒く処理技術などが報告された。また、原子力学会安全対策高度化技術検討特別専門委員会による「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」の検討状況が紹介された。

講演1:「ふげん」廃止措置における系統除染とトリチウム除去

(国研)日本原子力研究開発機構 森田 聡 氏

講演2:浜岡原子力発電所1,2号機における系統除染と廃棄物量評価について

中部電力(株) 山崎 直 氏

講演3:化学除染及び化学除染二次廃棄物低減技術

(株)日立製作所 石田 一成 氏

講演4:福島第一原子力発電所の環境改善活動と技術開発

(株)東芝 酒井 仁志 氏

講演5:排水向け固液分離処理への膜処理技術適用について

オルガノ(株) 大橋 伸一 氏

講演6:軽水炉安全技術・人材ロードマップについて

日本原子力発電(株) 久宗 健志 氏

◎  第25回研究会(平成27年10月22日:四国電力株式会社総合研修所)

基調テーマ「長期停止後の再稼働対応及び再稼働に向けた化学管理」

震災後の再稼働に向けてPWR一次系、二次系の化学管理や準備状況について、電力、メーカーの双方からの報告があった。1Fの状況についても報告された。また2015/9/24-26にインドで開催されたアジア水化学シンポジウム2015の概要について報告された。

講演1:伊方発電所3号機長期停止後に向けた化学管理について

四国電力(株) 菊池 士朗 氏

講演2:川内原子力発電所1号機再稼働時の2次系化学管理

九州電力(株) 松井 亮 氏

講演3:プラント再稼働に向けた1,2次系水化学管理要領への提案

三菱重工業(株) 石原 伸夫 氏

講演4:福島事故から再稼働に向けてのBWRプラント水化学の取り組み

(株)東芝 高木 純一 氏

講演5:アジア水化学シンポジウム2015(主催国:インド)の概要報告について

日本原子力発電(株) 久宗 健志 氏

◎  第26回研究会(平成28年3月15日:秋葉原UDXビル)

基調テーマ「人材育成・情報整備に係わる取り組み」

水化学ロードマップ2009の「人・情報の整備」の内容の紹介の後、大学、電力会社、研究機関、およびメーカーのそれぞれの立場での水化学関連技術者の人材育成について具体的な取り組みや抱えている課題などが紹介された。また、講演の後、参加者によるパネルディスカッションが行われた。

講演1:水化学部会における「人財育成・情報整備」取り組み

日立GE・ニュークリア・エナジー(株) 会沢 元浩 氏

講演2:大学における原子力人財育成の取り組み 東北大学を例として

東北大学 渡辺 豊 氏

講演3:人材育成・情報整備に係る研究機関の課題と取り組み ~電中研の場合~

(一財)電力中央研究所 河村 浩孝 氏

講演4:東芝における水化学技術者育成について

(株)東芝 浦田 英浩 氏

講演5:プラント長期停止における若手水化学管理要員の人材育成について

関西電力(株) 久家 俊治 氏

講演6:伊方3号機再稼働時の化学管理における人材の育成と確保について

四国電力(株) 浦戸 洋幸 氏

◎  第27回研究会(平成28年6月3日:(株)東芝横浜事業所)

基調テーマ:「福島第一原子力発電所廃止措置の現状と今後の取り組み」

震災発生以降、福島第一原発で行われた汚染水処理に関する取り組みと現在の状況に加え、廃炉の取り組みの中で発生する廃棄物の処理処分および今後重要となるデブリ取出しのための性状把握に関する研究開発の状況について紹介された。

講演1:福島第一原子力発電所廃止措置に向けた取り組み

東京電力ホールディングス(株) 白木 洋也 氏

講演2:サブドレン水処理の状況

日立GE・ニュークリア・エナジー(株) 北本 優介 氏

講演3:圧力容器/格納容器向け防錆剤の水処理設備への影響評価

IRID/(株)東芝 田嶋 直樹 氏

講演4:福島第一原子力発電所事故廃棄物の処理・処分技術開発の概要

IRID/(国研)日本原子力研究開発機構 宮本 泰明 氏

講演5:デブリ性状に関する研究開発の状況

(国研)日本原子力研究開発機構 高野 公秀 氏

◎  第28回研究会(平成28年11月18日:堂島リバーフォーラム)

基調テーマ: 「被ばく線源低減」

震災後、プラント再稼働に向けた準備が進められる中でBWR、PWRのそれぞれで、これまで行われてきた被ばく低減の取り組みが紹介されるとともに、メーカーからは新たな被ばく低減技術の提案がなされた。また、放射性廃棄物固化のための新しい技術も紹介された。

講演1:東京電力における線源低減の取組み

東京電力ホールディングス(株) 鈴木 純一 氏

講演2:関西電力における線源低減活動状況

関西電力(株) 青木 政徳 氏

講演3:BWRの被ばく低減対策技術

日立GEニュークリア・エナジー(株) 露木 瑞穂 氏

講演4:PWRプラント再稼働後の被ばく低減対策

三菱重工業(株) 西村 孝夫 氏

講演5:高線量廃棄物の固化技術の開発

(株)東芝 松山 加苗 氏

◎  第29回研究会【予定】(平成28年3月1日:日本原子力発電株式会社本店)

「水化学に係る深層防護」に関する議論と2016年10月にイギリスで開催された水化学国際会議2016(NPC2016)の報告を予定している。

以上

部会報第8号 水化学部会活動への思い(顧問退任のご挨拶)

水化学部会活動への思い(顧問退任のご挨拶)       2017年1月

顧問 目黒芳紀  元 日本原子力発電(株)

1970年に軽水炉の運用が開始されました。当初は導入初期に伴うトラブルが発生し、早期に安定運転を目指すためプラントの安全性、信頼性の向上に向けて全力で取組みました。水化学分野でもトラブルの原因究明、対策立案のため夫々のプラントで検討が開始されました。共通する課題が多かったことから、効果的・効率的に解決するためには産官学協力して検討する場が必要との本島健次先生(旧原研)の発案により、1982年に石槫顕吉先生を中心に水化学専門委員会を立ち上げました。その後2006年に水化学部会に改め、活動を高度化し今年で35年を迎えました。この間先生方のご指導、部会の皆様との連携により世界的に優れた実力をつけ多くの成果を上げてきました。この度顧問退任に際し皆様に心から御礼申し上げます。同時に貴重な検討の場である水化学部会の益々の発展を祈念します。

以下に、私が携わってきました「水化学との係わり」と将来に向けた「所感」を記します。

1.        水化学との係わり

(1)我が国最初の軽水炉である敦賀1号機(BWR;1970年運開)では、運開当初5年位の水化学は、核燃料(被覆管ジルカロイ-2)の破損に伴うFP (Xe-135, Kr-85, I-131, Cs-137, Sr-90等)対策が主体でした。核燃料の健全性を維持するため、燃料ペレット加工の改良、PCIOMR*1(ならし運転)等燃料・運転の改善などと共に、水化学面からの対策として核燃料被覆間と被覆管の隙間に堆積し熱流動の阻害、被覆管の腐食を促進していたクラッド(Fe、Ni等の金属不純物)を減らすことでした。同時に燃料から所内外に拡散するFPの挙動を調査・評価し、当時のALAP*2指針策定(1975年)の基礎データとして提供して参りました。敦賀1号機では、このALAPの指針を遵守するため活性炭式希ガスホールドアップ装置を開発・導入すると共に、液体廃棄物処理系も抜本的な増改良を行いました。これらの結果、燃料破損、放射性廃棄物の環境放出量は急速に減少し1975年以降漸次この問題は収束しました。

(2)一方、敦賀1号機では運転当初より給水系から原子炉内に多量(年間約数百kg)に持ち込まれたクラッドが燃料被覆管表面に付着し、放射化されCo-60, Mn-54等の所謂放射性CPとなり、SCC対策等の点検・補修時に従業員の被曝線量の増大を招き、放射線源を低減する対策も急務となりました。同炉は我国最初に米国から導入された軽水炉であったことから設計・建設を行ったGEを初め、国内外の電力・メーカー・大学・研究機関と技術協力を行い、クラッド低減対策を強化してきました。

ここでは技術の詳細は省略しますが、この結果低放射線量プラント達成の技術的基盤を確立させ、我が国は欧米と共に水化学先進国としての役割を果たしてきました。

このクラッド(被曝)低減対策がその後の水化学部会活動の主テーマになりました。

(3)燃料破損抑制の目途が立ち始めた1975年頃から、原子炉系統を構成している機器、配管材料に腐食に伴うトラブルが多く発生し、これらの補修対策のため原子力発電所の設備利用率が80%以下に低下し、同時に従業員の被曝線量の増加を招き原子力発電所の信頼性・経済性に影響が出てきました。代表的なものはBWRでは配管、シュラウド等に生じたSCC、PWRではSG伝熱管の損傷、配管のFAC、PWSCC等で、これらの対策として材料選択、機器設計、熱流動、溶接工法等を総合的に見直すと共に、水化学面から一次系、二次系の水質環境改善が行われてきました。しかし完全解決には未だ道半ばです。今後も一層の調査、対策の強化が必要です。

更に今後の課題として長期停止後の再起動に伴う水化学管理、出力向上、原子力発電所の運転歴の積み重ねに伴う高経年化対策(特に40年超運転の原子力発電所の信頼性向上)が必須となり、この対応にも水化学面からの更なる挑戦が必要です。

2.        今後の水化学(材料選択も含む)への取り組みに関する所感

私自身の経験を含め、水化学への取組み(技術的課題以外)について期待を述べます。

(1)2011年3月に発生した(東日本大震災時の)地震に伴う大津波により福島第一原子力発電所で炉心のメルトダウン事故が発生し、大量のFPが環境に放出され周辺地域が汚染し、現在でも数万人以上の方々が避難生活を余儀なくされています。今後周辺環境の回復、住民の帰還、同発電所内に保管されているFP主体の液体・固体廃棄物の処理処分、溶融デブリの取出し・保管、廃炉まで40年以上かかる対策を安全に行う必要があります。水化学部会の活動は主にCP化学でしたが、軽水炉の初期には燃料破損に伴うFP化学からスタートしたことを今一度喚起し、通常時、事故時のFP挙動・評価・対応策を実務的に見直しておくことが肝要と考えます。

(2)軽水炉では本来「水」が主役でありながら「水化学」はプラント技術の中核に位置づけられていないと感じてきました。例えば、新しく発電所を設計、建設、運転にいたる段階、あるいは既設発電所の増改良工事で、どの段階から化学担当者は参加しているのでしょうか? 多くの場合建設・工事が終り試運転にかかる頃からではないでしょうか?これでは遅すぎます。プラントの骨格は系統設計、機器・配管仕様、材料選択、建設工事で決まります。化学担当者が設計当初から中核に入り、運用で得た水化学面からの知見を設計に十分反映せることができれば、より効果的な低被曝、高信頼度の安全なプラントができると考えます。現在は機械、電気部門のハードが中核をなしており、化学担当者は既に決められた仕様の下での運用で知見の反映も限定されています。

その要因の一つは、設計段階でプラント仕様を決める際に、化学担当者は自らの知見を基にした提案ができる状況に至っていないからだと思います。 プラントのトラブル事例を調べて下さい。大半が「腐食」、「漏えい」等プラント(水)化学に関連しているかが分かります。プラントの経済性には設備利用率を80%以上維持することが肝要です。計画外停止を無くすこと、停止期間の短縮化が課題です。補修作業の減少は従業員の被曝低減にもつながります。将来を見据え積極的な改良・改善案がいつでも提案できるように備えておく必要があります。

敦賀2号機の二次系・SG設計に際し、化学担当者は東海発電所(ガス炉)二次系、新鋭火力発電所(ACC)での汽力ボイラー管理の経験を基に、当初よりHigh-AVTを目指し、銅系材料の排除、熱流動の改善等を改革しました。この結果現在まで腐食による伝熱管の止栓はゼロです。特に、軽水炉は水・蒸気系でのトラブルが多いことから、化学担当者は(蒸気発生メカニズムは共通するが)軽水炉以上に蒸気条件・水質管理が厳しいACCの汽力ボイラー技術等も習得しておくことを提案します。

このような実務的取り組みは今後プラントを国外輸出する際に説得力を持ちます。

(3)これまで線量率上昇、SCC、SG、FAC等の事例では問題が発生し後、しばらくして環境面も大事だと化学担当者の参加が求められてきました。化学担当者はプラント機器に直接担当していないと見做されているからです。トラブル発生現場で最初の段階から原因調査、対策立案に加わることが必要です。その為には長期停止しているこの機会に、系統設計、機器・配管仕様、配置設計等の図書・図面を持って、自己のプラントで直接現場を学んで下さい。自分が管理している水化学技術を考察(水質、材料、腐食、クラッド挙動、放射線量率、二層流、熱流動、浄化系)する上で必須です。多忙であり、人手不足は工夫で克服できます。系統を知ることはプラント管理の基本です。運転、補修部門と同等なハード面の知識と経済性を評価できる力を持ち、共通認識で日頃から彼らと信頼関係を構築しておくことが肝要です。

特にトラブルの原因調査、対策立案時に、設計・建設時にこうしておけば良かったと感じることが多々あります。この反省に立ち運用中の系統設備管理、放射線管理と水化学管理の知見を総合化しておき、改良・改善工事時にタイミング良く対案が提示できるよう普段から備えておくことです。信頼性・安全性向上の鍵となります。

(4)水化学部会の研究会、セミナーは多くの方が参加し、関心の高さを示しています。水化学部会にとって大事な活動です。時宜を得たテーマの選択と調査内容が大事です。出来れば成功事例ばかりでなく、トラブルの予防保全を対象にした取組みについても、目的、手法、評価に加え反省例も含めて報告して頂ければ幸いです。

更に水化学の成果は放射線源の低減、SCC, SG対策で等で見られたように、数サイクルを経ないと真の結果が出ない場合が多くあります。その時点で最適とされた対策も後日技術の進歩で対応の仕方、結果が変わることがあります。このような技術の変遷経緯・経過報告、改善に伴う経済的評価も大切にしてほしいと思います。

また水化学事象はプラントにより異なることが知られています。それは前述のように材料選択、系統・機器設計、プラントの運用履歴、強いて言えば「原水」も異なるからです。プラント毎の特徴を考慮した視野での思考が必要です。

水化学部会では現在、燃料、材料、腐食分野との技術交流が行われており、大変好ましいことだと思います。ぜひこの交流に加え、プラント全体との繋がりを持つため機械学会・汽力ボイラー技術・電気化学的分野、放射線安全のため保健物理・日本放射線安全管理学会等との交流も行い視野を広げ総合的判断に役立ててください。

(5)プラントの長期停止に伴い計画した研究開発ができない、研究開発費・人材も削減されこれまでと同じような水化学の活動ができない、またこの間欧米アジアとの技術格差の拡大が懸念されるとの意見を散見します。更に長期停止後の再起動についても、長期停止中の系統保管の影響、改良工事が与える系統への影響、人材の経験不足等の不安が見られます。

こんな時こそ、かつて電力がメーカー依存から自立するために自主炉心管理、設備補修の直営化、自主保安管理等に踏み切った例を参考に自主開発の啓蒙、電力間での互助、国際協力の有効活用等を図り、主体性を持った計画立案・実施を期待します。停止中で計画した試験・調査等ができない場合、国内外の運転中のプラントに依頼し共同で実施しては如何ですか。水化学の基礎拡充のため大学・研究所との協力の強化も必要です。また若い水化学技術者がプラントの運用経験がないことを心配する声を聴きますが、商用炉導入当初、国外では英国、米国に、また国内では東海発電所・敦賀1号機に、電力、メーカーから多くの技術者が派遣され、技術を習得し自己の発電所の建設・運用に反映させてきました。今回も国内外の運転中の発電所、ACCに研修派遣したら如何ですか。明日の原子力のため相互協力が必要です。

かつてSCC, SG、クラッド対策として、軽水炉の開発者である米国から、腐食電位の管理、熱流動特性/構造の改良・伝熱管等材料の変更、AOA、亜鉛注入等多くの発想力、実行力のある斬新な提案があり、我が国の水化学は強い刺激を受けました。

この機会に国外に技術者を派遣し、その開発力を習得してみては如何でしょうか。

現在水化学の標準化、ロードマップ、人材育成等の検討が進められています。大事な作業と認識しています。検討に際しては上記各項を参考に、時宜を得た適切な課題の摘出、プラントの個性・特徴、工程の柔軟性、知見の反映手段に加え、困難な時代を乗り越える化学担当者の組織的活用、人材育成について提言していただくことを期待します。

以上

注)

*1:Pre-Conditioning Interim Operating Management Recommendations

*2:As Low As Practicable

部会報第8号 巻頭文

巻頭言

水化学部会副部会長 渡邉 豊(東北大学)

2015年度より日本原子力学会水化学部会の副部会長を務めております。私は機械工学の出身ですが、構造材料の腐食と環境強度の研究に取り組むうちに、石榑先生、勝村先生、内田先生、そして産業界の皆さまに導かれて水化学の仲間に入れて頂いた者です。金属材料の腐食あるいは応力腐食割れをテーマとしていた身としては、水(とくに高温水)は手強い敵のようなものでしたが、一度、水の側から物事を眺めてみなさい、とのご示唆を皆さまから頂いたものと感じています。

福島第一原子力発電所の炉心溶融事故は、原子力技術に携わる者にとって真に痛恨の出来事でした。この事故の反省に立って、核燃料、材料、熱流動、水化学など、各分野の専門家が、深層防護への寄与を改めて深く考える取り組みを進めています。水化学部会においてもこの観点を中心に据えて水化学ロードマップ改訂の議論を進めているところです。IAEA深層防護レベル3あるいはレベル4以上、すなわち事故発生時の対策は、いわば重症患者への治療や救命救急の体制を問うものです。この段階でもFP挙動や汚染水処理など水化学が重要な役割を担います。一方で、レベル1は日常の健康管理に相当するものです。我々の日々のパフォーマンスや健康寿命にとって日々の健康管理が何より重要であるのと同様に、原子力発電設備にとっても日常の水化学管理が枢要です。深層防護の議論では、レベル3以上の事象への対応に関心が向きがちですが、レベル1あるいはレベル2への水化学の寄与についても同じ重みを持って一層の高度化を目指すべきと考えています。

ところで、1765年には産業革命の中核技術となるワットの蒸気機関が発明されましたが、19世紀にボイラの高圧化が徐々に進むとともにボイラは最も危険な機械の代表となりました。1880年頃には米英でそれぞれ年間1000件を超えるボイラ爆発事故が発生し、毎年何万人もの死者を出す事態となっていました。しかし人類は蒸気機関を放棄することなく技術的課題を克服したわけです。産業革命直前に8億人弱だった世界人口がわずか250年ほどで約70億人にまで増えました(西暦0年の世界人口は3億人程度と推定されており、産業革命以前は本当に微増で推移していました)。つまり、大規模なエネルギー変換技術を手に入れる前には、多くの人が若くして死んでいたのです。知恵を集め勇気を持って難局を乗り切ることによって人類は生き延びてきたことを歴史は教えています。

発電プラントの停止期間が長引いています。強靱な原子力安全を改めて構築する好機と捉えて、水科学技術の一層の高度化を図るとともに貢献の視野を広げる取り組みを部会として進めていければと存じます。部会員の皆さまの一致協力が要であると思います。引き続きご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

部会報第8号

  1. 部会報 巻頭文
    渡邉豊 副部会長
  2. 震災から6年を経過した福島第一原子力発電所の近況について
    東京電力ホールディングス株式会社 長谷川英規 委員
  3. 「核分裂生成物(FP)挙動」研究専門委員会の設立に向けての活動状況
    エネルギー総合工学研究所 内田俊介 顧問
  4. 水化学部会活動への思い(顧問退任のご挨拶)
    元 日本原子力発電(株) 目黒芳紀 顧問
  5. 「2016年度水化学部会サマーセミナー at 薩摩川内」
    三菱重工 荘田泰彦 委員/鈴木将氏
  6. NPC2016 Brighton 会議報告
    電力中央研究所 河村浩孝 委員
  7. NPC2016Brighton参加雑感
    オルガノ(株)大橋伸一 委員
  8. NPC2016参加報告 -若手研究者の国際会議参加の勧め-
    株式会社東芝 根岸孝次 氏
  9. 水化学部会定例研究会開催概要
  10. 編集後記

部会報第9号 巻頭分

巻頭言

水化学部会 副部会長 久宗 健志(日本原子力発電株式会社)

2017年度より日本原子力学会 水化学部会 副部会長を務めさせて頂いております。

これまで,石槫先生,内田先生,勝村先生および多くの諸先輩方のご指導の下,企画担当として水化学国際会議2014やサマーセミナー等を計画させて頂き,水化学部会員のご協力により開催することが出来ましたことを心より感謝申し上げます。

 

国内の原子力発電所に関しては,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震および東京電力 福島第一原子力発電所の事故に係る安全性向上対策のためプラントが長期停止しており,運転に伴うデータ蓄積が出来なくなっております。

また,プラント長期停止期間中にベテラン技術者の退職や技術開発予算の合理化による研究開発の停滞により,プラント水化学管理に係る技術力の維持向上が課題となるとともに,若手技術者への技術伝承が喫緊の課題となっております。

一方,海外においては,運転に伴うデータの蓄積,新規プラント建設に伴う研究開発の進捗により,技術力の向上と若手技術者の育成が進んでおり,国内の状況からは羨ましい限りです。

 

国内に原子力発電所が導入された黎明期には,プラント運転に伴う技術的課題に対して産官学が協力して取組み解決してきましたが,技術が成熟した現代においては過去と同じ対応は困難となっております。

このため,水化学部会では,2016年度に将来構想検討ワーキング・グループを開催して,技術力の維持向上に係る課題抽出や解決策を検討しました。

この検討結果から,技術力向上(技術開発)については,水化学ロードマップ改訂ワーキング・グループを設置して,水化学に係る研究開発課題の見直しや優先順位を検討し,技術伝承については夏期セミナーを1回/2年の頻度で開催しております。また,2018年度からは,水化学ハンドブックの改訂に取り組むことを計画しております。

更に,国内外の最新知見を収集するため,定例研究会を3回/年の頻度で開催するとともに,水化学国際会議やアジア水化学シンポジウムの国内開催について取り組んでおります。

 

今後,再稼働プラントの増加に伴い,運転データの蓄積や新たな課題の発生が予想され,原子力発電所の水化学に係る技術力の一層の高度化が要求されます。

水化学部会としては,これまでの活動に更なる創意工夫を加えて,技術力の維持向上や技術伝承に取り組んでいくことを計画しております。

今後とも,引続き水化学部会委員の皆さまのご支援,ご協力をよろしくお願い致します。

第6回水化学 夏期セミナー

報告

※講演資料はセミナー参加者のみの公開となっております
1 軽水炉プラントにおける水の役割と水化学制御

   日本原子力研究開発機構 内田 俊介氏
2 電気化学および水質制御
   東北大学 原 信義先生
3 酸化被膜特性
   北陸先端科学技術大学院大学 辻 利秀先生
4 放射線化学~高温水の放射線分解~
   東京大学 勝村庸介先生
5 水の浄化と浄化装置
   オルガノ㈱ 大橋 伸一氏