2008年9月30日
日本原子力学会2008年秋の大会
核燃料・水化学部会合同企画セッション実施報告
三菱マテリアル(株)
磯部 毅
はじめに
「軽水炉燃料信頼性向上の観点から燃料と水化学が連携すべき課題と将来の取組み方法について」と題した核燃料部会と水化学部会の合同企画セッションを、日本原子力学会2008年・秋の大会(於;高知工科大学)の初日9月4日の午後(13時から14時30分)開催した。約70名の参加者を得て熱心な議論が繰り広げられた。以下に具体的な内容を記述する。
セッション企画趣旨説明
座長・磯部(三菱マテリアル)より両技術分野の現状認識とセッション企画趣旨を次の通り説明した。水化学は、高経年化対応や作業員被ばく低減の観点から各種高度化を燃料の健全性確保を図りながら進めている。同時に燃料もプラント高度利用化や更なる高燃焼度化を目的にその高度化を鋭意進めている。そしてそれぞれの分野で、例えばロードマップなどで、燃料被覆管材料の腐食・水素吸収やPWRにおけるAOAなど境界領域の将来課題が取り上げられ議論されている。しかし境界領域の事象は、界面反応かつ中性子およびガンマ線の照射効果が重畳し非常に複雑である。そこで本企画セッションは、この難度の高い境界領域の課題の効率的な解決に向けて、両分野の技術者が相互理解を深め、俯瞰的な技術体系と新たに必要な連携の構築に向けての将来ビジョンを議論することを目的とする。
講演
電気事業者より、燃料側と水化学側それぞれの立場から今後の計画、将来課題・懸念事項や解決に向けたアプローチ方法が述べられた。
まず、阿部氏(東京電力)は、「BWR燃料の水に関連する将来課題と解決に向けたアプローチ」と題して、BWR燃料集合体に係わる導入当初からの幾多の改良経緯、段階的な高燃焼度化等の開発経緯、その過程での被覆管材料開発や適切な水質管理による健全性確保実績を示すと共に、さらなる燃料高燃焼度化、軽水炉の高度化利用や水質環境変化に伴う、例えば腐食・水素吸収の増加傾向など将来の課題や懸念事項を述べた。そして、その解決のためには局所環境の定義やその環境と材料(燃料被覆管)の相互作用解明が理想であるが、当面は従来の実証的アプローチ(Cook-and-Look Approach)を主体とし、今後は、燃料と水化学分野のコミュニケーションを通じてそれぞれのデータや知見の一層の有効活用や機構論的解明範囲を順次拡大していくことが重要との考えが示された。
続いて、荒川氏(関西電力)は、「PWR燃料の水に関連する将来課題と解決に向けたアプローチ」と題して、PWR燃料の高度化を目的とし燃料高度化技術戦略マップに沿って進められている燃材料の開発計画および課題、その中での被覆管の位置づけと高耐食性および低水素吸収材料の開発の重要性を示すと共に、水化学管理の変更が、開発した燃材料の腐食・水素吸収量やAOAなどに影響を与える懸念を述べた。即ち、開発材導入時点の水化学が開発開始時に明確であればそれを前提に進めれば良いが、必ずしもそうではなく、導入に際してはあらためて影響を検討する必要があるという点である。その効率的な解決のためには、被覆管の腐食・水素吸収メカニズムの解明が期待されるが、時間が掛かる長期的な課題であり、当面は実証的アプローチの合理化・高度化が重要であること、そして両分野さらには材料の専門家とも密接なコミュニケーションをとり、問題意識、情報や施設基盤など共有し、課題解決を図ることが重要との考えが示された。
最後に、門井氏(日本原電)は、「水化学側から軽水炉燃料の将来課題解決に向けたアプローチ」と題し、前二者とは別の立場から考えを述べた。水は材料と燃料の両方に接しており、これまでも水化学の変更は、プラントへの影響評価と同時に燃料被覆管の健全性確保を前提として進められてきた。そして最近では、BWRでの貴金属や酸化チタン注入、PWRでの高濃度亜鉛注入など多くの技術開発課題があるが、開発中の燃材料に対してそれらの実用化段階の水化学環境での影響評価が都度必要となる。これを効率的に行うためには、簡易的かつ比較的短期間で腐食評価を行える試験手法の確立が望まれ、そのためには燃材料や水化学技術の両分野の専門家が互いに情報を共有し、それぞれの研究開発に利用できる環境を構築すると共に、両者が協力しメカニズムに関する研究を進めることの必要性を述べた。
パネル討論
続いて研究機関、大学、メーカーのそれぞれの立場からのパネリストにより、軽水炉燃料と水化学の境界領域における将来課題の効率的な解決に向けた連携についてそのビジョンや具体的方法などが示された。
内田氏(JAEA)は、「水化学部会からの核燃料開発研究への寄与の可能性」と題し、燃材料開発期間の長期化傾向の改善のためには機構論的な燃材料挙動・健全性評価が重要であり、そのために例えばラジオリシスモデルなどによる腐食評価技術や局所腐食環境のin-situ計測技術など共同でプロジェクトを組む必要性を述べた。また将来のプラント高度化に際し、AOAへの対策準備の必要性に言及した。
宇埜氏(阪大)は、核燃料研究のおける大学の立場と役割を述べた。技術戦略マップで「学」に対しては、機構論的研究主体と継続的な人材育成・基盤整備が期待されており、阪大においてもJNESや電力、メーカーと共同で燃料(被覆管)関連の研究を実験から理論計算まで幅広く進めていること、さらに人材を育成するための教授に対する人材充実プログラムも並行して進められていることが紹介された。
河村氏(電中研)は、研究機関かつ水化学の立場から考えを示した。水と燃材料の境界領域の課題解決のためには現象論的評価に加えメカニズム解明に向けた検討が必要であり、両分野の専門家の協力、研究体制の整備さらには照射下試験設備の整備の重要性を述べた。そして照射試験設備の整備の為には国レベルでの取り組みの必要性が示唆された。
土内氏(原燃工)は、PWR燃料メーカーかつ燃料側の立場よりコメントした。境界領域の課題には被覆管の腐食・水素吸収とAOAがある。前者は、燃料および水化学はそれぞれの高度化に際し、互いに意識し影響を評価しつつ進めているが、悪影響が無い範囲での取組みとなる。それに対し後者はクラッド低減、SCC対策など両者のベクトルが一致することから、協力して取組む課題として適当であるとの考えを示した。
四柳氏(東芝)は、BWR燃料メーカーかつ水化学側の立場よりコメントした。水化学は燃料健全性、材料健全性、被ばく線量低減および放射性廃棄物量低減の4つの目的を同時に達成することが求められ、水-燃料間の相互作用に限ってもそのパラメータは非常に多い。技術課題解決のためには実機での挙動メカニズムに基づき制御すべきパラメータを一つ一つ明確にする作業を繰り返すことが重要であると述べた。
総合討論
内田氏(JAEA)を進行役とし上述の講演とパネリストコメントを踏まえ総合討論を行った。フロアからの主なコメントを以下に示す。
・ 燃料や水化学分野の開発においては、全体としてのコスト、産業としての競争力を定量的に評価することが重要である。それ無しでは仲間内で課題を共有しただけで終わってしまう。もう少しシリアスに、予算をいくらかけて何をしたらどういうことが起きるか、さらには専用施設を作るならば、予算要求するための根拠は何かという、積極的かつ具体的な検討をこの機会に始める必要がある。
・ 具体的に燃料側から水にどういう要求があるのか、水から燃料側にどういう具体的な内容があるかということが見えてこない。もっとお互い明確に認識しないと、境界領域の課題解決など出来ないのではないか。
・ 実際に実験室で再現ができない理由は、現場で起きていることが複合現象のためである。その必要不可欠なパラメータが全部揃った研究・実験をやらなければならない。パラメータの中で重要なのは照射で、電子線加速器は非常に有効だと思われる。
・ 電子線やその他の加速器の重要性が議論されるが、定量的に何がどう効いているのかを、きっちり押さえながら進めないと定性論に流れてしまう懸念がある。
・ 材料側にはたくさん優秀な人が行っているが、燃料-水の界面現象は非常に面白いにも係わらず人材を集めることに必ずしも成功していない。学問的な問題設定など両者が協力し、学会として総力をあげて取組むことが大事である。
・ 未知の広大な分野が研究対象となっているが、具体的に、例えばベクトルが一致しているAOAを取り上げ、解決するメリットを議論し、トリガーを引き、それから徐々に全体に広げていくとういうようなアプローチが必要と考える。
・ ラジオリシスワークショップでは、ステンレスの腐食や構造材料が主な対象であるが、ラジオリシスは、英国バーンズ氏が、ステンレスではなくジルカロイの腐食に及ぼすHO2、O2-の影響を評価するために始めたのが端緒である。燃料-水境界領域の課題を議論する上で、炉心のラジオリシスにもう一回光をあてて、再度検討することが重要と感じた。
・ JAEAとして水化学は重要という認識がある。JMTRでは水化学を比較的自由に操作できる材料用小型ループも考えている。具体的な提案があれば、出来るだけ対応したい。
最後に進行役の内田氏により、一緒にやろうというムードは出来たが、それだけでは進まない。これを機に核燃料部会と水化学部会が、それぞれの強みをさらに強くする意味で協力し連携して進めていく努力をすることを確認できたと締めくくられた。
以上