_将来、炉内や配管の健全性モニタリングが可能になれば、長期にわたる経年劣化の予測評価精度の向上や状態基準保全の充実が期待される。SCCやFAC等の経年劣化事象について材料・応力・環境面から多面的に計測・評価可能なモニタリング技術を開発・適用することは今後目標とすべき研究課題である。
_今回の改訂に当たって、1F事故を踏まえて、深層防護各レベルにおける状態基準保全の支援に係わる研究の係わりを検討し、レベル1から4のいずれにおいても貢献できる課題のあることがわかった。すなわち、プラント構成材料の経年劣化状態を長期にわたり高精度に監視し、損傷リスクに応じた適切な保全を行うことにより設備の信頼性を向上させ、事故発生リスクを低減すること、一次冷却材の水質異常兆候を早期に検出し、プラントの運転管理への適切な判断材料を提供すること、また、格納容器内雰囲気や原子沪水の状況のモニタリング技術高度化を化学の観点から支援することにより、事故発生防止及び拡大防止に貢献していくことができる。
状態基準保全の支援に関する現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。
(A) 現状分析
(1) 環境モニタリング技術の高度化
_「原子力発電施設に対する検査制度の改善について(案)2006年9月原子力安全保安院」や検査のあり方検討会において、高経年化対策の充実のために状態基準保全や運転中を含めた新しい監視・評価技術の導入が有効であるとされ、新検査制度では、回転機器の劣化進展把握のため、振動分析等運転中の状態監視が導入された。米国では既にオンラインメンテナンスの導入が進められ、また、EPRIではタービンに対し、ヘルスマネジメントの概念を導入・活用している。
_震災以後、軽水炉プラントの事故発生リスク低減が、より一層求められている。状態基準保全の支援技術は、運転トラブルの防止、経年劣化対策の確かな実施及び作業環境の改善の観点から、重要度を増している。また、緊急時におけるプラント状態把握のため、キーとなるプラントパラメーターのオンライン収集と状態把握が求められている。
_水質のモニタリング技術は、これまでにも多くの研究開発が行われてきており、プラント水質の維持管理に貢献してきたが、今後、さらに重要性が増すと考えられる。近年、AI技術が飛躍的に発展してきており、これらを導入することでモニタリング技術の更なる高度化が期待される。一方で、原子炉構成材料の経年劣化に関する状態基準保全技術の開発・適用は進んでおらず、炉内各部の腐食環境をモニタし、あるいは、異常予兆を早期に察知し対処する水質管理を確立するには、更なる研究開発が必要である。2011年にBWRプラントにおいて復水器から炉内に大量の海水が流入するトラブルが発生したことから、水質管理システム高度化に当たっては、急激な水質変化にも対応できるようにすることが必要である。
_1F事故においては、原子炉水位計や格納容器雰囲気モニタが十分機能せず、事故の対応に影響を与えた。過酷事故時の原子炉や格納容器内の状況を把握できるモニタリング技術の高度化が求められており、化学の立場からの支援を考える必要がある。
(2) 機材劣化評価手法
_現行は健全性評価等に基づいた時間計画保全(TBM)を中心とした保全となっており、例えば、SCCの点検頻度は過度の保守性に基づいている可能性がある。水素注入等のSCC環境緩和技術を適用した効果を反映した保全を行うことについてのニーズは大きく、炉内水質環境のモニタリング技術確立は重要な課題である。
_これまで、炉内環境のモニタは限られた部位でのみ実施されており、炉内全体については行われていない。炉内各部位の評価は主としてモデル解析を通じ評価している。腐食環境の可視化はこれまで実施されていない。
_プラント構成材の状態基準保全技術の開発にあたっては、水質以外の劣化要因(材料、応力、流況その他劣化モードに応じた他のパラメータ)の影響評価及び実機条件の把握等の課題もある。このため、これら他の劣化要因を含めた精度の高い経年劣化評価技術の開発が状態基準保全技術の開発に不可欠である。実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、腐食環境評価法の高度化に係わる研究が国の高経年化対策事業として実施されたが、その後継続されていない状況にあり、再構築が必要である。
(3)状態基準保全手法
_状態基準保全に係わる研究事例はまだ少なく、水素注入等のSCC環境緩和技術を適用した効果を反映した保全を行うことを目指して、近年、プラント運転中の炉内ヘルスモニタリングの一つとして炉内腐食電位測定が計画されていたが、震災の影響で中止になっている。今後、研究開発の再構築が必要である。また、実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、国の事業として腐食環境評価法の高度化に係わる研究が実施された。
(B)研究方針と課題
_SCCやFACに関する水質の影響評価及び実機水質モニタリング/評価技術の開発を推進する。ただし、水化学技術単独では状態基準保全を実現することは難しい。人材RMにおいて、状態監視・モニタリング技術や劣化評価技術高度化の研究課題が取り上げられており、これらと状態基準保全技術開発をリンクさせて研究を進めていく必要がある。
_状態基準保全(及びオンラインメンテナンス)の実現により、損傷リスクに応じた適切な保全方法の展開と合理的な点検が可能となり、経年劣化対策の確かな実施を支えることができる。同時に、適切な情報発信の組み合わせによって見える化に資することができ、安心・安全意識の醸成も期待される。
_このためには、以下に示す技術開発や高度化が必要と考えられる。同時に、これらの技術を保全技術に展開していくためのスキームもあわせて考えていく必要がある。そのためには、安全実績指数(PI)と結びつけて考えることも重要である。
(1)環境モニタリング技術の高度化
構成材料の腐食損傷は、炉水環境が一つの重要な要因となっており、炉内各部位での環境パラメータ(酸化種濃度、腐食電位等)を評価しておくことが必要である。原子炉内各部の水質環境をモニタする方法、及びモニタした結果を可視化し全体を鳥瞰できるような手法を検討する。可視化手法は、実測値のみならずモデル解析結果の可視化も含める。さらに、これらの実測、解析結果の評価を実施し、その精度の確認とその向上を図る。
_プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することが可能になる。水質管理システムに関連しては、これまでエキスパートシステム等、異常予兆診断技術の開発が行われ、一部プラントに導入されている。状態基準保全の支援に用いるためには、多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復できる高度化された水質管理システムを構築する必要がある。これにより水質面からプラントの状態基準保全を支援することが可能になる。近年、飛躍的に発展しているAI技術等を導入することにより、モニタリング技術の更なる高度化を図る。また、海水リーク等圧力バウンダリーの損傷に伴う急激な水質異常にも対応できるシステムを検討する。
_現状、サンプリングラインを用いた試料採取とその分析結果から炉内水質監視を行っているが、短寿命の放射線分解生成物濃度の把握は困難で、ラジオリシスモデルによる解析により炉水環境を精度良く評価するには至っていない。また、実機構成材料のSCCモニタリング手法も確立していない。オンラインモニタリング技術の確立が望まれる。
_現状の分析機器の信頼性から一旦冷却した水を分析しているため、対象物の形態や状態変化が起こっていることも考えられる。また、一般にサンプリングを介する為に情報の平均化や時間遅れが生じていると考えられる。これまで高温水モニタ技術はIAEA国際共同研究プロジェクト等で実施され、実機へ適用されているものもある。プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することが可能になるため、オンラインモニタによる連続的な系統内の微量不純物・金属・核種のモニタリング技術、高温サンプリングによる放射性腐食生成物(CP)、CP形態等のモニタリング技術を確立し、水質面から状態基準保全を支援する必要がある。また、オンラインモニタリング化を進めることは、現在行われている多くの手動による分析が低減し、作業者の負担低減にもつながる。
_多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切に処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築する。また、一次冷却水中の核分裂生成物濃度やオフガス系等の放射線線量率を監視することにより、燃料破損を早期に検出し、迅速かつ的確な対応が取れるモニタリング技術の高度化を図る。炉心損傷事故の発生時における格納容器雰囲気(放射線線量率、ガス濃度等)モニタや原子炉水位計等の計装機器の機能強化により、損傷状況を的確に把握できるモニタリング技術の高度化に、化学の面から支援する。事故時のヨウ素挙動研究の成果を取り入れつつ、監視技術の高度化を図っていく。
(2)実機材劣化評価手法
現在、BWRでは、炉水環境を緩和する種々の方策が開発されつつあり、一部は実機に適用されている。これらの手法の有効性を評価するために、研究炉を用いた検討が行われるが、種々の制約から実機との対応という点で課題がある。これを解決する方策として実機環境で曝露された材料を直接活用することが考えられる。さらに、このような評価手法が確立できれば、運転中の実プラントの健全性モニタとして適用していくことが可能となる。
_一方、PWSCC発生試験では、試験温度を高めに設定する等、加速試験が一般的に行われ、この試験データに基づきSCCの評価・実機材料の寿命評価を行うことがある。そのため、実機により近い条件を模擬したSCC試験データに基づく評価精度の向上が望ましい。
_状態基準保全の充実においてSCCの発生・進展/抑制状況を直接または間接的にモニタリングする、または評価する手法の確立が望まれる。材料ならびに応力の要素は概ね製造・施工時に決まりやすい一方で、環境の効果は運転条件に応じて変化する要素であるから、腐食環境のモニタリング評価もこの点で状態基準保全の充実において重要な要素であると考えられる。
_現状の維持規格ベースの亀裂進展評価では過度に保守的な傾向があると考えられており、きめ細かなモニタリングあるいは評価手法に基づいた状態基準保全を導入することにより、保全周期の適正化が図ることができる。
(3)状態基準保全手法
プラント状態監視技術の適用により、プラントの安全・安定な運転が図られる。つまり、状態基準保全やオンラインメンテナンスの実現により、損傷リスクに応じた適切な保全方法の展開と合理的な点検が可能となり、また、適切な水質管理により燃料や構造材の劣化が抑制されることにより、より一層の安全性向上が図られる。
(C)産官学の役割分担の考え方
①産業界の役割
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- 実機腐食環境の詳細評価
- モニタリング技術の高度化
- 実機材劣化評価手法の開発と既存技術の高度化
- 状態基準保全手法の開発
②国・官界の役割
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- 安全規制に必要な技術基盤の推進
- 規制の高度化、合理化
③学術界の役割
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- 基礎データの蓄積、基盤技術の開発
- 腐食環境シミュレーション技術の高度化
- 実機材料劣化モデリング/シミュレーション
- 人材育成
④学協会の役割
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- 規格基準・民間標準策定
- 国内外への情報発信
- 人的交流と育成
⑤産官学の連携
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- 状態基準保全技術開発の効率的推進
- 保全プログラム高度化への反映
- 産官学間の人材交流
(D)関連分野との連携
_SCCの抑制に関する課題のうち、「実機腐食環境評価及び環境緩和効果の実証」「実機腐食環境モニタリング技術及びSCCモニタリング/評価技術の開発」に関連する。また、水化学共通基盤のうち、「腐食環境評価技術」及び「腐食メカニズム」に係わる課題と関連する。これらとは、連携を図って研究を進める必要がある。
_人材RMについても、「状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化」及び「高経年化評価手法・対策技術の高度化」が謳われており、連携が必要である。
図6.1.4-1に導入シナリオ、表6.1.4-1に技術マップ、図6.1.4-2にロードマップを示す。
課題調査票
課題名 | 状態基準保全の支援 |
マイルストーン |
短期 V.保全・運転の負荷軽減・品質向上 ⇒保全・運転における負荷軽減により作業品質を向上させ、ヒューマンエラー防止等へ繋げる取組みの継続がなされる必要がある。中期 II.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現 ⇒安定かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。 長期 I. プラント全体のリスク極小化 |
概要(内容) |
(1) 環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化 (1-1) 異常予兆に迅速に対応できる水質管理システム構築 プラントの水質状況を迅速且つ的確に把握することによりプラント設備の健全性を評価することを可能とする。多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築することにより、材料損傷リスクを低減し、水質面からプラントの状態基準保全を支援する。海水リーク等圧力バウンダリーの損傷に伴う急激な水質異常にも対応できるシステムを検討する。 (1-2) オンラインモニタリングの高度化 _多岐にわたるプラントの運転/水質情報を適切な処理や解析を行い、設備の異常兆候等を早期検知して予兆段階で速やかに修復するできる水質管理システムを構築する。また、一次冷却水中の核分裂生成物濃度やオフガス系等の放射線線量率を監視することにより、燃料破損を早期に検出し、迅速かつ的確な対応が取れるモニタリング技術の高度化を図る。炉心損傷事故の発生時における格納容器雰囲気(放射線線量率、ガス濃度等)モニタや原子炉水位計等炉内状態把握のための計装機器の機能強化により、損傷状況を的確に把握できるモニタリング技術の高度化に化学の面から支援する。 (1-3) プラントの腐食環境モニタリングと材料損傷リスクの可視化 _プラント各部の腐食環境をモニタする方法、及びモニタした結果に基づいて材料損傷リスクを可視化し全体を鳥瞰できる手法を検討する。可視化は、実測値及びモデル解析結果とその評価結果も対象とする。 _二次系系統各部での鉄濃度、主に復水系での腐食電位やORP等の運転中連続モニタリングと配管等からの鉄溶出量との相関把握、及び水質変更時の影響を把握する。また、従来の還元性環境に対しヒドラジン無添加、或いは微量酸素注入による鉄低減効果の知見を充実させる。(2) 実機材劣化評価手法の開発 (2-1) 環境加速 _炉水環境が原子炉構成材料の腐食損傷に与える影響を実機に装着した構成材料を用いることで直接評価する方策を検討する。特に、強酸化環境による腐食加速と環境改善策を適用した場合の緩和効果を直接比較評価できる手法の構築を目指す。 (2-2) 材料劣化に及ぼす環境加速/緩和効果の実機構成材での評価方策(PWR/BWR共通) 実機環境に曝露された材料を直接活用して、材料劣化に及ぼす環境影響評価手法を開発する。運転中の実プラントの健全性モニタとしての適用を検討する。 (2-3) 材料劣化に及ぼす環境加速/緩和効果の実機構成材での評価方策(PWR) _実機で長時間経過後に発生するSCCを短時間に実験室試験で再現できる加速試験方法を開発し、実験室試験を用いた精度良い実機SCC評価方法を確立する。 (3) 状態基準保全手法の開発 - ヘルスマネジメントのための状態監視技術の開発と適用 – |
具体的な項目 |
(1) 環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化 (2) 実機材劣化評価手法の開発 (3) 状態基準保全手法の開発 |
導入シナリオとの関連 |
水化学によるプラント状態基準保全の支援 |
課題とする根拠 |
_水化学による状態基準保全の支援技術の適用により、運転トラブルの防止、経年劣化対策の確かな実施及び作業環境の改善を通じて、事故発生リスクが低減する。一次冷却材の水質異常兆候を早期に検出し、プラントの運転管理への適切な判断材料が提供される。また、格納容器内雰囲気や炉水状況のモニタリング技術高度化を化学の観点から支援することにより、事故発生防止及び拡大防止に貢献できる。 |
現状分析 |
(1) 環境モニタリング技術・水質管理システムの高度化 _炉水水質のモニタリングや水質診断技術に関してはこれまでに多くの研究開発が行われ、プラントの水質維持に貢献してきた。一方で、原子炉構成材料の経年劣化に関する状態基準保全技術の開発・適用方策進んでおらず、炉内各部の腐食環境をモニタし、あるいは、異常予兆を早期に察知し対処する水質管理を確立するには、更なる研究開発が必要である。 _2011年に、BWRプラント復水器から炉内に大量の海水が流入するトラブルが発生した。水質管理システム高度化に当たっては、急激な水質変化にも対応できるようにすることが必要である。 _これまで、炉内環境のモニタは限られた部位でのみ実施されており、炉内全体については行われていない。炉内各部位の評価は主としてモデル解析を通じ評価している。腐食環境の可視化はこれまで実施されていない。 _1F事故においては、原子炉水位計や格納容器雰囲気モニタが十分機能せず、事故の対応に影響を与えた。過酷事故時の原子炉や格納容器内の状況を把握できるモニタリング技術の高度化が求められており、化学の立場からの支援を考える必要がある。(2) 実機材劣化評価手法の開発 _プラント構成材の状態基準保全技術の開発にあたっては、実機水質モニタリング/評価技術を高度化するとともに、SCCやFACによる材料の劣化・損傷に及ぼす水質影響を含めた精度の高い経年劣化評価技術の開発が不可欠である。実機腐食環境の詳細評価に繋がる研究として、腐食環境評価法の高度化に係わる研究が国の高経年化対策事業として実施されたが、継続されていない状況であり、再構築が必要である。 (3) 状態基準保全手法の開発 |
期待される効果 |
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実施にあたっての課題 |
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必要な人材基盤 |
(1) 人材育成が求められる分野 _状態基準保全の支援技術の研究開発を推進していくためには、以下の分野に精通した人材が求められる。 水質管理・診断、材料劣化評価、設備・機器の状態監視、オンラインメンテナンス、可視化(2) 人材基盤に関する現状分析 _これらの分野に関する研究開発は、従来、水質管理や保全に係わる研究開発はメーカと電力会社をはじめ、研究機関、大学で行われてきた。 (3) 課題 |
他課題との相関 |
人材RM 【S111_d32】状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化 【S111M107_d36】高経年化評価手法・対策技術の高度化 |
実施時期・期間 |
短~長期 |
実施機関/資金担当 |
産業界、学術界/産業界
<考え方>
産業界/産業界
<考え方>
産業界、官界、学術界/産業界、官界
<考え方>
|
その他 |