6. 安全基盤研究

6.1 構造材料の高信頼化

_PWR及びBWR冷却系の主系統については、従来から適切に高信頼化のための方策が施されている。以下では高信頼化に係わるロードマップを4つの視点から記載する。表6.1に軽水炉での材料関連トラブルの主要事象と対応策を示す[6.1-1]。表中に朱記したものは、重要項目として、第6章で詳細に取り上げたものである。
_一方で、主として補機冷却系で見られる海水腐食や微生物腐食(バクテリア腐食)等は、通常運転中に大きな問題となる事象が顕在化した実績がなく、また仮に事象が顕在化しても、通常運転時には様々な代替手段があり、問題拡大につながる恐れが低い。すなわち、水化学としての技術開発要素はないため、技術マップやロードマップの作成は行わず、技術課題としては取り上げない。
_しかしながら、補機冷却系の損傷は特に深層防護レベル3及びレベル4対応で特に重要となるので、以下にその要点を特記する。
_深層防護レベル3及びレベル4対応において、主系統の損傷を起点とする重大事故に対しては事故の進展を確実に抑制する方策を取っており、単独ではレベル4には至らず、最悪でもレベル3以下で収束するように対応がなされていると考えられる。
_しかし、仮にレベル4に至って、事象の拡大・進展を抑制しようとする状況では、非常用機器を確実に使用して事故の収束を目指すことが不可避である。すなわちアクシデントマネジメントを的確に実施することが必須である。レベル4の状況では、システムの冗長性が著しく低下し、通常運転時にはバックアップを期待できる機器・システムの使用が不可能になる場合を想定する必要がある。
_例えば、海水冷却系機器では、海水に起因する腐食の進行を十分に把握し、投入が必要となった時点で機器の負荷が増大した途端に損傷を生ずるというような事態は避ける必要がある。また、圧力バウンダリーにある機器は、機能テストだけでは把握できない構造上の性能の問題を抱えている可能性があり、不断のチェックを欠かすことができない。
従って、所定の時間内に事故を収束させるためには、機器・システムのレジリエンス(復元力)評価を的確に実施しておくことが必須で、機器・システムのマニュアルを完備し、日頃その操作に習熟するための訓練が必要である。それと同時に日頃の保守管理を怠らずに非常用機器の信頼性を十分に担保しておくことが重要である。これは水化学管理の範疇外ではあるが、レベル4対応時の非常用機器の重要性を十分に認識しておく必要がある。
_仮にレベル4の状況に至った際、プラントに水化学の専門家が滞在しているという保証はないので、マニュアルには様々な状況でのチェックポイントが記載されていることが要求される。このようなマニュアル作りには水化学の視点が必要不可欠であり、意識を共有化することが重要である。