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- 巻頭言
・長期運転とGXに向けた若手世代への期待
河村 浩孝 部会長 - 特別寄稿
・「核分裂生成物挙動」研究専門委員会の歩み
東芝エネルギーシステムズ株式会社 高木 純一氏 - 部会運営に対する若手有志からの提言書
若手検討チーム - 2023年度部会賞受賞者の感想と研究内容の概要紹介
講演賞
・日本原子力発電 阿部 剛之氏
_対象講演:An Evaluation on Corrosion in the Primary System During Long-Term Outage at Tokai-II
講演会:AWC2022
講演賞の受賞感想 研究紹介
・日立製作所 大橋 利正氏
_対象講演:炭素鋼配管の流れ加速型腐食に及ぼす酸素注入と白金付着の影響
講演会:日本原子力学会2023年秋の大会
講演賞の受賞感想 研究紹介 - 「2023年度 第8回水化学サマーセミナー at 日立」報告
サマーセミナーWG主査 長瀬 誠氏 - NPC2023報告
・会議報告
東北大学 阿部 博志氏
・参加雑感
電力中央研究所 山崎 樂氏
・報告書 - 水化学部会定例研究会開催概要
- 新任委員紹介
・日本原子力研究開発機構 端 邦樹氏
・三菱重工業 前田 哲宏氏 - 編集後記
- 巻頭言
-
カテゴリー: 部会報
部会報第14号
- 巻頭言
・これからの水化学を展望して -特に若い世代の皆さんへ-
高木 純一 副部会長 - 特別寄稿
・技術報告書「沸騰水型原子炉一次系冷却水の腐食環境の評価手法に関する現状」の作成を終えて
東芝エネルギーシステムズ株式会社 山本誠二氏
・「原子炉水化学ハンドブック」の作成を終えて
大阪大学 室屋 裕佐先生 - 2022年度部会賞受賞者の感想と研究内容の概要紹介
奨励賞
・三菱重工業株式会社 垣谷 健太氏
業績名:600合金の酸化皮膜性状とPWSCC発生感受性に及ぼす溶存水素濃度の影響
奨励賞の受賞感想 研究紹介
講演賞
・東北大学 北本 和馬氏
_対象講演:隙間部からの塩化物イオン排出速度に及ぼす無害アニオン添加効果の評価
講演会:日本原子力学会2022年春の年会
講演賞の受賞感想 研究紹介
・日本原子力研究開発機構 伊藤 辰也氏
_対象講演:エックス線を用いた水の放射線分解実験における分子生成の高精度評価
講演会:日本原子力学会2022年秋の大会
講演賞の受賞感想 研究紹介
・中部電力株式会社 大村 幸一郎氏
_対象講演:Effect of temperature on the dissipation behavior of Chloride ion
within the crevice of stainless steels
講演会:AWC2022
講演賞の受賞感想 研究紹介 - AWC2022報告
・会議報告
・参加雑感 - 水化学部会定例研究会開催概要
- 編集後記
部会報第13号
- 巻頭言 技術の伝承と発展
渡邉 豊 部会長 - 特別寄稿 研究アーカイブズの意義
元JAEA 塚田 隆 様 - 2021年度部会賞受賞者の感想と研究内容の概要紹介
奨励賞
・日本原子力研究開発機 大谷 恭平氏
業績名:気液界面模擬環境における炭素鋼の腐食メカニズム
奨励賞の受賞感想 研究紹介
講演賞
・日本原子力研究開発機構 鈴木 恵理子氏
_対象講演:
シビアアクシデント時の原子炉内におけるセシウム分布・性状の予測
~Cs化学吸着生成物の化学形態評価~
講演会:日本原子力学会2021年春の年会
講演賞の受賞感想 研究紹介
・日本原子力研究開発機構 井元 純平氏
_対象講演:
シビアアクシデント時の原子炉内におけるセシウム分布・性状の予測
~Cs化学吸着生成物の水への溶解性~
講演会:日本原子力学会2021年春の年会
講演賞の受賞感想 研究紹介 - 水化学部会定例研究会開催概要
- 編集後記
部会報第12号
- 巻頭言 コロナ禍を受けての今後の水化学部会のあるべき姿
_久宗 健一 副部会長 - 福島事故後の10年を振り返って
_高木 純一 副部会長 - 特別寄稿
シビアアクシデント時の核分裂生成物挙動研究専門委員会の活動について
_JAEA 逢坂 正彦氏 - 2020年度部会賞受賞者の感想と研究内容の概要紹介
奨励賞
・東北大学工学研究科量子エネルギー工学専攻 Yida Xiong (熊 一達)氏
__奨励賞の受賞感想__研究紹介
業績名:
_ホウ素およびリチウムを含む高温水環境下でのSUS316LN鋼の低サイクル疲労割れメカニズムに関する研究
関連論文:
– Low-cycle fatigue behaviors of 316LN austenitic stainless steel in borated and lithiated high temperature water with different levels of dissolved oxygen, Corrosion Science, 176, (2020), 109048
講演賞
・東芝ESS 根岸 孝次氏
__講演賞の受賞感想__研究紹介
対象講演:
_軽水炉利用高度化に対応した線量率低減技術の開発 (11)
__酸化チタン注入適用時の燃料被覆管へのクラッド付着挙動評価
講演会:
_日本原子力学会2020年秋の大会
・東芝ESS 洞山 祐介氏
__講演賞の受賞感想__研究紹介
対象講演:
_軽水炉利用高度化に対応した線量率低減技術の開発 (12)
__腐食生成物挙動評価モデルの高度化およびプラント予測評価
講演会:
_日本原子力学会2020年秋の大会 - 水化学部会定例研究会開催概要
- 編集後記
部会報第11号
- 巻頭言 危機に備える
_渡邉豊 部会長 - 水化学ロードマップ2020の作成を終えて
_電力中央研究所 河村 浩孝氏
__水化学ロードマップ2020の本文はこちら - 2019年度部会賞受賞者の感想と研究内容の概要紹介
奨励賞
・日本原子力研究開発機構 端 邦樹氏
__奨励賞の受賞感想__研究紹介
業績名:
_鉄イオンおよびハロゲンイオンを含む水の放射線分解に関する研究
関連論文:
– A simulation of radiolysis of chloride solutions containing ferrous ion, Journal of Nuclear Science and Technology, 56, 9-10, (2019), 842-850
・京都大学 黄 彦瑞氏
__奨励賞の受賞感想___研究紹介
業績名:
_水素添加高温高圧水環境におけるオーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ感受性に関する研究
関連論文:
– SCC susceptibility of solution-annealed 316L SS in hydrogenated hot water below 288℃, Corrosion Science, 145, (2018), 1-9
– Stress Corrosion Cracking Behavior of Type 316L and Type 310S Stainless Steels in Fusion Relevant Environments, Material Transactions, 59, 8, (2018), 1267-1274
– Stress corrosion cracking susceptibilityof 310S stainless steel in hydrogenated hot water, Nuclear Materials and Energy, 15, (2018), 103-109
講演賞
・東北大学 館 和希氏
__講演賞の受賞感想__研究紹介
対象講演:
_Contribution of Cathodic Reaction inside Crevice to Development of Crevice Corrosion in 304L SS
講演会:
_Symposium on Water Chemistry and Corrosion of Nuclear Power Plants in Asia-2019
・東北大学 有賀 智理氏
__講演賞の受賞感想__研究紹介
対象講演:
_Carbon Steel Corrosion at Water Line under Gamma Ray Irradiation
講演会:
_Symposium on Water Chemistry and Corrosion of Nuclear Power Plants in Asia-2019
・東芝エネルギーシステムズ 柴崎 理氏
__講演賞の受賞感想__研究紹介
対象講演:
_軽水炉利用高度化に対応した線量率低減技術の開発
_(7)酸化チタン適用時の放射能付着に対する水質影響
講演会:
_日本原子力学会2019年秋の大会 - 新任委員紹介
・運営小委員会のメンバーに加わるにあたり
__東京大学 山下 真一氏
・水化学部会への期待と取り組み
__日立製作所 伊藤 剛氏 - AWC2019報告
・会議の概要
・AWC2019参加の感想
__東北大学 有賀 智理、舘 和希
・AWC2019に参加して(ポスター賞受賞)
__東芝エネルギーシステムズ 原 宇広 - 水化学部会定例研究会開催概要
- 編集後記
部会報創刊号 編集後記
編集後記
水化学部会が発足してまだ間もないのですが、広報編集小委員会では部会ホームページの立ち上げ、部会報の発刊等、会員各位に必要な情報を迅速かつ正確にお伝えできる仕組みを検討してきました。部会報につきましては、発行手続きの合理化と迅速化のため、部会ホームページのなかで皆様に見ていただく方式を採用しました。このたび、水化学部会報の記念すべき第一号を発刊することができ、なんとか所期の任を果たせたものと考えています。
本年は、水化学分野にとって、ロードマップの作成に続き、部会発足と大変記念すべき年になるものと感じますが、その中でこのような役割を果たすことができ光栄に思っています。ただし、ホームページにしろ、部会報にしろ、全体の枠組みについては、先行の部会を参考にさせていただいて構成しているため、今後、随時見直し、より良い内容にしていきたいと考えています。このため、会員各位のお知恵をお借りしてさらに向上させていきたいと思いますのでご協力を御願いいたします。
(日立GEニュークリア・エナジー 布施記)
部会報創刊号 会員の声
会員の声
20年以上にわたり,国内外の水化学技術向上に大きな役割を果たしてきた水化学研究専門委員会がその活動を終了し,今年6月25日に水化学部会として新たな活動をスタートさせました。
学生時代には水化学と縁がなかった私ですが,会社に入社しすぐに原子力発電所の水化学を担当することとなり,水化学について一から勉強することとなりました。このとき水化学研究専門委員会が編纂した「原子炉水化学ハンドブック」が水化学の教科書として大変役に立ちました。ハンドブックは今でも机の一番手の届きやすい場所においてあり,なにかというとハンドブックで調べ物をしております。
原子炉水化学ハンドブックや,昨年度に作成した「水化学ロードマップ」など,これまで大きな成果を残してきた水化学研究専門委員会ですが,部会に「昇格」したことで,他部門との交流も含めてこれまで以上に活発な議論がなされ,水化学分野のさらなる発展に貢献されることを期待しますし,また私自身も一部会員として積極的に部会活動に取り組みたいと思っております。
(東京電力(株) 宮澤 晃氏)
私は、2年前に水化学標準専門委員会の委員となり、水化学発展の一員として仲間に入り活動させて頂き、委員会が解散する年度末までの間、沢山の情報等を得られ非常に有益なものでした。また、この活動は言うまでもなく発電所のより良い水化学管理を目指したものであり、我々発電所の運営に有効なものとなることと確信しております。
今年度から新たに原子力学会「水化学部会」として、今後の軽水炉で予想される利用の高度化、高経年化への対応および燃料高度化の取り組みを本格化する方向から、水化学分野の一層の高度化・透明性を目指し取り組むこととなり、水化学部会の運営組織および活動方針が6月の総会にて決定された。
夫々の小委員会活動により、水化学活動の透明性は得られるものであるが、反面組織が膨らむことにより形だけのものに終わってしまう懸念もあり、事業者の立場からは従来の水化学の委員会活動と同様に、発電所の運営において懸念される材料との相互作用、被ばく・廃棄物発生抑制、標準化、人材育成と技術伝承等々の課題を着実に検討することで、発電所の安定運転に寄与する活動として、水化学部会に大きく期待している。
私も少なかれ本活動に参画させて頂き、水化学の発展に貢献できるよう頑張っていきたいと思っておりますので、皆様方のご指導をお願い致します。
(関西電力(株) 塚本 雅昭氏)
水化学部会の立ち上げにご尽力いただきました方々にお礼を申し上げます。
また、部会参加させていただきますことを光栄に思います。
原子力ルネサンスと言われ、原子力に関する社会的関心と注目を集めつつある昨今、水化学分野においても、社会的に認知される技術文化を確立することが本部会における一つの使命と思います。
一方では、水化学は定量的な解釈および証明が極めて難しい技術分野であり、専門外の方々に認知される技術として成熟するためには多くの課題があるものと考えます。
知恵を出し合い、時間と労力を惜しまず繰り返えし議論することにより、道は開かれるものと思います。
(日立GEニュークリア・エナジー(株) 会沢 元浩氏)
水化学部会のスタートにあたり、下記の議論を通じて実り多き部会にしていきたいと思います。
①水化学の今後10年、20年先のあり方、研究の方向性:プラントの経年化が進み、ますます水化学の重要性が増してくると思われます。多分野(燃料、材料関係)との交流も深めて、水化学の今後のあり方、研究の方向性を持続的に議論していきたい。
②技術・知識の維持、人材の育成:原子力の商業発電が始まって40年近く経ちました。現場で活躍された方が退職され、これまで培われた技術、知識が失われることが懸念されます。水化学標準化や、本部会を通して、技術、知識を継承し、産学連携して人材の育成と技術の継承を図りたい。
③公平・公正性の確保:オープンな場で議論し、多くの方の意見を反映して成果を作り上げていきたい。
(日立・電開研 石田 一成氏)
自分が「水化学」という言葉に初めて出会ったのは、平成14年の第17回「水化学最適化」研究専門委員会に参加した時でした。それまで全く馴染みのない学問分野だったため、最初は原子炉の水に関する化学について研究する分野だろうという、文字通りの事が推測できたぐらいでした。研究の目的を設定するための価値観を把握する事が出来ず、しばらくは何となく落ち着きの悪かった覚えがあります。
そんな時に職場の先輩から、内田部会長が講師をされていた東北大学インターネットスクールの“エネルギー化学工学特論”の受講を勧められました。その講義を受講したお陰で、ようやく、「水化学」の目的は原子力発電プラントにおける 1) 線量率の低減、 2) 構造材・燃料の健全性確保、 3) 廃棄物の発生抑制であり、そのために「原子力発電プラントでの冷却“水”の主として“化学”的な挙動について研究する」という事をはっきり認識できる様になりました。
一個人として私に出来る事は高が知れていますが、それでも今後、本部会に関する活動を通じて少しでも社会へ貢献できればと思っています。
(JAEA 中原 由紀夫氏)
今回専門委員会から部会に昇格したため、今までの専門委員会より組織が大きくなった。組織の大きい部会となったが、今までの小回りのきいた専門委員会と同程度の定例会が行われることを期待したい。また、部会に昇格したことから、他部会との交流を図っていくとのことであるが、是非期待したい。
(三菱重工(株) 西村 孝夫氏)
水化学部会の発足おめでとうございます。発足にあたりご尽力いただきました方々や、水化学標準委員会の時より、委員会の運営及び委員会において活発な議論に参加された方々には深く御礼申し上げます。
水化学部会となることは、その学問的意義やこれまでの活動内容が認められたということと共に、今後、更なる発展を期待するということであると思います。
部会になると大きな組織となりますが、同じ化学部門に携わる者同士が、部会長の内田先生を中心として業種や世代の垣根を越えて議論できる雰囲気を作っていっていただきたいと思います。私は、これが最終的には部会の発展、日本の原子力発電における化学技術の発展につながると信じております。私も部会の一員として貢献していきたいと思います。今後とも宜しくお願いします。
(日本原子力発電(株) 大平 拓氏)
部会報創刊号 燃料と水化学
燃料と水化学
原子燃料工業 土内 義浩
1.はじめに
平成18年度から19年度の日本原子力学会における水化学ロードマップの検討に、水化学-燃料サブワーキングのメンバーとして参加させていただきました。水化学の専門家の方々と積極的に意見交換し、ロードマップ作成という大きなプロジェクトに微力ながらも貢献できたことを光栄に感じます。このような貴重な場を与えて下さり、更に御指導、ご議論くださった方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げたいと思います。
ロードマップ検討の効果について語られる際に、技術的な課題や対応プランが明確になることだけでなく、異なる分野の関係者が集まって意見交換することで、交流が進むとともに相互理解が深まることも重要な効果であるとしばしば言われます。これについてはまさに実感するところです。今後も継続的に共同作業が行われ、分野の枠を越えた互いの理解が益々深まることを切に願います。
2.従来の課題とその理解
BWRの冷却材やPWRの一次冷却材の水化学は、燃料の健全性を左右する最も重要な使用環境因子の1つです。ところが、燃料メーカや関連研究機関の研究者、技術者のうち、水化学技術の分野に積極的に踏み込む者は一部に限られており、またその検討に携わる機会はそれほど多くないと感じます。ここで、水化学の改良はどちらかと言えば、燃料の健全性を向上させるというよりは、プラント材料の劣化を低減することを優先的に選択したものの方が多いように思います。また、水化学の改良は燃料に対して使用環境由来の負荷の増大をもたらす場合があります。PWRにおける一次冷却材のpHを高めるために高Li化を図るなどはその一例です。一方、燃料健全性への影響評価については、確認試験は長期を要し、またその代替策としての海外先行知見を活用するにしても、情報源が限られていることに加えて、必要な対価も極めて高くついてしまうというのが実情だと推察されます。
このようなことから、燃料の信頼性の向上・維持を責務とする「燃料屋」から見れば、水化学の改良とは燃料の健全性に対して新たな課題をもたらすものと認識されがちです。しかし、水化学ロードマップ検討の場において提案がなされたように、燃料の信頼性を考える際に最も重要な構成部材である燃料被覆管の腐食等の劣化を低減させるような水化学技術も重要といった考え方もあり、水化学の改良イコール燃料健全性に対する負荷増大という図式は一面的な見方であることがわかりました。
一方、燃料技術分野が他の分野(の方々)からどのように見えているのかとしばしば自問することがあります。小生の立場から正確に推し量ることは難しいと感じつつも、ここでは、自らを見つめ直すつもりで、燃料技術分野特有の問題意識やそれを生む土壌(事情)について恣意的ではありますが挙げてみることにしました。
(1) 材料技術の特徴
燃料集合体を構成する部材の設計では材料としてステンレスやNi合金が多く使用されているが、燃料要素(棒)はセラミックである酸化物燃料ペレットとジルコニウム合金製の被覆管で構成されています。これらの炉内挙動(例えば、ジルコニウム合金製被覆管の水側腐食に伴う水素吸収と脆化といったような)を評価するにあたっては、原子力以外の分野の技術や専門知を積極的に活用する機会に乏しく、比較的限られた世界で構築された知識基盤が拠り所となってしまう傾向があります。また、燃料材料は高速中性子束にさらされる環境下にあるため、炉外で把握できる材料特性や他分野からの知識を演繹・展開しての炉内挙動把握には自ずと限界があります。
(2) 製品の特徴
燃料は消耗品であるとともに炉内構造物でもあります。およそ3~4年程度の寿命中にわずかな寸法変化、腐食や腐食生成物付着はあるものの、外観上、顕著な消耗があるわけではなく、他の炉内構造物同様に寿命期間を通じて強度や延性といった機械的な健全性が要求されます。
ここで、寿命の途中で劣化の程度を精度よく把握する機会は上述の通り極めて限定的であるため、一般的には大きな保守性を伴う予測技術をもって、寿命末期までの健全性を評価することになります。このような状況の中でも、近年は燃料健全性に関するトラブルはほとんど無く、信頼性は十分に高いと認知されていると言えます。しかし、今後のアップレートや水化学高度化の中で、予測技術の保守性で確保されてきた燃料設計上のマージンは徐々に削減される方向であることは自明であり、この保守性に過度に依存しない精度の高い評価手法の必要性は高まっています。
(3) 規制を前提とした設計の特徴
原子炉内で燃料を安全に使用する(燃焼させる)ことに対しては、様々な国の規制の網が幾重にも掛けられています。したがって、燃料の設計には安全性や健全性の観点から、核的、熱水力的かつ機械的な観点から、多くの規制上の機能要求がなされ、高い説明性が求められています(例えば、被覆管の腐食を高々数%増加させる程度の水化学改良でさえも燃料技術の立場からはこれを殊更重大視する傾向は、この強固に張り巡らされた規制の網の存在によってより強調されるのが実情)。こういった状況の中、燃料の安全性を確保するための機能要求に対応した合理的な規格基準を設けることに向けて、学協会規格の積極的活用を図ることを視野に入れながら、その枠組みや内容についての議論が学会等の場において始まっています。その一方で、国がその成果を規制に活用するための合理的な仕組みについては、その方向性については意見の一致を見ているものの、具体的な運用方法、役割分担等の詳細については未だ議論の余地があり、今後の重要な取り組み課題であると考えられます。
また、新しく開発した燃料を実用化するにあたっての最終確認試験を行う場合、最も信頼性の高い手法の1つである実炉を利用した先行(実証)試験が有効であると考えられる一方で、この実炉を用いた試験を推進することが極めて困難というジレンマがあります。
上記のような状況は燃料分野固有のものではなく、技術的なものに限らず様々な課題を各々の分野が抱えているとは容易に想像できますが、これらの課題のうち、一方から他方の分野を見た時にその境界を通して明確に見えていたものは、残念ながら限定的なものであったと言わざるを得ないのではないでしょうか?それが、現在は、ロードマップ策定を初めとした異なる分野の関係者が集まる検討の場を通して、少しずつ相互理解が深まりつつあり、お互いの分野への影響まで俯瞰しつつ課題を解決していく効果的な協力関係を構築するに相応しい環境が整ってきたように感じています。
3.ロードマップとこれからの協力関係
平成18年度から原子力学会において「軽水炉燃料の高度化に必要な技術検討」特別専門委員会が立ち上がり、産官学の専門家が集まって、燃料の高度化に伴う課題と今後の対応方針について検討を行っています。具体的なアクションとしては、燃料の安全性についての学協会規格に関連する検討と技術戦略マップのローリング(見直し)であり、それぞれに対して作業会を設け活発な議論を行っており、今後も活動は継続的に行われる予定です。
ここで、技術戦略マップのローリングとは、最新の知見、議論、動向を踏まえて逐次バージョンアップを図るものです。平成16年度に学会で検討された「燃料高度化ロードマップ」をベースに、その後重ねられた議論の反映により、平成19年7月には「燃料高度化技術戦略マップ2007」が策定されました。その中では、BWR及びPWRの今後の技術開発と優先して対応すべき技術課題とその対応スケジュールが明確にされました。また、知識(情報)、人的、施設、及び制度的基盤の整備についても議論が行われています。さらに、この技術戦略マップは、濃縮度5%制限に関する課題、第二再処理工場等、燃料技術分野として直接取り扱うものではないもののロードマップを描くにあたって、また技術開発を進めるにあたって重要と考えられる課題も環境的課題としてその導入シナリオに位置付けることにより、将来の継続的検討を可能とするものとなっています。
水化学分野とは、技術的な動向、課題、解決策やそのために必要な基盤を適宜共有し相互協力を図るとの観点から、水化学ロードマップとのリンクを重要な環境的課題の1つとして燃料高度化の技術戦略マップ中に挙げています。
これまで検討が行われてきた水化学や燃料高度化に関するロードマップについて、(詳細な内容には触れませんが)それらを俯瞰し、また各々の場での議論を踏まえて今後の水化学分野と燃料分野の協力関係について考えるに、炉水条件を変更するような新しい水化学技術を適用する場合には燃料に及ぼす影響について事前に十分に勘案し、被覆管の腐食や水素吸収について機構論に基づく検討や、水化学技術の動向を十分に把握した上での燃料技術開発や燃料健全性評価技術の向上を図るといった先見的、かつ効率的な取り組みが今後益々重要になっていくと考えられます。このためには、まず異なる分野が互いに積極的に情報共有に向けて協力しあうことが不可欠であり、さらに、電力やメーカ、研究機関による効果的な役割分担に基づくロードマップに沿った効率的な開発推進も重要と考えられます。また、国には規制当局および推進の支援者としての2つの異なる役割があり、今後も高度化の可能性と必要性を十分に踏まえた上で、国内の軽水炉関連技術に対して、透明性や公平性を確保しつつ産学との合理的な協力関係を構築し、ロードマップに挙げられているような課題解決の一翼を積極的に担う役割が望まれます。
水化学や燃料の高度化を図るにあたっては、大規模なインフラ整備や、単にボランタリーなレベルにとどまらない戦略的な国際協力も重要と考えられます。これらは産学だけで実現できるものではなく国の関与が必須となりますが、ロードマップに目標や優先すべき技術課題や対応策を先見的に明示することにより、国の協力も得られやすくなるのではないかと考えられます。
昨今の国内の原子力技術に対する認識の高まりは好ましいことです。ただし、原子燃料サイクル確立や高速炉技術開発といった特定の分野に目が向けられがちな中で、水化学や燃料といった現実に実用化されている目の前の軽水炉に関する技術についても、公益性や安全性の向上のために今後も改良、高度化の余地が大いにあり、技術開発が不可欠であるとのコンセンサスを広く獲得して行く努力が重要であると感じています。
今後も、水化学技術と燃料技術という分野はそれぞれが目標に向かって研鑽することが重要であるとともに、さらに両者がWin-Winとなるようなアクティビティが望まれます。そのために、主に学会の場を通じて専門家間で技術開発動向や知識、研究開発施設や人といった基盤を共有することが重要であり、それが種々の合理的な課題解決につながって行くことと思います。
部会報創刊号 特別寄稿: 第39回日本原子力学会賞技術賞(第3907号)高温高圧過酸化水素水ループに関する実験技術の確立
特別寄稿
日本原子力学会賞受賞内容
第39回日本原子力学会賞技術賞(第3907号)
高温高圧過酸化水素水ループに関する実験技術の確立
- 高温水中での過酸化水素濃度制御とその濃度および材料腐食挙動への影響のin-situ計測
(独)日本原子力研究開発機構 内田 俊介 佐藤 智徳 塚田 隆
(株)日立製作所 和田 陽一
(社)日本アイソトープ協会 石榑 顕吉
過酸化水素と聞くと、われわれの年代は、オキシフル(オキシドールの商品名)という殺菌消毒剤を思い起こすのではないかと思います。赤チン(マーキュロクロム液)と同様に、オキシフルも今はほとんど使われなくなりましたが、当時は非常にポピュラーで、褐色のビンに入っており、傷口につけると泡粒が出てくるのが印象的でした。今回の研究対象は、この過酸化水素水です。
沸騰水型原子炉(BWR)では、原子炉での水の放射線分解の結果、酸素、水素、過酸化水素その他のHとOとから構成されるイオンやラジカルが生成します。このうち、化学的に安定な水素、酸素の存在は早くから知られており、燃料被覆材や原子炉構造材の腐食試験では、酸素濃度を制御して原子炉の腐食環境に合わせることが広く行われてきました。20年ほど前に、実機BWRへの水素注入が始まった頃から、水の放射線分解の理論評価が盛んに行われるようになり、炉水腐食環境が、酸素と共に、過酸化水素(H2O2)で決定されることが知られるようになりました。しかし、過酸化水素は高温水中では安定ではなく、サンプリングされた水中にはあまり残らないため、実際に測定することが難しく、材料研究者の目を過酸化水素に向けさせるにはパンチが欠けていたものと思います。一方で、原子炉の高温水中で直接測定できる腐食電位が腐食環境指標として脚光を浴びるようになり、酸素だけでは説明のつかない腐食電位が過酸化水素を考えることで理解できるようになりましたが、実験としては、過酸化水素濃度を高温水中で安定に保ち、その濃度を自在に制御し、またモニタすることが難しかったために、研究はなかなか進まず、過酸化水素濃度制御技術が確立されたのはこの10年程の間です。
以上が研究の背景ですが、以下、少し硬くなりますが、研究の概要を、受賞概要から抜粋し、紹介いたします。
BWRの炉水腐食環境は、水の放射線分解で生成した過酸化水素で決定されます。応力腐食割れの予防保全策の一環として実施されている水素注入条件下では、ppbレベルで残存したH2O2の影響で腐食電位(ECP)が十分低下せず、水素注入効果の定量には、H2O2の影響評価が必須とされています[1]-[3]。本研究では、高温高圧水実験装置中でH2O2濃度とO2濃度を独立に安定かつ任意に制御できる技術を確立する[4]と共に、高温高圧下での材料の腐食挙動をin-situで測定できる技術を確立しました[5]-[7]。
本研究で得られた成果の概要は以下の通りです。
1)H2O2濃度制御技術の高度化
オートクレーブとH2O2注入およびサンプリング管内を四フッ化エチレンでライニングした既開発の高温高圧H2O2水ループ[8]の高流速化、内容積の縮小、最適化により、試験部で常に90%以上のH2O2が残存することを確認し、O2の共存を最小にしたH2O2雰囲気で長時間安定に材料腐食挙動の測定を可能とする実験手法を確立しました[4]。ルミノール化学発光分光法に基づくフローセル型の高感度かつ簡便なH2O2濃度測定法を開発し、サブppbのH2O2濃度を、迅速に測定可能な技術を確立しました[9],[10]。
2)材料腐食挙動のin-situ計測
ECPのほか、複素インピーダンス(FDCI)、直接接触電気抵抗(DCR)の測定により、ステンレス鋼の腐食で形成される酸化皮膜の性状と酸化反応を、高温水中でin-situ測定できる技術を確立しました[6],[7],[11]-[15]。また、FDCIとECPの計測を組合せたオンラインH2O2濃度モニタを開発しました[11]。
3)多元表面分析による酸化皮膜性状解析
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)、レーザーラマン分光分析装置(LRS)などを組み合わせた多元表面分析技術を駆使し、「酸化皮膜は、内外二層で構成され、H2O2雰囲気では、H2O2の分解で生ずるOHラジカルの影響で、電気抵抗の高い緻密な内層が形成され、ECPは高いが、逆に腐食は抑制される」ことを示しました [14]-[17]。
4)H2O2の腐食挙動への影響
H2O2の酸化によるアノード電流と還元によるカソード電流が相殺し、広いH2O2濃度域で一定のECPを示しますが、腐食電流は濃度と共に低下し、き裂進展速度も低下します[7],[11]。実験室と実機BWR環境での腐食挙動の差異の要因がH2O2の存在と酸化皮膜性状によることを明らかにし、高経年化プラント対応の材料研究のためには、H2O2雰囲気でのデータ蓄積が必須であることを示しました。
[参考文献]
1) S. Uchida, K. Ishigure, H. Takamatsu, H. Takiguchi, M. Nakagami and M. Matsui,, Water Chemistry Data Acquisition, Processing, Evaluation and Diagnosis Systems for Nuclear Power Reactors, 2004. Proc. The 14th Int. Conf. Properties of Water and Steam, (Kyoto, Japan), International Association for Properties of Water and Steam, 551 (2004)
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[文責:内田俊介]
部会報創刊号 水化学ロードマップ概要
水化学ロードマップの概要
平成17-18年度に、(独)原子力安全基盤機構からの請負契約により、産官学の役割分担・取組を念頭において調和的な研究・開発戦略シナリオを水化学ロードマップとしてまとめた。
水化学ロードマップの必要性
わが国では50基を超える軽水炉が稼動しており、電力の安定供給のためには軽水炉の運用継続が必要とされ、また30年以上稼働しているプラント数も増加している。こういった状況から、プラントの高効率化(炉出力向上、長期運転サイクルなど)、燃料高度化(燃焼度向上、健全性維持など)、高経年化プラントへの対応などの分野について「原子力安全研究ロードマップ」の作成が行われ、対応すべき研究開発項目、そのターゲット、研究開発工程及び実施機関などが取りまとめられてきた。
材料側からの視点が中心であったため、腐食のもう一方の要素である環境すなわち水化学の視点からの検討も十分に行う必要がある。水化学は設備・機器の腐食抑制、プラントの線量率低減、放射性廃棄物低減に有効であることから、合理的な対応策を提供でき、各種事象のメカニズムを検討し、現象の的確な把握に基づいて適切な水質管理を行うことにより、関連する諸課題への対応が可能であることから、水化学への期待は大きい。ロードマップの作成は、研究目標の明確化、既存技術の透明化、人材育成と技術の標準化、産官学間の認識の共有、研究課題の明確化、効率的な研究開発目標、開発手順などを設定できる。産官学が議論して作成したロードマップを公開することは、軽水炉プラントの理解促進に寄与し、原子力に対する国民合意を得ることに寄与できる。以上のような展望のもと、水化学ロードマップの作成を行った。
水化学ロードマップの全体像
水化学は、原子力発電プラント冷却水の水質管理に関する化学的基盤を与える分野全般を包括し、高温・高放射線下といった水環境と材料の相互作用、水系における腐食生成物や添加物の挙動を扱う分野である。また、原子力発電プラントを安全にかつ効率よく運転するために冷却水を化学的に管理するための技術そのものとも定義できる。これを踏まえ、先行しているロードマップとの関連に配慮しつつ、下図のように燃料・構造材・水化学の相関をまとめた。
さらに、既存知識の整理、集積、新データの追加、蓄積とこれらの提供、また、教育、人材面での継続的供給体制、産官学の分担による効率的連携、規制当局との関わり、更には、国内のみならず、国際的ネットワークの重要性、等の観点から、下図のように協力体制を整理した。
ロードマップの目標として「水化学による原子力プラントの安全性および信頼性維持への貢献」を掲げている。具体的には (1)安全性・信頼性の一層の向上、(2) プラントの合理的・経済的運用における安全性・信頼性の確保、を技術開発上のマイルストンととらえ、下に示すような、5年毎の4段階のステップを踏まえた、今後20年間をカバーするシナリオとなっている。
課題の抽出と整理
水化学ロードマップで検討すべき課題は、水化学固有のものの他、構造材料や燃料と水化学の境界領域にある。構造材料や燃料に関しては、既に研究ロードマップが作成されており、これらを考慮しつつ整合を図って課題の抽出を進めた。これを踏まえ、(1)燃料-水化学境界領域における水化学からの課題、(2)構造材料に関わる水化学からの課題、(3)水化学固有の課題、の視点から課題の抽出を行った。
また、水化学を取り巻く環境や先行して作成されている他のロードマップを踏まえ、水化学の特色であるハード面ばかりではなくソフト面からの課題の体系的な整理を行った。体系的整理を行うにあたり、設備、人、環境といった面から、水化学が抱える課題を抽出し、顕在的な課題ばかりではなく潜在的な課題も整理を行った。
具体的な作業として課題調査表を作成した。これには課題名、その概要、問題点の所在、現状分析、期待される成果、実施課題、時期・期間、実施機関、資金の出所などの項目を記したものである。これらを多数作成し、分類、選択、統合し、相互の関係等を検討した上で、最終的には、(1)設備/機器等への影響、(2) 環境/一般公衆への影響、(3)人/情報の整備のカテゴリーに分け、これらに11項目のロードマップが配置されている。詳細は報告書を参照頂く事とし、各項目の概略を以下に記す。
(1)設備/機器等への影響
①基盤技術に係わるロードマップ
共通基盤技術としては、各課題に共通な技術について取り上げること、各課題に固有な基礎技術は各課題の中に設けて検討すべきであるとの観点から、以下に示す具体的項目を共通基盤技術として取り上げた。
a.腐食環境評価技術
b.腐食メカニズム
c.酸化物・イオン種の付着脱離メカニズム
d.実験方法
②被ばく線源低減に係わるロードマップ
「わが国の原子力発電プラントを、将来に亘って国際的にトップレベルの低線量率(クリーンプラント)プラントとする」とした、明確なゴールを設定し、以下のような課題を抽出している。
a.被ばく線源生成のメカニズム解明(科学基盤とモデル化)
b.燃料高度化、軽水炉利用高度化、高経年化対応水質変更の影響評価
c.既存技術高度化と適用(PWR : 高Li運転、溶存水素最適化等、BWR : 給水水質制御等)
d.新技術開発(被ばく線源生成メカニズムに基づいた対応策)
③応力腐食割れ及び照射誘起応力腐食割れの抑制に係わるロードマップ
環境緩和策は事業者が材料劣化抑制方策として展開するのみでなく、適用効果を明確に示し効果的な運用方法を定め、規格基準化や規制の高度化等を通じて高経年対応における点検・評価の高精度化・合理化に反映し、さらに状態監視保全を支援する。これにより予防保全効果の向上によるプラント信頼性向上、稼働率向上、被ばく低減、原子炉高度利用化支援、コストダウンへの貢献するものとして以下のような項目を抽出した。
- 既存技術の高度化と新たな水化学の開発
- SCCへの水質影響評価
- 実機環境モニタリング技術及びSCCモニタリング/評価技術の開発
- 環境緩和技術/クライテリアの規格規準化と環境緩和効果の点検規準への反映
④燃料被覆・部材腐食/水素吸収抑制に係わるロードマップ
炉水環境としての水は、燃料、構造材と直接接しているため、たとえば構造材の腐食対策として水化学を変更する場合、燃料の腐食や炉水の放射能挙動に影響を与える可能性がある。従来、主に先行照射によって実証してきた燃料被覆管・部材の腐食や水素吸収の機構をモデル化し、様々な運転条件や水化学環境における使用範囲を合理的に評価できる手法を確立する。このための以下のような項目を抽出した。
a.燃料高度化(高燃焼度、MOX、最適運転サイクル)
b.軽水炉利用高度化(出力向上)
c.水化学の高度化(高経年化対応、被ばく低減)
⑤状態監視保全の支援に係わるロードマップ
将来、炉内や配管の健全性モニタリングが可能になれば、長期にわたる経年化の予測評価精度の向上や状態監視保全の充実が期待される。SCCやFAC等の経年劣化事象について材料・応力・環境面から多面的に計測・評価可能なモニタリング技術を開発・適用することを、今後目標とすべき研究項目として選択した。
a.環境モニタリング技術の高度化
b.実機材劣化評価手法
c.状態監視保全手法
⑥FAC抑制に係わるロードマップ
配管減肉抑制のための水化学技術のさらなる高度化を図るとともに、実機減肉傾向と配管減肉メカニズムに即した評価管理手法の確立を行う。さらにこれら水化学技術(管理手法)と評価管理手法の規格規準化を行う。これにより、高経年対応や出力向上運転等における潜在的減肉進行部位に対する予防保全に貢献する、現行の点検・評価の高精度化・合理化、予防保全の高度化による長期的プラント信頼性向上、稼働率向上、被ばく低減、原子炉高度利用化支援、コストダウンへの貢献を期待し、以下のような項目を抽出した。
a.環境モニタリング技術の高度化
b.実機材劣化評価手法
c.状態監視保全手法
⑦スケール/クラッド付着抑制に係わるロードマップ
効率的、効果的なスケール/クラッド付着抑制対策として水処理運用技術の適正化、新規薬剤の開発等による水化学技術の高度化、並びにより効果的なスケール/クラッド除去技術の適用等の改善案の立案、PWRにおける鉄発生低減対策としての系統pH増加、スケール付着抑制の観点からは、機器性能が確保できるpH領域の探索、等の観点から以下のような項目を抽出した。
- スケール/クラッド付着機構論の解明並びにモデル化
- 水化学技術の高度化:鉄の溶出抑制(最適pH処理の適用、酸素処理の適用)
- スケール/クラッド除去技術の開発(化学洗浄技術、スケール分散剤の開発)
- スケール/クラッド付着機構に基づく付着抑制技術の開発
⑧SGクレビス環境緩和技術の開発に係わるロードマップ
PWR復水脱塩設備樹脂の劣化生成物であるPSS(ポリスチレンスルホン酸)に起因するSO4–の影響が相対的に顕在化している。一方、近来鉛等の微量金属成分が関与すると考えられるSG伝熱管の損傷発生の可能性が示唆されてきている。
以上より、一層のSO4–持込抑制策の開発および、腐食機構が明確になっていない鉛について、鉛がクレビス環境に及ぼす影響の明確化、発生源の同定による管理指標の策定が必要である。このために、以下の戦略的シナリオを設定した。
a.SGクレビス緩衝剤の開発
b.クレビス環境中和確認を目的としたクレビス直接分析新技術の開発
c.鉛の腐食原因究明と機構論の解明
d.SO4–低減技術の開発
⑨AOAの防止に係わるロードマップ
国内ではAOA発生の可能性は比較的低いレベルと予想されるが、徐々に厳しい運用条件によりAOA発生リスクは高まる方向となる。従って、実機での先行試験に依存することなくAOA発生リスクを評価でき、最適な運用条件を検討するための機構論的評価手法が必要で、関連する現象をメカニズムの視点から捉え、特に燃料棒表面へのクラッドの付着等に着目した種々の技術基盤を用いた試験に基づき、各々の因子との相関性を検討する。これらに基づき、水化学によるAOA抑制効果の有効性評価、AOA発生リスクの評価に基づくプラント運用条件および水化学の最適化を行う必要がある。以上の観点に基づいた項目を設定した。
a.基盤技術開発
b.新しい評価手法の検討 燃料棒表面へのクラッド付着に及ぼす影響 燃料棒表面へのボロンの取り込みに及ぼす影響
c.評価手法の適用
d.AOA防止に関する水化学高度化
(2) 環境/一般公衆への影響
⑩環境・一般公衆への影響に係わるロードマップ
廃棄物発生抑制のための高浄化性や長期安定性などを有する新樹脂の開発、及び環境負荷低減のための制御薬品の選択や処理技術の開発においては、プラント高度化や新たな水化学管理の影響も同時並行で評価し、改善策を立案する。さらに、実機適用実績を踏まえたPDCA (plan-do-check-act) cycleサイクルを確立する。
a.運用の最適化(脱塩塔、フィルター運用の最適化、交換頻度の延長、クリーンアップ工程最適化)
b.新樹脂の開発(耐酸化性、高浄化性能樹脂の開発)
c.代替薬品の採用(ヒドラジン代替剤)
d.薬品処理技術の改良(アミン系薬品処理法)
(3)人/情報の整備
⑪人/情報の整備に係わるロードマップ
これまでの知見、蓄積を基礎に、水化学分野の技術情報基盤を整備していくこと、これまでの運用経験も踏まえた水化学技術の体系化により、評価技術、運用技術等の規格・基準化、標準化を進める。また、近年、水化学の研究開発、及び管理を担う人材の高齢化が問題とされ、今後、プラントの高経年化対応を含め、原子力発電の持続的発展のため、人材の確保は緊急の課題である。さらに、水化学技術の高度化の観点から、今後とも継続的に国際的な情報交換を進めると同時に、アジア諸国での原子力開発が急速に進展すると予測されることから、わが国で培った技術をこれらの国に反映させていくことが重要である。
以上のような背景に基づき、人/情報の整備に関する戦略的シナリオを以下のように設定する。
a.技術情報基盤の整備/技術伝承
b.学協会規格等の整備
c.国際協力の推進
水化学ロードマップの目標
前節に記した各項目のロードマップに沿った活動を実行する事により、以下のような目標が達成できるものと期待される。
1.被ばく線量の低減:被ばく線源(線量率)の低減に重点を置き、定検作業量の低減とあわせて、低被ばく線量を達成。
2.軽水炉利用の高度化、燃料高度化、そして、高経年化対応への水化学制御による調和的、合理的対応水学制御による燃料・構造材の信頼性の一層の向上。
3.水化学データ評価を通しての、状態監視保全による検査制度の改善・合理化
4.産・官・学の協調による研究の推進、人材の育成と民間自主規格化。
まとめ
これらのロードマップは今後の進展により必要に応じ、改訂を進める必要があるが、最も重要な事は、このロードマップに沿った研究、技術の開発を実施する事であり、具体的な実施に向けた今後の活動に取り組むべきである。