資料総1-1 (杜)日本原子力学会水化学部会設置趣意書
エネルギ-保障や地球温暖化防止の観点から原子力は我が国の基幹エネルギーと位置づけられている。現在、その中心的な役割を果たしている軽水炉では、炉心冷却材・中性子減速材である水(軽水)が、様々な温度・圧力・照射条件下で多様な金属材料と接しながら主幹系統内を循環している。水化学技術は、この界面で生じる構造材料・燃料の腐食損傷を環境面から予防すると共に、その結果生じる腐食生成物の移行・放射化を制御し、従業員の被ばく線量や放射性廃棄物の発生量の低減を通じて、原子力プラントの安全性維持と経済性向上に大きく寄与してきた。今後、軽水炉ではその利用の高度化、高経年化への対応及び燃料高度化の取り組みを本格化する方向にあり、これらに関連する技術開発の合理的な推進に貢献する視点から、水化学分野の研究および技術を一層高度化する必要がある。即ち、炉出力向上によって過酷化する放射線場や腐食環境にあって、経年劣化や高負荷により腐食影響を受けやすくなる構造材料や燃料の健全性を合理的に維持する必要がある。このため、腐食環境緩和技術の開発と適用およびその標準化を進めると共に、燃料・構造材料および関連する他分野における技術開発との調和・融合を図り、軽水炉の安全性・経済性を更に総合的に向上させていかなければならない。更に、これら水化学関連技術の基盤となる学問分野の基礎研究の育成・支援も不可欠である。また、このような取り組みの中で蓄積される知識や経験を、産官学が共有する水化学情報デ-タベースとして構築し、本分野或は関連する領域における人材育成と技術伝承、新たな技術開発、基盤整備と標準化、および科学的合理性を有する安全規制の推進に役立てる。また、既存軽水炉のみならず、次世代軽水炉、高速増殖炉および高速増殖炉を含む新型炉、或は、使用済み燃料の貯蔵・保管、再処理設備などの原子力施設の設計・建設・運転における水の挙動や水と構造材料・燃料材料との相互作用を広く検討対象として、その安全性確保や高度化に貢献する。更に、熟練技術者の減少や自然環境保護に対する意識の高まりが想定される将来を見据え、一層の被ばく低減や放射性廃棄物の発生抑制などの課題に取り組み、作業環境の改善や社会的受容性の向上を目指す。 (社)日本原子力学会では、1982年以来6期24年間に亘る活発な水化学研究専門委員会活動を展開してきたが、上述の如く原子力において今後水化学が果たすべき使命の普遍性・重要性を鑑みると、核燃料・材料・再処理など課題を共有する部会間、或は、国際レベルでの協力と連携を効率的に実施すると共に、研究ロードマップ検討および水化学技術の体系化・標準化などに継続して取り組むためには、それに相応しい連続性のある体制を構築し、中長期的視点に立って活動を継続することが不可欠である。このような認識に立ち、ここに水化学部会を設置する。