部会報第2号 サマーセミナ報告

「2008年 水化学サマーセミナー in 福井」報告

 平成19年春に発足した水化学部会では初めてとなるサマーセミナーが、2008年7月15日~17日に福井市のフェニックスプラザにおいて開催された。100名を超す参加者が、14件の講演と16件のポスター発表を聞き、活発な質疑を行い、真剣にパネル討論に加わり、また交流会と懇親会で楽しい一時を過ごし、有意義な時間を共有できた。以下では、本セミナーの概要をご報告する。なお、本報告の末尾にセミナー参加者の集合写真を添付する。

  1. はじめに

 本セミナーの予稿集の表紙には、「第5回水化学サマーセミナー」と記されている。これは、水化学部会の前身として石榑顕吉先生のご指導の下20年以上に亘る活動を行った水化学研究専門部会において、既に4回のサマーセミナーが開催されたためである。水化学サマーセミナーでは毎回基調テーマを掲げて講演を依頼している。今回の基調テーマは、「原子力発電所における電気化学技術適用の進展」及び「原子力発電所における水化学がかかわる改善の取り組み(Good Practice他)」という2つのテーマであった。その趣旨は、開催案内に以下のように述べられている。
原子力発電所の機器等構造材料の腐食事象を理解するためには材料と環境の相互作用である腐食反応機構の理解が欠かせない。本セミナーのテーマの1つとして、水化学分野における電気化学の適用事例として、電気化学手法を基にした測定法や電気化学に基づく腐食等のメカニズムに関する研究事例等を紹介する。また、もう1つのテーマとして、発電事業者、研究者、及び、メーカー他の水化学がかかわる改善の取り組み(Good Practice他)について、例えば、被ばく低減、応力腐食割れ(SCC)や流れ加速腐食(FAC)などの高経年化事象抑制、プラント性能改善、経済性向上など幅広い分野での事例を紹介し、関係者の間での相互理解を深める。この両基調テーマの元、柴田俊夫先生による招待講演(講演時間40分)に続き12件の一般講演(同各25分)等が行われた。
本セミナーの開催場所であるフェニックスプラザは、JR福井駅からは1.8kmと、連日最高気温が30℃を超えたセミナー期間に徒歩では厳しい距離であったが、路面電車(福井鉄道福武線)の走る広い道路に面した立派な施設であり、その大会議室が会場となった。本セミナー開催では、この会場の準備他多くを三菱重工株式会社原子力事業本部原子力技術センター荘田泰彦殿他の多数の方々にお世話になりましたことを感謝いたします。

  1. 講演、パネル討論およびポスターセッション

2.1 第1日目(7月15日)

 本セミナーは、内田俊介部会長(JAEA)の開催挨拶により13:45に始まり、午後のセッション1は<電気化学計測や電気化学に基づく腐食等のメカニズムに関する研究>と題して、以下の4件の講演と質疑が行われた。座長は、實重宏明殿(東電)が務められた。

1-1 招待講演「マクロセル腐食とミクロセル腐食~高温水中炭素鋼腐食機構に関連して~」
福井工業大学 原子力技術応用工学科教授 柴田 俊夫先生
1-2 「PWR2次系での腐食環境および配管減肉速度の評価手法」
日本原子力研究開発機 原子力基礎工学研究部門 内田 俊介殿
1-3 「応力腐食割れの電気化学的側面 – 臨界電位を中心に」
IHIテクノソリューションズ 明石 正恒殿
1-4 「ジルコニウム合金被覆管の腐食機構に関する電気化学的研究」
三菱マテリアル(株) 非鉄材料技術研究所 村井 琢弥殿

上記の講演の後、ポスターセッションが17:00-18:00に会場である大会議室の後のスペースにおいて開かれた。ここでは、電力会社、メーカー、大学それに各研究機関の若手を中心とした研究者、技術者から全体で16件のテーマの発表があった。内容は、腐食環境に係わる基礎データの評価から実プラントでの水化学関連技術の運用実績とその改善に結びつくものまで広範囲にわたり、各テーマともセミナー参加者と熱心な議論が行われた。

2.2 第2日目(7月16日)

 セミナー2日目は朝8:30に始まり、午前のセッション2は<水化学がかかわる改善の取り組み(Good Practice他);その1>と題して、以下の5件の講演と質疑が行われた。座長は、塚本雅昭殿(関電)が務められた。

2-1 「泊発電所における蒸気発生器2次側洗浄の実績と効果」
北海道電力株式会社 笹田 直伸殿
2-2 「敦賀2号機における亜鉛注入の実績と効果」
日本原子力発電株式会社 市毛 秀明
2-3 「PWR燃料被覆管クラッド付着影響因子の明確化に係わる研究動向」
電力中央研究所 河村 浩孝殿
2-4 「復水脱塩装置向けアニオン交換樹脂の開発及び実機適用例」
オルガノ株式会社 大橋 伸一殿
2-5 「PWRプラント2次系における配管減肉事象のデータ分析」
三菱重工業株式会社 高砂製作所 山上 勝彦殿

昼食後の午後13:15からのセッション3では<水化学がかかわる改善の取り組み(Good Practice他);その2>と題して、以下の4件の講演と質疑が行われた。座長は、乙葉啓一殿(原電)が務められた。(13:15-16:05)

3-1 「東北電力BWRプラントにおける極低Fe・高Niコントロールの経験と最適化」
東北電力株式会社 齋藤 実殿
3-2 「BWRにおける水化学によるSCC抑制への取り組み」
株式会社東芝 山本 誠二殿
3-3 「水化学をベースとしたBWRプラント保全技術の展開」
日立GEニュークリア・エナジー(株) 会沢 元浩殿
3-4 「発電所分析化学管理標準について」
丸紅ユーテイリテイサービス 佐藤 義雄殿

2.3 パネル討論

 上記セッションの後、パネル討論が1時間の予定で、テーマを「水化学ロードマップについて」として行われた。司会である勝村庸介先生(東京大学)による本パネル討論の趣旨説明の後、まずパネリストとして瀧口英樹殿(原電)、河村浩孝殿(電中研)、荘田泰彦殿(三菱重工)から、それぞれ実機に係わる事業者、研究機関、メーカーの観点を主として水化学およびそのロードマップに関する意見を述べられた。
勝村先生からは、水化学ロードマップ作成の経緯、ロードマップフォローアップ(RMFU)小委員会(勝村先生主査)の活動状況、パネルディスカッションの進め方が話された。
瀧口殿からは、発電プラントにおける水化学は予防保全技術として重要であり、その観点からは(1)炉内現象のメカニズムの把握と炉内環境の精確な把握に基づく予測・対策技術の開発、(2)水化学技術の有効性の検証と維持管理への反映、(3)水化学を支える人的基盤、施設基盤、情報基盤の3つの重要性が述べられた。また、水化学ロードマップ及びそのフォローアップは、(1)研究開発マネージメント、(2)研究開発者に対する重要技術情報の提供、(3)国民理解の増進に役立つべきとの意見であった。
河村殿からは、瀧口殿の指摘された水化学を支える基盤の整備について、特に施設基盤に関して照射試験及び実機での計測の重要性が強調され、それらは産官学が協同して取り組むべき課題であると述べられた。また、照射下試験による炉内現象のモデル等の検証の必要性と現状の問題点、克服すべき課題及びそれらの水化学ロードマップ上での位置づけについて述べられた。
荘田殿からは、水化学に基づく的確な予防保全のためには、実機環境下で起こっている腐食、付着等の現象の的確な理解、関係するパラメータ毎の寄与の定量化とそれらの相乗作用の理解などが重要であること等が述べられた。
これらの意見に関して、活発な質疑討論が行われ、例えば次のような意見が出された。
・ 予防保全はうまくいってあたり前というところがあり、どのようにその効果を見せてゆくのかを考える必要があり、例えばPerformance Indicator(安全実績指標)を活用する方向等がある。
・ 現在の受託事業による研究のやり方は、大学の本来の役割とずれている部分があり、学生の関与や予算の使い方に難しい点がある。
・ 大学の観点としては、研究が学問として位置づけられること、体系化が重要であり、学生が魅力的に思い夢を持てることが重要である。
・ ロードマップに縛られ自由度を失わないようにするべき。
・ 水化学は高経年化対応のキーポイントである。実機・ラボでの腐食電位(ECP)計測の技術向上、寿命評価に必要なSCC発生に関する研究などを進めるべきである。

2.4 第3日目(7月17日)

 最終日は本セミナーの恒例となった、長尾博之殿(元東芝)による「水の常識・非常識」と題する講演がセッション4として7:30~8:00に行われた。座長は、山崎健治殿(東芝)が務められた。毎回楽しく興味深いお話であるが、今回は「磁気水のお話し」がテーマであった。講演は、磁気水(またの名も磁気処理水他沢山ある)の歴史(なんと13世紀からあったとか)、配管のスケール付着防止への利用、抗菌作用などに及んだが、特に長尾殿が自宅のお風呂に導入されたシステムとその効用のお話は大変説得力のある楽しいものであった。また、次回にもユニークなお話により、「水」に対する私たちの視野を拡げていただきたいと思った。

長尾殿のご講演の後、午前8時に本サマーセミナーの閉会の辞が、内田部会長より述べられた。その後,希望者は下記の見学会(テクニカルツアー)へ参加された。

  1. 見学会

 見学会は、以下の予定で実施された。主な見学場所は、若狭湾エネルギー研究センターおよび高速増殖炉もんじゅ建設所の2ヶ所であった。
08:30 福井フェニックスプラザ前出発
10:00 若狭湾エネルギー研究センター到着
10:00~11:30 若狭湾エネルギー研究センター見学
11:30 若狭湾エネルギー研究センター出発
12:30 日本原子力研究開発機構 高速増殖炉もんじゅ建設所到着
12:30~13:00 昼食(もんじゅ建設所にてお弁当)
13:00~15:00 もんじゅ建設所見学
15:00 日本原子力研究開発機構 高速増殖炉もんじゅ建設所出発
16:00 敦賀駅到着・解散

  1. 交流会と懇親会

 充実した多くの講演の後には、水化学への関心を同じくする方々との懇親を深めるというサマーセミナー最大の楽しみがある。今回のセミナーでは、第1日目は「交流会」と称して、フェニックスプラザの小ホールにて参加者全員が10卓程の円卓を囲んで盛大に行われた。第2日目は「懇親会」と称して、有志がやはりフェニックスホール内のレストランに集まり、立食形式で行われた。いずれも18:00頃より2時間程度歓談を中心として行われたが、交流会では、大平 拓殿(原電)の非常に楽しい司会により、福井県にちなんだクイズや利き酒が行われた。利き酒は、水化学サマーセミナーではこれまでも何度か行われたが、毎回予想外の方が隠れた才能を披露されている。今回は、唯一人、数種類の日本酒の銘柄を利き分けた山崎健治殿(東芝)が優勝された。氏は現在水化学部会の副部会長であるので、当部会の将来も芳醇な日本酒のように素晴らしいものとなるであろうと予感された。

  1. おわりに

 今回の基調テーマは、「原子力発電所における電気化学技術適用の進展」及び「原子力発電所における水化学がかかわる改善の取り組み(Good Practice他)」という2つのテーマで開催された。これについて、腐食・電気化学の基礎理論から実機における水化学的課題と対策技術まで、広範な講演を多数いただき、また「水化学ロードマップについて」と題する活発なパネル討論も行われた。このセミナーを通して、新発足した水化学部会が対象とする課題の広がりと役割の重要さが再認識できたと思う。当部会には、2年毎のサマーセミナーの他、年4回程度の定例研究会も開催している。これらの場で集中的な勉強と議論を継続的に行うことより、水化学部会はますます発展すると期待できた。

以上(文責:JAEA塚田)