部会報第2号 巻頭言 : 水化学部会 二期目にあたり

巻頭言

水化学部会二期目にあたり

「水化学」部会副部会長 武藤栄

(東京電力株式会社)

「水化学」部会の副部会長を勤めさせて頂いている武藤栄です。微力ではありますが、部会長の内田先生とともにこれまで原子力発電プラントの運転・運営を通じて蓄積した経験を整理し「水化学」の技術確立と発展に努力して参りたいと存じます。

昨今、洞爺湖サミットをはじめ、多くの場で世界規模の環境問題が議論され、供給安定性に加え環境性に優れた原子力発電のもつ価値がますます注目されつつあります。我が国でもプラントの安全性、信頼性確保を大前提にプラントの安定運転と性能向上に向けた改善を継続的に図ることが原子力発電の有効利用上、大切です。世界各国でも標準化されたプラント性能指標を相互にベンチマークしながら、PDCAの輪を回す継続的な改善の努力が行われています。

我が国のプラント性能を世界と比較してみると、燃料漏洩率の低さや計画外停止率の低さなど、群を抜いて良好な実績をあげているものがある一方、残念ながら稼働率は欧米諸国はもとより近隣アジア諸国と比較しても劣後しており、また、作業被ばく量も世界水準と比較して決して低いものではありません。また、環境への負荷低減の観点から放射性廃棄物の発生量を抑制することも重要な課題であります。

こうした軽水炉のプラント性能は、多くがプラント構造部材や燃料等の健全性管理の善し悪しに依存しています。例えば、BWR、PWRともプラント構造部材の応力腐食割れや配管減肉への対処、あるいは燃料健全性の問題はいずれも計画外停止期間の長短や廃棄物発生量、そして最終的には稼働率にも大きな影響を与える重要な課題です。そしてこれらの多くは原子炉の炉水の性状、すなわち水化学に依存して決まるものであり、原子力にかかる諸課題を解決し性能の改善を図るうえで、水化学が担う役割はたいへん大きいものがあると考えております。

これまで水化学管理技術は、主にプラント運転経験、種々の知見、技術、工夫を過去から順次引き継ぎつつ、専門家の中でそれらを有機的に繋ぎあわせることで構成されてきました。しかし、軽水炉性能向上という大きな目的に照らして、水化学分野におけるこうした蓄積を体系的に整理し、敷衍化し、形式知として一つの科学的な学問体系として構築することについては、未だ成すべきことが多いと感じております。水化学の重要性に鑑みて、現在に至るまでの蓄積を集約し、水化学に係る作用のメカニズムを解明し、再現性のあるものとして整理することが取り組むべき大きな課題であり、それをふまえプラント運転管理における目的に見合った処方箋として、各施策を体系的に構築していく必要があると考えております。また、こうした体系構築の成果については諸外国に向けて情報発信していけるようなものとなることを期待しております。

この体系構築には【産・官・学】が協同のうえ、三位一体となって総合力を発揮しながら水化学にかかる知見の整理をすることが重要であります。どうか関係者の皆様の活発な参加と協働を頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

(武藤栄、2008年8月吉日)