被ばく低減に向けた取り組み(水化学管理の役割)
東北電力株式会社 火力原子力本部 原子力部 伊藤 重
1.はじめに
当社は、女川原子力発電所1号機から東通原子力発電所1号機に至るまで、発電所の設計、製作、建設、試運転、運転の各段階において被ばく低減を念頭においた各種対策を実施するとともに、プラントの水質管理を徹底することにより、機器、配管に付着する放射性物質の低減に努めてきました。
その成果として東通原子力発電所第1回定期検査時の総被ばく線量が、0.14人・Svと1年間以上の運転を経て定期検査を実施したプラントでは国内トップの低線量を達成することができました。
さらに、世界のBWRプラントの2005年から2007年の原子炉1基当たりの年平均線量を比較したところ東通が0.10人・Sv/年・基と世界一の記録となり(図1)、この東通原子力発電所の被ばく低減対策とその実績について平成20年11月に福井県敦賀市で開催された2008ISOE(職業被ばく情報システム:Information System on Occupational Exposure)国際ALARAシンポジウムで発表したところ、ISOE Best Presentation Awardを受賞しました。
今回は、東通原子力発電所の被ばく低減対策として水化学管理が果たした役割について紹介いたします。
図1 BWRプラント年間被ばく線量(2005-2007)出典データ:WANO
2.クラッド低減対策
原子力発電所に従事する作業員の被ばく線量を低減するためには、作業時間を短縮することと、作業場所の放射線レベルを低減することが重要となります。
作業時間の短縮については、CRD自動交換機等遠隔化・自動化機器の採用や原子炉圧力容器の鍛造化による保守点検作業の省力化等確実に成果をあげております。
一方、放射線レベルの低減としては、低コバルト材の採用や遮蔽の設置などの対策の他、沈積性線源と置換性線源の低減が重要であり、これが水化学管理の大きな役割であります。
沈積性線源は、原子炉水中のクラッドが放射化され原子炉水の滞留部などに沈降堆積することから、原子炉内持込クラッドを低減することが対策となります。
クラッド低減対策として特筆すべき事項として、建設初期から一貫した「クリーンプラント活動」を展開したことがあげられます。
「クリーンプラント活動」は、作業環境の整備、機器配管の保護養生、保管管理、洗浄・保管用水の水質管理、建設工事に係わる廃棄物の削減を活動目標とし、建設に従事する全従業員一丸となって組織的に取り組んでおります。
具体的に作業環境の整備として、建設工事中の建屋出入口にエアガン、ジェットスプレー、足拭きマット等を配備し、出入りする作業者の靴底、車両の泥・埃落とし等の徹底をはかるなどの活動を行いました。
また、この活動の重要な目的は、作業員一人ひとりのクリーンプラントの意識を高めることであります。
このクリーンプラントの意識を高めることは、作業員一人ひとりが東通原子力発電所に愛着がわき「マイプラント意識」を高揚することになり、作業員が定期検査等で、また東通原子力発電所で作業を行う時も「自分が建設に携わった発電所を大切にしよう。」という意識が働き、プラントの安定運転、被ばく低減に繋がっているものと考えます。
3.水質管理
置換性線源は、Co-60,Co-58などのイオン状の放射性物質が高温配管の酸化皮膜の中に取り込まれることから、このCo放射能濃度の低減と、酸化皮膜への取り込みを抑制することが重要となります。
女川1号機では、給水から原子炉に持込まれるFeクラッド量を原子炉水中のNiイオン濃度に応じてコントロールし、燃料被覆管表面の酸化皮膜にCoイオンを安定的に取り込むことにより、原子炉水中のCo放射能濃度を低減させるNi/Fe比制御を実施してきました。
BWRプラントは、当初燃料被覆管表面を酸化処理した被覆管(RJ)を用いていましたが、1990年以降、燃料被覆管表面の酸化処理を施さない被覆管(BJ)を導入した頃から、Ni/Fe比制御を実施しても原子炉水中のCo放射能濃度の低減効果が現れず、炉心外の配管の線量率が増加するようになりました。
これに対応するため、給水から原子炉に持込まれるFeクラッド量を抑制し、原子炉内Niイオン濃度を高めることにより、炉心外の配管へ緻密な酸化皮膜を形成させ、放射性Coの取り込みを抑制する極低鉄高Ni運転が考案され、当社は、女川2・3号機で採用し、東通1号機でもこの水質管理手法を採用しました。
東通1号機の運転実績は、給水中Feクラッド濃度0.1ppb以下を維持し、原子炉内へ持ち込まれたFe量は、第1運転サイクル積算で約2.9㎏と原子炉内へのFeの持込みが低く抑えられ、原子炉水は高Ni状態を維持でき、女川2・3号機と同程度の極低鉄高Ni運転を実施することができました。
4.材料表面処理
近年、運転を開始したBWRプラントにおいて原子炉水中のCrイオンの増加が確認されており、このCrイオンの発生抑制が課題として取り上げられています。
このCrイオンの増加は、給水加熱器伝熱管が主な発生源であり、持ち込まれたCrイオンは、原子炉内の環境を酸化性雰囲気とし燃料被覆管表面に付着したCo放射能の溶出を促進し、原子炉水中のCo放射能濃度を上昇させると考えられます。
国内BWR各社は、電力共通研究として「給水加熱器伝熱管からのクロム溶出抑制に関する研究」を実施し、ステンレス鋼表面に酸化処理を施すことによるCr溶出効果を確認しました。
当社は、この研究の成果を東通原子力発電所1号機に反映することとし、実機で初めて給水加熱器の最終段にあたる高圧第2給水加熱器伝熱管の表面酸化処理を実施し、給水から持ち込まれるCrイオンの抑制を図りました。
女川2・3号機では、約5,000EFPH以降給水中のCrイオン濃度が0.01ppbを超えCrの溶出が見られましたが、東通1号機は,約10,000EFPHまで溶出抑制効果が現れ、第1運転サイクルにおける給水から原子炉への総持込Crイオン量は、女川2・3号機の約2/5となり、給水加熱器伝熱管の表面酸化処理によるCrイオン溶出抑制効果はあったものと評価しております。
5.被ばく低減効果
極低鉄高Ni運転と給水加熱器伝熱管の表面酸化処理の相乗効果により、炉心外機器・配管への放射性物質の取り込み抑制が図られ、原子炉再循環系(PLR)配管線量率は、第1回定期検査時の実績で0.06mSv/hと国内プラントの中でも極めて低い値を達成することができ、第2回定期検査時の実績でも0.16 mSv/hと低い値を維持することができました。(図2)
図2 国内BWRのPLR配管線量率の推移
5.おわりに
女川1号機から始まった当社の被ばく低減への地道な取り組みが、東通1号機へ継承され世界一の記録となりました。
この成果は、女川・東通原子力発電所の設計・建設・運転・保守に携わった多くの皆様の努力とともに、水化学部会特別顧問である石榑先生のご指導により達成できたものであり、皆様に深く感謝いたします
これからも被ばく低減への取り組みを継続するとともに、各プラントの原子炉水の水質を見極め、被ばく低減に更なる努力を傾注し、女川,東通ともに被ばくの少ないクリーンプラントを維持していくことが、地域から信頼されることに繋がるもの考えております。
主要参考文献
佐藤元史,佐藤準一,東通原子力発電所の被ばく低減対策,平成20年度火力原子力発電大会