部会報第3号 部会長退任にあたって

部会長退任にあたって

-「水化学」部会の2年間の反省と今後への期待-

                      (独)日本原子力研究開発機構           内田 俊介

1.はじめに

 2007年6月に発足した「水化学」部会の初代部会長の任を、2期2年間、大過なく勤めさせていただき、2009年4月に、勝村庸介新部会長に無事バトンタッチすることができました。この間、特別顧問、副部会長、運営委員の諸兄の献身的なご尽力により、研究専門委員会から部会への脱皮が順調にすすみ、部会会員の強力なご支援により、部会としての諸行事が順調に行われたことに対し、衷心より御礼申し上げます。本文では、部会設立の背景と2年間の経過を振り返り、反省点を列記して、拙文をまとめました。今後の更なる発展に対して、少しでもお役に立てれば、幸甚に存じます。

2.水化学研究専門委員会から「水化学」部会へ

 水化学関連の研究専門委員会は、1982年10月に最初の「水化学」研究専門委員会(主査:石榑顕吉先生)として発足して以来、「水化学標準」研究専門委員会(主査:乙葉啓一氏)まで、6期24年間にわたり、世界でも類を見ない原子炉水化学の技術・研究組織として、国内のみでなく、国際的にも幅広い活動を進めてきました。24年間の活動の中心が、年に4-5回開催されてきた研究会であった点が最大の特徴で、実プラントにおける水化学に係わる経験から化学の基礎研究までの各種課題を、研究者からプラントでの実務担当者まで幅広い方々と議論しました。2001年12月10日の通算100回記念大会をひとつの通過点として、委員会開催総数は最終的には120回を数えました。その華々しい活動成果は、4冊の研究専門委員会報告書[1-4]、原子炉水化学ハンドブック[5]、水化学ロードマップ[6]および原子力学会誌の解説記事[7-12]と特集記事[13, 14]にまとめられ、公開されております。

 研究会を通して、水化学に関する技術、情報を共有することが、研究専門委員会の特徴であり、適宜発電所サイトで研究会を開催することにより、プラントの実情を肌で感じることができたのも、専門委員会のメリットであるとともに、大きな成果を生み出す源であったものと考えます。

 一方で、水化学は、燃料、構造材あるいは放射性廃棄物などと、冷却水を通して密接に関わるため、プラント全体を俯瞰したシステム技術が要求されているのは周知の通りです。原子力学会の組織が大きくなり、1990年代に入って、部会制度が導入されると共に、核燃料、材料などが部会へと移行しましたが、水化学は、研究会を中心に活動を継続する上では、研究専門委員会の方が部会よりも小回りが利くとの認識もあり、あえて部会にすることを避けて参りました。しかし、他の部会と協調して、新たな課題に取り組む上では、水化学だけが研究専門委員会組織のままでは、さまざまな問題を生ずるようになり、第6期の後半に、研究専門委員会としての活動継続か、部会への移行かで激論がもたれ、結論として、部会に移行するになりました。研究専門委員会から部会への変遷の詳細については、解説記事[15]に紹介されております。

3.「水化学」部会の活動方針

 部会化に際しての、活動方針の基本的な合意事項は以下の点であったと考えます。

(1) 他部会との積極的な交流、協調を図り、水化学の新たな展開を図る。

(2) 研究専門委員会の良さであった研究会の活動をさらに発展させ、これまで4年毎の節目でまとめてきた研究成果を公開する。

(3) 「ジルカロイ-水相互作用」、「構造材―水相互作用」の2つのワーキンググループ活動は小委員会として活動を継続し、新たに複数の小委員会で活動の幅を広げる。

(4) 会員諸兄からは会費の徴収が必要となり、従来以上に会費に見合う対価(member satisfaction)を生み出せるようにする。

4.「水化学」部会の2年間の活動実績

先の「水化学標準」研究専門委員会では、技術伝承の原典ともなる各種標準の原案作成とロードマップの作成に大きな足跡を残しました。このうち、標準化の推進は原子力学会の標準委員会(委員長:宮野廣氏)で行うことになり、部会では、ロードマップフローアップ小委員会(委員長:勝村庸介先生)によって、水化学ロードマップの更なる改訂に注力して参りました。水化学ロードマップでの目標に掲げた「水化学による原子力発電プラントの安全性及び信頼性維持への貢献」を達成するためには、プラント全体を俯瞰して、構造材にも、燃料にも、そしてプラントで働く人にとっても最適な運用を目指した水化学を目指すことが必須で、このため、他部会、委員会、あるいは他の学協会との積極的な討論に機会を持ち、協調点を探って参りました。

 春、秋の部会企画セッションでも、他部会との共催を積極的に進め、2008年春の年会では材料部会との共催で、パネル討論「軽水炉の高経年化対応に学協会が果たすべき役割の検討-構造材料の腐食損傷に関わる研究活動を中心として」、2008年秋の大会では、核燃料部会との共催で、パネル討論「軽水炉燃料信頼性向上の観点から燃料と水化学が連携すべき課題と将来の取組み方法について」を開催し、この成果に基づき、2009年7月の核燃料-材料-水化学3部会合同サマーセミナに結びつけることができました。原子力学会の外部との協調では、日本機械学会との流れ加速型腐食についての研究協力のほか、腐食防食協会とは2年にわたり、国際シンポジウムを共催し、原子力分野以外の水化学あるいは腐食に係わる技術者・研究者との絆を深めることにも挑戦しております。

日本原子力学会誌に、2009年2月号から連載講座「軽水炉プラントの水化学」全10回の連載を開始したのも、本部会の活動の一つで、完結後は、その他の解説記事等もあわせて、本部会の成果の一つとして有効に活用できればと考えております。

5.反省事項

部会活動の問題点は、当初から予想した以上に事務処理に係わる雑務が多い点にあります。ボランタリーに参加いただいている各委員には、担当仕事量が増えて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。部会自体としても、各小委員会が独自の活動を活発化させると、参加人員も増加し、仕事量が増加する傾向を示しますので、少数のキーパーソンには益々負担がかかることが予想されますが、全体としては、スリム化を図りつつ、将来像の明確化、その実現シナリオの立案、具現化、技術の標準化、技術の転移を着実に行える組織でありたいと願ってやみません。他部会等との議論に基づく新たな方向への舵とりもまだ残された課題です。

勝村先生の御尽力で、ロードマップの改訂作業はほぼ終了いたしましたが、4年毎の技術成果の公開に向けては、これから課題を絞り込むことが残されております。

また、部会員諸兄が、現在の部会運営に如何思っておられるかの活動に対する評価把握もこれからの課題と考えます。

 

5.おわりに

 2年間で、当初想定した部会としてのイメージに沿って、何とかテイクオフできたものと思っておりますが、小委員会の半数がまだ十分に機能していないなど、問題点も多いことを残念に思っております。今後とも、部会としての運営が少しでもスムースに進められるように、勝村部会長を中心とした部会の新たなる挑戦・運営に積極的に協力して参りたいと思います。2年間の御協力、まことにありがとうございました。

参考文献

1) 「水化学」研究専門委員会、 「原子炉冷却系の水化学」、日本原子力学会(1987年5月)

2) 「高温水化学」研究専門委員会、「原子力発電プラントの水化学管理と基盤技術」、日本原子力学会(1991年8月)

3) 「原子炉水化学」研究専門委員会、「原子力発電プラントの水化学管理の実績と将来展望」、日本原子力学会(1995年6月)

4) 「水化学最適化」研究専門委員会、「原子力発電プラントの水化学最適化の実績と将来展望」、日本原子力学会(2003年8月)

5) 日本原子力学会編、「原子炉水化学ハンドブック」、コロナ社(2000年12月)

6) JNES報告書、「原子力安全研究ロードマップ整備」、07基調報-0004(2007)

7) 石榑顕吉他、「軽水炉一次冷却系における放射性腐食生成物挙動に関する研究状況と今後の課題」、日本原子力学会誌25、337 (1983).

8) 石榑顕吉他、「原子炉の水化学-研究現状と今後の課題」、日本原子力学会誌29、273 (1987).

9) 石榑顕吉他、「原子力発電プラントの水化学管理の実績と将来展望」日本原子力学会誌37、98 (1995).

10) 石榑顕吉他、「水化学管理高度化の実績と将来課題」、日本原子力学会誌41、842(1999年)

11) 「水化学標準」研究専門委員会、 「原子力の安全と信頼を支える水化学の役割と課題―軽水炉新時代の技術課題への取組み」、日本原子力学会誌49、365(2007年)

12) 「水化学ロードマップ検討」特別専門委員会「原子炉水化学ロードマップ」、日本原子力学会誌50、307 (2008).

13) K. Ishigure, et al., “Water Chemistry Experience of Nuclear Power Plants in Japan”, J. Nucl. Sci. Technol.26, 145 (1989).             

14) 石榑顕吉他、「軽水炉発電プラントの水化学技術」、日本原子力学会誌34、2 (1992).

15) 日本原子力学会「水化学」部会「原子力発電プラントにおける水化学の課題への取組み―水化学部会ゼロ歳の抱負」、日本原子力学会誌50、506 (2008).