部会報第4号 水化学部会活性化に向けた取り組み

水化学部会活性化に向けた取り組み

大平 拓(日本原子力発電)

先日、水化学部会運営委員の方から、「水化学部会活性化に向けた取り組み」に関する寄稿の依頼をうけた。私のような若輩者(水化学に関する業務は10年強程度であり、水化学部会では若手技術者と言われていたので)が、このタイトルで意見を述べるというのも気が引けたが、せっかくの機会なので、一部会員として、私の思うところを述べさせていただこうと思う。

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みなさんも、これまでに何回も考えられてきたことだろうが、原子力発電所における水化学とはなんだろう、その目的はなんだろう、ということから考えてみたい。

私は、原子力発電所における水化学とは、冷却材が構造材と接することによる“腐食”現象の解明が根本にあって、これに基づき、各構造材が設置された環境に応じた腐食事象を評価することにより、環境(場合によってはそれ以外からも)改善による構造材の健全性の維持,腐食生成物の放射化を抑制することによる被ばく低減(線量率低減)、腐食生成物の処理に影響を受ける廃棄物低減 等の対策を提案および実行することと思っている。

構造材の“腐食”は、各発電所により設備の規模や性能(流量・出力・浄化容量・・・)は異なるが、どの発電所においても、必ず冷却材である水が構造物と接していることから、必ず生じる事象である、という特徴がある。

このため、国内で発電所が運転を始めた1970年代~1980年代は、著しい腐食進行に起因した不具合が多数の発電所で発生したが、その対策・対応が概ね完了した1990年代からは、“人に優しい”“経済性”、“合理性”を追求した発電所の運転・環境が求められるようになった。これからは、長サイクル運転や出力向上など、これは発電所の設計時に大きくとった設備・運転の余裕分を、安全性を維持しながら適正に見直すことによる、更に高度な発電所運営が要求されている。

  この経験はどの発電所でも共通しており、その対策も、設備上あるいは運用上、若干異なるものの、いくつかの対策の中から各発電所が選定して適用しており、概ね共通であると言える。

  また、水化学の検討・対策の別の特徴として、腐食現象の解明に緻密な評価が要求されるために、対策の適用まで長期を要してしまうことがある。(これは他分野から見ると、事象に対するアクションが遅いと思われがちであるが・・・)

このように、水化学の目的・対策はもちろん、各発電所における水化学に関する経験は共通であることから、立場が異なる各機関(電力会社,研究機関,メーカー,学会,規制当局)が、連携をとって検討することが、事象解明および対策の早期適用を達する方策となりうる。私は、この連携の中で最も大事なのは、自分も属する発電所に携わる電力会社の行動であると思う。発電所にとって解決して欲しい課題を抽出し、その解決時期と合わせてニーズを発信することが、各機関における検討を促し、また、中立・公開な学会での議論によって、その議論が各機関の検討に活用され、結果的に、発電所への対策の適用を早めることにつながるだろう。

是非、発電所に携わる方(電力会社だけでなく、メーカーの方も)は、“昨日と同じであるという満足”だけでなく(これはこれで大事ですが)、“昨日より今日を、今日より明日を良好にする”ためには何をすべきか、という観点で物事を見て欲しい。また、“常識を疑う”というと言葉が悪いが、“常識を問い直し”ながら物事を見て欲しい。被ばく低減に関して言えば、少なくとも、原子炉廻りの配管線量率が0mSv/hになるまでは。

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この7月に開催された原子力学会/水化学サマーセミナー(宮城県松島)でのパネルディスカッションでは、「水化学部会活動の将来構想」というテーマで、参加者同士で議論を行った。このパネルディスカッションには約100名が参加し、僭越ながら、私はコーディネータ(司会)を努めた。

  この議論の内容については、おそらく別途紹介があると思われるので、この中で私にとって最も印象の強かったことについて述べたいと思う。

  これまでの議論においても言われていたことであり、また、水化学部会に限った話ではないが、原子力発電が開始されてから約40年が経過し、初期から携わってきた方々が異動・リタイアされることによる、過去の運転初期の知見・経験が後世に残らないという、いわゆる“技術伝承”と、また、一方で、次の世代の技術力が伸びない弊害として“世代交代”が、このパネルディスカッションにおいても議論になった。

  どちらの問題についても、シニアの活動に解決があるという考えもあるが、私は、逆に、それを受ける次の世代の活動に有効な解決があるかと思う。正直、私もシニアに問題があると考えていたが、1人のパネラーから「技術伝承がうまくいかないのは、伝承される側の意識の低さにも問題がある。若手は自分たちの問題と自覚して積極的に取り組むべき」という意見を聞いた時に、はっと思った。まずは、自分を変える(シニアの経験を聞きたい意識をもつ、また、聞きたいことをリクエストする)ことが大事であり、これにより、自分に必要な情報を効率的に得られるだろうから成果も大きいだろう。シニアだって、何を話せばいいかわからないし、リクエストをすれば、喜んで話してくれるだろう。

  一方、私個人がシニアにリクエストすることとして、“学会の場で多くの議論をして欲しい”がある。知識・経験が豊富なシニア同士にとっては、たわいない話であっても、若輩者の私にとっては、非常に有益な情報になることが多々ある。この議論によって、私は何を勉強すればいいか、何を取り組むべきか、自分が考えるきっかけを与えていただき、成長させてもらった。シニアには、是非、学会での議論を通じて、知識・経験を発信してもらいたい。

 また、それを受ける世代も、是非、このような議論が行われる場、即ち、学会の会合に参加して欲しい。まずは議論の場に出席していないと何も知識を吸収できないし。

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 学会は、各立場を超えた学会員個人の集まりである。水化学部会においても同様である。水化学部会が活性化するということは、言い換えると、学会員にとって有益な情報の収集・議論を行えることを示し、更には、それを達成するには学会員が活動することである。

  現在、水化学部会では、原子力学会や水化学サマーセミナー,国際会議の共催,また、定期的に、定例研究会や各委員会が開催されており、活動メニューは豊富である。あとは、参加者が知識・経験を吸収する意識を持って参加し、議論に少しずつ参加していけば、水化学部会は更に活性化していくと思う。活性化させるのは、今、この文章を読んでいる“あなた”の気持ち次第。