第12回研究会議事録

(社)日本原子力学会 水化学部会 第12回定例研究会実施報告
平成23年3月11日
(社)日本原子力学会 水化学部会

1.開催日時:平成23年3月7日(月) 13:30~17:00

2.開催場所:(財)電力中央研究所 狛江地区

3.参加者:51名

4.概要
「材料健全性」を基調テーマとし、構造材料のSCC評価に関わる電気事業者の取り組み、及びSCCメカニズム究明に関する研究の最新動向を紹介し、水化学面からの課題や方向性等について議論した。

講演1
講演タイトル:福島第二原子力発電所1号機における酸化チタン注入の実施について
演者:東京電力株式会社  小藪健
講演概要: Halden炉における酸化チタン注入実証試験結果および福島第二原子力発電所1号機における酸化チタン注入の概要について紹介があった。Halden炉試験では、炉外でも酸化チタン注入によるECP低下効果が見られ、低DO濃度域では炉内の酸化チタン注入環境下とECPはほぼ等しくなる結果が示された。実機注入では、ECP低下に必要な量の酸化チタンが付着し、燃料被覆管および水質への影響は見られていないとの報告があった。酸化チタン付着量調査は注入後4サイクルまで、被覆管の外観と酸化被膜厚さ調査については注入後5サイクルまで実施するとの計画を示した。また、ECP測定については、福島第一原子力発電所6号機の炉内にECPセンサーを設置・モニタリングすることにより、維持規格・原子力学会の水素標準に反映する計画を示した。
酸化チタン注入の目的(SCCの発生抑制なのか進展抑制なのか)、およびチェレンコフ光が届きにくい部位への効果に関する議論があった。

講演2
講演タイトル:PWR一次系 溶存水素濃度の最適化に関する取り組み
演者:日本原子力発電株式会社  杉野亘
講演概要:PWR一次系統内のニッケル基合金のPWSCC対策として検討が進んでいる溶存水素(DH)濃度の最適化に関する取り組みについて紹介があった。PWSCC進展速度のDH濃度依存性から、日本は現行より低い値(5cc-STP/kgH2O)で管理する低DH管理、米国では高DH管理(50cc-STP/kgH2O程度)を指向している。PWSCCの発生抑制に対しては、低DH管理の方が有利であるとのラボデータが示された。また、放射線分解への影響、燃料健全性および被ばく低減効果に対しても低DHの効果が見られるとの検討結果を示した。
低DH運転による構造材表面酸化皮膜の性状、290℃でのSCC進展抑制効果等に関する議論があった。

講演3
講演タイトル:JMTRを用いた水化学実験
演者:独立行政法人日本原子力研究開発機構  塙悟史
講演概要:材料試験炉(JMTR)へのインパイルループの設置と計画されている照射下水質評価試験の概要について紹介があった。JAEAではラジオリシスモデルの検証を目的としたECPセンサーの開発と照射下ECP測定を行うとともに、高精度な過酸化水素濃度測定技術を開発し、モデル検証・ベンチマークに使用可能なデータの取得を計画している。H24年度までにECPセンサーの照射下実証試験を終了し、H25年度より照射下水質評価試験を開始する計画を紹介した。
JMTRのPWR試験設備での試験計画、照射試験の概要等に関する議論があった。

講演4
講演タイトル:PWR環境における強加工ステンレス鋼のSCC進展速度
演者:株式会社原子力安全システム研究所  寺地巧
講演概要:270~360℃のPWR環境における強加工304鋼および316鋼のSCC進展速度に関する試験研究の概要について紹介があった。冷間加工度(降伏応力)の増加に従い亀裂進展速度は大きくなり、亀裂進展速度は加工方位にも依存する結果を示した。一方、温度の影響については、270~320℃程度まではアレニウス型の温度依存性を示すものの、320℃を超えると亀裂進展速度は低下する結果を紹介した。また、冷間加工度、応力、温度等をパラメーターとする亀裂進展速度評価式を提案した。
冷間加工度の影響、表面酸化皮膜の溶解の影響、疲労予亀裂先端部からのSCC亀裂分岐の影響、およびSCC亀裂進展速度評価式に関する議論があった。

講演5
講演タイトル:423および453Kの高温純水中における鋭敏化ステンレス鋼のSCC感受性に及ぼす過酸化水素の影響
演者:財団法人電力中央研究所  加古謙司
講演概要:高温純水中における鋭敏化ステンレス鋼のSCC感受性に及ぼす過酸化水素の影響に関する試験研究の概要について紹介があった。この研究は、BWRの起動時水素注入の条件の最適化を目的とし、起動時に発生する過酸化水素濃度と酸素濃度の指標となる実効酸素濃度条件および温度条件をパラメーターとして、過酸化水素共存環境下においてSSRT試験によりステンレス鋼のSCC感受性を評価したものである。423Kでは、実効酸素濃度400ppb条件でSUS304鋭敏化材にSCC感受性が認められず、453Kでは、実効酸素濃度20ppb条件でSCC感受性が認められなかったことから、423Kまでは、水素注入を実施しなくてもSCC発生域に入らず、453Kでは、実効酸素濃度を20ppbまで低減することでSCC発生域に入らないとの結果を示した。
ECP測定、起動時を考慮した温度域での影響評価、および実効酸素濃度に関する議論があった。

5.連絡事項
・次回は、2011年6月28日(火)、電源開発本店にて開催予定。