_日本原子力学会 水化学部会に設置したロードマップフォローアップWG(主査:渡邉豊東北大学教授)において2017年4月から水化学ロードマップ2009のフォローアップを開始した。水化学ロードマップ2009では、発電用軽水炉プラントの安全性維持・向上を主眼としつつも、高経年化対応、燃料高度化、軽水炉高度利用推進の支援に重きを置いた構成となっていた。そこで今回の改訂では、1F事故の教訓を踏まえて、水化学技術の意義を深層防護の視点から改めて見直し、より広い視点で水化学の役割を再定義するとともに、核分裂生成物挙動を含めた事故時対応の水化学を新たに加えることとした。
4.1 水化学ロードマップと深層防護との関連付け
_1F事故を契機に、我が国の原子力発電プラントにおいては、新規制基準への適合性が確認された以降も、自主的・継続的な安全性向上に向けた取り組みを継続することが求められるようになった。すなわち、原子力安全に対する考え方が「シビアアクシデントを発生させない」との従来の視点から、「常に事故のリスクはある」との視点へとシフトし、安全規制とは独立した、万一の事態に備えた原子力災害対策を整備することが必要となった。この不確実性を持った万一の事態に備えるための有効なアプローチとして深層防護の考えがあり、水化学ロードマップにおいてもこの深層防護の考えを取り入れ、自主的安全性向上に向けたロードマップとして改訂を行うこととした。
_この深層防護は「1.はじめに」に記載した通り、IAEAの考えに基づけば5つのレベルに分類されるが、水化学ロードマップ2009では、運転中プラントを対象としたレベル1(異常運転や故障の防止)、レベル2(異常運転の制御及び故障の検知)に該当するものが中心であった。しかしながら、1F事故後の対応を顧みると、汚染水の処理や放射性ヨウ素等の核分裂生成物の放出抑制等、レベル4(事故の進展防止及び影響緩和を含む過酷なプラント状態の制御)に相当する対応に関しても水化学が果たすべき役割が大きいことを改めて認識した。そこで、表4-1-1~表4-1-2に示すように、深層防護の各レベルに対する水化学の役割を新たに定義し、各研究課題がどのレベルに貢献するかを整理した上で新たな課題の抽出を行うとともに、従来なかったレベル4に相当する事故時対応の水化学を新たに追加することとした。なお、レベル5(防災)は放射性物質が大規模に放出された場合の影響緩和を目的とした原子力発電プラントの敷地外も含めた緊急時の対応方法を求めるものであり、今回の改訂において水化学で解決すべき課題は見出せなかった。
4.2 改訂の基本方針
_フォローアップは水化学ロードマップ2009で抽出・整理した課題を基本としつつ、4.1で述べた通り、自主的安全性向上を目指した深層防護との関連付けにより、FP挙動の解明、事故時の対応、廃止措置における水化学を新たに追加することとした。
_また、個別ロードマップについては2009年以降の状況変化への対応を基本に、下記の観点から改訂した。
・現状分析の見直し
・実施時期、期間
・関連分野との連携
_また、水化学ロードマップ2009作成後、経済産業省資源エネルギー庁と日本原子力学会が策定した「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」との整合・連携を図りながら策定した。
4.3 フォローアップの実施体制
_フォローアップは、渡邉豊部会長を主査として、大学、電力、メーカ、研究機関からの水化学、材料、燃料及び安全に係わる各分野の専門家で構成された「水化学ロードマップフォローアップ検討WG」を日本原子力学会水化学部会内に設置し、検討を進めた。構成委員について表4-2に示す。また、構造材料、燃料健全性及び被ばく線源低減、事故時対応等に係わる個別検討に当たっては、原子力学会 春の年会、秋の大会の企画セッション、水化学部会で実施している定例研究会を通して、幅広い分野の有識者からの意見を取り入れながら改訂を進めた。