水化学部会長 河村 浩孝
(一般社団法人 電力中央研究所)
2023年4月より日本原子力学会水化学部会の部会長を拝命致しました。弊職は、電力中央研究所入所時より、軽水炉構造材料の腐食および水化学に関わる研究に取り組んでまいりました。必然的に、水化学部会の前身である水化学研究専門委員会に参加させて頂くこととなり、水化学部会発足後は、運営小委員として微力ながら部会活動をお手伝いさせていただいております。
歴代の部会長、副部会長他のご指導のもと部会員の積極的なご協力と行動力により、水化学部会は、軽水炉プラントの稼働が進まない状況にあっても、活動を停滞させることはありませんでした。そして、2000年に発刊した「原子炉水化学ハンドブック(コロナ社)」の改訂、「水化学ロードマップ2020」への改定、3本の水化学管理指針と4本の水化学分析標準の新規策定と3本の既水化学分析標準の改定に結実しました。このような積極的な活動は、他部会からも一目置かれているようです。弊職もその一員として参画できたことを誇りに思います。
さて、外部動向に目を移しますと、近年、地政学的リスクに代表されるエネルギー安全保障問題やカーボンニュートラルへの意識が向上してきております。経産省は、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議を組織し、「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を検討し、2023年2月に閣議決定しました。この基本方針では、国内企業が世界に誇る脱炭素技術の強みを活かして、世界規模でのカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、新たな市場と需要の創出、我が国の産業競争力強化、将来の経済成長や雇用・所得の拡大を図るための方策が記載されています。そのひとつとして、安全性の最優先を大前提とした原子力の持続的な利用が挙げられております。今後、電力の安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立に向け、新規制基準に基づき原子力規制委員会の安全審査に合格したBWRについても再稼働が進んでいくものと考えられます。さらに、2030 年度の電源構成に占める原子力比率を20~22%とする政府目標への達成に向け、軽水炉の60年超運転や燃料高度化の導入が進むものと考えられます。この実現には、軽水炉の安全性確保と発電効率向上の同時達成が求められており、構造材料や燃料被覆管を中心とした各種材料の腐食抑制と被ばく低減を目的とする水化学の役割は、ますます大きくなるものと考えております。また、水質浄化による被ばく低減とイオン交換樹脂等の放射性廃棄物低減とはトレードオフの関係にあることから、経済的視点も含め、水化学による最適解の模索も検討課題のひとつといえます。
このような情勢を踏まえ、水化学部会では下記知見をベースに、軽水炉の水化学に関わる新規課題を検討していきたいと考えます。
・安全対策を強化した運用に伴う運転経験や水質管理、腐食事象などに関わる技術知見
・長期停止中の水質管理や材料腐食管理などに関わる技術知見
・60年超運転に関わる技術知見
最近では、軽水炉の運転期間の延長に加え、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発についても、前述のGX実行会議や原子力政策の基本原則などで議論されております。
以上の状況を踏まえ、水化学部会では年会や大会での企画セッション、定例研究会、隔年開催の夏期セミナー、国際会議等を通じ、次世代革新炉の事故耐性燃料被覆管や各種材料の腐食対策など寄与可能な技術課題についても材料部会、核燃料部会、原子力安全部会等と議論していきたいと思います。加えて、水化学ロードマップ2020で抽出した下記の基盤技術課題についても効率的な解決に向け、検討を継続していきたいと考えます。
・照射試験炉設備の有効利用などの基盤技術整備
・安全性向上を担う次世代の人材育成
・水化学管理指針、分析標準類の策定に関わる技術支援
部会の活性化を図るべく若手検討チームが発足し、部会活動に対する提案を積極的に検討頂いております。水化学部会が部会員の技術交流の場として、また高談雄弁の場として活用頂けるよう微力ながらサポートさせて頂きたいと思います。
引き続きご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
以上