6.1.3 PWR 蒸気発生器長期信頼性確保

_蒸気発生器(以下SG)長期健全性確保のための水質管理は、SG伝熱管腐食損傷の発生による一次系冷却材の二次系統、環境への放射能放出を防止することを目的としており、プラント安全性維持に必要な深層防護レベル1「異常・故障の発生防止」に該当する。
_また、一次系冷却材の漏洩による放射能の環境放出拡大防止対策は、一、二次系の水質管理技術の範囲外となり、SG伝熱管健全性確保に対する影響が大きい、復水器冷却水漏えい等の水質劣化に対しては、水質監視設備、水質浄化系設備の増強等、設備側の保全対策が確立されているため、レベル2「異常・故障の拡大防止」、レベル3「事故の影響緩和」、レベル4「設計基準を超す事故への施設内対策」に該当しない。
_なお、スケール付着影響緩和技術の開発、実機適用に際しては、SG伝熱性能の維持、回復についても考慮する。

6.1.3.1 蒸気発生器伝熱管の健全性確保
_国内PWRでは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、MA600合金製伝熱管を採用した旧型のSG伝熱管の腐食損傷が顕在化し、種々の水質改善対策が適用されるとともに、より耐食性の高いTT600合金、さらにはTT690合金製伝熱管を採用した新型SGに取替えられた結果、現状、SG二次側でSGの信頼性にかかわる腐食損傷は顕在化していない。
_SG伝熱管の二次側腐食損傷として主に経験されてきたIGA(Inter Granular Attack 粒界割れ)に対し、TT690合金は従来の600合金から材料耐性の向上が図られているが、不純物の介在によりクレビス環境が大きく酸、あるいはアルカリ側に偏った環境下で、酸化銅等の酸化剤の共存により腐食電位が上昇した場合は、600合金と同様にIGA発生感受性を有しており、クレビス環境の確認、環境緩和対策の開発を継続していくことは重要である。
_SG伝熱管の健全性を確保していくためには、設計・建設段階における材料・形状等の選択、製作・施工方法の管理、運転開始後における適切な検査・補修を行うことはもちろんのこと、SGに持ち込まれる不純物管理を適切に行うとともに、クレビス環境が良好に維持されていることを確認し、クレビス環境変動時には、効果的なクレビス環境緩和対策を施すことにより、SG伝熱管損傷の発生、進展を防止することが重要である。
_これらSG伝熱管の健全性確保に関する、現状、研究方針と課題、及び、産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SGは管外蒸発型の熱交換器であり、SG伝熱管と管支持板間に物理的に形成されるクレビス、あるいは給水から持ち込まれた鉄が管板上に堆積、固着した下部に形成されるクレビスにおいて乾湿交番(Dry & Wet)環境が生じ、SG器内水に含まれる微量の不純物が高濃度に濃縮する。不純物バランスの偏りにより、クレビス内環境が強アルカリ性、あるいは強酸性となり、かつ酸化剤の共存による腐食電位の上昇がIGAの発生原因となることを確認し、SGへの不純物持込み防止、系統内の還元性環境強化等水質改善対策を適用してきた [6.1.3.1][6.1.3.2] [6.1.3.4] [6.1.3.6] [6.1.3.7]
_最近のPWR二次系水質管理実績によると、SG伝熱管の損傷を経験した時期に比べて不純物濃度は大幅に低減され、さらに、改良伝熱管であるTT690合金の適用による材料耐性の向上により、SG伝熱管損傷の発生リスクは大きく低減しているものと判断している。
_一方、海外では鉛等の微量金属が関与すると想定されるSG伝熱管損傷が600合金で認められており[6.1.3.5]、国内プラント水質実績から、鉛等微量金属成分が確認されている。しかしながら、これら微量金属のクレビスへの濃縮挙動、SG伝熱管腐食への影響、供給系統の特定ができておらず、管理手法、方針の設定ができていない。

(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SG二次側クレビス環境の評価に対し、高温電極、模擬濃縮部等を用いたモデルボイラー試験による適用性検討が行われてきた[6.1.3.8]が、これら直接監視評価技術は、設備が大がかりとなる、連続計測が困難である等の課題があり、実用化に至っていない。
_このため、現状はプラント運転中のクレビス環境評価として、SGバルク水質からの計算による評価を適用している[6.1.3.9]

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_SG伝熱管損傷防止を目的として取り組んできた清浄度管理(使用副資材管理、機器洗浄等)の徹底により、プラント起動時、定常運転時の不純物のうち、ナトリウム、塩化物イオンの濃度は大幅に低減された。
_一方で、復水脱塩設備カチオン交換樹脂の劣化生成物であるPSS(ポリスチレンスルホン酸)に起因すると想定される硫酸イオンの影響が相対的に大きくなり、夏期の復水温度上昇時等にSGクレビス環境が酸性側に偏るケースが増え、酸性側環境での伝熱管損傷緩和対策の必要性が高まっている[6.1.3.1][6.1.3.6]
_硫酸イオン持込抑制対策として、復水脱塩設備カチオン樹脂劣化防止、溶出低減対策技術の導入が進められており、一定の導入効果が得られている。しかしながら、一部プラントで運転中に硫酸イオンのスパイク的な増加が認められる例があり、一方では、高pH処理の適用に伴う復水脱塩設備の部分通水、バイパス運用等浄化効率が低下するケースもある。また、酸性クレビス環境緩和対策として、緩衝剤の基礎検討を開始しているが、化学物性に基づく机上検討の段階である。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_海外では、管板上のハードスラッジ堆積部においてデンティグや孔食、SCCが顕在化している。化学洗浄も適用されているが、クレビス固着スケールの除去効果は十分ではなく、廃液処理にかかる費用及び労力も大きい。国内ではスラッジランシングによる管板上固着スケールの除去を行うとともに、給水鉄濃度の低減による管板上スラッジ堆積抑制に取り組んでおり、比較的良好なSG環境が達成されている。また、一部プラントではASCA(Advanced Scale Conditioning Agent)洗浄による固着スケール脆弱化に対する試行が行われている[6.1.3.10]が、その効果は今後確認の必要があり、長期健全性維持の観点からは更なる技術革新が必要と考えられる。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、海外でスケール分散剤[6.1.3.1]、フィルムフォーミング・アミン(FFA)等の試験運用が開始されつつある[6.1.3.11]が、これら技術の国内プラント適用の必要性、適合性に関する見極めを早期に行うことが重要である。なお、FFAについては、フィルムフォーミング・プロダクト(FFP)と表現することがあるが、ここではFFAと称する。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_SGクレビス環境は試験による再現が困難であり、長期健全性への水化学の影響を把握することは容易ではない。また、耐SCC改良材であるTT690合金に対しても、SCC進展の感受性があることが報告されている。これらの状況から、長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するために、廃炉活用研究として実機材の抜管調査等による適合性検証が重要と考えられる。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_主にPWRプラントの二次系水処理に使用している脱酸素剤としてのヒドラジンは、取扱い上の危険性が指摘されており、1997年に制定されたPRTR法(※1)により管理対象物質として使用状況の公開が義務付けられているほか、SAICM(※2)により将来的に、ヒドラジンを使用できなくなる可能性が高く、ヒドラジンを使用しない水処理の開発を行っていく必要がある。

※1:PRTR:環境汚染物質排出移動登録の略で、有害物質移動量の届出制度
※2:SAICM:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点
_SGの長期信頼性を確保し、プラントの公益性を高めるためには、上述した現状課題に対し、以下に示すような水化学技術の高度化、新技術の開発に継続的に取り組んでいくことが重要である。

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SG伝熱管材料の腐食メカニズムについては、酸性、アルカリ性環境下で酸化剤の共存により発生することが確認され、SGへの不純物、酸化剤持込み防止による管理手法を確立、提案、実機適用することにより、SG二次側伝熱管損傷は大幅に低減した。
_しかしながら、鉛等一部の微量金属成分が関与する腐食メカニズム、クレビスへの濃縮挙動、及び持ち込み源、形態は明確になっておらず、これらを明確化することにより、SGクレビス環境緩和のための管理指針を確立するとともに、プラント設計、建設、補修、点検で鉛を含む材料、資材を使用制限するための方策を検討する。

(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_現状SGのクレビス環境評価は、SG器内水不純物濃度から濃縮部の環境を推定するクレビス濃縮評価コードを構築し、本計算コードを介して評価を行っている。
_一方、クレビス環境を直接、逐次監視する技術の開発は、クレビスへの不純物の濃縮、腐食メカニズムの解明、並びに環境緩和技術の開発においても重要であり、この観点からin-situ分析技術等最新の分析評価技術の開発による検証に最重要課題として取り組んでいく。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_クレビス酸性化環境緩和を目的とし、硫酸イオン発生源の一因と想定しているPSSの持ち込み低減のため、復水脱塩設備カチオン樹脂への耐酸化劣化樹脂の適用、復水脱塩設備通水率の低減等の対策が進められているが、依然としてクレビス環境が酸性化する傾向は認められている。
_SGの硫酸イオン低減のためには、復水脱塩設備カチオン樹脂の更なる劣化防止、溶出抑制等新たな技術の開発に加えて、復水脱塩設備の運用方法(コンデミ部分通水、バイパス、SGブローダウン選択浄化等)を含む二次系浄化システム全体の最適化検討を行う。
_また、酸性クレビス環境に対して有効な中和効果を有する緩衝剤として、Ca、Mg等アルカリ土類金属添加が検討されたが、これら化学成分の塩類は当該環境での溶解度が小さく、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させ、濃縮倍率を増加させる懸念がある。このため、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させない、非析出型の緩衝剤を開発し、中和効果の確認、二次系系統構成材料への影響確認を行い、実機適用を推進する。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_SG器内クレビスの濃縮低減による腐食環境緩和を目的とし、SG二次側構成材料健全性確保、廃液環境負荷低減を考慮し、スケール除去効果の高い洗浄技術の開発を行う。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、スケール分散剤、FFAの国内プラントへの適用を検討する場合には、適用検討に先立って、使用する薬剤の二次系系統構成材料、復水脱塩設備樹脂への影響評価、パッキン、ガスケット等有機系材料への適合性評価を実施しておくことが重要である。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_実機で長期間運転に供された廃炉材を用い、SG健全性への水化学管理技術の改善効果、影響について把握・検証を行う。これにより、水化学管理技術の妥当性を確認するとともに、更なる高度化の方向性に対する指標を得る。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_ヒドラジン代替剤、ヒドラジン量低減策の実機適用に際し、従来のヒドラジンが担う、脱酸素性、SGでの酸化物(酸化剤)還元効果、系統のpH維持の確認を行った上で実機試験を行い、実機での成立性を実証していくことになるが、それに合わせ、対象薬剤の安定性、並びに分解生成物の種類と、構成材料に及ぼす影響(例えばpH低下)についても検証を行う必要がある。

(C) 産官学の役割分担の考え方

(1) 産業界の役割
_① SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_② SGクレビス環境評価手法の開発
_③ SGクレビス酸性環境緩衝技術の開発
_④ SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_⑤ スケール付着抑制技術の適用影響評価
_⑥ 水質管理技術の適合性実力検証
_⑦ 代替ヒドラジンの導入
_⑧ プラント実態を把握するための実機運転データ、水質データの蓄積

(2) 国・官界の役割
_① データや評価技術の検証
_② 国内外状況を確認した上、現実的な対応方針の策定

(3) 学術界
_① 基礎データ、新知見の蓄積と新知見レビュー
_② 新実験技術、新計測技術開発のための基盤研究
_③ 基盤研究に係わる人材育成
_④ 人材の供給

(4) 学協会の役割
_① 民間標準類策定
_② 人的交流と育成

(5) 産官学の連携
_① SG伝熱管健全性確保に対応できる人材の育成

6.1.3.2 スケール付着影響緩和技術の開発
_プラント長期信頼性確保のためには、構成材の健全性を維持するとともに、SGをはじめとする機器内表面へのスケール付着、蓄積に基づく性能劣化現象を極力小さくしていくことが必要である。
_二次系系統で材料のFAC(Flow Assisted / Accelerated Corrosion)によって発生した鉄がSGへ持ち込まれ、SG器内構造物に付着し、伝熱抵抗、流動抵抗となりプラント性能、運用に影響を及ぼす機器の性能劣化現象が顕在化している。
_また、クレビス部にスケールが蓄積することにより、当該部の濃縮倍率が増加し、当該部での損傷発生リスクが増大する。
_これら機器性能劣化を防止し、プラント安定運転を確保していくためには、スケール付着、蓄積を抑制することが重要であり、対応策として系統からの腐食生成物の発生を抑制する技術、機器表面に付着させない技術、機器表面に付着したスケールを除去し機器性能を回復させる技術がある。
_これら技術の適用に対し、水化学改善あるいは化学的技術を基にした新水処理薬剤の適用等による効果的、効率的な対応が必要であり、現状技術の高度化、新技術の開発を推進していくことが重要である。
_SGスケール付着影響緩和技術に関する、現状、研究方針と課題、及び産官学の役割分担について以下に述べる。

(A) 現状分析

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着による機器の性能低下抑制対策として、スケール付着に伴う機器性能に対する鉄濃度の関係を整理し、水質改善等による鉄低減対策が適用されつつある[6.1.3.1][6.1.3.6]。しかしながら、スケール付着メカニズム、及び機器の性能低下抑制対策による機器毎の性能変化の精度高い予測は出来ておらず、PWR二次系機器全体のスラッジマネジメントを効率的に進める上での課題となっている。

(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_SGへの鉄の持ち込み抑制、二次系系統材料のFAC抑制対策として、気液二相流域のpH上昇を目的として、高pH処理、代替アミン処理の適用等給水処理条件の改善に取り組んでいる[6.1.3.12]
_二次系系統の銅系材料を排除し、高pH処理(給水pH9.8~10)を適用したプラントでは、十分な鉄低減効果が得られ、スケール付着抑制傾向が認められつつある。
_一方、銅系材料が残留しているプラントでは、プラント毎に系統構成、材料に配慮し、適切な処理を適用していくことが必要であるが、従来AVTpH9.2~9.8の中間pHではスケール付着試験データ、実機実績が乏しく、スケール付着抑制効果が得られるpHの見極めはできていない。
_また、主に火力プラントで試運用が進められている、低温系統の機器、配管内表面に有機性の皮膜を形成し、当該部からの鉄の溶出を抑制するFFAについては、二次系系統構成材料、復水脱塩設備樹脂への影響評価、パッキン、ガスケット等有機系材料への適合性評価を実施するとともに、高pH処理との併用の必要性について検討を行ったうえで国内プラントへの適用を判断していくことが重要である。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_付着スケールを積極的に全量除去することを目的とした手法として、海外で適用されている化学洗浄があげられるが、化学洗浄は高温でかつ比較的高濃度の洗浄液を用いることから、SGの系統構成材に及ぼす影響を確認しておくことが重要であり、また、化学洗浄の実施により多量の高濃度洗浄液を含んだ廃液が発生する。
_一方、付着したスケールの一部を除去、改質する技術として、従来の化学洗浄よりも希薄洗浄液条件かつ低温条件で実施するASCAの国内プラントへの適用が開始されている。本手法はSG器内スケール全量ではなく一部を溶解し、スケール空隙率、脆弱性を増加させることによって伝熱性能の回復、BEC管支持板付着スケールの除去を主目的としたものであり、実機適用実績から期待された効果が得られつつある。しかしながら、SG器内のスケールの一部を洗浄対象としているため、洗浄1回あたりの除去量は少なく、AVT条件下での洗浄頻度は高くなる。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_SGにスケールを付着しにくくする技術として、米国において、ポリアクリル酸を用いたスケール分散剤の適用がEPRI主導のもとで検討、実機試運用が開始され、一部スケール付着抑制に対する良好なデータが得られつつある。
_国内プラントへの適用にあたっては、スケール性状、プラント構成、運用の違いによる適用効果の違い、プラント構成材への影響を把握し、適用性を早期に判断する必要がある。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_代替ヒドラジンの実機適用に当たり、使用薬剤の気液分配に基づく気液2相流系統中ミストのpH低下、有機系薬剤の場合はSG器内等高温系統で分解、生成する有機酸による主に蒸気中ミストのpH低下挙動と、pH低下がFAC速度に及ぼす影響を確認しておくことが重要である。
_また、使用する薬剤、並びに分解生成物がスケールの稠密化に及ぼす影響の有無を把握しておくことが必要である。

(B) 研究方針と実施にあたっての問題点

_SGの長期信頼性を確保し、プラントの公益性を高めるためには、上述した現状課題に対し、以下に示すような水化学技術の高度化、新技術の開発に継続的に取り組んでいくことが重要である。

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_高温水中機器(熱交換器、給水ポンプ、制御弁、流量計等)へのスケール付着抑制対策を検討するため、各機器環境条件下でのスケール付着メカニズムを解明する。また、スケール付着抑制対策を検討するための付着現象再現試験及び機器性能変化予測方法の構築を行う。

(2) SGへの鉄持ち込み抑制技術の開発
_プラント毎に系統構成、材料を考慮したスケール付着抑制効果を得るための給水pH条件、並びにpH上昇手法(代替アミン等)を検討し、実機適用に際しては、系統構成材料への影響、プラント運用について検討を行う。
_また、高pH処理、代替アミン処理等SGへの鉄持ち込み技術を適用したプラントの、鉄低減実績、スケール付着抑制効果を評価し、新たな代替アミンの適用等更なる対応策の必要性、手法について検討を行う。
_一方、FFAの国内プラントへの適用に関しては、高pH処理、代替アミン処理との併用の必要性を見極めるとともに、二次系系統使用材料との適合性評価を行っていく。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_ASCA洗浄は、AVT条件下でBEC閉塞、伝熱性能低下効果を維持するためには1~2回定検毎の高頻度適用が必要であり、廃液タンク設置に大きなスペースを必要とし、廃液処理に長期間を要している。このため、廃液処理の合理化(廃液の排出時その場処理、廃液処理手法の改善等)技術の開発、適用を行う。
_また、ASCA洗浄はSGクレビス部等の強固なスケールを除去できる洗浄手法ではないことから、SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、スケール除去、改質効果が高く、強固なスケールも洗浄可能な除去技術の開発を行う。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_EPRI主導のもと検討されているスケール分散剤の国内プラントへの適用性評価を行う。
_国内プラントへの適用性判断にあたり、スケール性状、プラント構成の違いによる適用効果、プラント構成材への影響、プラント運用への影響を見極め、適用効果が限定される、あるいは構成材料に影響がある場合、新分散剤の開発、実機適用性検討を行う。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_代替ヒドラジンの国内プラントへの適用にあたり、使用する薬剤のプラント運転中の還元効果、プラント停止中の保管時腐食抑制効果、並びに環境負荷への影響を確実に把握するとともに、使用する薬剤、並びに分解生成物のプラント構成材への影響、プラント運用への影響、スケール稠密化に対する影響について十分なプラント適用性検討を行う。

(C) 産官学の役割分担の考え方

(1) 産業界の役割
_① スケール付着メカニズムの解明と付着抑制技術の開発
_② SGへの鉄持ち込み抑制技術の開発
_③ スケール除去・改質技術の開発
_④ スケール付着抑制技術の開発
_⑤ 代替ヒドラジン適用への対応
_⑥ プラント実態を把握するための実機運転データ、水質データの蓄積

(2) 国・官界の役割
_① データや評価技術の検証
_② 国内外状況を確認した上、現実的な対応方針の策定

(3) 学術界
_① 基礎データ、新知見の蓄積と新知見レビュー
_② 新実験技術、新計測技術開発のための基盤研究
_③ 基盤研究に係わる人材育成
_④ 人材の供給

(4) 学協会の役割
_① 民間標準類策定
_② 人的交流と育成

(5) 産官学の連携
_① スケール付着影響緩和技術の開発に対応できる人材の育成

図6.1.3-1に導入シナリオ、表6.1.3-1に技術マップ、図6.1.3-2図6.1.3-3にロードマップを示す。

参考文献

[6.1.3.1] 日本原子力学会編, “原子炉水化学ハンドブック”, コロナ社 (2000).
[6.1.3.2] I. Ohsaki et.al, Proc. of Internal SG & Heat Exchanger Conf., Tront, Canada, 2, p.893 (1994).
[6.1.3.3] PWR Secondary Water Chemistry Guide Lines Revision 6, EPRI 108224 (2004).
[6.1.3.4] A. Kishida, H. Takamatsu, H. Kitamura et al., “The Causes and Remedial Measures of Steam Generator Tube Intergranular Attack in Japanese PWR”, Proc. 3rd Int. Symp. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, p.465 (1987).
[6.1.3.5] K. Fruzzetti, “Pressurized Water Reactor Lead Sourcebook”, EPRI 1013385 (2006).
[6.1.3.6] A. Maeda et al., Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France (2012).
[6.1.3.7] 八島清爾, 原子力工業, 41[4], 62-69 (1995).
[6.1.3.8] T. Tsuruta, S. Okamoto, E. Kadokami, and H. Takamatsu, “IGA/SCC Crack Propagation Rate Measurement on Alloy 600 SG Tubing Using a Side Stream Model Boiler”, The 3rd JSME/ASME Joint International Conference on Nuclear Engineering, Kyoto, Japan, p.291 (1995).
[6.1.3.9] Y. Shoda, E. Kadokami, and T. Hattori, “Examination of New Bulk Water Molar Ratio Index for Crevice Environment Estimation”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems 7, Bournemouth, UK, p.608 (1996).
[6.1.3.10] M. Little, R. Varrin, A. Pellman, and M. Kreider, “Advanced Scale Conditioning Agent (ASCA) Applications: 2012 Experience Update”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France, Paper No.O60-140 (2012).
[6.1.3.11] U. Ramminger, S. Hoffmann-Wankerl, and J. Fandrich, “The application of film-foming amines in secondary side chemistry treatment of NPPs”, Proc. of International Conference on Water Chemistry of Nuclear Systems, NPC2012, Paris, France, 26.Sep. (2012).
[6.1.3.12] O. Jonas, “Control Erosion/Corrosion of Steels in Wet Steam”, Power, p102 (1985).

 

課題調査票

課題名

SG伝熱管の健全性確保

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ.保全・運転負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上のため、保全・運転管理の確立、高度化を図る必要がある。中Ⅱ.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給、かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。

概要(内容)

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_SG伝熱管材料の腐食メカニズムについては、酸性、アルカリ性環境下で酸化剤の共存により発生することが確認され、SGへの不純物、酸化剤持込み防止による管理手法を確立、提案、実機適用することにより、SG二次側伝熱管損傷は大幅に低減した。しかしながら、鉛等一部の微量金属成分が関与する腐食メカニズム、クレビスへの濃縮挙動は明確になっておらず、これらを明確化することにより、管理要否、手法を検討する。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SGクレビス環境が伝熱管の腐食環境にないことをモデルボイラー試験、計算評価の構築により、間接的に環境評価を行っているが、より直接的な監視を行う上でのin-situe監視技術等の開発・検証を行う。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_最近の実機二次系水質実績において、SGクレビス環境の酸性化傾向が認められ、当該環境を中和でき、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させない、揮発性等の中和剤の開発、効果確認、実機適用を行う。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_プラントの運転長期化に伴いSGへ持ち込まれた鉄がSG二次側クレビス等へ付着し濃縮環境を増加させる。SG二次側に付着した固着スケールを構成材料の健全性を確保した上で除去できる技術を検討する。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール付着抑制技術として、スケール分散剤、フィルムフォーミング・アミン(FFA)等の国内プラント適用の必要性、適合性に関する見極めを早期に行う。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するために、廃炉活用研究として実機材の抜管調査等による実力適合性検証手法の検討、確立を行う。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_SG伝熱管健全性確保のため、系統内還元性維持のため使用されているヒドラジンは、将来的に、有害物質として使用が制限される可能性が大きく、ヒドラジンを使用しない水処理の検討を行う。

導入シナリオとの関連

_水化学によるSG伝熱管腐食メカニズムの明確化と、環境評価技術高度化、環境緩和技術の開発・実機適用によるSG伝熱管長期健全性の向上

課題とする根拠
(問題点の所在)

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_海外で鉛等微量金属が関与すると想定されるSG伝熱管損傷が認められている。国内プラント水質実績から、鉛等微量金属成分が確認されているが、これら微量金属のクレビスへの濃縮挙動、SG伝熱管腐食への影響、供給系統の特定ができておらず、管理手法の設定ができていない。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_SGクレビス環境評価コードは、計算を介した環境評価であり、一方、模擬濃縮部を設けたモデルボイラー、高温電極による直接監視評価技術は、設備が大がかりとなり、連続計測が困難である等課題があり、実用化に至っていない。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_クレビス環境酸性化の要因の一つにコンデミ樹脂の劣化生成物であるPSS(ポリスチレンスルホン酸)の持込があげられ、酸性環境中和手法の一つとして、Ca、Mg等アルカリ土類金属添加が検討されたが、これら化学成分の塩類は当該環境での溶解度が小さく、クレビスに析出・付着してクレビス容積を減少させ、濃縮倍率を増加させる懸念がある。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_SG器内クレビスの濃縮低減による腐食環境緩和のためには、SG二次側構成材料健全性確保、廃液環境負荷低減を考慮した、スケール除去効果の高い技術の開発が必要である。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_スケール分散剤、FFAの国内プラントへの適用を検討する場合には、適用検討に先立って、使用する薬剤の二次系系統構成材料への適合性評価、復水脱塩設備樹脂への影響評価を実施しておくことが重要である。

(6) 水質管理技術の適合性検証
_実機で長期間運転に供された廃炉材を用い、SG健全性への水化学管理技術の改善効果、影響について把握・検証を行い、水化学管理技術の妥当性確認、更なる高度化の方向性に対する指標を得る。

(7) 代替ヒドラジンの導入
_ヒドラジン代替剤、ヒドラジン量低減策の実機適用に当たり、脱酸素性、SGでの酸化物(酸化剤)還元効果、系統のpH維持の確認を行うとともに、対象薬剤の安定性、分解生成性生物の種類と、構成材料に及ぼす影響(例えばpH低下)について検証を行う必要がある。

現状分析

(1) SG伝熱管腐食メカニズムの解明
_鉛等微量金属のSG器内での濃縮挙動、腐食寄与が不明であり、SG伝熱管腐食に及ぼす影響が明確化できておらず、管理方針が決定できていない。(2) SGクレビス環境評価手法の開発・高度化
_プラント運転中のクレビス環境が適切に管理できているか直接的に監視できる技術の実機適用には至っていない。本技術開発により、腐食メカニズム解明、環境緩和技術の開発に対し、検証ツールとなることが期待できる。

(3) SG二次側クレビス酸性環境緩和技術の開発
_硫酸イオン持込抑制対策として、更なる復水脱塩設備カチオン樹脂劣化防止、溶出低減対策技術の導入が進められている。一方、酸性クレビス環境中和対策として、非析出型中和剤の基礎検討を開始しているが、化学物性に基づく机上検討の段階である。

(4) SGクレビス濃縮環境緩和技術の開発
_海外適用実績のある化学洗浄は、クレビス固着スケールの除去効果が十分ではなく、廃液処理負荷が非常に大きい。一方、国内実績のある希釈化学薬品を用いるASCAは、固着スケールの除去には適していない。

(5) スケール付着抑制技術の適用影響評価
_SGへの鉄持ち込み抑制技術の適用効果に基づき、スケール分散剤、フィルムフォーミング・アミン(FFA)適用の必要性の見極め、適用に際しては適合性の見極めを行うことが必要である。

(6) 水質管理技術の適合性実力検証
_長期の水化学管理技術適用の妥当性を確認するための、廃炉活用研究による実力適合性検証手法を確立する必要がある。

(7) 代替ヒドラジン技術の導入
_系統内還元性維持のため、各種代替ヒドラジン剤の適用性検討が行われてきたが、現状適合剤の選定に至っていない。

期待される効果
(成果の反映先)

・SG伝熱管健全性向上によるプラント信頼性向上

・スケール除去方法の適正化による環境負荷軽減

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 課題の緊急性(当面SG伝熱管健全性は良好)
    • 課題の原子力安全との相関性の明確化(SG伝熱管の長期健全性確保)
    • 研究開発費の確保(SA対策、再稼動対応ではないため費用の早期確保が難しい可能性あり)

必要な人材基盤

(1) 人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術
    • 化学物性評価技術
    • 腐食環境評価技術
    • 高温、高圧条件下実験技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 電力事業者は、プラント運転を通じ評価データの蓄積、検討課題の抽出、確認を実施してきた。
    • プラントメーカは、国プロ、電共研、委託研究で研究開発を実施し、必要な人材の育成を行ってきた。
    • 大学等では、共同研究、インターシップ等により、技術交流、人材育成を行ってきた。
    • 水化学技術は大学での専門コース、講座等が無いため、(1)項の各技術分野に対しOJTを通じて人材育成してきた。
    • 海外の新技術導入について、積極的な情報の入手を行うことを念頭においた人材育成が必要である。

(3) 課題

    • 1F事故後のプラント長期停止により、電力事業者、プラントメーカとも実務経験を積む場が減少している。
    • 原子力プラント水化学関連改善技術については、SA対策、プラント再稼動に係わる項目ではないため、開発研究の実施が先送りとなり、OJTを通じた人材育成が行えていない。
    • 上記に伴い、若手技術者の原子力離れを招き、ベテラン技術者からの技術伝承が円滑に行えない状況になりつつある。

他課題との相関

    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d39:検査・補修技術の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界・学術界/産業界
_SG伝熱管腐食メカニズムの解明、SGクレビス環境評価技術の開発・高度化、クレビス環境、濃縮緩和対策に関する技術開発を実施
<考え方>

    • 電力事業者はプラント実態を確認し、研究開発課題の選定、実機適用、実機適用効果の確認・評価を行う。
    • プラントメーカは研究開発課題に応じた技術開発を推進し、プラント毎に具体的な設計を行い、電力事業者が実施する実機適用、適用効果の評価に関する支援を行う。
    • 電力事業者、プラントメーカは技術開発が必要な技術課題、検討に必要な技術分野について大学側へ発信を行う。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術の開発、検証を実施する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術に関する研究を推進するとともに、研究開発に必要な人材を育成する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電気事業者は、新規制基準及び軽水炉安全技術・人材ロードマップに則り、事業主体として安全性向上に努める。
    • 電力事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • プラントメーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて、規制基準、及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
    • 原子力規制委員会が規制の観点から主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_SG伝熱管の健全性評価に関する規格基準の策定
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、プラントメーカ)が主体となって、SG伝熱管健全性確保に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、SG伝熱管健全性確保、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、SG伝熱管健全性確保、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価、及び認可を行う。

その他

 

課題調査票

課題名

スケール付着影響緩和技術の開発

マイルストーン
及び
目指す姿との関連

短Ⅴ.保全・運転負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上のため、保全・運転管理の確立、高度化を図る必要がある。中Ⅱ.既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒電力安定供給、かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。

概要(内容)

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_高温水中機器(熱交換器、給水ポンプ、制御弁、流量計等)へのスケール付着抑制対策を検討するため、各機器環境条件下でのスケール付着メカニズムを解明する。また、スケール付着抑制対策を検討するための付着現象再現試験及び機器性能変化予測方法の構築を行う。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_スケール付着事象毎に抑制に必要なpH条件、プラント構成毎のpH上昇手法(pH調整剤の変更等)、海外火力等で試運用が開始されている、FFA(フィルム・フォーミング・アミン)の適用性について検討する。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、よりスケール除去、改質効果の高い洗浄技術の開発を行う。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_EPRI主導の元、米国にて検討されているスケール分散剤の国内プラントへの適用性評価、並びに国内プラントに適した新分散剤についても検討を実施する。

(5) 代替ヒドラジン適用への対応
_代替ヒドラジンの実機適用に当たり、使用薬剤、分解生成物による気液2相流系統中ミストのpH低下がFAC速度に及ぼす影響、スケールの稠密化に及ぼす影響の有無を把握しておく。

導入シナリオとの関連

_水化学によるスケール付着メカニズムの明確化と、鉄低減技術高度化、スケール除去・改質技術の開発・実機適用によるプラントの長期安定運用確保、性能低下抑制、保守点検作業の適正化

課題とする根拠
(問題点の所在)

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着による機器の性能変化抑制対策として、水質改善等による鉄低減対策がなされつつあるが、スケール付着メカニズム及び機器の性能変化抑制対策による機器毎の性能変化の精度高い予測は出来ておらず、PWR二次系機器全体のスラッジマネジメントを効率的に進める上での課題となっている。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_プラント毎に系統構成、材料を考慮したスケール付着抑制効果を得るための給水pH条件、並びにpH上昇手法(代替アミン等)を検討し、実機適用に際しては、系統構成材料への影響、プラント運用について検討を行う必要がある。また、海外火力等で試運輸が開始されつつあるFFAについて、高pH処理等pH上昇対策との併用の必要性を検討するとともに、二次系系統設備、材料との適合性を確認しておくことが必要である。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_ASCAの高頻度での適用は、洗浄廃液処理の対応負荷増大にもつながっており、SG二次側構成材料の健全性を確保しつつ、よりスケール除去、改質効果の高い洗浄技術の開発が必要である。また、高pH処理等水処理改善後の生成スケールに対する改質効果の確認ができておらず、早期の実機検証、洗浄改善要否の判断が急務である。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_国内プラントへの適用性判断にあたり、スケール性状、プラント構成の違いによる適用効果、プラント構成材への影響、プラント運用への影響を確実に見極める必要がある。また、既存の分散剤で効果が限定される、あるいは他の構成材料に影響がある場合、新分散剤の開発、実機適用性検討が必要である。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
代替ヒドラジンの適用にあたり、使用する薬剤のプラント運転中の還元効果、プラント停止中の保管時腐食抑制効果、環境への影響、プラント構成材への影響、プラント運用への影響、スケール稠密化に対する影響について十分なプラント適用性検討を行う必要がある。

現状分析

(1) スケール付着メカニズムの解明と付着抑制評価技術・再現試験技術の開発
_スケール付着に伴う機器性能に対する鉄濃度の関係が整理されつつあるが、系統水中鉄形態等も考慮した詳細予測モデルはなく、また、再現試験は高鉄濃度条件下で実施している等必ずしも実機を模擬・再現出来ていない。(2) SGへの鉄持込抑制技術の開発
_pH処理(給水pH9.8~10)適用プラントでは、十分な腐食生成物低減効果が得られ、スケール付着に対しても抑制傾向が認められつつある。一方、プラント毎に、系統構成、材料に配慮し、適切な処理を適用していくことが必要であるが、従来AVTのpH9.2~9.8の中間pHではスケール付着試験データ、実機実績が乏しく、スケール付着抑制効果が得られるpHの見極めはできていない。

(3) スケール除去・改質技術の開発
_SG二次側の付着スケール除去に効果的であるASCAは、BEC閉塞、伝熱性能低下効果を維持するためには、AVT条件下では1~2回定検毎の高頻度適用が必要であり、廃液負荷の低減が必要。また、水処理改善条件化スケール改質効果の確認に基づく、適用頻度の適正化が必要。

(4) スケール付着抑制技術の開発
_国内プラントへの適用に際し、スケール性状、プラント構成、運用の違いによる適用効果の違い、プラント構成材への影響を確実に把握し、国内プラントへの適用性を早期に判断する必要がある。

(5) 代替ヒドラジン技術適用への対応
_系統内還元性維持のため、各種代替ヒドラジン剤の適用性検討が行われてきたが、現状適合剤の選定に至っていない。

期待される効果
(成果の反映先)

    • 高温水系統でのスケール付着現象の再現と影響予測式の構築。
    • SGをはじめとする機器へのスケール付着抑制により、長期安全性の確保、プラント安定運転の維持に貢献

実施にあたっての問題点

課題全体の共通問題として下記がある。

    • 課題の緊急性(SA対策、再稼動対応ではないが、プラント安定運用の観点から早期の対応が必要)
    • 課題の原子力安全との相関性の明確化(プラント安定運転の維持に貢献)
    • 研究開発費の確保(SA対策、再稼動対応ではないが、プラント安定運用の観点から早期の対応が必要)

必要な人材基盤

(1) 人材育成が求められる分野

    • 水化学、状態監視技術
    • 化学物性評価技術
    • 腐食環境評価技術
    • 高温、高圧条件下実験技術

(2) 人材基盤に関する現状分析

    • 電力事業者は、プラント運転を通じ評価データの蓄積、検討課題の抽出、確認を実施してきた。
    • プラントメーカは、国プロ、電共研、委託研究で研究開発を実施し、必要な人材の育成を行ってきた。
    • 大学等では、共同研究、インターシップ等により、技術交流、人材育成を行ってきた。
    • 水化学技術は大学での専門コース、講座等が無いため、(1)項に示した各技術分野の人材をOJTを通じて人材育成してきた。
    • 海外の新技術導入について、積極的な情報の入手を行うことを念頭においた人材育成が必要である。

(3) 課題

    • 1F事故後のプラント長期停止により、電力事業者、プラントメーカとも実務経験を積む場が減少している。
    • 原子力プラント水化学関連改善技術については、SA対策、プラント再稼動に係わる項目ではないため、開発研究の実施が先送りとなり、OJTを通じた人材育成が行えていない。
    • 上記に伴い、若手技術者の原子力離れを招き、ベテラン技術者からの技術伝承が円滑に行えない状況になりつつある。

他課題との相関

    • S111_d32:状態監視・モニタリング技術(予兆監視・診断、遠隔監視・診断等)の高度化
    • S111_d39:検査・補修技術の高度化
    • S111M107_d36:高経年化評価手法・対策技術の高度化
    • M106_c01:計測技術・解析技術の高度化

実施時期・期間

中期(2030年)

実施機関/資金担当
<考え方>

産業界・学術界/産業界
_スケール付着メカニズムの明確化と、鉄低減技術高度化、スケール除去・改質技術の開発・実機適用によるプラントの長期安定運用確保、性能低下抑制対策に関する技術開発を実施。
<考え方>

    • 電力事業者はプラント実態を確認し、研究開発課題の選定、実機適用、実機適用効果の確認・評価を行う。
    • プラントメーカは研究開発課題に応じた技術開発を推進し、プラント毎に具体的な設計を行い、電力事業者が実施する実機適用、適用効果の評価に関する支援を行う。
    • 電力事業者、プラントメーカは技術開発が必要な技術課題、検討に必要な技術分野について大学側へ発信を行う。
    • 研究機関は、技術開発に必要な要素技術の開発、検証を実施する。
    • 大学は、技術開発に必要な要素技術に関する研究を推進するとともに、研究開発に必要な人材を育成する。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。

原子力規制委員会/原子力規制委員会
(必要に応じ、規制の枠組みの整備、技術評価)
<考え方>

    • 電力事業者は、事業主体として保全の信頼性向上に努める。
    • プラントメーカは、必要な技術開発に努める。
    • 原子力規制委員会は、電気事業者のニーズを踏まえて、規制基準、及び導入の枠組みを定め、技術評価を行う。
    • 実施主体が資金担当となることが適当と考える。
    • 原子力規制委員会が規制の観点から主体となる事項について資金担当となることが適切。

産業界・学協会/産業界
_スケール付着抑制、除去技術に関する規格基準の策定
<考え方>

    • 産業界(電気事業者、プラントメーカ)が主体となって、スケール付着抑制、除去技術に必要な水化学技術の高度化を図る。
    • 学協会は、スケール付着抑制、除去技術、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準等について検討を行う。
    • 原子力規制委員会は、スケール付着抑制、除去技術、及び付随して必要となる水化学技術に係わる規格基準を整備し、技術評価、及び認可を行う。

その他