6.1.2 配管減肉環境緩和

_原子力発電所では、運転に伴う、機器・配管の肉厚が減少する事象が進行することが知られており、これは系統水の漏えいや圧力バウンダリーの維持によるプラントの安全性や信頼性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、発生した腐食生成物に起因する熱伝達の阻害、堆積部での腐食環境の形成や被ばく線源の上昇等の原因にもなっている。
_配管減肉管理においては、FAC及びLDIを対象として日本機械学会が作成した「発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格」に定められた配管取替基準に基づいて、肉厚測定結果に応じた配管の取替が行われている[6.1.2-1] [6.1.2-2] [6.1.2-3]。LDIは機械的作用が支配的な減肉現象であるのに対し、FACは化学的な作用が支配する現象であり、材料因子、流況因子及び環境因子が複合して影響を及ぼす。両者のメカニズムは異なり、環境緩和による対策が有効となるのはFACのみである。このため、本ロードマップにおいては、FACを対象とした配管減肉環境緩和に関する課題のみを対象とする。
_原子力発電所では、FACの対策として、耐食材料への配管取替(材料因子の改善)、配管レイアウトの変更(流況因子の改善)の他に、pH制御や酸素注入といった水化学の改良(環境緩和技術の適用)を行っている。配管減肉管理をより安全に、且つ、合理的に遂行するためには、環境緩和技術の高度化を進めるとともに、その効果に応じて肉厚測定の箇所及び頻度を設定する等、肉厚測定計画の策定にも反映させることが有効である。
_しかしながら、現行の規格では、環境緩和技術の適用によるFACの抑制効果は、管理には反映されるまでに時間を要する等の課題が指摘されている。このため、日本機械学会において、配管減肉管理の高度化に向けた研究・検討が進められており、その一環として配管減肉予測手法の規格化の方針が検討されている。配管減肉規格に予測手法を用いた管理が導入されれば、環境緩和技術の適用等、運転条件の変更による効果も考慮された合理的な管理の実現が期待される。
_このような状況を踏まえて、配管減肉環境緩和に関する現状と課題、研究方針及び産官学の役割分担について、以下に述べる。
_なお、水化学の改良による減肉環境緩和は、プラントの安全性を維持するための深層防護におけるレベル1に該当する。但し、系統への海水流入等により通常の水質管理から逸脱した場合には、配管減肉挙動にも影響が及ぶ可能性があり、その対応に関する課題についてはレベル2に該当する。また、FACによる配管減肉の進行は経年的な事象であり、その予防のための配管減肉緩和技術の適用が、非常用系機器・配管の機能に悪影響を及ぼす可能性は低いため、レベル3及びレベル4の対象とはならない。

(A) 現状分析
_現在、国内の原子力発電所における配管減肉管理は、2005年に発生した美浜発電所3号機の配管損傷事故を契機に、NISA指示文書「原子力発電所の配管肉厚管理に対する要求事項について」(2005年2月18日)において、技術規格策定の要求が出され、これを受けて日本機械学会が制定した「発電用原子力設備規格 加圧水型/沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」(2006年11月発行、以下「減肉技術規格」)に基づいて実施されている。配管減肉管理の安全性は、技術規格により体系化して整理されたため、それ以前の管理と比べて、飛躍的に向上した。但し、現在の減肉管理は、十分に裕度を持って設定された減肉速度や肉厚測定結果に基づき算出した減肉速度の実績に基づいて設定されているため、新たな環境緩和技術を適用して減肉が抑制されても、肉厚測定結果が蓄積しないと減肉管理に反映できない体系となっている。今後、安全性の更なる追求と合理性の調和を達成するためには、環境因子の影響を定量的に評価し、FACメカニズムに立脚した減肉環境緩和技術の高度化を行うとともに、同技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることが求められる。以下にその課題を示す。

(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
_材料因子や流況因子の改善は、対策施工部位における減肉抑制効果が確実に得られるが、配管取替のタイミングにしか適用することができず、また、効果の範囲も限られる。一方で、水化学の改良による配管減肉の抑制は、その技術の適用開始が比較的容易な場合もあり、効果は広範囲で得られるメリットがある。このため、水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきである。但し、同技術による減肉抑制効果は、同じ系統内においても、場所により異なることが判明している。これは、環境因子以外の影響因子(流況、材料)との相乗として効果が現れるためと考えられている。従って、これらの影響因子が減肉速度に及ぼす効果・影響を層別化し、最適な配管減肉防止技術を構築することが期待される。
_また、HWC、NMCA等のSCC環境緩和技術の適用時や軽水炉利用高度化を目的とした出力向上時の配管減肉への影響、さらには代替ヒドラジン適用時の影響についても評価し、必要に応じてその対策を検討する必要がある。深層防護における異常・故障の拡大防止の観点からは、海水リーク等による水質悪化による腐食挙動への影響についても把握する必要がある。

(2) 配管減肉予測評価手法の構築・標準化
_材料・流況・環境の各因子が重畳して変化した場合における配管減肉挙動に及ぼす定量的な影響については、十分な知見(データ)が得られていない。このため、偏流発生部位等の一部の部位では予想外の配管減肉の進行が認められている。このような事象の発生を未然に防ぎ、配管減肉の進行による漏えいの危険性を低減させるには、減肉予測評価手法の活用が有効であり、その構築のためには、配管減肉メカニズムの解明が不可欠である。
_減肉メカニズムに立脚した減肉予測評価手法が構築されれば、流動条件や材料が種々異なる部位ごとに減肉抑制の効果を予測することが可能となり、環境緩和技術の最適化が可能となる。また、減肉予測評価手法を減肉管理に活用することによって、FAC減肉事象の予知保全の最適化ができるとともに、プラントの安全性を損なうことなく、現在実施している減肉管理の合理化や肉厚測定が困難な部位における適切な肉厚評価等、より合理的、且つ精緻な減肉管理が実現できる。
_日本機械学会では、「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改訂・充実化に向けた技術戦略マップ」(以下「日本機械学会ロードマップ」)において、減肉メカニズムの解明とそれに立脚した減肉モデルの構築の必要性とスケジュールを示し、これに基づいて、各機関が各種研究・検討を行っているところであり、国内においても複数の減肉モデルが開発・提案されている。しかしながら、環境因子の効果に対する定量的な精度等に課題が残されている。このため、日本機械学会での活動と連携し、環境緩和技術の効果を精度良く評価し得る配管減肉予測評価モデルを構築・標準化する必要がある。

(3) 規格・基準の整備
_減肉技術規格[6.1.2-1] [6.1.2-2] [6.1.2-3]には、上記のFACとLDIの管理範囲、管理方法(肉厚計測方法 他)及び評価方法等が示されている。流況状態(水単相流及び水、あるいは蒸気の混合二相流)・流速・温度・湿り度で分けた各カテゴリーに対し、国内全プラントで計測された膨大な配管肉厚計測結果から定められた最大減肉速度が示されており、肉厚検査計画(頻度)への反映が要求されている。各発電所では、減肉技術規格に基づいて、肉厚計測箇所及び頻度を安全側に設定した肉厚検査計画を策定・遂行し、その結果に応じて適宜配管取替を実施している。
_配管減肉管理で示される最大減肉速度は、水化学の改良以前の時期に得られた値を含む肉厚計測値より算出されている。また、各カテゴリーにおける最大減肉速度を有する管理部位は、流況(偏流)の影響を大きく受けた部位である。流況による減肉速度への影響を他の影響因子(材料、環境)と区別して評価できないため、系統単位や流動条件毎に、十分に裕度を持った減肉速度を用いて、初回及び2回目の肉厚計測を実施することとなっている。このため、新たな配管減肉環境緩和技術の適用により実際には配管減肉が抑制されても、算出される減肉速度は、適用以前の減肉速度データを含めた値となる。このように、環境緩和技術の適用によって減肉が抑制されても、配管減肉管理には反映されにくい体系となっている。
_減肉環境緩和技術の導入を促進させるためには、減肉予測評価手法と併せて同技術を減肉管理規格へ反映させることが有効である。このためには、減肉発生状況をデータベース化し、減肉環境緩和技術の効果を分析するとともに、減肉予測評価モデルにより得られる結果の妥当性(保守性、余裕度)を評価・検証する必要がある。

(B) 研究方針と実施に当たっての問題点
_配管減肉環境緩和技術の開発・適用と、環境改善による減肉抑制効果を予測・評価するための配管減肉予測評価手法に関する検討を進めることにより、各部位に応じた減肉挙動の予知とそれに対する予防保全の高度化が実現でき、最終的には、環境の改善の効果を取り込んだ高次の減肉管理が可能となる。
_このような状況を踏まえ、以下の技術開発をすすめていく。なお、FACメカニズムの解明と減肉管理への予測手法の反映については、日本機械学会ロードマップに基づき各機関で進められている研究・検討との連携を強化していく。

(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
_PWRでは、近年、国内プラントに導入されている二次系高pH運転の配管減肉抑制効果の評価と、一部の国内プラントにおいて導入されている二次系への酸素注入(OWC)等の導入に向けた検討を推進する。BWRでは、現在実施している酸素注入による配管減肉抑制のきめ細かい評価をすすめる。また、実機における配管減肉抑制技術と減肉抑制効果の関係を蓄積するとともに、その関係を技術的に示すことにより、減肉抑制のためのガイドラインの整備を目指す。
_一方で、塩化物イオン混入時の減肉挙動への影響を評価し、通常の水質管理から逸脱した場合の炭素鋼配管の減肉挙動を整理する。
_実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 水化学及び材料の各因子を変化させたラボ試験の実施及び、実機減肉データ等、できるだけ多くのデータを蓄積する必要がある。
    • 新技術の適用に当たってはプラント設備の状況を踏まえた設備改造やその他の構成材に対する影響評価が必要である。
    • ガイドライン制定に時間を要する。

(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
_FACは、水化学因子(温度、pH、溶存酸素)、流況因子(偏流条件、単相流/二相流)、配管材料(Cr含有率)が複合して影響する事象であることから、各因子の組合せによる減肉挙動への影響を定量的に評価し、FACメカニズムを解明する。また、FACメカニズムと実機運転情報等の結果を総合して、環境改善による減肉抑制効果を部位ごとに予測可能な評価モデルを構築・標準化する。
実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 減肉予測評価モデルの標準化には、実機の多数の減肉情報を用いた検証が必要ある。

(3) 規格・基準の整備
_環境緩和技術の適用前後の運転情報、減肉データ等を用いて、FACメカニズム及び減肉予測評価手法における減肉環境緩和の効果を検証する。また、日本機械学会ロードマップにおいて研究・検討が進められている減肉予測評価手法の構築に対して連携を強化し、将来的に、環境緩和技術の適用の効果を減肉技術規格へ反映させる。
_実施に当たっての問題点を、以下に示す。

    • 大規模な試験装置を用いた減肉試験の実施による検証には時間を要する(3年程度)

(C) 産官学の役割分担の考え方
① 産業界の役割

    • 環境因子による配管減肉挙動の定量評価に関する検討
    • 配管減肉環境緩和技術の開発・標準化
    • 環境緩和技術の適用による実機配管減肉データの蓄積と予測評価手法検証への活用

②国・官界の役割

    • 各実験データの検証
    • 学協会基準のエンドース・規制基準の整備

③学術界の役割

    • 配管減肉メカニズムにおける環境因子の影響評価及びそのために必要な研究の実施

④学協会の役割

    • 配管減肉管理に関する規格基準の作成、精緻化

⑤産官学の連携

    • 環境因子による影響を含む配管減肉メカニズムの解明と減肉予測評価手法の構築・高度化

(D) 関連分野との連携
①軽水炉安全技術・人材ロードマップにおける配管減肉関連研究との関係

    • 軽水炉安全技術・人材ロードマップにおいても、配管減肉を含む腐食劣化損傷の有効な対策技術として水化学の高度化による環境緩和対策、また、事故発生リスク低減のための劣化予測手法の高度化が短期的な課題(S111M107_d36)として位置付けられている。このため、減肉メカニズムの解明に向けた研究のうち、環境因子による減肉挙動への影響に関する研究の具体的な進め方について働きかけていく。水化学部門は減肉現象の化学的な説明を主体的に担当し、機械部門は、実機減肉データの提供による検証や配管減肉管理への反映要領について主体的に担当することが望ましい。

② 日本機械学会ロードマップとの関係

    • 2022年に配管減肉管理に係わる規格改定が予定されており、管理シナリオ(管理全体、試験計画、試験、評価、判断基準、保守補修)の抜本改定に向けた検討が進められている。この中ではFAC及びLDI予測評価手法の規格への反映も含まれており、「P-SCCII-4 配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会 成果報告書」第III部に「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改定・充実化に向けた技術戦略マップ(2014改定案)」には、技術開発の役割分担が示されている[6.1.2-4]。R&D実施における各機関の相互調整は、日本機械学会の動力エネルギーシステム部門を中心とした研究分科会で継続して行われる予定であり、減肉メカニズムの解明に向けた研究において連携する。なお、2018年に発行された「P-SCD391 配管減肉保全管理の高度化のための調査研究分科会 成果報告書」の第2章には、配管減肉予測手法の規格化方針案の検討結果が示されている[6.1.2-5]

図6.1.2-1に導入シナリオ、表6.1.2-1に技術マップ、及び図6.1.2-2にロードマップを示す。

参考文献

[6.1.2-1] 日本機械学会, “発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格(2016年度版)”, JSME S CA1-2016 (2016).
[6.1.2-2] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2016年度版)”, JSME S NG1-2016 (2016).
[6.1.2-3] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格(2016年度版)”, JSME S NH1-2016 (2016).
[6.1.2-4] 日本機械学会, “配管減肉管理法の改良・実用化に向けた調査研究分科会 P-SCCII-4 成果報告書”  (2014).
[6.1.2-5] 日本機械学会, “P-SCD391 配管減肉保全管理の高度化のための調査研究分科会 成果報告書”  (2018).

 

課題調査票

課題名 配管減肉環境緩和
マイルストーン
及び
目指す姿との関連
短Ⅴ. 保全・運転の負荷軽減・品質向上
⇒効果的・継続的な自主的安全性向上が図られるため、保全・運転管理の高度化を図る必要がある。
⇒保全・運転における負荷軽減により作業品質を向上させ、ヒューマンエラー防止等へ繋げる取組みの継続がなされる必要がある。中Ⅱ. 既設プラントの高稼働運転と長期安定運転の実現
⇒安定かつコストバランスに優れたエネルギー源としての利用に向け、高稼働運転や適切な高経年化対策を前提とした長期間運転が必要となる。
概要(内容) 原子力発電所では、運転に伴う機器・配管の肉厚が減少する事象が進行することが知られており、これは系統水の漏えいや圧力バウンダリーの維持によるプラントの安全性や信頼性に影響を及ぼす可能性がある。機器・配管の減肉は系統全体で生じることから、この減肉状況を適切に把握することは、原子力発電所の安全上重要な管理の一つである。
主な減肉現象である流れ加速型腐食(以下「FAC」)は、材料因子、流況因子及び環境因子が複合して影響を及ぼす現象である。材料因子や流況因子の改善に比較し、水化学の改良による配管減肉の抑制は、適用開始が比較的容易であり、抑制効果が広範囲で得られるメリットがある。このため水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきであるが、関連する技術の規格化・標準化、減肉メカニズムにおける環境因子の影響評価とそれを踏まえた減肉予測評価モデルの構築等以下の課題への対応が求められている。(1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
配管減肉環境緩和技術(高pH処理、酸素処理、代替アミン処理等)の適用による配管減肉抑制技術を開発するとともにガイドラインの整備により減肉管理を高度化する。海水リーク等の異常時における配管減肉挙動に及ぼす影響を把握する。

(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
減肉メカニズム、及び、実機運転情報等の結果を総合して、配管減肉予測評価モデルを構築し、環境改善による減肉抑制効果を予測/評価する。

(3) 規格・基準の整備
構築された配管減肉予測評価モデルにより得られる結果の妥当性(保守性、余裕度)を評価する。環境緩和技術の適用の効果を減肉技術規格へ反映させる。

導入シナリオとの関連 水化学による配管減肉環境緩和技術の開発によるプラント設備の信頼性向上
課題とする根拠
(問題点の所在)
配管減肉は、内包する流体の漏洩・噴出といった安全上のリスクとともに、これを防止するための維持管理(点検・補修・取替)コストの増大を招いている。さらに、発生した腐食生成物に起因する熱伝達の阻害や被ばく線源の上昇等の原因にもなっている。
原子力発電所における配管減肉の主な原因は、流れ加速型腐食(FAC)や液滴衝撃エロージョン(LDI)である。特に、FACは、材料・流況(流速、偏流有無等)・水化学環境(温度、pH、酸素)の各因子により複合的な影響を受ける。従って、配管減肉環境緩和技術により、配管寿命の延伸を進めるとともに、プラント各部の条件に則した適切、且つ合理的な減肉管理(肉厚測定計画、配管取替え)を行うため、減肉メカニズムを解明する必要がある。
現状分析 配管減肉管理については、日本機械学会「配管減肉に関する技術規格2006年版」(平成18年11月)が整備され、現在、各発電所では、この規格に基づいて減肉管理を行っている。但し、現行の技術規格では環境緩和技術の適用による効果が、配管減肉管理には反映されにくい体系となっている。今後、安全性の更なる追求と合理性の調和を達成するためには、以下に示す通り、FACメカニズムに立脚した減肉環境緩和技術を構築するとともに、同技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることが求められる。

(1)      配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
プラントの安全性確保の観点から、水化学の改良による減肉環境緩和技術の導入は積極的に適用されるべきである。但し、その効果は、他の影響因子(流況、材料)との相乗として現れるため、同じ系統内においても、場所により異なる。従って、これらの影響因子が減肉速度に及ぼす効果・影響を層別化し、最適な配管減肉防止技術を構築することが期待される。
また、HWC、NMCA等のSCC環境緩和技術の適用時や軽水炉利用高度化を目的とした出力向上時の配管減肉への影響さらには代替ヒドラジン適用時の影響についても評価し、必要に応じてその対策を検討する必要がある。深層防護における異常・故障の拡大防止の観点からは、海水リーク等による水質悪化による腐食挙動への影響についても把握する必要がある。

(2)      配管減肉予測評価手法の構築・標準化
材料・流況・環境の各因子が重畳して変化した場合における配管減肉挙動に及ぼす定量的な影響については、十分な知見(データ)が得られていない。このため、偏流発生部位等の一部の部位では予想外の配管減肉の進行が認められている。このような事象の発生を未然に防ぎ、配管減肉の進行による漏えいリスクを低減させるには、減肉予測評価モデルの活用が有効であり、その構築のためには、配管減肉メカニズムの解明が不可欠である。現在、提案されている減肉予測評価モデルには、環境因子の効果に対する定量的な精度等に課題が残されている。このため、日本機械学会での活動と連携し、環境緩和技術の効果を精度良く評価し得る配管減肉予測評価モデルを構築・標準化する必要がある。

(3)      規格・基準の整備
減肉技術規格では、過去の肉厚測定結果に基づいて、使用条件(温度、単相流/二相流)毎に減肉速度を示し、これに基づいた減肉管理を規定している。このため、新たな環境緩和技術の効果が反映されるためには時間を要する。偏流や水化学環境の効果・影響を層別化できれば、各部に応じた適切な減肉管理が可能となる。また、減肉予測評価手法と併せて減肉環境緩和技術を規格化・標準化し、減肉管理へ反映させることにより、安全性の更なる追求と合理性の調和が達成できる。

期待される効果
(成果の反映先)
配管減肉環境緩和技術の開発・適用と、環境改善による減肉抑制効果を予測・評価するための配管減肉予測評価手法に関する検討を進めることにより、各部位に応じた減肉挙動の予知とそれに対する予防保全の高度化が実現でき、最終的には、環境の改善の効果を取り込んだ高次の減肉管理が可能となる。
実施にあたっての問題点 (1) 配管減肉防止技術・環境緩和技術の開発・標準化
水化学及び材料の各因子を変化させたラボ試験の実施及び、実機減肉データ等、できるだけ多くのデータを蓄積する必要がある。
新技術の適用に当たってはプラント設備の状況を踏まえた設備改造やその他の構成材に対する影響評価が必要である。ガイドライン制定に時間を要する。(2) 配管減肉予測評価モデルの構築・標準化
減肉予測評価モデルの標準化には、実機の多数の減肉情報を用いた検証が必要である。

(3)規格・基準の整備
大規模な試験装置を用いた減肉試験の実施による検証には時間を要する(3年程度)。

必要な人材基盤 (1)人材育成が求められる分野

    • 伝熱流動(数値流体力学、気液二相流)
    • 構造材料(腐食科学、防食技術)
    • 水化学(水化学管理・処理)

(2)人材基盤に関する現状分析

    • 事業者における配管減肉管理は、機械・補修面からの対応が中心であり、化学管理に関する技術者の関心・寄与を高める必要がある。
    • 大学等では、高経年化対策強化基盤整備事業の終了以降、規模は減少しつつあるが共同研究等により、継続して人材育成や人的交流を図ってきた。

(3)課題

    • 化学管理面から配管減肉研究に係わる若手研究者・技術者の育成
他課題との相関
    • 「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」との対応
      • S111M107_d36 高経年化評価手法・対策技術の高度化
      • L104_d41     高経年プラントの安全運転に向けた革新的技術の開発(材料開発等)
      • M106_d40-2 耐震安全性の評価と結び付けた維持管理(機器)
    • JSME「発電用原子力設備規格整備に関するロードマップ」及び「配管減肉管理に関する規格及び技術規格改定・充実化に向けた技術戦略マップ」との提携が必要である。
実施時期・期間 短期~中期
実施機関/資金担当
<考え方>
産業界/産業界

    • 環境因子による減肉挙動への影響(定量評価)に関する検討
    • 環境緩和技術の導入に関する検討
    • 実機情報による環境改善による減肉挙動への有効性検証
    • 減肉予測評価モデルの構築と減肉抑制効果の予測/評価

<考え方>
安全性・信頼性・経済性の確保向上を目的とした開発研究及び基盤整備を行う。

国・官界

    • データや評価技術の検証
    • 学協会規格のエンドース及び規格の整備
    • 施設基盤の整備

<考え方>
安全規制における適切な行政判断に必要な安全研究、必要な基盤(知識・人材・施設・制度)の整備、産学の安全に係わる研究と基盤整備に係わる支援を行う。

学術界/学協会

    • 配管減肉メカニズムの構築
    • 基盤研究にかかわる人材育成
    • 規格基準の構築・精緻化支援
    • 規格基準の精緻化

<考え方>
知の蓄積と展開、研究を支える人材の育成、規格基準化とその高度化に貢献する。

その他